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ヒエン  作者: aqri
取り残された者達
27/58

6 脱出できるか?

「この件に関して情報知ってるのは恵麻たちだから何か思い出したら絶対に教えて。あと、喧嘩禁止」


 恵麻と女性に向かってそう言うと二人は同時に分かったと返事をした。その声には納得いっていない様子や怒りなどは感じられない。先程のトランシーバーが壊されたのを見て頭に上った血は落ち着いたようだ。


「今更だけど、あなた名前は」

「坂下夕実」

「坂下だと二人が被るから名前で呼ぶからな」


 横から鈴木が口を挟んできた。確かに鈴木は恵麻を名字で呼ぶのでどちらを示しているのかわからない。

 周囲に何もないのを確認してなるべく固まって注意深く見ながら夕実を先頭に駐車場まで走る。


 入り口から数十メートル離れたところに駐車場はあった。走りながら近づくと数台の車が停まっている。しかし夕実が愕然とした様子で言った。


「ない」

「何が」

「研究員メンバーが乗ってきたバスだけない」


 その言葉に鈴木や東馬が車に近寄り中の様子などを確認し始めるが、東馬が叫んだ。


「だめだ、壊されてる」


 夕実はまっすぐ一台の車に向かって走っていく。おそらく自分の車だろう。しばし様子を見て最悪、と一言だけつぶやく。その言葉や態度から壊されているということがわかる。

 遥も明かりを当てて注意深く観察をする。ボンネットが開けられて中がめちゃくちゃ壊されていた。車内の様子を見るとハンドルがおかしな方向に曲がってしまっているものさえある。工具どころか重機のようなものがなければ無理では無いかと思うような破壊工作だ。人間技ではない、ということはこれをやったのはヒエンか。


「とりあえず研究の詳細を知ってる人を見つけなきゃいけないってことになったね」


 不安そうな顔をしながらもはっきりと言う汐里に遥はうなずく。


「想定外のことが起きて自分たちだけ逃げたのかもしれないけど、どうだろうな。時間系列で考えればヒエンはまだどこかにいるってことでしょ。ここまで大規模な研究をするんだったらあっさり放置して逃げるってあり得なくない?」

「それは私もそう思う」


 神妙な面持ちでそう言ったのは恵麻だった。


「ヒエンに関してはうちの父親には割と冗談は通じないっていうか、本当に命をかけてるって言う感じだったから。手に負えなくなったからほっといて逃げようなんて、ちょっと考えられない」


 そういえばヒエンの話を聞いたと言っていた親戚もペラペラと教えてくれたと言うし、研究に誇りを持っていると言うより少し自分たちに酔いしれている節が感じられる。


「あくまで身内である私個人の意見だけど。今のところ考えられる憶測としては、研究員たちが最初からこういう予定だったんだと思う。ヒエンを放って客と対峙させることでどんな反応が見られるか調べる。人を殺すかもしれないって言うリスクもきっと知ってた。自分たちは安全なところに隠れていると思う」


 真剣な顔で言う恵麻の言葉は説得力がある。このメンバーの中では一番研究に携わっている人間は身近なところにいたのだから。


「じゃあ私たちも最初から殺される予定だったの」


 今にも泣きそうな顔で夕実が言うが、恵麻は少し考え込んでから小さく首を振った。


「私の勘だけど多分違うと思う。だったら客とスタッフって言う二段階で用意したりしない。ターゲットは最初から客だけ、多分スタッフの人たちは想定外だったんだと思う」

「それは私もそう思うよ。なんか今までのびっくりさせるポイントとか見てもちょっとちぐはぐなんだよね」


 恵麻の言葉を肯定した遥の言葉に汐里が不思議そうに聞いた。


「ちぐはぐ?」

「私が散々突っ込んできたけど動物の死骸とかやりすぎでしょ、あれは明らかに。あんなの見たら普通じゃないって誰でも思う。でも意味深な張り紙がしてあったりとか普通の謎解きっぽいのもあったし、なんていうのかな、肝試し用のイベントと気味が悪い演出がごっちゃになってるっていうか」


 謎解き要素は明らかに謎の動物の正体は人間であると示していた。おそらく人間に化ける新種の生き物がいると言うシナリオだったのだと思う。しかし途中で研究対象であるヒエンの毛が落ちていたり動物の死体を使って重要なヒントが隠されている檻に誘導してあったり、ヒエンそのものにたどり着かせたいかのような演出が混ざっている。

 研究員たちがヒエンにたどりついて欲しかったのだろうか。いや、極秘の研究なのだからそれはないはずだ。それなら一体誰がヒエンの正体を教えようとしていてくれたのか?

 様々な思惑があるような気がして、遥は考え込む。ただ単にヒエンが管理を外れ暴走し始めているという話だけでは無いような気がした。

 謎が多いが今はどこかで隠れているであろう研究者たちを見つけるのが先だ。


「スタッフだけが使ってる人が集まる場所とか何かないの」


 夕実に聞くとスタッフだけが集まっている部屋があると言う。先ほど死んでいた人たちの人数は一度スタッフ全員が集合したときの人数より少ない気がしたので、もしかしたらそこにまだ無事な人がいるかもしれない。

 夕実を先頭に再び動物園に戻ってきた。入り口の前まで来ると東馬が尋ねる。


「その部屋って具体的にどこにあるんだよ」

「ああ、動物園の」


 そこまで言った時再びあの動物の鳴き声のようなものが園内放送で鳴り響いた。この放送、一体誰が流しているのか。放送として流しているのなら、コントロールする場所があるはずだ。

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