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6 市場で

 お昼の営業中。

 本日もお店は満員御礼。

 忙しすぎて、二階の宿は休業中。

 今日は、レアさんもいない。

 一体いつ新しい従業員は見つかるんだろう。


「『ユウ、マイアのスープもう一杯おくれ』」

「『はい、ありがとうございます』」

「『こっちはラディッシュのサラダを頼むよ』」

「『はい、ただいま』」


 お客さんに答えて店内を歩き回ってるんだけど、さっきから小さい男の子がずっと俺のこと見てる。


「『おかーさん。あのおにーちゃん、いろんな外国の人とお話ししてる』」

「『そうね。すごいわね』」

「『ぼくもお話しできる?』」

「『どうかしら。ほら、こっちに来るからご挨拶してみたら?』」


 男の子のいるテーブル横を通った。


「『こんにちは、おにーちゃん』」

「『こんにちは。今日は、来てくれてありがとう』」

「!」


 男の子が目も口もまん丸にしてビックリしてる。

 リアクションが可愛い。

 癒された。


「よろしいでしょうか」

「はーい、ただいま」


 テーブル席から呼ばれて行くと、お客さんは若い女の子四人で、その中に金髪青眼で丸眼鏡の女子がいた。


「アンじゃないか。来てたのか?」


 忙しすぎて気づかなかった。


「はい。ユウ先生がぜひと言うので。聞いていた通り、マイアのスープは絶品でした」


 もう食事は済んだみたいだ。


「みんな、この方はタカミ・ユウ先生よ」


 友達に紹介。


「ああ、この人が」

「古い本全部読んじゃった人だ」


 変な形で名前が知られてる。


「みんな来てくれてありがとう。食後の紅茶でも飲むか?」

「いえ、それはもう頼みました。お呼びしたのは、ユウ先生の手が空いたようだったのでご挨拶をと思ったんです」


 律儀なやつ。


「ずいぶんとお忙しいのですね。店員の人数が足りていないのでは?」

「ああ、今従業員募集中なんだよ」

「募集中……」

「お待ちどうさま」


 ルージュが紅茶とクッキーを持ってきてテーブルに置いた。


「ユウってば、アンに気づいてなかったの? この子、すっごい夢中でスープ飲んでたわよ」

「へ〜」


 アンを見る。

 頬が少し赤くなった。


「ルージュさん、わざわざ言わないでください」

「照れちゃって〜」


 クスクスとからかってる。


「コホン」


 アンが照れ隠しに咳払いをひとつ。


「ところでユウ先生。あなたはたくさんの外国の方と会話されていましたが、何ヶ国語話せるのですか?」


 紅茶で喉を潤す。


「全ヶ国語かな」

「ブーッ!」


 吹き出した。


「『ギャーッ! 汚いわね! 何するのよバカ!』」


 ルージュにかかった。

 とっさのことで竜人語が出てる。


「『お客さんにバカはやめろ』」

「竜人語も喋った!? あなたは一体どれだけの言語を操れるのですか!?」

「多分全部」

「多分全部!? 多分全部って何ですか!? 世界中の言葉を喋れるとでもいうのですか!? どうなんですか!?」

「だから服を引っ張るなっての! また伸びるだろ!」

「ちょっとあなたたち、何遊んでるのよ」


 マリーさんがカウンターから出てきた。

 そこへ、バターンッと勢い良く店の扉が開いた。


「騙されたー!」


 入ってくるなり叫ぶ、ひげボーボー、髪ボサボサ、汚れた服の男。

 マリーさんのお父さん、スライス・マーシャルさんだった。


「お父さんっ、またそんな格好で来て!」


 マリーさんが叱る。


「水を一杯頼む!」


 聞いてない。


「お水どうぞ」

「おおっ、タカミュー君!」

「お久しぶりです。タカミューじゃなくて鷹」

「宝の地図は偽物だった!」

「何ですって!」

「探索先で会ったトレジャーハンター仲間が私の地図を見て、『あ、それ俺が書いたやつだ。ここにお宝があったらいいな〜って、本物っぽく書いたんだよ懐かし〜』とぬかしおった! ふざけるな!」


