33 夢
数ヶ月前。
突然天空都市の舵が利かなくなった。
都市を支える魔法陣に欠損が出ていると気づいたが、魔法陣の修正の仕方がわからない。
流れるままに移動していると、サン王国の上空に来た。
ここでほぼ天空都市が動かなくなってしまい、大地にヒビが入ってきた。
兵士を総動員して補修したが、都市が崩れ落ちるのは時間の問題だった。
そこで、下にあるサン王国の土地を買って、都市の市民を避難させようとした。
これがことの経緯だった。
「それならそうと仰ってくだされば」
「我々を虐げていたお前たちに助けを乞えるか!」
ナラさんが怒鳴った。
ミランさんが言っていた。
大昔、人間は天空人を虐げていたと。
憎しみは深そうだ。
「失礼致しました」
ミランさんが落ち着いた声で返した。
「やはり島はお売りできません」
頑なに断るミランさんにナラさんが目を吊り上げた。
この状況を知って、それはあんまりじゃないかと思ったが、
「移住でよろしいでしょうか?」
「……何?」
いきなりの提案にナラさんが聞き返した。
「パルメイデ島を売ることはできませんが、天空人の移住という形でならば受け入れようかと思います」
「……」
ナラさんが相手の真意を読もうとするようにミランさんを見つめる。
それに気づいて、
「他意はありません」
ミランさんがそれを証明するように微笑む。
「この国に住み、天空人の持つ技術や知識を存分に発揮なさって生活をお築きください」
それってつまり、技術や知識をこの国に落としてくれということ。
それが見返りになるってことだ。
「フッ」
じっと黙っていたナラさんが小さく笑った。
「いいだろう。我々の知識と技術を存分に振るってやる。そのほうが遠慮なく住める」
「では?」
「移住させてもらおう」
急転直下で話がまとまった。
「だが、街を空へ浮かべる技術はどうにもならんぞ」
「ええ、それは伝説で知っています」
「伝説って?」
アンに教わる。
昔、天空人は、鳥人と呼ばれていました。その頃は、人間から迫害を受けていて、それを見かねた神様が彼らを空へ逃がそうと天空都市を作る技術を授けました。しかし鳥人は、技術を授かると天空都市を無数に作り、空から人間たちへ物を落として仕返しを始めました。呆れた神様は、鳥人から技術を取り上げてそれを石板に封じ、以来天空都市を作る技術は失われました。
「ふ〜ん。だから天空人は、自分たちで天空都市の修理ができないんだ」
「そういうことだ」
ナラさんが話に入ってきた。
「それでだ。もし地上人にこれを開ける者がいればと持ってきた」
天空人の一人が荷物から石板を出した。
「これが天空都市建造の技術が封印された石板だ」
そう大きくはない。
ハードカバーの本くらい。
二枚重ねになっている。
「これを開けば中に建造の技が書いてあるらしい。だが開けるのは、神御自身か神の威光に触れた聖人のみだ」
ナラさんが開こうと力を込めたが、一ミリも動かない。
「ふぅ。こんな風にな。神御自身は無理だとしても、神の威光に触れた者に心当たりはないか?」
「噂ならば、何人か名前は上がります。ですか、実際にどうかと聞かれると、う〜む……」
「そうか、仕方がない。それに、どうせ開いたところで中に書かれた文字は、古すぎて誰も読めまい」
苦笑い。
神様か神様の光に触れた、というか当たったことのある人か。
そんな人いるのかな?
神様の威光に触れた人。
威光に。
ん〜……ん?
