26 ユニコーン
次の日の朝。
ドドドドドッと大きな足音を立ててテオが一階へ駆け降りてきた。
「サ、サキュバスに夢で襲われたんすけど!?」
肌が汗ばんでる。
「ちょっと精気もらおうと思っただけよ。恋してる男の子の精気って美味しいから」
パームが二階から顔を覗かせた。
「人の彼氏に何するのよ!」
シャーディーが怒る。
「テオ、あの悪魔に何されたの?」
「いや、何も。シャーディーに化けて誘惑してきたけど、何か違うなぁって。シャーディーは、もっと上品な美人って感じだよなぁって気づいて」
「や、やだテオったら。私、上品とかそんなことないわよ」
「あるって。たくさんあるシャーディーの魅力の一つだ」
「もう。ウフフフ」
「ハハハ」
朝からラブラブだった。
……
お昼の食堂。
テーブル席に座るカップルが外国語で会話してる。
「『昨晩の君は、その、情熱的だったね』」
「『あなたこそ、ベッドではあんなに雄々しくなるのね、フフフ』」
照れた顔で昨日のことを思い出していた。
周りは自分たちの言葉がわからないと思ってるんだろう。
「『君、お勘定を頼むよ』」
席を立つ。
「あなた、外国語で呼んでも通じないわよ」
「はーい、ただいま……あ」
「「!」」
「ち、違うんです。な、なんとな〜く呼ばれた気がして。あ、当たってました?」
「そ、そうだね。お、お会計頼むよ」
変な空気の後、二人はお金を置いてそそくさと帰っていった。
「ま、またどうぞ〜」
もう来てくれないかも。
ミスった。
「ただいまっす」
ドアベルを鳴らしてテオが入ってきた。
「なんか今、カップルが走って出て行きませんでした?」
「テオ、周りは自分の言葉がわからないとか油断するなよ」
「も、もうしないっすよ」
さっきのカップルは、未来のテオを見ているようだった。
「ヒヒーン」
テオの後ろからペガサスのお客さん。
「いらっしゃいませ」
「ヒヒーン(ネクタル。テイクアウトね)」
「はい。少々お待ちください」
店の奥へ行き、小さい樽に入ったネクタルを取って戻り、縄で首にかけてあげた。
「ヒヒヒ〜ン。ヒヒーン(この香りたまんね〜。サンキュ。お代はこれね)」
口に咥えていた物を俺の手に置くと、ペガサスは飛び去った。
「ありがとうございましたー」
お見送りで一礼。
「ネクタル買って行ったんすか?」
空を見上げながらテオ。
「そう。お持ち帰り」
「お金払ってましたね。ペガサスって金持ってるんすね」
「金とかいろいろだな」
手を開いてペガサスが支払ったお代を見せた。
「……これ、ダイヤじゃないっすか?」
首をぐいと前に伸ばして見入る。
ダイヤモンドの嵌められた指輪。
「何でペガサスがダイヤを? つーか、ネクタルってそんなに高いんすか?」
「いや、値段決める前に、ペガサスが拾ってきた金目のもの勝手に置いていくようになってさ」
あちこちを飛んだり走ったりしていると、人間が隠したものか落としたものか、硬貨や宝物を見つけることがままあるらしい。
これまでは興味がなくてそのまま放置していたが、これを支払えばネクタルが飲めるとなって、拾うようになったそうだ。
「だから、たまに銅貨とか置いていく時もあるけど、総合的に見ると儲けてるから何も言わないんだ」
そもそもの話、ネクタルの仕入れ値タダだし。
「銅貨か宝石か。すごい差ですね」
「だよな」
でもこれが、当たり外れのクジみたいでわくわくして楽しい。
「指輪か……」
テオがダイヤの指輪をじっと見て何事かを考える。
「ヒヒーン」
またテオの後ろから鳴き声。
「ユウ先生、またペガサスのお客さん来ましたよ」
「違う違う。この方はユニコーンだよ」
「ユニコーン!?」
白い馬体、銀色の鬣、額には勇ましい螺旋模様の角が生えていた。
ペガサス伝いにここの噂を聞いたそうで、最近来るようになった。
「ヒヒーン(誰がペガサスだ)」
「すみません。おっちょこちょいだな、テオは。見た目も言葉もペガサスとは違うだろ?」
「どっちもヒヒーンにしか聞こえないっすけど……」
……
お昼休憩の時間。
街中をテオと歩く。
「ちょっとジュエリーショップ行ってくる」と言ったら、「俺もいいっすか」とテオがついてきたのだった。
「テオは、ジュエリーショップに何の用事?」
「婚約指輪見たいんです」
「おお、婚約指輪」
なんかドキドキする響き。
「でも、今日は値段見るくらいにしようかなって。ユウ先生は、何の用っすか?」
「これだよ」
持っていた袋の中を見せた。
ペガサスやユニコーンの置いていった宝石がたくさん入っていた。
テオが袋に顔を突っ込む勢いで覗く。
「ウチの常連さんがやってる店で、これ鑑定してもらおうと思って。幾らくらいになるかな?」
「……店が大騒ぎになるくらいじゃないっすかね?」
と話している横を馬車が通り過ぎた。
荷馬車で、幌付きの大きな荷台をガタゴト揺らして走っていく。
さらにその後ろをおじいさんが走っていた。
「待て! 待たんか!」
怒りながらステッキを振り上げ馬車を追いかけていた。
「あ!」
と、テオ。
「む? あ!」
と、おじいさん。
何だろう?
「こ、こんにちはっす!」
テオが大声で挨拶。
「今はいい! それよりも馬車を追え! ユニコーンの子供を攫った!」
「ユニコーン!?」
すぐに俺とテオも走り出した。
しかし、馬車が速度を上げた。
どんどん離される。
「俺、先行きます」
「追いつけるか?」
「これでも魔法学園では成績優秀だったんすよ」
テオの体がバチバチッと放電しはじめた。
「『我が身は雷』」
呪文を唱えると稲妻の如く走り出した。
すぐに馬車に追いつき、幌を開けて中へ入った。
「な、何だテメェごはっ!」
「野郎ぶほっ!」
という男たちの声が中からした後、テオがユニコーンの子供を抱えて出てきた。
「ちぃっ!」
御者が馬に鞭を入れてさらに速度を上げた。
「逃がすか! ユウ先生っ、この子頼みます!」
「放っておけ」
おじいさんが止める。
「その子が無事ならそれで良い。やつらを捕まえても、ユニコーンを捕獲することは犯罪ではないからどうせ裁けんしな」
馬車は、角を曲がって逃げていった。
「この子どうしましょう?」
ユニコーンを抱えたままテオが戻って来た。
「ヒヒーン!(おかあさーん!)」
「お前、母ちゃんと来たの?」
「ヒ、ヒヒヒヒーン! ヒヒヒヒヒヒーーーン!(こ、この人ぼくの言葉わかってる! こわいよー! おかあさーーーん!)」
「なんかめっちゃ怯えてません? 人間に捕まったのがよっぽど怖かったんすね」
「うん、まぁ、うん、離してやってくれ」
テオが解放するとユニコーンの子供は、ものすごいスピードで走り去った。
「もう捕まるなよー」
手を振り、
「で、二人は知り合い?」
「そ、そうだった! こんにちはっ、ポート伯爵!」
ポート伯爵?
それって、
「うむ。そっちの君は初めましてだな。私は、ソルト・エン・ネイブ・ポートという者だ」
シャーディーのおじいさんだった。




