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ヒエン  作者: aqri
何を間違えたのだろう
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11 汐里との、合流……

 背中を刺激しないようそっと動きながら立ち上がろうとするが、鈴木の足がガクンと落ちる。


「悪い、座らせてくれ。少し休めばなんとか」

「わかった」


 鈴木を座らせると急いで外に出て周囲を確認する。いつてもボタンを押せるよう準備をして辺りを見るが、ヒエンは見当たらなかった。遠くから石を投げ込まれたらたまらないので、扉の影に隠れながら様子を窺う。

 今更だがボタンは一度押せば入りっぱなしになる事を思いだした。このまま押し続けようかと思ったが、無駄遣いはしたくない。使い続けて肝心な時に電池切れ、なんて起きたら最悪だ。少ししてから下から鈴木の声が聞こえた。


「もう大丈夫だ」


 もう一度扉が閉まらないよう確認してから下に降りた。鈴木は自力で立ち上がったらしく壁に寄りかかっている。


「ヒエンはいないみたい」

「そっか。すげえ速さで見えなかったし避けられなかった、受け身取る暇もなかったし。なんだあれ」


 はあ、とため息をついた。それは遥も同じだ。


「お前よく避けたな? 後ろに目でもついてんの? 後ろにいた俺も気がつかなかったのに」

「なんかこう、殺気みたいのを感じた」

「マジかよ、すげえな。必殺技とかもってそうな奴のセリフだな」


 感心したというよりどこか呆れたように言う鈴木に、遥も床を見ながら言った。


「吐かなかったんだ?」

「兄貴から女の子の前で絶対やるなって言われてんのが舌打ち、ゲロ、母親をママって呼ぶことだ」

「なにそれ、まあ合ってるけど。っていうか、お兄さんいるんだ」

「同い年だし母親違うけどな。って言うとだいたいのやつはなんか変に気遣ってくるけど兄貴とは仲良いから」


 悪いこと聞いたかな、とさえ思わせない先回りの回答に遥も苦笑だ。いろいろな家庭の事情があるのだろう。


「とりあえず出ようか、荒らされててなにも無さそう」

「一応ざっと見てくる」


 背中の痛みが完全に引いたらしく鈴木は奥に進んだ。部屋自体は小さいのであまり探すものもないだろうと遥はドアの方を見張る。

 ガサガサ音を立てながら探していたようだが、その音がぴたりと止まった。


「何かあった?」


 遥の問いに鈴木は無言だ。おかしいと思い部屋に入ると、部屋の中央あたりで一箇所を凝視して動かなし鈴木が目に入る。


「どうしたの?」

「……いや、あのさ。ちょっとそこで待っててくれ」

「は?」

「俺が確認するから」


 わけがわからず視線の先を見ると。

 ロッカーの向こう側にだれか倒れているらしく、足が見える。その足が履いているサンダルには見覚えがあった。当然だ、今回のイベント参加の為に一緒に買い物に行って、目の前で買っていたのだから。

 足はピクリとも動かない。ロッカーが邪魔で足しか見えない。

 ――嘘だ。


「……ちょっとどいて、私が見るから」

「やめろよ」

「確認しないと、ほら、別人かもしれないし」


 声が震える。今、酷い顔をしていると思う。現に鈴木の表情は険しい。


「私なら見間違えないし。すぐに違う人だってわかるし、持ち物も服も覚えてるし。だから」


 手も震えている。そんな遥を見て、鈴木はわかった、とだけ言うと階段入り口に移動した。外を見ているので見張りをしてくれるようだ。

 ゆっくりと、近づいた。夏らしいデザインのビジューサンダルを選び、ピンクの花にするか青の花にするか悩んでいたので女の子らしくピンクにしなよ、と言ったのは遥だ。ピンクの花のビジューサンダルを履いた足に近づき、ロッカーの死角となっている足から上の部分を見下ろした。



 レッドカーペットの上に寝転がっているかのようだった。血だまりの上に彼女は仰向けに倒れていた。見間違えるはずがない。今日着てきた服も、持っているバッグも、履いてるサンダルも。

 顔は、わかる。綺麗な形で残っている。ただし目も口も半開きになっていて、女の子らしい普段の顔とはかけ離れている。左腕はない。よく見ればすぐ近くに転がっていた。

 そして腹は。今まで見てきた動物の死骸や外で死んでいた人とあまり変わらない状態だった。声をあげることもなく、ただひたすらその光景を眺め続ける。間違えるはずがない、どんな姿になったって。保育園から同じ幼馴染を。


「……し、おり……」


 ようやく絞り出したかすれた声でつぶやけば、自分の声がはっきり聞こえてようやく自覚する。


 汐里は死んでいる。汐里が、死んでいる。汐里が。



「何を間違えたの」


 鈴木に問う。意味がわからなかったらしく入り口から離れて遥の方に歩いてきた。


「なんでこんなことになったの。どこを間違えたから、こんなことになっちゃったの」


 教えて欲しい。誰か。


「竹本なんだよな」


 念を押して聞いてくる鈴木に、遥は答えない。鈴木も答えなど分かりきっていた、だから遥に来るなと言ったのだ。

 大粒の涙が頬を伝って落ちる。大声をあげて泣ければどれだけよかったか。遥は昔から喚くように泣くことができない、静かに涙をこぼすだけだ。喧嘩ばかりする両親が泣いている遥にうるさいと怒鳴りつけていたことが今でも影響している。

 そうやって少し時間が過ぎた。遥は目元をゴシゴシと擦るとゆっくりと立ち上がる。こんな姿を晒しているのはあんまりだと思うが、夏なので上着を着てきていないしこの場所に何かかけてあげられる布製のものはなさそうだ。


「空気読まないこと言うけど移動するぞ。またあれが来たら逃げ場がない。水責めでもされたら厄介だ」

「わかってる。待っててくれてありがとう」


 本当だったらすぐにでも移動したかったはずだ。信号機を持っていることがばれてしまった、次からは必ず死角から襲うか遠距離から物を投げて攻撃してくるか。もしくは今鈴木が言ったようにこの場から脱出せざるを得ない状況を作られるか。早く他のみんなと合流するべきなのを待っててくれた。


「全部終わったら必ず迎えに来るから」


 そう汐里に向かってつぶやくと二人はその場を後にした。

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