「ちょっといいですかね」
「何をするつもりだ?」
石板の隙間に爪を立てた。
力を込める。
あっさり開いた。
「お〜、開いた開いた」
「んがっ!?」
みんな顎が外れそうなほど口をパッカリ開いた。
「お、お前、い、一体、ど、ど、どうやって」
「『ここに刻まれた呪文を唱えれば技術は復活する』って書いてますよ」
「読っ!?」
目玉が零れ落ちそうなくらいカッと目を見開いた。
「呪文書き写しましょうか?」
「『な、な、なぜ開けた!? なぜ読める!?』」
「『な、何者だお前は!?』」
「『お、落ち着けお前たち。空語で聞いても通じるわけが』」
「『前に一回死んだ時、神様に会ったことがあって』」
「『『『『『空語も喋ったーーーーーーーーーーっ!?』』』』』」
驚きすぎた天空人たちは、ひっくり返って倒れた。
ミランさんの家人が介抱する。
「タ、タカミ・ユウ」
ミランさんたちからは、未確認生命体でも発見したような視線。
「き、君は本当に何者なんだ?」
そんなの決まってる。
「飲食店の従業員です」
胸を張って答えておいた。
……
落ち着きを取り戻したナラさんに、技術復活の呪文を教えると、天空都市を修理できる可能性ができたので、すぐに空へと帰っていった。
去り際、
「再び技術を授けてくださりありがとうございます」
と微妙に気になる喋り方でお礼を言われた。
……
会談を終えた俺たちは、そのまま食事を楽しんでいた。
マリーさんが作った料理だ。
「うん、やはり美味い」
ミランさんが満足そう。
「アン、今日は良くやってくれた。父王も喜ぶだろう」
「はい」
「成長していないと言ったこと、訂正するよ」
「ウフフ」
アンがはにかんで喜んだ。
「ねぇねぇ、剣のことはどうなったの?」
ルージュがミランさんに聞いた。
「君の勇姿は見せてもらったよ。シルバもね」
「ヒヒーン(あれくらい普通だよ)」
と言ってる割には尻尾が揺れてる。
喜ぶワンコみたい。
「ルージュ、『天宿の剣』は君が持っていてくれ」
「いいの?」
「この国で君以上に扱える者は、今のところいないだろうからね」
「フッフーン、まぁね」
ルージュがアゴを上げて鼻高々。
「じゃあ、俺のこともいいですよね?」
「タカミ・ユウ、私の養子にならないか?」
「ブーーー!」
口の中のものを吹き出してしまった。
「ゲホッ、ゲホッ、な、何言ってんですか?」
「君の才能はやはり惜しい。私のそばで働きなさい。いずれやり手の政治家になれる」
「いえ、いいです」
「公爵位が継げるぞ。多くの民から尊敬が得られる。望みも思うがままだ」
「いいです。他に夢があるんで」
「そうか。残念だ」
けっこうあっさり諦めてくれた。
「では、今回のようにまた何かあった時には力を貸してくれ」
「それなら、はい。わかりまし……た?」
それって諦めてくれてなくない?
都合良く使われるだけになったような。
「ルージュも、その時は頼む」
「任せてよ!」
頼られて嬉しそう。
あいつも俺と同じ運命。
剣を持つことを許可したのも戦力に使うためだな。
「シルバもな」
「ヒヒ〜ン(仕方ないな〜)」
神獣まで。
この人、やっぱ油断ならない。
……
夜の『ラベンダー亭』。
今日は、店が臨時休業だったので、早めの晩御飯。
みんなでわいわい食事をしていたら、店がやってると思った常連客が入ってきて、マリーさんが「今からお店を開きましょうか」で、結局いつもの営業と同じような状況になっていた。
「ユウ、酒とツマミ頼むぜ」
「はーい」
食材を仕入れてないので、あるものでマリーさんがいろいろ作ってる。
メニューの指定はできない。
「マリーさん、おツマミの注文です」
注文を通したが、マリーさんは、ぼんやりしていた。
「マリーさん? 疲れました?」
「ううん。お店をね、見ていたの」
「お店ですか?」
「覚えてるかしら? 数ヶ月前までは、このお店って閑古鳥が鳴いてたのよ?」
そういえばそうだった。
「なのに、今は毎日超満員。ウチにどんな言葉でも喋っちゃう不思議な男の子が来てから、ね」
パチリとウィンク。
「どうも、喋っちゃう男の子です」
「アハハハッ」
おどけたらウケた。
「ありがとう、『ラベンダー亭』に来てくれて」
「俺こそ。拾ってくれてありがとうございます。それに、お陰様でやりたいことも見つけました」
「ミランさんに夢があるって言ってたわね。聞いてもいいかしら?」
「いつか、『ラベンダー亭』みたいなお店を開きたいんです」
「ここみたいな?」
「来る人が笑顔になって笑顔で帰る食堂を俺もやりたいんです。マリーさんを見ててできた夢です」
できたてほやほやの夢だった。
「そう……そう……嬉しいわ」
ホロリときてる。
指先で涙をすくった。
「ヤダ、もう。フフフ」
笑って照れ隠し。
「知ってるだろうけど、私はね、お母さんを見てて同じようなお店をやりたいって思ったの。昔の自分を思い出しちゃった」
「これからもいろいろ教えてください」
「本気でやるなら、私厳しいわよ」
「どんとこいです」
胸を叩いて二人で笑った。
「何笑ってるのよ」
「仕事してください」
「ヒヒーン(忙しいのに)」
ルージュとアンとシルバに叱られた。
俺たちは、もう一度笑い合って仕事に戻った。
チリンチリンとドアベルが鳴って新たなお客さん。
「いらっしゃいませ。『ラベンダー亭』へようこそ」
楽しい時間はまだ終わらない。
これにて完結となります。
やっぱり十万字書くって大変だ。
サラリと書いてる人を見ると本当に尊敬です。
まだまだ暑い日がつづきますが、皆さんお体にお気をつけて。
お読みいただきありがとうございました。




