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ヒエン  作者: aqri
取り残された者達
26/58

5 襲い掛かるヒエン

 ここまでの話をまとめるとヒエンを使った何らかの実験をやろうとしていた。それは一部の関係者しか詳細を知らず人手がいるからと頭数がかき集められた。

 その一部の詳細を知っている人間というのが本当は何をしたかったのかがわからない。人が死んでいるのは予想外のトラブルなのか予定通りなのか。

 今一番知りたいのはヒエンの詳細だが、研究に関わっていない者は本当に何も知らない様子だ。情報管理が徹底されているのだろう。遥が特に知りたいのは人を殺しているのはヒエンか否か、だ。戸部、そして大人数のスタッフの人間が死んだのもヒエンがやったのだとしたら、とんでもない存在となる。

 今まで見てきた影のようなもの、あれは間違いなくヒエンだ。あれだけ見ても人間の身体能力が敵うとは思えない。


「研究とか詳しく知らないならこれ以上はわかる情報はないか。他のスタッフと連絡取る方法は」


 遥の問いかけに恵麻は首を振った。あくまで客として来ているので連絡の取り合いなどはしていないようだ。スタッフの女性の方を向けばウエストポーチからトランシーバーを取り出した。電源を入れて喋りかけてみる。


「誰かいる?」

『誰かいる?』


 女性の声とトランシーバー音声がほぼ同時に聞こえた。そしてその声はすぐ近くから聞こえる。

 全員がその声の方を見た。いつの間にそこにあったのか、それとも元からあったのか。大量の遺体が入っている檻の前。そこに一直線にきれいにトランシーバーが数台並べられていた。その異様な光景に人全員が呆気にとられていると、凄まじい音が鳴り響いた。


「ギイイイイェェェェアアアアア!!」


 それは何度か園内放送でかけられた謎の動物の鳴き声だ。ただし今回はスピーカーから流れた音ではなくすぐ近くから聞こえる。今実際に発せられている本物の鳴き声。つまり今すぐ近くにいるのだ、ヒエンが。


 どこにいるのか探そうとしても辺りは薄暗い。しかし何か視線のような気配のようなものを感じて後ろ振り返った。遥の目に映ったのは数メートル先、まるで野球選手がピッチングをするように何かこちらに向かって思いっきり投げつけようとしている人間のような猿のような黒い影。それが何かを理解する前に遥は咄嗟にその場でしゃがんでいた。

 ビュウ、と風を切る音が辺りに鳴り響く。次の瞬間、バギン! という大きな音を立てて続いてガシャアン! と檻に何かが激しくぶつかるような音がした。

 そちらを振り返ると目に飛び込んできたのは粉々になったすべてのトランシーバー、真っ二つに割れた大きな石、そして大きく歪んだ檻。

 先程の影が人の頭よりも大きい石を投げつけトランシーバーを全て破壊したのだ。あまりの衝撃で石は割れてそのまま檻に激突したらしい。慌てて影の方を見ても、もうそこには何もいなかった。


 ぼう然としてしまっている汐里と東馬に見張りをして、と叫ぶと急いでトランシーバーに駆け寄る。一つ一つチェックしたがどれも原形をとどめていない。使えるものはなさそうだ。

 きれいに並べられていたのといい、最初からトランシーバーを破壊するつもりだったようだ。しかもそっと壊すのではなくわざわざ目立つように並べて異様とも思える方法で破壊してみせた。

 ただの動物ならそんなことはしない、すぐに破壊するはずだ。知能があり学習能力が高いと聞いていたがこれはそんなレベルではない。もはや人間と同等だ。

 並べられていたトランシーバーは間違いなく亡くなった人たちが持っていたものだろう。完全に怯えてしまっている女性に駆け寄って遥は声をかける。


「これで全員なの、生き残ってる人はいない!?」

「え、待って、わからない。全員の顔見たわけじゃないし、でももっといたような気がするけど」


 かなり凄惨な状態で亡くなっているので一人一人顔を見て確認すると言うのも酷な話だが、今この園内に生きている人がいるかどうかは重要なことである。ヒエンが暴走しているのなら残ったスタッフは何とかしようと奔走しているかもしれない。


 しかし遥の頭にはもう一つ可能性が浮かんでいる。それはヒエンの暴走によるものではなく初めから研究をしている人たちによる計画通りなのではないかと言うことだ。つまり彼らはヒエンが非常に危険な存在であることを知っている、それは扱いを間違えると大変なことになると言う女性の言葉からもうかがえる。扱いを間違えなければいいとしたら。

 一体何がしたくてそんなことをやっているのかわからないが、恵麻もこの女性も初めから切り捨てられるために呼ばれているのだとしたら。しかしヒエンの暴走と計画通り、二つを比べてみると後者の方がまだ糸口がありそうだ。


「みんな集まって。あなたも」


 スタッフの女性も呼んで全員背中合わせで円を描くように集まるように言った。


「これなら360度周りを見れるってことか」


 鈴木が納得した様子で早速背合わせにしてくる。他のメンバーもそれを真似て全員が背合わせとなり注意深く周囲を観察している。


「ここには車で来てるんでしょ」


 女性に向かって問いかけるとうんと返事をしてきた。


「ここには車じゃないと来れないから。ここからちょっと離れたところに動物園の駐車場があって、そこに止めてある」

「まずはそこを確認しよう。動く車があったら助けを呼びに行く。嫌な予感がするけど、もしも車が全て壊されたりしていたら、他に無事な人がいないか探しに行こう」

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