 リュックから宝の地図を取り出してビリビリと破り捨てた。


「ゴミを出さないで!」


 マリーさんがご立腹。


「マリーのパパさんなの?」

「む、君は?」

「ここで働いてるルージュ・ララよ」

「初めまして、お嬢さん。私は、スライス・マーシャル。トレジャーハンターをやっている」

「トレジャーハンター!?」


 食いついた。


「これまでどんなお宝を発見したの!?」

「よくぞ聞いてくれた!」


 スライスさんがリュックから剣を取り出した。


「これこそは、ここサン王国建国以前にあったザンプロージア皇国の宝剣『天宿あめやどつるぎ』だ! 剣身に刻まれた古代文字がなによりの証拠だ!」

「『レプリカ』って書いてますよ」

「くそーっ!」


 剣を放り投げた。

 ポキンと折れた。


「他にもまだあるぞ! 取ってくるからそこで待っていたまえ!」


 スライスさんは、店を出て行った。


「スライスさん、相変わらずですね」

「本当に……」


 マリーさんが一瞬で疲れた顔になった。


「楽しくていいパパね」


 ルージュには好感触だった。


「『天宿の剣』ですか」


 アンが折れた剣を拾う。


「知ってるのか?」

「はい。先ほども言っていたザンプロージア皇国の皇王に君主の証として受け継がれていた宝剣です。伝説によると、天より賜りし神の力宿る剣とか」

「へ〜、詳しいな」

「じゃあさ、今はこの国の王様が持ってるんじゃないの?」


 興味津々なルージュ。


「いえ、国が滅びた時に、その行方もわからなくなったそうです」

「な〜んだ」


 ガッカリなルージュだった。



 ……



 翌朝のベーリーの街。

 マリーさんに買い物を頼まれて、ルージュと一緒に市場に来た。


「わぁ、あれって果物かな? あっちのって焼き菓子? あの子が食べてるの美味しそ〜」


 すごい目移りしてる。


「ユウ、お菓子買おうよ」

「頼まれた物じゃないだろ」

「そっちはそっちで買うわよ。ほら、行こ」


 ルージュが俺の腕を引く。

 力が強くて逆らえない。


「ち、ちょっと待てって」


 と必死に抵抗していると、ビュウッと風が吹き、そばを歩いていた女の子の麦わら帽子が飛ばされた。


「あっ、私の帽子!」


 空へと舞い上がっていく。

 それを見たルージュが、脚力プラス尻尾の力でジャンプ。

 五、六メートルほど跳躍してキャッチし、華麗に着地した。


「気をつけてね」

「すごーい! ありがとう、お姉ちゃん!」


 帽子を受け取り、女の子は大喜びだった。


「確かに、今のジャンプすごかったな」

「え、そうかな? えへへ」


 素直に褒めたらルージュが照れた。


「竜人族ってみんな今みたいなことできるの?」

「そうよ。竜人族は、とっても優れた種族なんだから」


 えへんと胸を張る。


「その割にはあいつには捕まったんだよな? 公爵家のカイルっていったか?」

「あれはいきなりでどうしようもなかったの。それよりお菓子よ」

「お菓子じゃなくてマリーさんの買い物な」

「じゃあ、私お菓子買ってくる。ユウは、買い物してて。荷物は私が持って帰るから。また後で」


 ビュンッと止める間もなく走っていった。

 ま、買い物するだけだし一人でもいいか。


 ガチャ


「え? 何?」


 いきなり何かが俺の首に巻かれた。

 触って確認すると皮製の首輪だった。

 金具で留めてある。


「よお」


 後ろからの声。

 振り返ると、今話題に出た公爵家の息子、カイルがいた。


「呪われた首輪の付け心地はどうだ?」

「呪われた……」


 それってルージュが付けられてたやつじゃないか。

 それをこいつが俺に付けたってのか。


「あんた、他にもこれ持ってたのかよ!?」

「こんなもの、呪具屋に行けばいくらでも作ってくれるさ。金はかかるけどな」


 ボンボンめ。

 なるほどな。

 きっとこうやってルージュも捕まったんだな。

 こんなの通り魔と一緒だ。

 避けようがない。


 だが、外し方は覚えてる。

 首輪に刻まれてる悪魔の名前を読めば、前みたくルージュが外してくれるだろう。

 名前を読めば……。


「あ」


 読めない。

 自分の首見れない。

 ヤバい。


「くそっ、ふざけんなお前!」

「誰に口を聞いている?」


 カイルが不愉快そうに目をすがめ、


「躾だ!」


 手首に嵌めた腕輪を握り締めた。

 連動して俺に付けられた首輪が締まった。


「ウグッ!? グッ……カハッ……」


 息ができない。

 首輪が締まる力に加えて誰かが俺の首を締めてる。

 これは、首輪に憑いてるらしい悪魔の手だろうか。


「ユウ!」


 ルージュがこっちに気づいた。

 荷物を捨てて走ってくる。


「その首輪! あなた、また!」

「止まれルージュ! この男が窒息してもいいのか!?」

「その前にあなたを倒すわ!」

「今度の悪魔は強力だ! このまま首を捻じ切れるぞ!」

「ッ!」


 ルージュがあわてて立ち止まる。

 しかしカイルは、首輪を緩めない。

 さらに力を込めた。


「やめて! ユウが死んじゃう!」

「……カヒュッ……」


 ヤバい。

 マジで死ぬ。


「……フンッ」


 ふとカイルが腕輪から手を離した。

 俺の首輪も緩む。


「カハッ、ハ〜ッ、ヒュ〜ッ、ハ〜ッ、ゲホッ、ゲホッ」


 空気を貪り吸った。


「俺は欲しいものは手に入れる。今日からお前は俺のペットだ」


 ニィと口端を上げてカイルが笑った。


「この大馬鹿男〜っ!」


 ルージュが牙を剥いてカイルを睨み据えた。


「図に乗るな!」


 カイルが怒気を込めて言い返した。


「お前、俺に何をしたか忘れたのか? 俺を魔法で傷つけたんだぞ? 公爵家の人間である俺を」

「そんなのあなたが」

「黙れ! 罪の重さに気づけない愚か者が!」


 ひどく勝手な言い草。

 まるで世間知らずの子供だ。


「お前には俺が直接罰を与えてやる! 宝剣『天宿の剣』を手に入れてな!」


 天宿の剣?

 あの?


「乗れ」


 カイルは、俺へ目を向けると、近くに止まっていた馬車をアゴで指した。

 逆らうこともできず、フラつく足で馬車に乗り込んだ。

 カイルは、


「追えばこいつを殺す」


 とルージュを脅してから自身も馬車に乗ると、御者に命じて馬車を発進させた。

 後方の窓から外を覗く。

 ルージュがじっとこっちを見ていた。

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