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風を操る女  作者: 冬戸 華
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第4話 涼の初恋

 その夜、涼は夢を見た。大人になった凪と海辺で手を繋いで笑って歩いていた。

波打ち際で笑いあった後、見つめあい抱き合った。凪の体の温かさを感じながら、しっかり抱きしめた。はずなのに、凪は涼の腕の中から霞がほどけるように消えてしまった。涼は驚き、あたりを見まわし「凪!!」と叫んだ。

 

 はっと涼は目を覚ました。夢だったのか。気づくともう朝だった。自分の叫び声で目を覚ましたのか、ただ目を覚ましたのか分からなかったが、ゆっくり体を起こすとしばらく夢の出来事を思い返す。

途端に恥ずかしくなったが、凪が急に消えた事を思い出すと何とも言えない不安に襲われた。


 そうだ、今日は凪を誘って登校しよう。小学校の頃のように。クラスの子に何か言われても、家が近いし小学校の時と同じようにしただけだと言い訳をしよう。だって本当だ。

 

 そう思い立つとベッドから飛び跳ねるように起き、急いで身支度をして部屋を出た。ダイニングでは母親が朝食の準備をしていた。


「あれ?涼、おはよう。今日はえらく早いわね。どうしたの?ごはん、まだなのよ。」

「いいよ母さん、パンだけで。今日は早く行く。」

「それじゃあお昼までもたないわよ、ちょっと待っててよ。」

「いいよ、大丈夫。新しい部活の事で先生と話がしたいから、早く行く。」


 涼は適当に言い訳をしながらパンを口へ突っ込み、急いで歯を磨くと家を飛び出た。そして凪の家へと小走りに向かった。


 凪の家のインターホンを鳴らすと、凪の母親が出てきた。


「あら?涼君じゃない、久しぶりね。」

走ってきたことがばれないよう、息を抑えつつ涼は言った。

「うん、おばさん久しぶりです。今日、凪と前みたいに一緒に登校しようかと思って。だって、新しい学校だしまだ通学路も不慣れでしょ?」

「あら、ありがとう。嬉しいわ。凪がちゃんと慣れてくれるかこれから心配だったけど、涼君がいてくれるなら頼もしいわね」


 凪の母親は嬉しそうに笑うと涼を玄関に入れ、「凪―、涼君が来てくれたわよ。」

とリビングに向かって大きな声で呼んだ。


「涼?」

リビングから凪の声がした。涼の心臓がドクンと跳ね上がったが、深呼吸をして平静を装う。リビングのドアが開いて凪が顔だけ出して晴れやかに笑った。


「涼!久しぶり。迎えにきてくれたの?」

涼は、以前と変わらない凪の対応に嬉しさと安堵がこみ上げてきた。

「うん。また学校も一緒だし、前みたいに一緒に行こうか。新しい通学路も以外と危ない所があるしね。」

「うん、ありがと。実はまだ道よく分かんなくて。違うとこ曲がりそうで心配だった!」

凪が笑顔で応じてくれて、涼は内心ホッとしていた。実は断られるんじゃないかと心配もしていたからだ。

「ちょっと待ってて。まだ制服着てない。」


 そういうと凪は顔を引っ込め、バタバタと足音をさせて二階に駆け上がっていったようだ。全く変わらないな、涼は安心すると同時に凪が慌てて準備する姿を想像して笑った。


 真新しいセーラー服に身を包んだ凪の姿を見て、また涼はドキリとした。すぐに目をそらして凪の横を歩き、他愛もない話を探した。


「新しい学校はどう?どんなクラスメートがいるの?」

「うーん、まだよく分かんない。先生の名前も忘れちゃった。」

「先生の名前くらいは覚えようよー」

「あははー、やっぱりそうだよねー。私、どうしても人に興味がなくて。」

「凪らしいなー。昔からそうだったもんなあ。凪、人嫌いだもんねー。」

「ひっどー。当たってるけどー」

「あははははー!ほんとの事じゃん」


 小学校の頃と変わらない会話と距離感。懐かしい感覚。涼はそっと隣を見てみる。そこにはしかし、小学校の頃より大人びた綺麗な少女の姿があった。涼は慌ててまた視線を前方に向けた。


 何気ないお喋りを続けているうちに学校へと着いた。少し残念な気持ちになった涼は思わず

「凪、スマホ持ってる?持ってたらLINE交換しようよ!」

と口走っていた。しまった、ちょっと性急すぎるかな、と後悔しているとすぐに凪は

「うん、持ってる。いいよ」

とカバンからメモを出して、さらさらとアドレスを書いて涼に渡した。涼は喜びで破顔しかけて下を向き、できるだけ平静を装って自分のアドレスを書いたメモを渡した。


 玄関先で軽く手を振って別れると、足取りも軽く教室へ向かう。天にも昇る心地というものはこういうものなんだろうと、にやけた顔を抑えられないまま教室へ入った。


 教室には圭がすでにいた。


「涼―、なんだよー。まだ凪と仲良しなのかー。俺はそっちのけかよー。」

教室から見ていたのか、圭が茶化してきた。

「ごめんごめん、凪のお母さんから頼まれててさ。慣れないうちは小学校の時のようにしてくんないって」

「ほんとかなー。お前のにやけ方が半端じゃないんだけどなー」

圭が少し意地悪く笑う。さすが幼馴染だけあって鋭い。

「そうかなあー?」

涼は適当にはぐらかして自分の席に座り、カバンの中身の整頓を始めた。


 その夜、涼は早速凪からもらったメモのアドレスを登録し、初めてのメッセージを綴ってみた。

(今日もお疲れ。もう寝た?)


 ドキドキしながら送信するか迷う。どうしよう、再会して間もないのにこんなやり取りは少し早いのかな…。もしかしたら引かれるかも…。


 迷っているうちにじっとりと手が汗ばんでくる。けれど、小学校の頃からの仲だ。別に変じゃないよな。大丈夫。涼は意を決して送信してみた。不安に駆られながら画面を見続ける。 


 するとすぐに既読がついた。

「やった!!」

思わず涼は叫んだ。凪も早速アドレスを登録しておいてくれたんだ。そして凪からすぐ返信がきた。

(これから寝ようかなって。涼は?)

すぐさまメッセージを綴る

(俺も今寝ようかなって。)

送信してまた画面を食い入るように見つめる。本当は眠くない。すぐにメッセージが来た。

(そうなんだ、一緒だね。おやすみなさい。)

(うん、おやすみ。)


 たったそれだけのやりとりだったが、涼にとっては大きな進歩だった。

嬉しさのあまり枕に顔をうずめて喜びの雄叫びをあげてしまった。これは今夜は眠れそうもない!


 それからも、涼は凪と一緒に登校を続けた。帰りはサッカーの部活があり別々だったので、毎朝の凪との登校が毎日の涼の楽しみとなった。


 加えて夜に簡単なメッセージを送る。凪はすぐに返信をくれた。再会して間もないのに、予想より早いスピードで二人の仲が小学校の時より親密になっていくような感じがし、涼は幸せな気持ちで一杯になった。

 もう、毎日の学校が楽しみで仕方ない。


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