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【連載版】神様からもらった能力は『異世界語がわかる』だけだったけど案外やってイケる  作者: 赤ぱん金魚


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11 葡萄祭り

 数日後。

 葡萄祭りの日がやってきた。

 ベーリーの街は、朝から大賑わい。

 街の外からも多くの人が集まり、屋台が出て物売りが歩き回り、あちこちで歌って踊って酒を飲んでとすでに盛り上がっていた。


 『ラベンダー亭』も今日は休み。

 祭りに参加するため、みんなで葡萄の投げ合いが行われる大通りにやってきた。


「この空気! この雰囲気! お祭りね!」


 ルージュのテンションが高い。


「だな! 祭りだな!」


 俺だって上がりっぱなしだ。

 やっぱ祭りってテンション上がるよな。


「フフ、二人とも元気ね」


 保護者的な目線のマリーさん。


「ですね」


 アンも落ち着いた返事。

 周りには、シャーディーやテオ、クラスメイトも全員いた。


 みんな白いローブを着ている。

 魔法薬の授業で三年間使っていたものらしい。

 地球でいう白衣みたいなものか。


「テオ、あなた私を集中攻撃する気でしょ」

「しねぇよ。『むしろ俺は、お前を守る騎士ナイトさ。』」


 ……。


「ユウ先生、また顔赤いっすね?」

「……もうちょい場所を考えた方がいいよ?」

「何の話っすか?」


「あれってアン王女じゃないか」

「参加されるのかしら」

「まさか」


 前から来る人がアンに気づく。

 すれ違うとき、道を譲るように俺たちから距離を取って小さく頭を下げた。


「アンの作戦うまくいくのかな?」


 それを見て、ルージュが不安を口にした。

 あの日、「葡萄祭りでどうやってお客さんを取り戻すの?」と聞いてくるシャーディーとテオに、アンは、こう答えた。


『二人は、魔法人形を倒す授業覚えてるかしら? 私たちが一緒に泥だらけになって人形を倒した』

『もちろんよ。それからアンと気軽に話せるようになったもの』

『一緒に泥んこになってるアンを見て、お姫様って線引きが消えたっていうか、けっこう親しみやすい人なのかもって思ったきっかけだったよな』

『それを再現するの、お祭りで』


 つまり、葡萄を投げ合い一緒に果汁まみれになって、実は親しみやすい人だと知ってもらおうという作戦だった。

 しかし、道行く人は、今もアンに気づくとみんなビックリして畏まってる。

 なのにアンと葡萄の投げ合いをしてくれるだろうか。



 ……



 にわかに周りが騒がしくなってきた。

 大通りに数えきれないくらいの荷駄が入ってきた。

 積んであるのは、山盛りの葡萄だ。

 人が集まってくる。

 興奮が高まり歓声が上がる。


 荷駄に乗っている人が葡萄を道に落としていくとみんなそれを拾い、近くの人目掛けて葡萄を投げだした。


「もうお祭り始まったんですか? 祭り開始の合図とかは?」

「葡萄を落としたらそれが合図よ。それ!」


 マリーさんが葡萄を拾ってこっちへ投げた。

 葡萄が肩に当たった。

 痛くないけど、果汁がべっとり服を濡らした。


「投げるとき、実を少し潰すのがコツよ」

「なるほど。じゃあ俺も!」


 拾って投げ返した。

 今日のマリーさんはチュニックみたいな服。

 生足に当たって汁が肌をツーと垂れた。

 ほほう……。


「や!」


 横からルージュの攻撃。


「いってぇ!」


 威力ありすぎ。


「力加減しろ!」


 投げ返す。

 避けられた。


「当たれよ! 葡萄祭りしろよ!」

「べー」


 あっかんべー。

 と油断してる後ろからルージュへ誰かが攻撃。


「ひゃ!」


 命中。


「ハハハッ、やったぜ!」

「当てたのは俺だぞ!」


 お店の常連さんだった。


「やったな〜!」


 楽しそうにルージュが反撃。

 散弾みたいに葡萄の実が辺りに飛んだ。

 こんなもん当たったらシャレにならん。

 ちょっと離れよ。


 さて、アンはどうしてるか。

 と探すと、白いローブを紫色に染めて葡萄を投げ合っていた。

 投げてくる相手は、みんなクラスメイト。

 街の人は、誰もアンに投げていなかった。

 結局、街の人と投げ合う作戦は失敗のようだ。


「アン、作戦うまくいかなくて残念だったな」

「何を言ってるんですか。ここからです」

「ここからって何が?」

「みんなだいぶ体が温まってきました。それに今、地面にこぼれた葡萄酒がいい感じに蒸発しています」


 言われてみると、葡萄の匂いに混じってアルコールの匂いもする。


「何で葡萄酒が?」

「葡萄祭りになると、悪ノリした人が飲んでいた葡萄酒を相手にかけるんです」

「へ〜。で、ここからって何が?」

「アンっ、くらいなさい!」


 シャーディーがアンに葡萄を投げた。


「そら!」

「えい! えい!」


 テオやクラスメイトも。

 アンもみんなへ笑顔で反撃した。

 葡萄の応酬。

 そこへ、


「ガハハハッ、お姫さん発見! そりゃ!」


 おじさんがアンに葡萄を投げた。


「姫様じゃないの! アタシも!」

「わしも!」


 街の人がアンに葡萄を投げはじめた。

 その数はどんどん増えてる。


「何で急に?」


 と首を傾げる俺へ、


「みんな酔っ払ってるんです!」


 葡萄を投げ返しながらアンが説明した。


「朝からお酒を飲んで、動いて、さらに蒸発した葡萄酒を吸って、みんなかなり酔いが回ってるんです! その状態で誰彼かまわず葡萄を投げるのを待っていたんです!」


 は〜、それで「ここから」か。

 みんなが酔っ払うのを待ってたんだ。


「作戦通りれす! ヒック」


 お前もちょっと酔ってない?


