優しいアザ
〈注意事項〉
過度なアドリブはお控えください
台本を使用する際は、タイトルと作者名を記載の上で上演お願いします。
課金制・無課金制問わず自由に使用してもらって結構です。
使用の際の連絡は不要ですが、作者にDMを送ってくだされば、聴きにいけたら行きます!
アーカイブも残っていたら、送ってくだされば聴きます!
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三輪 優希 女
浅見 凛不問(一人称僕)
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浅見宅。絵を描くのに没頭している浅見は三輪が来てることに気づいてない。イヤホンやヘッドホンをしているわけではないのに、周りの音に反応しない。
三輪「…み。おーい、浅見!はぁ…(息を吸う)泥棒だ!手をあげろ!!」
浅見「わっ!!(椅子から転落)っドゥエっ!!」
三輪「ふぅ…」
浅見「あイタタタ…なんだ、三輪か」
三輪「なんだじゃないよ。鍵開けっぱなし。不用心。」
浅見「ああ、鍵閉めるの忘れてたわ」
三輪「そうやってなにかに没頭すると周りが見え聞こえしなくなるの、どうにかしたほうがいいよ。本当に泥棒が入ってきたら笑えないっての。」
浅見「でも、泥棒だ!には反応したよ」
三輪「それじゃあ遅いでしょっ」
浅見「いでっ」
三輪「ていうか、本当の泥棒は「泥棒だ!」なんか言わないわよ。」
浅見「そっか…はは、大丈夫だよ、うちの近所治安いいし。」
三輪「ったく…それでも、夜は流石に戸締りして」
浅見「はい。ごめんなさい。」
三輪「はぁ…。アイス買ってきたけど食べる?」
浅見「…今冬だよ?」
三輪「だから?」
浅見「……なに買ってきたの?」
三輪「ガリガリくん」
浅見「え、それは夏だよ」
三輪「じゃなくて、ハーゲンダッツ」
浅見「おお、奮発したねぇ」
三輪「イチゴかキャラメルどっちがいい?」
浅見「じゃあ、キャラメル、かな?」
三輪「わかった。はい。」
浅見「ありがと…え、これって」
三輪「パイント」
浅見「一人で…?」
三輪「食べるでしょ?」
浅見「え、ああ、はい。…三輪、なんかあった?」
三輪「(話をそらす感じに)これ、新しい作品?」
浅見「うん。出展用の。」
三輪「ふーん。綺麗な人だね。こういう人が選ばれるんだよな。」
浅見「三輪…?」
三輪「こういう人が物語のヒロインなんだよなぁ」
浅見「三輪、何かあったの?」
三輪「…浅見、アン・ハサウェイって知ってる?」
浅見「えっと、女優の?」
三輪「違う。シェイクスピアの奥さんのアン・ハサウェイ。」
浅見「あんまり詳しくはないかな」
三輪「私はね、アン・ハサウェイなの」
浅見「ん??」
三輪「シェイクスピアは、妻のアン・ハサウェイに2番目にいいベッドしか残さなかったんだって」
浅見「話についていけないんだけど」
三輪「遺書にそう書いてあったんだって。一番いいベッドじゃなくて、2番目にいいベッド。」
浅見「だから…なに?」
三輪「私もアンも、1番になれなかったんだよ。選ばれなかったんだ。主人公に、なれなかったんだ。(涙ぐむ)」
浅見「本当にどうしたの?…あ…もしかして…ダメ、だった?」
三輪「…」
浅見「…そっか。今回はいけるかと思ったんだけどな」
三輪「…私って、そんなに魅力ないのかな?」
浅見「ああ、よしよし。そんなことないよ。」
三輪「…一生選ばれないのかな…。一生2番目でいるのかな…。しんど…。」
浅見「ほら。アイス、溶けちゃう前に食べようよ。」
三輪「溶けないよ。寒いし。」
浅見「はは、冬だもんね」
間。アイスをモクモクと食べる二人。
浅見「うち、寒くてごめんね」
三輪「…」
浅見「節約しなきゃいけなくてさ、暖房入れてないんだよね」
三輪「…」
浅見「パーカーでもニットでもなんでも着ていいからね」
三輪「…作業の邪魔してごめんね」
浅見「ほんとだよ〜いい波乗ってたのにな〜」
三輪「…」
浅見「ああ、うそうそ冗談!三輪が来てくれて嬉しいよ。泥棒に入られるのを回避してくれたし」
三輪「それは本当に気をつけて」
浅見「はい。」
三輪「…」
浅見「…で?今回はどんなだったの?」
三輪「ハムレットの、オフィーリア役受かって、」
浅見「うそ!すごいじゃん!おめでとう!!ずっと欲しかった役だもんね」
