6 話し合いたい
そんな、そんな、と恵麻は信じられない様子だが遥の中ではほぼ確定だ。ヒエンは、人間の言葉を理解するだけではない。人間のようになれるのだ。だから彼らは研究をやめなかった。
急いで鈴木たちを追いかけたいので他に気になる内容のものがないかいくつかファイル名をチェックする。その中に成長記録というものがあった。どんなことができるようになってどんな特徴があるのか。遥はある単語に目がとまる。
「ヒエン一号、重傷……」
恋人を殺された研究が檜を突きさして重傷を負わせたというものだ。その文を見た遥は信じられない思いだ。体が震える。まさか、そんなはずは。
「やっぱりヒエンは檜が弱点なんだ」
「馬鹿、そっちじゃないでしょ! 一号ってことは、二号がいるってこと? いや、そもそもヒエンって何匹いるの!?」
一匹だと思っていた。まさか、いやしかしおかしなことではない。遥の叫びに恵麻も混乱気味だ。
「わかんない、聞いたことないから。最低でも二匹いるってことだよね」
なんてことだ。てっきり一匹だと思っていた。もしこの園内に二匹いるとしたらどうだ、とても手に負えない。震える手でさらにその先の資料を見てみればその後の一号の観察記録が書かれていた。
檜は腹部の刺さり重傷、五日間持ちこたえたが餌を食べなくなり衰弱して死亡と書かれていた。人間社会検証は二号に引き継ぐと書かれている。
「一号は死んでるんだ。じゃあやっぱり檜は弱点で、しかもトドメを刺すことができる。実験を続けてたのは二号、今園内にいるのは二号だ」
頼むから三号、四号といないで欲しいと思いながら区切りをつけて遥は立ち上がった。鈴木を追わなければ完全に見失う。
「恵麻はここにいて」
「何言ってるの、私も行くよ」
「東馬と戸部に会ってもまともに会話なんてできないよ。二人に襲い掛かられたら私だってかばいきれない」
「わかってる、わかってるよ。でもお願い、彩人と話がしたい! 誤解解きたいし、会いたいよ! さっき東馬は遥の人殺しって言葉にちょっと動揺してたでしょ? 全然話聞かないわけじゃないなら、私に考えがあるから」
遥かの腕を掴んで必死に言う恵麻に、遥は数秒考え込んだがわかった、と言った。止めてもついてくるだろうし、正直一人残していくのが不安ではある。戻ってきたら殺されていた、なんてもう見たくない。
「体調は?」
「平気。さっきのつわりだと思う」
「もしかして、戸部に妊娠のこと言うつもり?」
「そう。俺の子じゃないとか、そんなの知らないとか、絶対言わない。彩人はそんなやつじゃない」
「私もできる限りフォローするけど絶対に無茶しないでね」
二人でうなずきあい急いで外に出た。しかしどこにいるか見当もつかない。まだ小動物エリアと北極エリアは探していないが、重要なものは日本エリアに集中している気がした。汐里が殺されたのも戸部と思った遺体があったのも日本エリア。園の作りも中心に日本エリアがありそれを囲うように他のエリアがある。日本エリアからはどこに行くにもアクセスが良いのだ。
そういえばまだ霊長類エリアもそこまで詳しく調べていない。そこまで考えたとき遥の中に言いようのない不安が広がっていく。なんだろう、何かを見落としている気がする。ヒントは得ていて答えにまでたどり着いていないような。何か気になること放置してしまっているような、そんな小さな気がかりだ。
何を見落としてる、今なんでそれを急に思いついた? 霊長類エリアを調べていないと思ったから、霊長類エリアで何かあっただろうか。
急いでいたのに急に立ち止まってしまった遥に、恵麻は不思議そうに駆け寄った。
「どうかした?」
「いや、ちょっと待って。いやでも、そんなはずは」
普段クールで何事にも動じず慌てた様子など見たことがないが、今目の前の遥は明らかに顔色が悪い。
「ちょっと落ち着いて。一応遥の冷静な判断、めちゃくちゃ助かってるんだから。遥がパニックになると結構困る。順番に話してくれる?」
「えっと。話していいのかな……」
「話して、気になるし」
迷っていたようだが、辺りを見渡して適当な植木の傍に隠れた。そしてしっかりと信号機を握りしめた。
「こんなことになる前、鈴木と一緒にイベントの謎解きをやってた時なんだけど。その時にいろいろショートカットしてヒントだけを先に集めて、なんとなく答えに気づいたんだよね」
「すごいじゃん、それで?」
「未知の生物は、人間の見た目をしてる、って。あの資料の通り」
「ええっと、つまり?」
意味がよくわからなかったらしく恵麻は首をかしげた。
「動物の死骸があったり、檻が破壊されてたり。かと思えばプロジェクションマッピングとかちゃんとした手がかりと思う映像もあったりして。何かイベントのヒントは二種類に分かれるように思える。スタッフが用意したヒントとタチの悪いヒント」




