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第6話



「大人しく、オレに食われるんだな……!」


 虚獣の叫びが部屋中に響き渡り、凄まじい威圧感が全身を包み込んだ。

 膨れ上がる殺意が空気を重くし、呼吸が苦しくなる。

 虚獣は威圧するように地面を踏みつけ、こちらへと迫る。

 死が形となって襲いかかる中。


 それでも、セラフとルミナスは僅かに声を震わせながら、こちらへ手を差し出してくる。

 二人の右手と左手が俺の眼前に差し出され、ぴたりと手がくっついていた。

 俺は、契約を行うため、その手にゆっくりと顔を近づける。


 その瞬間、二人の感情に訴えかけるように僅かに顔をあげる。


「セラフ、ルミナス」


 二人の名を呼び、俺はできる限りの真剣な表情とともに言葉を紡ぐ。


「――必ず、二人を守ってみせるからな」


 ……セラフとルミナスは、自身が頼れる人間の契約者を求めていた。

 だからこそ、このセリフは、二人の心に響くはずで……それで大きく感情が揺れ動いてくれる可能性がある。

 二人は僅かに目を見開き、それから嬉しそうに口元を緩め、最後の言葉を放つ。


「「――……汝を導き、共に戦うことを誓う!」」


 その瞬間に、俺は彼女らの手と手が振れている場所に、軽く口づけを行う。

 天使と悪魔の、尊い指先に口づけをしてしまった。

 ……もうダメだ、意識が遠のく……脳が限界突破している。

 これがゲームでやってたあのシーン、リアルで再現してしまった!

 しかも、俺が……!


 理性が吹き飛びそうな感覚が押し寄せてくる。

 心臓が爆発するんじゃないかってくらいバクバクいってる。虚獣と戦う前に、心拍数爆上がりで死ぬんじゃなかろうか。


 ……そう思った次の瞬間だった。

 俺の胸の中に熱い光と冷たい闇が同時に流れ込んできた。

 まるで炎と氷が一つになり、体内を駆け巡るような感覚。

 それが原動力となって、全身が大きく一度、脈打つ。


「死ねぇ!」


 虚獣の一撃が俺に迫る瞬間、俺は溢れ出した力を解放するように腕を上げた。

 そして――虚獣の拳を受け止めた。

 軽い、拳だ。

 俺の力がさらに増幅していく。……想定、以上だ。

 異常なまでに力が溢れだしている。


 ふと、右手に視線を向けると、そこにはセラフと契約をした証である紋章が浮かび上がっていた。

 セラフの紋章は、光り輝く純白の翼を模したデザインで、中心には眩いばかりの光を放つ円が刻まれている。


 虚獣が目を見開きながら、さらにもう片方の拳を振りぬいてきたので、その攻撃を俺も左手で受け止める。

 左手にはルミナスとの契約を示す紋章が表れていた。

 こちらは悪魔のような翼を示すデザインと可愛らしい尻尾があった。

 どちらも……ゲーム本編で見たセラフとルミナスと契約した際に出る、紋章だ。


 つまり、今の俺は……二人と同時に契約ができてしまったということになる。

 い、いやありえない。

 天使と悪魔の契約は、人間の魂と行う契約だ。この契約は、一度行ったら人間が死ぬまでは解除されない。

 そして、一人の人間が結べる契約は、一人までになる。


 こんなこと、ありえるはずが……あっ。

 ま、まさか……あの裏設定が生きてんのか?

 この設定を詰めるときの会議で、シナリオライターの一人である野村から質問を受けたことがある。


『例えば、もしも魂が二つあるような人間がいたら、天使と悪魔の両方と契約とかってできるんすかね?』

『一応できることにしておくか。ま、そんなキャラクターが出る予定はないけどね』

『りょーかいっすー』


 あの裏設定が最悪な場面で活かされちゃったじゃねぇか! 野村ぁ!


「な、何だ……!? こ、このオレ様の一撃を止めやがっただと……!?」


 虚獣は驚愕に目を見開き、その攻撃が阻まれたことに動揺している様子だった。

 ……シナリオをさらにぶっ壊してしまったことについて考えるのは後だ。

 今はこいつを叩き潰す。


「くっ……!」

「覚悟、しろよ」

「や、やめ――!」


 セラフとルミナスの二人を、ここまで追い込みやがって……!

 そして、何よりシナリオを大きく歪めやがって! 俺のせい? 知らん!

 虚獣の体を跳ねのけるように力を籠め、よろめかせる。そして、右拳を強く握りしめ……振りぬいた。


「あがっ!?」


 虚獣の頬へと拳はめり込み、その巨大な体が吹き飛んだ。

 廃ビルということもあり、虚獣がぶつかった衝撃で壁が崩れる。

 俺は大きく息を吐いてから、虚獣をじっと睨む。

 ……倒した、ようだ。

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[一言] 正しくチートじゃん
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