3 二人一組に
「こういうの、遥は得意そう」
汐里の言葉に遥も確かに、と思う。ミステリーは好きだ。
「ただのびっくりさせるだけのイベントならダルかったけど、ちょっとやる気出てきた」
「よかった。遥、あんまり乗り気じゃなさそうだったから」
あまり表情には出さないようにしていたが、長年の付き合いでバレていたらしい。汐里が頼み込んできたから受けたというのも大きかったので、汐里は気にしていたようだ。
動物園というのがひっかかっていたが、二日もかけて参加するのだから楽しもうという気分になってきた。
バスの中では会場となる動物園のパンフレットが配られた。おそらくイベント会社が作ったものだろうが本物のようによくできている。
「園内の案内図か、これが地図になるってことかな」
案内図を見ながら遥は入り口からの園内図を頭に入れる。到着する頃は日が落ちて暗い。いちいちライトを照らして見てられない。
しかしこの案内図、肝心の新種動物の檻の場所が描かれていない。
「新種の動物は?」
東馬が田畑に聞くと、それもイベントの謎解きに含まれてますという返事だった。要は自力で探せということらしい。
「イベントは二人一組で十分差でスタートとなります。今のうちにペアを決めてください」
田畑の言葉に全員顔を見合わせた。口火を切ったのは戸部だ。
「やっぱ男女でしょ、思い出作りだし」
そうなると汐里は戸部と組みたいはずだが、戸部は恵麻と組みたいだろう。話し合いは面倒だな、と遥が思っていると恵麻がよし、と声をかけてきた。
「一回男女にわかれて被らないようにグーチョキパーを決めよう。で、お互いの同じ手の人とペアで」
「ああ、まあそれが手っ取り早いな」
鈴木が真っ先に同意すると誰も異論を唱えなかった。ここで汐里には戸部と組みたい、など言う勇気はない。
男子に聞こえないようヒソヒソ声で喋る。恵麻が何かを言う前に遥が恵麻に声をかける。
「戸部ってじゃんけんの癖は?」
「えー? もしや彩人狙い?」
「私じゃない」
その言葉にぎょっとした様子の汐里だったが、遥はあっさりと言う。
「このメンツなら隠してもしょうがないじゃん。なんのために来たの」
「え、あ、でも、うん……」
「ああ、そっちか」
恵麻が納得した様子でチョキ出しがちだよ、と教えてくれる。そして全員がせーの、で出した結果。遥と鈴木、戸部と汐里、恵麻と東馬になった。汐里は嬉しそうだ。戸部は意外にも不満そうな様子はない、恵麻と組みたかったかと思ったが。
クラスで話すといっても正直鈴木とは直接の接点はあまりない。いつも東馬が喋り倒し、鈴木は口数が少ない方だ。
「おお、インテリ組ができたな」
東馬の言葉に遥と鈴木はちらりとお互いを見る。遥が成績上位なことは皆知っているが、鈴木の成績は知らない。どちらかと言うと運動ができるイメージだ。当の鈴木はインテリ組と言われたことに関しても興味がなさそうだった。
バスの中ではいろいろと質問はしたが、ほとんどがあとはイベントが始まってからのお楽しみ、というような返事だった。
バスはカーテンを閉めて外が見えないようになっている。連日他の客の予約があるので、SNSで場所などのネタバレを拡散されないための措置だと言う。
そのためバスに乗った時からスマホは田畑が預かっている。若干の不満はあったが、以前注意事項を守らない客がいたため参加のための必須条件だと説明された。
やがてバスはどこかに止まった。田畑に案内されバスを降りると、そこは動物園の目の前だ。
「では最後に皆様にはクリア条件をご確認させていただきます。二人一組となり新種の動物を見つけるか、園内に散りばめられた謎を解くか、その両方か」
バスを降りてからはペアとなる男女に分かれ、クリア目標を決める。
「鈴木どうしたい?」
「ぶっちゃけダルイ」
「よっしゃ」
小さくガッツポーズをすると鈴木は意外だったのか首を傾げた。
「難易度高めなの選ぶかと思った」
「私頭数参加だから。興味湧いたら謎も調べるけど、クリア条件にはしたくない、めんどくさい」
「んじゃ決まり」
遥の答えが気に入ったのか、お互いの利害が一致したのが楽だと思ったのか鈴木もあっさりと答える。動物だけ見つけると伝えると周囲からは全部やったら、と言われたがてきとうに誤魔化した。