「とはいえ、遠慮なく投げてくれる仲間がいてくれたから、街の人もつられて遠慮なく投げてくれるんです! みんなありがとー!」


 アンが葡萄を投げる。


「こっちこそいつもありがとう!」


 クラスメイトが投げ返す。


「いつもみんなに助けられたわ!」

「だから、こっちこそだよ!」

「三年間すっごく楽しかった!」

「卒業寂しい!」

「私も!」

「俺だって!」

「でも卒業おめでとー!」

「何だよそれ!」

「アハハハハッ」


 みんな葡萄の果汁まみれ。

 笑いながら目を潤ませて葡萄を投げ合っていた。

 いいなぁ、アオハルだなぁ。

 あ〜、俺もちょっと酒が回ってきたかも。

 いい気持ち〜。


「シャーディーも卒業おめでとー!」

「テオもね!」


 二人も葡萄の果汁まみれ。


「そら! そら! 『好きって言えばよかった!』」

「何!? ファビネル語わからないってば!」

「『大好きだ!』」

「共通語で言いなさいよ!」

「『テオがシャーディーのこと好きってさ! アハハハハッ』」

「ユウ先生の言う通り俺は……何でファビネル語話してるんすかっ!?」

「話せるからー! アハハハハッ!」

「ユウ先生ファビネル語話せたんですか!? テオがなんて言ってるか教えてください!」

「あのね〜、テオはね〜、シャーディーがね〜」

「好きだーーーーーっ!」


 テオの声が大通りに響いた。

 周りにいたクラスメイト、街の人たちの手がピタリと止まった。

 みんながテオとシャーディーに注目した。


「あ」


 テオが「つい」という表情。

 自分の言ったことに気づくと首から上を真っ赤にした。


「え? ……ええーーーっ!?」


 少し遅れてシャーディーの顔も火がついたように赤くなった。


「き、急に何言って」

「き、急じゃなくて、その、あの」


 しどろもどろに言っていたが、周りから向けられている期待の視線にもう後には引けないと覚悟を決めたのか、ギュッと拳を握りしめ、


「ず、ずっと好きだった! ずっと好きだったし絶対一生俺はシャーディーが好きだ! 幸せにする! 俺と付き合ってくれ!」


 沸騰しそうな顔で渾身の告白をした。

 みんなが今度は、シャーディーの返事を待つ。

 シャーディーは、キョロキョロモジモジ「あうあう」したあと、


「……わ、私で、その、ゴニョゴニョ」

「聞こえない!」

「だ、だから、わ、私で、よ、よ」

「聞こえない!」

「私で良ければよろしくお願いしますって言ってるのーーーーー!」


 顔をゆでダコみたくして、テオよりも大きな声で返事をした。

 ワッと空気が震えるくらいの歓声が上がった。


「おめでとー!」

「この! この! 幸せな野郎め!」


 みんなが祝福の葡萄をテオとシャーディーに投げた。


「おめでとうテオっ、よかったな! おりゃ!」

「あざっす、ユウ先生! つーかユウ先生っ、どれくらいファビネル語話せるんすか!? まさか俺の独り言とかわかってないですよね!?」

「覚悟しとけよ、俺だけのお姫様」

「う゛あ゛ーーーーーーーーーーっ!」

「ぎゃーーーーーっ! 目に葡萄がーーーーーっ!?」



 ……



 そのあと、ルージュが精霊魔法で花火を打ち上げたり、酔っ払ったアンが歌を歌ったりと大盛り上がりのまま葡萄祭りは幕を閉じた。



 ……



 翌日。

 お昼に店を開けると、以前のようにお客さんがわんさか入ってきた。

 俺たちは、顔を見合わせて笑った。

 俺たちも嬉しかったが、


「みんなとの壁を取り払い、親しみやすい人と思ってもらう作戦成功だわ」


 アンが安堵の表情で一番喜んだ。


「お姫さん、昨日は楽しかったな」


 さっそく親しげに声をかけられてる。


「そうですね」


 ニッコリなアン。


「お姫さんがあんなにおもしろい人だとは知らなかったよ」

「……はい?」


 キョトンと首を傾げた。


「街のみんなと肩組んで踊ってさ」

「しかも、王様の銅像にのぼって歌うなんてね、アハハハ」


 思い出してみんなが笑う。

 アンがこっちを見た。

 記憶にありませんって顔してる。

 してたよ、という意味で頷いてあげると、青い顔でトレーを落とした。

 酔って覚えてなかったみたいだ。


「お姫様ってもっとお堅い人かと思ってたけど、実はおもしろい人だったんだな、ハハハハッ」


 おじさんが笑う。

 「親しみやすいお姫様」ではなく「おもしろいお姫様」。

 予定と違ったけれど、みんなとの距離を縮めることができたアンだった。


「お、王家の威厳が……」

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