表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒエン  作者: aqri
取り残された者達
25/58

4 「ヒエン」とは

 一体いつから自分の親族がこの研究をやっているのかわからないが、かなり昔から「ヒエン」について研究をしてきた。

 ヒエンとは、見た目はオランウータンのような猿に似ていて、大きさは成人男性ほどの巨体。詳しい生態は恵麻も教えられていない。詳しく知らないと言うのは嘘ではなさそうだった。

 人のような知能があり学習能力が高い。それが本当に新種の動物なのかどうかはわからないが、親族の中でも新種の動物だという意見とはるか昔から伝わる伝説の生き物だと言うものに分かれているらしい。


「伝説の生き物?」

「妖怪みたいなもんかな。ごく一部で語り継がれてきたらしいけど。どんな字書くのかも知らない。猿って言ってるし、ヒエンのエンは猿って字だと思う。そっちの妖怪説を唱えてる方が少数派で研究にもあまり参加してないんだけど」


 猿に似ている生き物。ふと檻の中で拾った何の生き物かわからない毛を思い出した。

 その生き物は妖怪のような神のような曖昧な立ち位置で不気味な存在として信じられているという。生態がわかっていないからこそ研究して調べようとしているそうだ。その研究は恵麻の父親が中心となって行っているが、恵麻はその研究に関与していないと言う。その言葉に女性が反応し嘘をつくなと叫んだが、喋ってる時に邪魔をするなと鈴木に睨まれおとなしくなった。


「もうこういう状態になったら信じてくれって言っても無理だろうから信じるかどうかは任せる。とにかく私は研究に一切関わってない」


 どこかやけくそのように、実際にやけくそなのだろうがふてぶてしい態度だった。針の(むしろ)の状態で嘘をつくメリットはあまりない。信じて良いかどうか悩ましいところなので揺さぶりをかけてみる。


「なんで参加してないの」

「家族の仲良くないから。私とお母さんは仲いいけど、アイツは研究ばっかで家に帰ってくるのなんて二、三年に一回だよ。研究って言っても仕事じゃないから収入があるわけじゃない。お母さんが朝から晩まで働いて家計を支えてるんだから。典型的な家庭を犠牲にしている父親なんて好きなわけないじゃん、仕事内容なんて興味ないし」


 吐き捨てるように言うその言葉には嘘はなさそうだ。確かに今までの学校生活の中では母親の話をよくしていたが父親の話は一度も聞いたことがない。年頃の娘は父親の話などしないと思っていたが、一応納得ができる内容ではある。


「今回父親からこれに参加するように言われたの。ただの肝試しだからって。ヒエンのことなんて一言も言ってなかった。家庭に興味がない父親がいきなりそんなこと言ったって気持ち悪いだけじゃん、絶対何かあると思って自分で調べたの、ヒエンのこと」


 従兄や叔父や叔母などそれほど仲が悪いというわけでもない親族にそれとなく聞いて情報を集めた。するとたまたま研究に参加していた親戚が詳細を教えてくれたと言う。その親戚は研究することに没頭し酔いしれていたのでペラペラと教えてくれたそうだ。幼いころから知っている人で娘のように可愛がってもらっていたので信用できる人だとわかっていた。


「お化け屋敷の舞台として客を入れる。その中にヒエンを放って、人との距離が近くなったらどんな反応するのかデータを取るんだって」

「なんか変な話じゃない、人と触れ合うデータだったら自分たちだっていくらでもやってきたでしょ」

「それは私も思った。多分それだけじゃないなと思ったけどそれ以上教えてくれなかった。父親もなんかいつも態度が偉そうで友達連れてさっさと来いってうるさくて。行く気なんてなかったんだけど、話の中でたまたま彩人にこのイベントがあるらしいよって言ったら、面白そうだから行こうよって言ってきて。あっという間に申し込みしちゃったのよあいつ」


 行きたくないと言おうとしたが父親は既に準備が整ったから来いとそれだけ言ってきた。大勢の人間を使って準備をしているのに、お前の身勝手な行動でどれだけの人に迷惑をかけて金を無駄にすると思っているんだ、と高圧的に吐き捨てられた。そこまできたら意地になってしまって、だったら行ってやると言う気持ちのままで今回臨んだのだそうだ。


「どんなイベントなのか教えろって言っても私たちの反応が見たいから詳細を教えられない、とか言って何も教えてくれなかった。ムカついたから家であいつがちょっと席外した間にパソコン盗み見たんだけど、スタッフが何か役を演じて、新種の動物の存在を信じ込ませてからヒエンを放つ予定だったみたい」


 そこまで話を聞いてから遥は女性の方を向いた。


「あなたが事前に聞かされてた事は?」

「私はさっき言った通り。お父さんから手伝えって言われて来ただけ。ヒエンは聞いたことあるけど、私も名前聞いたことがある位。ただ、気をつけないといけないっていうのは何回かお父さんが言ってた」

「気をつけないとってどういうこと」

「扱い方を間違えると大変なことになる、みたいなニュアンスだったけど、詳しくはわからない。たぶんお父さんもそこまで詳しくなかったんじゃないかなと思う」


 彼女の言葉に恵麻からの指摘はない。恵麻もヒエンついてはこれ以上のことは知らないのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