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【連載版】神様からもらった能力は『異世界語がわかる』だけだったけど案外やってイケる  作者: 赤ぱん金魚


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30/33

30 料理

「ユウ、玉ねぎみじん切りお願い」

「はい」

「フライパンの鶏肉も見てて」

「味付けは?」

「トマトソースよ」


 お昼の食堂。

 俺は、マリーさんの調理を手伝っていた。

 これまでは、二号店の人たちが補助をしてくれていたが、みんな向こうに戻ったので、ならばと俺が手を貸すことになった。


「ユウ、鶏肉の焼き加減わかる?」

「中火で五分、ひっくり返して弱火で三分くらいですよね」

「うん、任せる」


 マリーさんは、笑顔で俺の背中をポンとたたくと別の作業に移った。



 ……



 一日の営業が終わった。


「今日もお客さん多かったわね〜」


 ルージュが自分で肩をモミモミ。


「良いことではあるんですけれどね」


 疲れた顔のアンが苦笑い。

 ミニサイズなシルバは、犬みたいに床に仰向けでゴロンしてる。


「でも、ユウが調理の戦力になってくれて良かったわ」


 マリーさんがワインで喉を潤した。


「もう半年以上もマリーさんの料理するところ見てますからね」


 だいたいの段取りは覚えてる。

 包丁の扱いとかは、全然素人だけど。


「これからも調理補助お願いね」

「もちろんです」

「で、ユウはさっきから何を作ってるの?」


 ずっと厨房で揚げ物をしていたりする。


「食材余ってたんで、お菓子作ろうと思って」

「えっ、お菓子!」

「ヒヒン!」


 ルージュと寝てたシルバが瞬足でこっちにきた。

 揚がったものを金網で掬い上げて、油切りトレーに移した。


「よし、完成」

「何ですかそれは?」


 アンとマリーさんも興味を引かれてこっちへ来た。


「薄切りにしたジャガイモを揚げたお菓子だ。ポテチっていうんだけど」


 無性に食いたくなって作ってみた。

 薄切りといっても分厚めなのは、素人料理のご愛嬌。

 自分が食べるだけだから気にしない。

 塩をパラパラっと。


「ええ〜、野菜のお菓子? しかもそれってお塩?」


 ルージュがぶつくさ言ってくる。

 ポテチに手を伸ばした。


「あっ、勝手に食うなよ。俺のだぞ」

「甘くないうえに野菜のお菓子って意味わからないんだけど。こんなの美味しいわけ(パリッ、モグモグモグ)美味しーっ!」


 前フリからのお笑い芸人みたいなリアクション。


「意外にイケる! シルバも食べてみて!」

「ヒヒン? ヒヒーン、モグモグモグ、ヒヒヒヒヒーン!(俺神獣だよ? こんなの口に合うわけ(モグモグモグ)うまーーーい!)」


 神獣にも好評。


「これは確かに、お手軽なのに美味しいですね」

「食感がいいわ。うん、イケる」


 アンとマリーさんにも高評価。

 結局みんな食べてるし。

 別にいいんだけど。

 でもなんだろうな。

 美味しいって言いながら笑顔で食べてくれると背中がムズムズするというか、こそばゆいというか。

 味わったことのない感覚だ。


「ちょっと何これモグモグ! 魔法でもかけたのモグモグ!? 止まらないんだけどモグモグ!」


 みんな夢中になって食べてる。

 俺全然食べてないのに。


「ま、喜んでもらえたなら良かったよ。でも、けっこう太りやすいお菓子だから食べすぎ注意な」

「「「(ピタリ)」」」


 女子の手が止まった。


「これ美味しいわ、ユウ。でも、もっと薄切りにして、ちゃんと水にさらしてから揚げたほうが味も食感も良くなるんじゃないかしら」


 マリーさんが頭の中で工夫する。


「うん、これメニューに載せましょう」

「マジですか?」


 予想外の結果。


「これからも何か思いついたら作ってみて。美味しかったらメニューにするわ」


 俺の作ったものがお店で出される。

 これってなんだか気持ち良いな。



 ……



 翌日の食堂。


「ん〜、美味しい。パリッてのが良いじゃない」


 サキュバスのパームが改良版ポテチを注文して食べていた。

 悪魔にも好評。

 テーブルの上では、妖精たちがパームに分けてもらったポテチを夢中で食べていた。


「どうしよ、食べはじめたら止まらないわこれ、ウフフ」

「それって太りやすいお菓子なんですけどね」

「(ピタリ)」


 やっぱり止まるんだ。


「なぜ!? おかしい!」


 急にカウンター席のお客さんが叫んだ。

 五十歳くらいのおじさん。


「あなた、銀貨一枚、言った!」


 マリーさんへ向けて片言で怒ってる。


「どうしました?」

「ユウ。こちらのお客様がね、注文した時『全部でいくら?』って聞くから『銀貨五枚です』って言ったの」

「ウソ! あなた、銀貨一枚、言った」


 言葉が通じてなかったようだ。


「いきなり銀貨五枚に変えられたと思って怒ってるみたいね」


