7 恵麻の体調不良
「電話が使えないから用事が済んだら日本エリアで待ち合わせしよう。誰も来ないからって探しに行かないこと」
全員でうなずきあい一旦分かれてそれぞれの向かうべき方向へと歩き始める。遥と二人きりになったことで恵麻は一気に疲れた表情になった。
「さっき言ってた動物の死骸なんだけどさ」
「その話の前に一個はっきりさせておきたいんだけど」
話しかけてきた恵麻の言葉を遮る形で遥が真剣に恵麻を見つめる。
「体調悪いのって生理じゃないよね。妊娠してるんでしょ」
はっきりと言ったその言葉に恵麻は驚愕の表情浮かべた。
「何、何言って」
「私のおばあちゃん産婦人科医だったから。もう引退したけど今でもご近所や親族の紹介とかで妊娠した人が相談に来たりするんだよね。私もお茶とか出すからよくそういう人見てきた。言葉で説明しづらいんだけど雰囲気が同じ」
「……」
「誰にも言うつもりはないし、別にそこまで深く関わるつもりもないから。ただ、今が一番大事な時だから、産むつもりだったら恵麻が考えてる以上にもっと体調に気をつけないとだめだよ。サンダル履いてるとかありえないんだけど、転んだらどうするつもり」
恵麻の顔を見ずに歩きながら一方的にそう話す。恵麻も一応歩いてついてきてはいるが遥に気づかれたことが予想外だったらしくその足取りは重い。
「……まだ、自分でもわかんないよ。検査薬で見ただけだし、それ知ったのだって最近のことだもん。あいつにも言ってないのに」
父親はどうせ戸部だろうな、と思った。二人は付き合ってないと否定をしていたが、実際は付き合っていたということだ。汐里が戸部に片思いをしている事はおそらく二人も気づいていたのだろう。あと半年も待てば卒業で進路もバラバラだ。同じ学校に通っている間は隠しておこうということにしているのかもしれない。
「今回の事終わったらおばあさんに相談に乗ってもらっていい?」
「いいよ」
活発でリーダー気質の恵麻とは思えないほど不安そうな顔だ。それは当然だろう。未成年で妊娠したなど、それを知っているのが今自分だけとなると親にだって話せない。
しばらく歩いて入り口が見えてきた。しかし入り口付近には田畑の姿は無い。恵麻を置いて遥は入り口に向かって走ると周囲を見渡して愕然とした。
「バスもないじゃん」
そこには誰もいない、何もない。確かにここで待機しているとは言っていないが、イベントが終わるまではここに誰かいるのが普通ではないだろうか。答えがわかったら戻ってくるのだし、どのぐらいで戻ってくるかなどグループによってまちまちだ。
ゆっくりと歩いてきた恵麻も驚いた様子で周囲を見渡している。
「スタッフどこ行ったの」
「知らない、私はこんな事まで聞いてない」
慌てた様子で言う恵麻に、遥はわずかに眉を寄せる。こんな事まで聞いていない、と言う言い方に違和感を覚えた。
確かに申し込みをしたのは恵麻だ。みんなよりも早く案内やメールなどのやりとりをしていただろう。だからこんな事は知らないと言うのは何もおかしなことではないが、こんな事「まで」聞いてない、と言う表現に何か引っかかる。




