7 神殿
街を出て街道を走り、途中で道を逸れ、夕暮れ刻になってようやく馬車は止まった。
そこは平原にある丘の上だった。
崩れかけの石柱が何本も立っている。
「ここは、ザンプロージア皇国時代の神殿跡地だ」
カイルが馬車を降りた。
「ここに宝剣『天宿の剣』があると言い伝えられている。そこらにある古い文字を読んで宝剣を見つけ出せ」
「見つけ出せって……」
俺も馬車を降りて辺りを見た。
ひと目見て何もないとわかる。
「見つかるまで餌はおあずけだ、ククク」
自分の言いように自分で笑ってる。
根暗なやつめ。
丘全体を見渡すが、やはりそれらしいものはない。
柱や岩に古い字は刻まれているが、どれも特別気になるものはない。
ないが……。
「む? 誰だ!?」
カイルがベルトに提げた短剣に手を伸ばした。
草を踏みしめ、夕日に赤く染まる丘を人が登ってきた。
白いローブ姿、短い髪、顔に深い皺の刻まれた老人だった。
杖をつき、右足を引きずるようにして歩いている。
「お前さんこそ誰だ? ここで何をしている?」
「俺の質問に答えろ!」
カイルが短剣の柄をグッと握る。
老人がヤレヤレとため息を吐いた。
「わしは、エンヤ・ロッド。この神殿の神官をしている」
「はあ? 神官? ハハハ」
「何を笑う?」
「ここは、ザンプロージアの神殿だぞ? 滅んだ国の神官なんて、じいさんボケてるのか?」
「『ザンプロージアは滅んでおらん!』」
エンヤさんが声を荒げた。
ザンプロージアで使われていた皇国語だ。
「何だって?」
カイルにはわからない。
「ザンプロージアは滅んでいない。わしらがいる限りな」
「わし『ら』? おいおい、この時代にまだそんなことを言う連中がいるってのか? これは滑稽だ」
カイルが馬鹿にして笑った。
「ザンプロージアって、サン王国の前にあった国のはずじゃ? 滅んでないんですか?」
話が見えない。
「ザンプロージアがなくなってもそれを認めず、自分たちはザンプロージアの民だと言い張る連中がいるんだよ」
カイルが答えた。
「滅んでもう百五十年以上も経つってのにまだいるとは思わなかったがな、ハハハハ」
「若僧め」
エンヤさんが嘲る。
「お前たち、ここへ何をしにきた?」
「決まってるだろう。『天宿の剣』を探しにきたんだ」
「またそれか。お前たちサン王国の人間は」
うんざりした表情のエンヤさん。
「ここにはないと言っているだろう」
「だが、言い伝えでは神殿に納められていたって聞いたぞ」
「ならば今回も存分に探せ。神殿を汚すなと言ってもどうせお前たちの耳には届かん。好きに探せ」
「言われなくても探す。ここはサン王国だからな」
横柄に言って、カイルが俺を見る。
「さっさと見つけろ!」
苛立ってるな。
そんな簡単に見つかるわけないだろ。
と言いたいところだが、ヒントのようなものは見つけた。
何本も立っている崩れかけの石柱。
これら全体を視界に入れるようにして眺めると、読めた。
一見なんの規則もなく立っているように見えるが、柱と柱を線で繋いでいくと文字が現れるのだった。
空から地上を見るとよくわかるんじゃないかな。
これは、空へ向けたメッセージだろうか。
書いてある言葉は、
「ガーラン ゴ クー(天より来たれ)」
ガコンッと音がして、丘の中央に地下へとつづく隠し階段が現れた。
「なんと!?」
「フハハハッ」
エンヤさんが驚きカイルが喜ぶ。
「本当に見つけるとはな! よくやった! 行くぞ!」
カイルがさっそく階段を降りて行った。
俺も、
「『近くを赤い髪の竜人族の女の子が通ったら、ユウはここにいるって教えてあげてください。お願いします』」
エンヤさんに頭を下げてから後を追った。
「こ、皇国語!? おいっ、お前さん待て!」
……
あのときルージュは、馬車で連れ去られる俺をじっと見ていた。
その目は、悲しいとか悔しいではなくこう言ってるみたいだった。
『絶対助けるから』って。
それで、来た場合に備えてエンヤさんに言伝を頼んだのだった。
さすがにピンポイントでここに来るのは無理かとも思うが、竜人族の特別な力で、なんて可能性も考えて一応。
「おい」
前を歩くカイルが振り返らずに呼ぶ。
「お前、皇国語を話せたのか?」
「はい」
返事をすると、バシンッと手の甲で頬を張られた。
唇が切れて血が流れた。
「話せるなら先に言っておけ」
「……はい」
「しかしお前、滅んだ国の言葉も話せるのか。ますます気に入ったぞ」
肩を揺らして笑ってる。
「あいつに何を言った?」
「地下を荒らさないよう注意しますって」
「荒らされずにすむ場所に剣があるといいな、クックックッ」