 ルージュもこっちにきた。

 そういうことだろう。


「私、共通語話す、ちょっと、だけ! わからない! だから、あなた、私、だます、してる!」


 マリーさんはそんなことしない。

 でも、初対面ではわからない。


「私、銀貨一枚、だけ、払う! わかった!?」


 帰ろうとしてる。

 困ったな。


「少しいいですか?」


 そこへアンが来た。


「失礼します」


 お客さんの腕をギュッとつねった。


「いってぇ!」

「とっさに出たのが共通語でした。お客様の母国語は、共通語なのではありませんか?」

「っ!?」


 お客さんがビクッとした。


「共通語がわからないフリをして安く済ませようとしている。そういうことですよね?」

「え、マジで?」

「そうなの?」


 俺とルージュが疑いの目で見る。


「あ、あなた、何言う!? ち、違う!」


 目が泳いでる。

 怪しさ全開。


「でしたら、どこの国のご出身ですか?」

「あ、あ〜、ナ、ナナディ?」

「『ナナディ語喋れます。俺と話し合いましょう』」

「あ〜……うん?」


 首傾げてる。

 絶対通じてない。

 アンの推測が当たってるよ。


「マリー店長、衛兵を呼びましょう」

「き、今日は、五枚、払う! つ、次はないアルよ!」


 銀貨五枚を置いて帰って行った。


「ありがとうございました」


 マリーさんが律儀にお見送りして、


「アンは、あの人の母国語が共通語だって気づいてたの?」

「食事中、『うまい』って言ってました」


 それもとっさに出る母国語と。

 よく聞いてたな。


「助かったわ、アン」

「ナイスよ、アン」


 マリーさんがお礼を言ってルージュが褒めるとアンが照れた。


「それにしてもユウ先生」

「はい?」

「あなたは、本当に何語でも話しますね。その才能を最大限に発揮できる仕事をしようとは考えないんですか?」

「それってどんな仕事?」

「外交官とか」

「ないない。おもんなさそう」

「おもんなさそう、ですか……」


 アンがため息。


「まあ、人間やりたいことをやるのが一番ですけれど」


 何当たり前のことを言ってんだか。


「ヒヒ〜ン(いつ見てもすごいな〜)」


 との鳴き声に目を向けると、シルバが窓から空を見上げていた。

 他のお客さんもだ。


「何? 何見てんだ?」

「ヒヒーン(あれだよ)」

「あれ?」


 空を見た。

 西の空に分厚い雲が広がっていて、その上に街があった。


「なんじゃあれ!?」

「天空都市フィンドラムです。見るのは初めてですか?」


 アンが教えてくれた。


「すげ〜。どんなとこなんだ?」

「天空人が住んでいます。とても美しいところとか。行ったことはないんですが」

「ヒヒーン(俺行ったことあるよ)」


 ちょっと自慢気。


「マジで? シルバ行ったことあるってよ。どんな街だった?」

「ヒヒーン、ヒヒーン(街もあるけど、森や湖もあって、地面がそのまま浮いてるみたいだった)」

「へ〜」


 俺も行ってみたい。

 シルバに連れてってもらおうかな。


「もうじき冬なのにこんなところに来るなんて珍しいわね」


 一緒に見上げながらルージュ。


「本当ね。フィンドラムっていつも暖かい地域でシーズンを過ごすのに」


 マリーさんが不思議そう。


「あれは……」


 アンが目を細めてフィンドラムを見てる。


「ユウ先生、雲の下にある魔法陣見えますか?」

「うん」


 百個くらい光る魔法陣が展開してる。

 一つとして同じものがない。

 あれが都市を空に浮かべているんだろう。


「読めます?」

「『北風の神ヒュプ 南風の神エエ 西風の神ノワ』」

「……」


 無表情に見てくる。


「何?」

「あれ、神世の時代の文字で人間が読めるわけないんですけどね。まあ、もういいです」


 なんだかいろいろと諦めた顔。


「全部読めますか?」

「全部? え〜っと……読めない箇所がいくつかあるな」


 神様のチート能力でも読めない字があったとは。


「ふむふむ」


 よくわからないが、アンがコクコク頷いた。

 そこへ、ガラガラガラと車輪を鳴らして一台の馬車がやってきた。

 店の前に停まり、御者が馬車の扉を開ける。

 中から白髪のおじいさんと二人の壮年の男が降りてきて、チリンチリンとドアベルを鳴らし、店に入ってきた。


「いらっしゃいませ」


 アンが迎えて、


「ミラン大おじ様!」


 ビックリ。

 店内のお客さんもザワついた。


「おお、アン。本当に街の酒場で働いているんだね」


 白髪のおじいさんがアンを抱擁した。

 六十歳くらいで丸顔の柔和な表情の紳士。


「アン、こちらはお店の方々かな?」


 俺たちへ顔を向ける。


「はい、そうです」

「はじめまして。私は、エベレット公爵家の当主、ミラン・ソル・ダン・エベレット。この国、サン王国の宰相を任されております」

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