2 何かを隠している恵麻
「夏休み何かやろうって言い始めたのは私なんだけど。夏だし肝試しとかお化け屋敷が良いなと思って探してたらホームページ見つけて。彩人に見せたら面白そうだから申し込みしようよって。申し込んでも受け付けましたみたいな簡単なメールが来て、後はこっちから指示をするからそれに従って来てくださいとしか連絡来てない。田畑さんだって今日初めて会ったし、そもそも名前が田畑さんだっていうのも会って初めて知ったから」
オンラインで申し込みをした場合は確かにそうなる。旅行会社等だと封書が来たり担当者から直接電話も来たりするが、ネット申込が盛んな今担当者と話をせずに進むのはよくあることだ。
「本当に信じてほしいんだけど、私はこれ以外の事何も知らないしここはどこなのかもわからない。スマホ取り上げられるのだって知らなかったから」
「別に疑ってるっていう意味で聞いたんじゃないよ。知らないから教えてって言っただけで」
疑心暗鬼のような雰囲気になっているのを敏感に察知したらしく、恵麻は必死だ。無論遥もそんなつもりで言ったのではない。
何かを隠しているという確信があるから完全に信用したわけではないが、魔女裁判のように吊るし上げるつもりは全くない。まして遥には知られたくない秘密を知られているという弱みを握られている形になっている。遥の聞くことには今は正直に答えるはずだ。
何を隠しているのか問いつめたい気持ちはあったが、今ここでそれをやってしまうと完全に恵麻が一人悪者になってしまう。汐里は人を責めたりはしないだろうが、戸部との関係を知ったらさすがに何を言うかわからない。鈴木はわからないが東馬は恵麻に片思いをしていると言っても普通に責め立てるような気がした。大人しい天然キャラだと思っていたが、先ほどの状況を見ると感情が頂点に達するのは早いのかもしれない。聞くべきタイミングは今ではない。シャレにならない隠し事でないことを祈るばかりだ。
「改めて時系列を整理するけど。最初は汐里たちが行ったでしょ。どんな感じだった」
恵麻に聞かれて汐里はうつむきながら説明した。
「とりあえず順路通りに回ってた。私が結構怖がりながら行ったからちょっと歩くペース遅かったかもしれないけど。最初のサバンナエリアで戸部君が手がかりみたいのを見つけて」
「何見つけたの」
「檻なんだけど、名前が塗りつぶされてたの。他の檻はそんなことなかったからここに何かあるんじゃないかって。私が怖がってたら俺が見てくるよって言ってくれて。でもどれだけ待っても戸部くん檻の中にも入ってこないし、名前を呼んでも返事がないし、戸部くんいなくなっちゃって」
しばらくその場を探し回っていたが見つからず他の場所にないか探し始めたそうだ。檻に入るために移動したのなら他の場所に出ているなどありえないと思うが、急に一人になって慌ててしまったのだろう。この時汐里は檻に行くまでの道を確認していない。
「じゃあ汐里はサバンナエリアしか行ってないんだね」
「うん」
あれだけ時間が経っていてサバンナエリアにしか行っていないのは確かに行動が遅いかもしれない。かなりゆっくり移動していたのだということがわかる。
「その十分後に私たちでしょ」
遥が今まであったことをなるべく細かく説明した。特にショートカットをした時内側から破られたように壊れている檻があったこと、見覚えのない動物の毛を見つけたこと、そして動物の死骸を大量に見つけたこと。鈴木と同じ意見でこのイベントは何かおかしいと思いはじめていたこと、汐里と合流その辺の事までを告げた。汐里は今更自分達より後にスタートしたはずの遥たちが先の順路にいたことに気づいたようだ。
その説明を聞いて恵麻たちはさすがに気味悪そうな顔している。恵麻は想像してしまったのか口元を抑えながら言った。
「確かにスタッフが用意したんだとしたらやりすぎっていうか、ちょっとおかしいよね」
自分で説明をしていて遥はあることに気づいた。先程の戸部の遺体。あまり思い出したくないが内臓が出ていた、つまり腹をやられていたのだ。それはあの動物たちと同じ死に方だ。内臓がないものもいたがタヌキは内蔵を出しながら死んでいたはずだ。
汐里の言葉が蘇る。
――謎の生き物が本当にいて、それにやられたわけじゃないよね。