三輪「うん。嬉しかった。だから、それを伝えるの、すごく楽しみにしてたんだけど」
浅見「ああ、えっと名前なんだっけ?」
三輪「匠」
浅見「そうだった。そしたら匠さんはなんて?」
三輪「オーディションのことも伝えてたからさ、一緒に喜んでくれるかなって思ったら、おめでとうよりも先に『やっぱりユウキには俺、必要ないよね。』って言われて。」
浅見「え、なにそれ?」
三輪「どういう意味?って聞いたら、『1人でも充分幸せになれるよ』って」
浅見「ほう…」
三輪「3回目のデートだったし、勝手に期待してた私も悪いんだけどさ、最終的に『もう会えない』って言われた。他にも会ってる人がいて、そっちが本命の子なんだって。
美しい桜って書いて、美桜ちゃん」
浅見「なんてヒロインネーム」
三輪「そうなの。ああ、やっぱりな〜ヒロインの名前だ〜選ばれる名前だぁって思ったよ。美桜ちゃんには勝てないって。」
浅見「うん」
三輪「最後に、『少しでも私のこと好きだった?』って聞いたんだ。」
浅見「そしたら?」
三輪「人間として尊敬してる。って言われた。」
浅見「ああ」
三輪「わかってた。いっつもそうだもん。私はせいぜい良い人止まり。「恋愛対象として」じゃなくて「人間として」良い人止まり。私は一生、誰からも恋愛対象として見られないんだよ。」
浅見「いつかちゃんと見てくれる人が現れるって」
三輪「いつかっていつ?あと何年何月何日後?何時何分何秒後?」
浅見「ええーそれは」
三輪「あーあ、このまま一人寂しく歳取ってくのかな…
誰にも愛されないで、仕事が恋人とか言っちゃって、定年退職するまで普通に働いて。
後輩が寿退社するのを何百回も見送って。
トイレに行ったら、流しのところで化粧を直してる部下たちが陰口叩いてるところに偶然居合わせちゃって。気まずくなるから出ていけなくて。
覚悟して扉を開けたら、変に静かになって。
手を洗って、外に出た瞬間に、『聞かれてたかな?』『別にいいでしょ。本当のことだし』とか言われて笑われるんだよ。そういう運命なんだよ、私は。
あーあ、孤独死はやだな〜」
浅見「ヒス構文みたいになってるよ。ていうかそもそも三輪、OLじゃないし。役者だし。定年退職とかないし。」
三輪「じゃあネットで叩かれるんだ。可哀想な独り身だって。」
浅見「…」
三輪「あ、そもそもネットで書かれるほど、有名にはならんか。はっはっは」
浅見「…三輪。」
三輪「いや、むしろ有名になっちゃったら、恋愛対象に見られないほうが全然いいのか?
もし、アイドルとかと共演することになっちゃっても、胸張って私は恋愛対象として見られない性質をしているので安心してください、ってガチオタさん達に言えるし。」
浅見「…はぁ」
三輪「でもさ、やっぱりさ、私はただ…(泣き出す)誰かの特別になりたいだけなの。普通に、愛おしいな、とか、可愛いなとか、一緒にいたいな、って愛されたいだけなんだよ。気づいたら目で追割れてたり、『好き』って言われたり、普通に恋されたいの。
私からばっかりじゃなくて、
私が想ってるように、私も想われたいの。
それのなにがいけないの…?」
浅見「今日、やけに情緒激しいね。」
三輪「もうすぐ生理だから…それもある」
浅見「なるほど…匠さんもなんてタイミングの悪い時期に…」
三輪「…」
浅見「いけなくないよ。三輪の感じてること、思ってることはごもっともだと思う。
でも、たとえ恋愛対象に思われなくても、三輪は人としてすごく魅力的だなのは変わらない」
三輪「それじゃあ意味ないもん。」
浅見「意味なくないよ。人としての魅力が一番大事なんだから。
しっかりしてて、面倒見もよくて、
感情を汲み取るのも、表現するのも得意で、
だから他人の感情を表す役者っていう職業にすごく適しているし、
結果だってちゃんと残せてる。
三輪は残念ながら天才じゃないから、」
三輪「おい」
浅見「三輪の結果は、ちゃんと努力をしたあかし。
積み重ねてきた努力と強い意志によるもの。
いつでも自分のベストでいようとしてて、作品とその関係者全員をすごく大事にしていて。
それが伝わるからこそ、周りからの信頼も熱いし、三輪は誰もが憧れる存在なんだよ。」
三輪「…ありがとう。」
浅見「うん」
三輪「でもさ…そんなに人として魅力的とか尊敬するとか言われるなら、恋愛対象になってもいいじゃない。なんでそういうふうには見られることはないのかな?
