1 メンバー集合
指定された駅の西口に集合と言われて遥と汐里は時間前に西口に集まった。来ていたのは今回の企画の発案者である恵麻、そして戸部彩人。二人は親しげに話している。二人は遥達に気がつくと笑いながら手を振った。汐里が聞こえないように小さな声でつぶやくように言う。
「やっぱり両想いなのかな。どう見てもお似合いだよね」
付き合っていないのが不思議なくらい二人はよく一緒に遊びに行くと言っていた。付き合ってないのかと聞かれると二人とも友達だよと否定をする。
恵麻は本当にそう思っているようだが、その手の話題になったときの戸部は目が笑っていないので、そう思っているのはおそらく恵麻だけだ。
「時間前行動、さすがだな」
戸部が優しくそう言うとまずは遥が「まあね」と言う。そして気づかれないように汐里を肘で小突いた。
「あ、うん。私たち昔から約束の時間より前に来ちゃうんだよね。どっちも遅刻したことないから」
汐里に会話を弾ませないと意味がない。自分からおしゃべりをするのが得意ではない汐里にとってはこれでもかなり精一杯だ。
「あと鈴木と東馬か」
「あの二人は予想通りというか、まあ早くには来ないよな」
遥の言葉に戸部も苦笑だ。我が道を行く鈴木とのんびりマイペースな東馬。だらしないわけではないが何となく予想通りだ。
「時間厳守っていうのは伝えてあるから。来なかったらマジで置いてく」
恵麻ははっきりと言い切る。鈴木と東馬も仲が良く、よく二人で行動している。来るなら二人一緒に来るはずだ。恵麻がメッセージを送ると今そっちに向かっていると返事があったと言った。
「一分遅れるごとに百円の支払いって言ってあるから多分必死に来るよ」
おかしそうにケラケラと恵麻が笑う。昔三十分遅刻したことがありその次から罰金制にしたらほぼ時間通りに来るようになったらしい。
「イベント会社の人来てないの?」
辺りを見回しながら遥が聞くと恵麻はスマホを見せる。
「時間になったら指示が来るから、ここからまた移動。だから時間厳守なの」
あと一分、とカウントダウンが始まった頃、ようやく二人が走ってきた。
「ま、間に合った……?」
「セーフだろ」
息切れをしている東馬と違い鈴木は余裕の表情。どこから走ってきたのか知らないが運動が得意な鈴木と違って東馬は肩で息をしていた。
「もっと余裕もって行動すればいいでしょ。指示が来たから移動するよ」
「ちょっと休ませて」
「できるわけないでしょ」
東馬を恵麻が軽く笑飛ばしながら歩き始めた。皆もその後に続く。泊まりがけということで思い思いに荷物を持ってきている。遥はあまり荷物を多く持ち歩くタイプではないが、イベントの詳細がわからない以上近くにコンビニがないかもしれないと思い、なければ困るものを一通り持ってきた。汐里はそれ以上に荷物が多く旅行バッグにパンパンに荷物が詰まっている。
男子は基本的に荷物が少ない、着替えぐらいしか持ってきていないのかもしれない。
鈴木は七分丈のシャツを着ており、東馬から夏に七分はないだろ、と突っ込まれている。
「今七分丈流行ってるよ、彩人も七分だし」
恵麻が言うと戸部はわざとかっこつけたポーズをして「男も二の腕を見せない時代だ」などおどけてみせる。その様子をみんなで笑いながらワイワイと進んでいった。
駅から離れ飲屋街を歩き店や人通りがなくなってきたところで恵麻は足を止めた。
「メールだとここで待ってろって書いてある」
そこは草がぼうぼうに生えた寂れた公園だった。遊具を使って怪我をする子供が増えてから公園の遊具はほとんどが撤去されてしまっている。撤去しきれなかった地面に突き刺さっている鉄の棒だけが虚しくそこにたたずんでいた。
「今日の予定とかも全然連絡来てないの?」
一日の予定を先に知っておきたい遥がそう問いかけると、恵麻は頷く。
「これからイベント会社の人がマイクロバスで迎えに来るんだって。詳細はそのバスの中で説明をされるって書いてある」
「ミステリーツアーみたいでちょっとワクワクするよね」
戸部は楽しそうだ。誰に言ったというわけでもない言葉を拾ったのは汐里だった。
「どこに行ってどうするか分からないから、私荷物すごいたくさん持って来ちゃった。お菓子たくさん持ってきたからお腹すいた人は言ってね」
「ありがたいな、じゃあ非常食係は汐里で」
戸部と会話できたのが嬉しかったのか汐里は本当に楽しそうに笑っている。それを横目で見ながら遥は口には出さなかったが今回のイベントに不満のような不信感が少しあった。