9 竹本汐里 なんで?
「一号……一号って」
「一号」と言う呼び方。ナンバリングをしている。一号、と言うからには当然……。
「二号もいるよね」
耳元に囁くような声と同時にぽん、と優しく肩を掴まれた。ビクンと体が大きく震える。頭が真っ白になっているうちにあっという間に信号機をとられてしまった。バギン、と音がする。握り潰されたようだ。
「ドア、開けっ放しだったよ。ちゃんと閉めないと、まあ鍵壊れてるんだけど。逃げ場のないところに逃げ込むとかホラーで一番やっちゃいけないパターンじゃん」
言い聞かせるような優しい語り方に体の震えが止まらない。ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、赤茶の毛をした人くらいの大きさがある猿。オランウータンにも似ているがかなり筋肉質で人間のように表情が豊かだ。動物には感情がないと言われているがそんなの嘘だ。今目の前の猿は本当に楽しそうにおかしそうに笑っている。
「え……」
「びっくりした?」
喋っている、猿が。カタコトではない、流暢に。そんな資料なかったじゃないか。ああ、でも。人間に擬態しているのならしゃべれなければおかしい。
ありえない、現代においてそんな動物いるはずがない。でも目の前にはいる。いや、それよりもこの声。どうして、こんなことがあるはずは。頭の中が真っ白になって混乱する。今、どうすれば良いのだろう。
「なんで……え……」
イヤイヤをする様に首を振りながら後ずさるが、すぐに壁にぶつかる。何がいけなかった、何を間違えた? 自分が正しいと思った行動をしただけなのに。
「え……なんで、なんで」
出来の悪い子供を見るかのような目で己を見つめるソレは。優しく笑いながら、ソレは。
「ヒトを見殺しにした天罰じゃない?」
ヒエンは、挙手でもするかのようにゆっくりと腕を上げると、勢いよく振り下ろした。




