2 特殊な生物の研究
二人の会話に白々しい演技などは見られない。つまりこの二人は初対面なのだ。しかし境遇が同じといったところか。
「恵麻、私もさっき聞いたけど多分この人ほんとに知らないよ」
「そんなはずないでしょ!?」
「何でそう言い切れるの?」
遥の冷静な切り返しに一瞬恵麻は言葉を詰まらせる。じっと見つめていたが恵麻は目線が合わないよう顔を逸らすだけだ。
「少し落ち着いて、話を聞きたいんだけど。あなたは本当に誰なの」
恵麻ではなく女性の方に声をかける。女性はしゃくりあげながら泣いていたがやがてポツポツと喋り始めた。
「私、お父さんから仕事手伝えって言われて。何のって聞いたら今研究してるもののデータを取るのに頭数がいるからって」
研究、の言葉に全員が女性を見た。全員に一斉に見つめられたことで女性は一瞬怯んだようだ。
「研究って何の研究?」
「えっと……」
鈴木の問いかけに女性は急に言葉を濁す。言いづらいことなのかもしれないがここは言わせるべきだ、どんな手段を使っても。
怯えさせすぎると話さなくなってしまいそうだしどうしたものかと遥が考えていると、東馬が女性の胸ぐらをつかんだ。
「俺たちいきなり変なことに巻き込まれて友達が死んでわけわかんないんだよ。そんな中で知らない奴が何か知ってそうなのに黙ってたら、イライラするのわかってくれねえかな」
少し天然が入ったようなマイペースなキャラ東馬とは思えない捲し立てる様子に皆驚いてしまって誰も止めない。
「何か知ってるんだったら言えよ、あくまで何も言わないを貫くんだったらこっちも聞き出す手段ちょっと変えるからな」
わずかに殺気立ってそう言う東馬にようやく鈴木が声をかけた。
「びびって何もしゃべれなくなったらどうするんだよ。ちょっと離れろ」
「俺に命令すんな」
「はいはい。離れてください、これで満足か。いいから離れろよ。話進まねえだろ」
鈴木の声のトーンが下がり冷たくそう言い放つと東馬が乱暴につかんでいた胸ぐらを離した。
ぽかんとした様子で見ている汐里と恵麻に向かって鈴木は何でもないことのように言った。
「こいつ切れると暴れキャラになるから。怒らせないようにしてくれよ、めんどくさいし」
「そうなんだ、意外」
遥の相槌に東馬はようやく我に帰ったらしく居心地が悪そうだ。
今は東馬にはあまり興味がないので改めて女性の方を見る。
「で、何の研究だって。この期に及んで内緒にされると私もイラついてブン殴る位するかもしれないから、早くしゃべって」
わずかに殺気立っている遥と東馬、冷たい雰囲気の鈴木に囲まれ女性はおろおろしていたが観念したようにようやく喋り始めた。
「私の親戚みんな研究所で同じ研究してるって聞いてる。よくわからないけど、ヒエンっていうものの研究」
「ヒエン? 何?」
「知らない。私は研究してないし、あまり研究内容話してもらったことないから。でも結構昔からいろんな親戚関わってるみたいだった。なんかよくわからないけど特殊な生き物だって聞いた」
特殊な生き物。それはこの肝試しの設定にあった新種の生物というものにも当てはまる。
「お父さんが暇だろうから雑用で手伝えって。新種の生き物コンセプトにしたお化け屋敷みたいなのを作ったから、ヒエンを使って、お客さんを驚かせながらヒエンの研究データを取るって」
新種かどうかはわからないがよくわからない生き物は実際にいたということだ。遥と鈴木が見た瞬時に消えた影、もしかしたら汐里が見たものもそうかもしれない。
こちらからは聞いていないのに女性は徐々に感情が高ぶってきたのか、悲鳴のように叫び始める。
「でもそこで死んでるのお父さんなの! こんなことになるなんて聞いてない、何があったの!? 連絡取れなくなったから何があったのか確認しに来たら、スタッフの人みんな死んでる!」
その言葉に全員が顔を見合わせた。このイベントを仕組んだスタッフの人間は全員グルで人殺しをしているのかと思っていた。しかしこの様子だと彼女たちも何も知らされていない。そして謎の生き物がいる。
これらの事をつなぎ合わせると、その謎の生き物とやらが人の管理が外れ人を殺し始めたという考えに至ってしまう。そんな事、あり得るのだろうか。
「ほんとにみんな死んでるの」
冷たい声で言ったのは恵麻だった。
「そこで死んでる人たちほんとに全員? 実は残ってる人とかいないの」
「わかるわけないでしょそんなの! どうやって区別すればいいのよ!」
完全に裏返った声で泣き叫んでいる女性に今度は恵麻が女性の胸ぐらをつかんだ。




