1 本来の動物園の姿
ここが秘密の研究所だったらそれもあるかもしれない。しかしもともとは動物園なのだ。動物園に秘密の通路等あるだろうか。国が絡む秘密の組織でもあるまいし、となんとなく腑に落ちない。
「ちょっと探しものしていい?」
「何探すの?」
「この動物園に関する資料。捨てられちゃったかもしれないけど何でもいいから手がかりになりそうなもの」
遥と汐里はなるべく音を立てないように探し始める。鈴木と東馬もそれに加わった。机の並びから一人専用になっている役職者スペースらしき場所を遥は重点的に調べる。するとクリアファイルに入った動物園のパンフレットの束が出てきた。おそらくパンフレットが新しくなるたびにサンプルが送られてきていたのだろう。それの保管品だ。
机の上に並べると全員が集まってくる。イベントの時にもらった偽物のパンフレットと見比べる。
「鳥下動物園。これが本当の名前なんだ」
鳥下は都心に近い県で首都圏内ではあるが、確かこの場所は地方都市と言われる田舎の方だ。自然豊かな所で主に住宅が多く、都心から電車でここに来ようとすると1時間以上かかる。駅からの直行バスがあると書かれているので、徒歩で帰る事は難しいだろう。
「園内の配置は同じ……これ」
パンフレットの中で一番上にあったものを遥は指さした。そこには「新しい仲間が増えました」と書かれている。
「新種の動物?」
怪訝そうな顔をした汐里がそう言ったが、遥はどうだろうと答える。
「はっきりとそう書かれてないから、何かが子供を産んだのかもしれないし、単に新らしい動物を輸入したのかもしれないけど。でも気になるね」
パンフレットには霊長類エリアの中心にその動物がいると書かれていた。先ほど見た時はそんなものはなかったのでイベント用に変えられているようだ。
ここまで共通点があると気になってくる。新種の動物を迎えた動物園を選びそれに似たようなコンセプトでイベントと称したした実験を行う。こんなに都合の良い展開があるだろうか。
「まさかとは思うけど。この動物園って恵麻の親族が運営してたって事は無い?」
「ウチ?」
「だってここまで共通点が多いとちょっと気味が悪いよ。新種の動物を展示してた動物園と、よくわからない生き物の研究してた坂下家。今回このよくわからないイベントにしたのも、昔実際に動物園をやっていてヒエンを客に見せたって事は無いのかな」
むしろそう考えたほうが色々と辻褄が合うし、先ほど言っていたスタッフしか知らない通路や小屋などがあってもおかしくない。最初からそういう設計で建てられているのなら都合が良いはずだ。研究の為に動物園を作るという神経は理解できないが。
「どうだろ、聞いたことないけど。でも確かに、研究するなら収入がないと無理だよね。動物園が事業ってわけじゃないだろうけど」
そうなると、この動物園はもともとそのために作られたのではないか?
カタン。
廊下から音がした。全員同時に入口を見る。しまった、武器になりそうなものを見つけておくべきだった、と今更気づく。遥も精神的に疲れていたのだ。周囲を見ても紙などのゴミ、事務用品くらいしかない。椅子を投げつけるくらいはできるかもしれないが。
入り口に一番近くにいた鈴木が一気に外に出た。その瞬間、「ひい!?」という悲鳴が聞こえた。鈴木ではない、男の声だ。
「誰かいた!」
鈴木が叫ぶと走っていく音が聞こえる。その言葉に反応したのは遥だった。一気に部屋を飛び出して後を追う。スタッフオンリーの建物ならそれほど広くないはずだ。
すぐに鈴木に追いついたが、彼はキョロキョロ見回しながら舌打ちをする。
「ためだ、見失った」
「この距離で? 早すぎでしょ、一直線だよ。……まさか、ヒエン?」
身体能力が未知数な動物。一瞬で消えるような速さで移動できて、人の腹を裂けるくらい力が強い。しかし鈴木は首を振る。
「いや、人間だった、服着てたし。声も人間だっただろ。こっちに来て見失ったけど、隠れてるのかもな」
部屋はない。曲がり角を曲がった途端見失ったという。ここに来るまでに他の部屋はなかった。
曲がり角の先にはゴミ箱と収納棚があるだけで行き止まりだ。収納を開けてみたが荷物が入っていて人が隠れられるスペースはない。
ゴミ箱をどけると、そこには半開きの小さな扉があった。鈴木が勢いよく扉を開けるとそこには。




