1 気づいたこと
頭が真っ白になってしまったが冷静に考えるといろいろなことが頭の中でパズルのようにはまっていく。
「最初から私たちをここに入れるための罠だったんだ、あの人の指」
この場所を示すかのように刺されていたハンドサイン。何かメッセージを残したくて必死にあの亡くなった人が残したのかと思ったが、誘き寄せるためのトラップ。そして汐里の遺体を見て油断しているところを改めて殺すつもりだったのだろう。汐里の遺体を見る前に襲い掛かってきたので何とか対処できたが、汐里を見つけた後だったら殺されていたかもしれない。
「頭が良くて残忍だって言われてる理由がやっとわかった。想像してた以上だった」
遥の声が低くなる。これは怒りなのか、悔しさか、憎しみか。どれも違う気がした。一つ言えるのは感情的に対処したらこちらの負けだということだ。人間で言うところのおそらく知能指数、IQが高いということなのかもしれない。
研究員達は長年危険視してきた、だから信号機を作り管理してきた。しかしその予想をはるかに上回る知能をもっているのだ。
「一回恵麻達のところ戻ろう」
東馬が見つかっていないが、一度みんなで作戦を立てたい。こちらの動きが筒抜けのようになっているのが気になる。
ここから戻るには戸部の遺体がある檻の前を通らなければならない。あまり近づきたくはないが、と思いながら走り出すもすぐに止まった。
「どうした」
「ねえ、なんで戸部って頭なかったんだろう」
「人間いたぶって楽しんでるみたいだから俺らの反応面白がったんじゃね」
確かにそうかもしれない。だが、今までの遺体の状況には共通点がある。かなり酷い殺されかたはしているが、戸部だけ何か違う。汐里の腕はちぎれていたがその場にあった。戸部の頭部は見つかっていない。
例えば首が落ちていたら、もっとパニックになったはずだ。戸部の頭部はどこに消えたのか。
「ちょっと、戸部見てくる」
その言葉に鈴木は目を丸くして遥の顔を見た。目を見つめられなんだかいたたまれなくなる。わずかに目を逸らした。
「何、じっと見て」
「正気かなと思って。あのな、言い方アレだけど頭大丈夫か」
「マジで言い方なんとかしてよ、心配してくれてるのはわかったけど。大丈夫だよ。私たち混乱して逃げ出したからさ、戸部のことよく見てないし。見たくはないけど」
「気になる事でもあんの」
「さっきのこと。なんか戸部だけ殺され方が違うから」
遥が歩き出せば鈴木も着いてくる。ごめん、と小さくいえば別に、とそっけなく返ってきた。話す時こういう態度が多い鈴木は友達が少ない。東馬と戸部以外の誰かと一緒にいるところを見たことがなかった。とっつきにくいキャラだなとは思っていたが、自分本位な冷たい奴ではないことがわかる。
戸部の遺体がある檻に着き、鈴木には見張りを頼んだ。意を決して遺体を見ると、やはり周辺に頭部はない。うつ伏せになっているが臓器がはみ出ているのが見えるのでやはり腹をやられている。吐かないよう口元を押さえて他に気になることはないか必死に観察する。
遥の進路は法大、検事を目指している。検事になれば遺体の写真を見ることだってある、これくらい乗り越えろ、と無理矢理自分を納得させながら。
――あれ?
戸部の体、なんだか違和感がある。檻の外からの観察なのではっきりいえないが、そう、服の丈が引っかかった。
――戸部のシャツ、七分丈だったはずなのに、長い?




