2 廃墟となった動物園へ
確かに詳細を話さないのは恐怖感を煽る良い演出かもしれない。しかし泊まりがけであるならもう少し何か情報があっても良いのではないだろうかと思う。怖がりすぎて具合が悪くなる人や、夏なので熱中症にかかってしまった場合など、病院に行くことも想定していたら保険証持ってきてくださいぐらいは書いているのではないだろうか。
皆がワイワイ楽しそうにしているので水を差すようなことを言わないが。
この時に、ちょっとおかしくないかと言っていればよかった?
せめてイベント会社にもう少し詳細を教えてほしいと連絡位をしておけばよかった?
わからない。どこだろう、ターニングポイントは。
数分もしないうちに公園にマイクロバスが入ってくる。中から一人の男性が降りてきて予約していた坂下様、と声をかけてくる。恵麻が手を挙げて私ですと答えた。
降りてきた男は今回のイベントのスタッフだという。全員の名前などを確認しこれからご案内させていただきますとバスに乗るように促してきたが、遥が声をかける。
「泊まりがけっていうこと以外何も聞いてないんですけど。近くにコンビニとかあるんですか」
「場所の詳細はお教えできませんが、周辺にはコンビニなどの施設はございません」
だったら最初からそう伝えてくれればいいのに。喉まで出かかったがせっかくみんな楽しそうな雰囲気なの壊したくは無いので言葉を飲み込んだ
「買い物し忘れたものとかある人は?」
遥の言葉に皆顔を見合わせたが小さく首を振った。遥も必要なものは全て持ってきているので特に買い足すものはない。いざという時のための頭痛薬や熱中症対策に使えそうな冷却シートなども持ってきている。
「準備が整ったようでしたらバスへお願いします」
どこに行くんだろうねと楽しそうに話している汐里たちを横目にイベント会社の男、田畑と名乗ったスタッフをチラリと見つめた。歳は大体四十代位だろうか。ニコニコと人の良さそうな笑顔浮かべてはいるが、絵に描いたような営業スマイルというか作り笑いにしか見えなくて、気持ち悪いなと思った。
全員バスに乗り込み出発すると早速田畑がマイクを持って説明を始める。
「これから向かいますのは廃墟となった動物園となっております。大体夜の七時位に到着します。バスの中で簡単にこちらで準備した夕食をお召し上がりになった後、いよいよイベントが始まります。イベントが終わった後再びバスで移動して頂き宿泊施設に一泊して、翌日結果発表も含めたイベントをご用意していますのでお楽しみください」
現在の時刻は夕方の五時半。七時位に到着するとなると一時間以上バスを走らせることになる。この時間ならそれほど道路は混んでいないはずだ。結構遠い場所だということがわかる。道中長いので、一通りの説明はバス中で済ませて到着したら即イベント開始という流れだと説明された。
「ストーリーを説明させていただきます。廃墟となった動物園には以前珍しい動物が展示されていました。それは山奥で見つかり新種の動物として動物園の目玉として展示されていました。しかし飼育員が謎の死を遂げてから動物園では次々とおかしなことが起こります。客足が遠のき動物園は廃園。飼育されていた動物は他の動物園に移されましたが、その新種の動物はどこに引き取られたのかが分かっていません。しかし表には伏せられていますが、廃園が決まった時から実はこの動物逃げ出していたのです」
いかにもありそうな設定に遥は適当に聞き流していたが、他の面子はこれから始まるイベントにワクワクが止まらないといった感じで話を聞き入っている。
「皆様は新種の動物を探すことが今回のイベントの目的となります。また各所に散りばめられた手がかりをもとに、この動物園で一体何があったのか推理をして真相を突き止めてください」
田畑の説明に隣の席の汐里はふんふんと頷きながら遥を見た。
「つまり、逃げた動物を見つけるのが最終目標ではあるけど、もう一つのタスクが謎の解明ってことだね」
「みたいだね。タスクについては実際手がかりってやつを見てみないとわからないけど」
動物園で起きたおかしな出来事とやらが詳しく説明されていないのが、まさに手がかりなのだろう。あちこち調べなければいけないのがいかにも肝試しといった感じだ。ただゴールに向かって突っ走れば何もないまま終了、さまざまなことが加点式で評価されるようだ。