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風を操る女  作者: 冬戸 華
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第9話 10年後

 涼はかねてからの希望通り警察庁に入庁した。父と同じ警備局勤務だが、父は昇進しており、今はここにいない。

幼馴染だった圭も、大学は違ったが同じ職場で働いていた。お互い腐れ縁だなと笑いあった。


 入庁して一年が経ち、仕事にも慣れてきて、張り込みなどの現場も任されるようになった。

国を守っているという大義名分と使命感が涼には誇らしかった。


 涼の所属する部署は、公安内でも独立して活動する特殊部隊だった。警察庁内でも独立しているこの部署の行う事は秘匿で、違法行為でさえ辞さない。

課長の名前が都築(つづき)なので、内々では通称都築班と呼んでいた。


 四月、新しく入庁してくる職員が数名、その内一名の女性が同じ班に配属されると聞かされた。

(こんな荒々しい部署にいきなり来て大丈夫なんかよ。)


 新しく入るのは女性だと聞いて不安だったが、正直期待の方が高かった。可愛い子だといいな。

が、圭に話すと、警察のしかも特殊部署に来るような女なんて、基本射撃や格闘技ができるごつい奴に決まってるよー、と一笑された。


 涼は自分の隣の空席を見ながら、上手くやっていける子だといいな、程度に考えていた。


 が、しばらくの期間の全体研修を終えて職場にやってきたのは、予想を超える美人だった。整った顔立ちと、ひとまとめにしてはいるが、肩下まである美しい髪。班の全員で立ち迎えた。その新人は課長の都築から紹介されると

「遠坂真織です。よろしくお願いいたします。」

と、涼やかな声で、しかし素っ気ないまでに簡単な挨拶をすませるとぺこりと頭を下げた。


「公安で働くには不向きな美人じゃね?」

圭がボソッと涼に耳打ちした。

「そうかな。花があっていいじゃん。」

「いや、張り込みの時とか目立ってどうするんよ。」

「まあそうだけど。でも、圭の好みのタイプじゃね?」

「おー。ドストライクだな。」

二人はくくっと笑うと、上司に叱られる前に真顔に戻った。


 そして各自の紹介に移った。まずは課長の都築(つづき)。次に先輩に当たる小西勝(こにしまさる)中川美津(なかがわみつ)、そして圭。

圭は名乗った後ちゃっかり「今度飲みに行きましょう!」と誘っていた。

最後に涼。「桐谷涼です。まだ二年目ですけど、俺で分かる事なら何でも聞いてください」と、笑顔で右手を差し出した。

真織が一瞬だけ涼の顔を見て「よろしくお願いします」と手を握り頭を下げた。


 涼の隣に席に座っている真織はほとんど何も話しかけてくることはなく、無口な印象だった。涼は、まだ慣れない職場で緊張しているのだろうと日々話しかけたり、時にはコーヒーを差し入れるなどして気を遣ってみたが、いつも真織は「ありがとうございます」と表情一つ変える事なく受け取って頭を下げると、それ以上は話す事はなかった。


「な、あの新人、すごい不愛想じゃね?」


 給湯室で涼は思わず圭に漏らした。

「おー、イケメンで世間を唸らせる涼にも、そんなに手こずる一面があるんだな。」

と圭は吹き出した。

「俺なりに色々気を遣ってるのになあ。これからの仕事でペアを組む時、あれじゃあ困るよ。」

「単に何を喋ったらいいのか分かんないだけじゃね?この前、俺が海水浴に行って馬鹿な行動をしたって話をしたら、結構喜んでたよ?」

「え?お前いつの間にそこまで話してたの?」

抜け目ない奴、と涼は少し嫉妬心を覚えた。


 涼は凪との初恋に敗れてから、やや女性に対して身構えるようになっていた。

高校でも大学でも涼は女子に声を掛けられる事が多かった。何度か付き合ってみようかと思う子もいたが、どうにも乗り気になれない。


 初恋を美化しすぎているのは自覚していたので、そろそろ本気で大人の恋をしたいと思うようになっていた。


 そこで現れた真織は、涼がドキリとする程美人で好みのタイプだったが、いくらアプローチしても当の本人は全く素っ気ない。会話も全く続かない。愛想もない。


 少しくらい慣れてきてくれてもいい頃なのに、と涼は心の中で口を尖らせた。対して圭にはそこまで話していたなんて…。


 圭を羨ましく思った。



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