第41話 消えた能力
退院を翌日に控えた午後、凪はある事に気が付いた。手から風が起こせない…。
何でだろう?と不思議に思って病院の外に出て、ベンチの上に立ってみる。ピョンと飛んでみるが、上には上がらず着地してしまった。どういうこと?人目を憚らず、何度もベンチに上がっては飛び上がろうとする。が、飛べない。
慌てて涼の病室へ行き、さっきの事を伝える。涼も驚いて、そんな事あるのか?と一緒に病院の外のベンチまで来た。
また凪はベンチから飛んでみる。が、飛び上がれない。体調のせいかもと一旦様子を見る事にし、翌日は予定通り退院した。
凪は美沙と共に兵庫の自宅へ戻り、昨日の事を説明した。
美沙も最初は信じられないようだった。ので、庭のベンチで試してみる。
しかし何度飛んでも上昇しない。
体調のせいなのか能力が消えたのか、訳が判らないまま色々試す。が、何度試しても同じ事の繰り返しだった。
「こんな事ってあるのかしら?」
喜んでいいのか悲しんでいいのか、何だか狐に抓まれたような気分になりながら、取り合えず明日からの事を考える事にした。と、凪が言った。
「あ!大学!」
「あ、ほんと!どうしましょう!」
もう一か月以上程休んでいる。講義の遅れは長期休暇で挽回するとして、どうやってカリフォルニアまで戻るか…。
「飛行機を使うしかないわ。」
美沙は慌ててネットでカリフォルニアまでのフライトを調べ始めた。が、直行便がない。乗り継ぎを含めて軽く十時間は超える。いや、待つ時間なども含めたら一日仕事だ。今まで数分で国を跨いできた凪にとって、絶望的な時間だ。
「でも、どうしようもないから、とにかく明日の便を予約しましょう。」
と、急いで空席検索を始めた。
翌日、凪が関空から羽田に着くと、連絡を受けていた涼が見送りに来ていた。
「凪が飛行機を使うなんてな。」
「ほんとよー。今までの御近所感が嘘みたい。」
「じゃあ、これからは気軽に会えなくなるのか…。」
「そっか…。遠距離だもんね。」
二人は初めて距離というものがいかに人を会いにくくするのかを実感した。
「寂しくなるな…。」
「そんな事言わないでよ。悲しくなるじゃない。」
「大学院もまだ一年以上あるんだろ?」
「そうだけど…。でも、ずっと帰れない訳じゃないし、毎日連絡するから!」
「そうだな、待ってるよ。ずっと待ってる。」
「ありがとう。愛してるわ、必ず帰ってくる。」
「俺もだ。愛してる。気を付けて行ってくるんだよ。」
「うん。じゃあ、行ってくる!」
手を振りながら凪は保安検査場の中へと入って行った。涼は凪が検査を通過して、見えなくなるまで手を振り続けた。
(これがほんとの遠距離恋愛か…。)
涼は寂しさをこらえながら、駐車場から車を発進させた。