4 別行動へ
自分から言ったことに遥は内心驚いた。それだけ精神的に余裕がないのかもしれない。そして恵麻のその言葉を聞いた汐里と東馬は別の意味でショックを受けたようだった。
「え、あ、そう、だったの……?」
「マジで? え、なんで黙ってたのさ」
「私の父親、そういうのに凄く厳しくて。みんなには悪いけど何がきっかけで知られちゃうかわからなかったから。卒業して大学に進学したら家を出て、そこからオープンにしていこうってニ人で決めてた」
それ以上言葉を発する者はなく再び沈黙が降りる。ショックを受けている二人と、知っていた遥と、特に興味がなさそうな鈴木。口火を切ったのは遥だった。
「ここで押し問答してもしょうがないから私の考え言うけど。体調悪いのマジだろうから無理矢理引っ張ってくって事はしない。でも一人で待ってるの絶対ダメ。次会ったとき死体だったとかシャレになんないからね。誰か残るべきでしょ」
「……わかった」
恵麻は小さくうなずいた。本当は一人きりになりたいのだろうがそれが現実的ではないのもわかっているようだ。
「女二人で残らせるわけにはいかないから俺か東馬が残るべきだろ。俺が残る」
鈴木がそう言うとすかさず東馬が言う。
「いいよ、俺が残るから」
「何人かで襲いかかってきた時お前対処できないだろ。俺は一応総合格闘技やってるし、声がでかいから何かあったら叫べる」
「そんなの俺だって叫ぶ位できるよ。襲いかかってきたときの対処じゃなくてそうならないための見張りくらい別に誰だってできるだろ」
東馬の気持ちを考えればそこに若干の下心があるのはわかる。少し状況考えれば鈴木に残ってもらうのが一番だというのは言うまでもない。今初めて聞いたが格闘技をやっているのなら心強いというのが大きい。
押し問答している時間が惜しいので遥は鈴木が残った方がいいと言おうとした時だった。
「じゃあ東馬が残って」
そう言ったのは恵麻だった。具合が悪そうな低い声だ。それ以上何かを話すつもりはないとでも言うような暗い雰囲気でもある。遥達は顔を見合わせ仕方なくため息をつきながら言った。
「じゃ、私と汐里と鈴木で周りを見てくるから何かあったら大声で叫んでよ」
「わかった、こっちは任せてくれ。そっちもよろしく」
東馬の言葉を聞いてから遥達は歩き始めた。早歩きでその場を離れまだ見ていないエリアと歩いていく。先頭を歩いていた遥に鈴木が追いついて聞いてきた。
「なんであっさりさっきの話受けた」
「私もちょっと、二人を残すの心配なんだけど」
汐里も後ろから遠慮がちに言ってくる。無論遥も二人を残すのは反対だった。
「これだけ離れれば聞こえないだろうから二人には言っておくね。恵麻、絶対何か隠してるよ。今までの恵麻の言葉でちょっとおかしいなって思うことがあったんだよね」
妊娠のことには触れず恵麻と二人になったときの会話をかいつまんで説明する。
「今の話何かおかしいところあるかな」
特に何も違和感がなかったらしい汐里が首をかしげた。
「人やバスがいなくなって、こんな事まで聞いてないって言った。ちょっとおかしいよ。普通はさ、なにこれどうなってるのっていう反応じゃない。こんな事“まで”で、って。こんなこと聞いてないって言うのと、こんな事まで聞いてないっていうのは結構意味が違うと思う」
「えっと、つまりどういうこと」
「こんな事までって言うパターンは、事前に聞いてた、もっと言うなら打ち合わせた内容と違うから動揺したっていう状況の方がしっくりくるんだよね。まで、って言うならそういう状況にならない程度の事は知ってたってことでしょ」
汐里も頭の中で言葉を何度か繰り返して考えているかのようだ。先に反応したのは鈴木だった。
「確かに。言葉の意味合いとしてはその考えの方が合ってるな」
「言われてみればそうかな」
「さっき恵麻は本当に何も知らないって言ってたけど本当はもうちょっと知ってると思う。本当はスタッフの人と詳しく連絡取り合ってたってことじゃない。例えば恵麻自身がビックリさせるポイントを仕掛けてスタッフの人たちにやってもらってるとか」
「仕掛け人側ってことか。確かにあの状況でそんなの話したらお前はもっと何か知ってるんじゃないかって疑われて、何なら犯人扱いされかねないから言えなかったってところか」




