3 情報整理
「最後は私たち。私も東馬もスタートしたばっかりで特にこれといっておかしなものを見てないよ」
恵麻の言葉に東馬もうなずいて言葉を続ける。
「おかしなことって言うと園内放送みたいので聞こえた動物の鳴き声みたいなやつ位かな」
ここまでの情報では遥たちが見つけた奇妙なこと以外特におかしい事はなかった。そもそも戸部は檻に入ろうとしてどこに行ってしまったのか。
「普通に考えたら、彩人がいなくなった時犯人に捕まってたって思うべきだろ」
鈴木の冷静な言葉に反応したのは汐里だった。
「そんな、じゃああの時、戸部くんまだそこに居たってこと」
助けられたはずなのに見殺しにしてしまったのではないかと汐里は真っ青になる。
「それは今確かめようがないからちょっと置いとくよ。わかってるのは戸部を殺した犯人は確実にいるってこと。状況から考えるとこのイベントをやってるスタッフの誰かってことになるでしょ、何のためにそんなことしたのか知らないけど」
全員を見渡しながら遥がそう言うと静まり返る。
「とりあえず私たち以外の人間を見つけたら敵だと思ったほうがいい。甘い言葉で近づいてきても絶対心を許さないで、ただし警戒しているっていうのも気づかれないようにしてね」
言いながら遥は少し気になったので恵麻を見る。本来こういうことを言うのは恵麻が先だ。メンバーの中で中心にたっていて大体最初に発言をするのは彼女のはずなのに、口数が少ない。自分が申し込んだイベントのせいでこんなことになってしまったことへの負い目か、戸部のことがショックで頭がいっぱいなのか、体調が悪いのか。
「とりあえず今からどうするかって話だろ」
鈴木がそう言うと大きく周囲を見回した。イベント用に用意された薄暗い照明はいくつかあるがそれほど辺りは明るくない。自分たちが持っているのはイベントが始まる前に渡された懐中電灯、スマホ以外の自分の荷物のみ。
宿泊のための道具はすべてマイクロバスに置いてきてしまっている。皆手持ちの荷物等貴重品位なものだ。
「助けを待ってて来ると思う? 明日になっても帰ってこないと家族が騒ぐのはせいぜい夜になってからだよ。何もしないで助けなんて待ってたら絶対に助からない」
数日間過ごせる食べ物など持っていない。何か行動起こさなければ命に関わる。食べものは正直いいが、水がないのが致命的だ。夏で水を飲まないのは脱水症状になってしまう。
「スタッフたちがまだ残ってないか調べる、見つけたら家に帰すように交渉する、できるのってこれぐらいじゃない。そもそも何人いるのか知らないけど」
もしもイカレた殺人鬼一人だったら頭数はこちらの方が多い。捕まえて場所を聞いたり犯人が車を持っていないかなど色々と聞き出すことができるだろう。しかしスタッフぐるみ、と言うより会社ぐるみの犯行なのだとしたら圧倒的にこちらが不利だ。こんな大々的なイベントを開催しておいて客を殺す、目的がわからず意味不明だ。こちらの分が悪すぎる。
「動物園はたぶん実際にあったところでしょ。ただのセットでこの広い敷地に檻とか設置するなんてアホらしいし。どこかにこの場所が正確にわかる情報みたいなものないかな。誰かが捨てた本物の動物園のパンフレットとか」
遥の冷静な提案に徐々にみんな落ち着きを取り戻したらしく、いろいろな意見が出始める。相変わらず恵麻はほとんど喋らないが。
「結局、このままじっとしてるわけにもいかないからこっちが優位になるようなものを探しに動かなきゃいけないってことか」
鈴木の言葉を合図に地べたに座っていた遥も立ち上がる。汐里と東馬は一瞬迷ったようだが他に方法が思いつかなかったらしく同じく立ち上がった。
しかし恵麻は立ち上がらなかった。不審に思い彼女を見ると思い詰めたような顔をしながらゆっくりと言う。
「ごめん、私はもうちょっとここで休んでたい」
「そういえば具合悪かったんだよね、大丈夫?」
汐里が心配そうにそう言えば小さく首を振った。
「ちょっと体調が悪化してきたみたいで、歩き回るの難しいと思う。ここで待ってるからみんなは動いてていいよ」
「この状況でうんわかったって言うと思ってんの」
遥の声がわずかに冷たくなる。
「ここで私に合わせてみんなにもここにいてもらっても何も進まないでしょ。私のせいでこれ以上みんなに迷惑かけるのも嫌だし」
「運動神経抜群だった戸部が殺されたんだよ。絶対犯人に勝てないでしょあんた一人じゃ」
「言いたいことはわかるんだけどさ。ちょっと一人になりたいんだよね。彩人死んだのほんとにショックだし」
頑なな態度でそう言うと恵麻はため息をつき、ゆっくりと瞬きをした後意を決したようにはっきりとした口調で言った。
「みんなには黙ってたけど。私と彩人、付き合ってたの。恋人があんな死に方したらショックなんてもんじゃないじゃん」