なんで私には恋愛感情抱かないのよ。」
浅見「知らないよ、僕アセクシャルだし。誰にもそういう感情芽生えないし」
三輪「違うよ!一般論!」
浅見「まあ、恋愛云々で三輪の価値が変わるわけじゃないでしょう。」
三輪「…それでも…寂しいって気持ちは消えない…。
地元の同級生がさ、どんどんみんな結婚していって、特別な関係で結ばれていって、
そういう二人組達に囲まれるとさ、どうしても一人ってのが強調されて、悲しくなるんだよ。
一人は、寂しいよ…」
浅見「一人でハッピーの人が目の前にいるんですけど、、、?」
三輪「浅見は望んでの一人じゃん。私は二人になりたいのに、なれないから、寂しいの。」
浅見「知ってる。だから僕のとこにきたんでしょ。僕も一人だから。もう一人、お一人さんがいたら、一人に感じないもんね。」
三輪「…」
浅見「一人が二人いたら、それは、ぷふっ、二人になるもんね。」
三輪「バカにしてるの?」
浅見「いいや。でもまあ、三輪が寂しいのはよくわかった。ただ、三輪の寂しさによっちゃ、僕じゃ力不足だと思う。
流石に抱くことはできないから、ごめんね。」
三輪「っ!!知ってるわ!ばか!」
浅見「ははは、そっかそっか。よかった〜」
三輪「もう…」
(間)
三輪「アイス…食べないの?」
浅見「流石にパイントは多いよ。飽きるし。冷凍庫に戻してこよ。」
三輪「溶け出したアイスを冷凍庫に戻して、また食べると食中毒になるって聞いた」
浅見「え”」
三輪「だから、食べるか捨てるかにしたらいいよ」
浅見「ええ、じゃあ食べます。」
三輪「…」
浅見「ふふ、この二人組も結構特別だと思うけどな」
三輪「え?」
浅見「僕は好きだよ。この二人組。
深夜に家に押しかけてきて、アイスのパイント食いを強要するやつと、それに従うやつの二人組。」
三輪「別に強要はしてないじゃん…」
浅見「そんで、話の内容は大抵愚痴で、大抵三輪の」
三輪「う、ごめん」
浅見「そしてそれを楽しく聞いて、慰める僕。
大体話終わったら、二人で朝日が昇るまでゲームして、
お隣さんが出勤する頃くらいに寝て。
昼過ぎに起きたら、朝飯ラーメンという贅沢を味わって、
稽古に遅れる!って騒ぎながら、三輪がバタバタと支度してるうちに、
僕はお皿を洗って、紅茶を入れる。
三輪を見送って、さてと、僕も作業を始めますか、って落ち着こうとすると、
三輪がダッシュで、忘れ物した!って戻ってくるんだ。
水筒か、傘か、台本だったりもするね。」
三輪「そんなこともあったね(笑)」
浅見「それで、2度目のいってらっしゃいの時に、三輪の寝癖に気づいて、クスッと笑うんだ。」
三輪「おい!」
浅見「そんな特別な僕たちの関係。特別な、人間関係。」
三輪「優しいね、浅見は。」
浅見「そう?」
三輪「本当に人として魅力があるのは、浅見の方だよ。」
浅見「ありがとう」
三輪「…そんな優しい浅見に、ずるいこと聞いていい?」
浅見「え?」
三輪「浅見の中で、私は何番目?」
浅見「何番目って?」
三輪「…」
浅見「友達なら、1番?ていうかそもそも僕、三輪以外に友達いないし。」
三輪「…そう。」
浅見「どうしたの?」
三輪「(小声で)私は本当にずるいな〜浅見には勿体無いよ」
浅見「え?何が?」
三輪「浅見が、浅見でよかった」
浅見「ええ〜なに?」
三輪「浅見にまで選ばれなくなったら、私、孤独死する。」
浅見「はあ〜?何それ(笑)」
三輪「私も好き。この二人組。
選ばない浅見と、選ばれない私の、
違う意味で一人の、
そんな一人同士の、特別な二人組の、
ちょっと寂しいけど、優しい関係。」
浅見「うん」
三輪「今日もありがとう。いつも、ありがとう。大好きだよ。」
浅見「うん」
三輪「うん」
浅見「で、今日はなんのゲームやる?」
【終】
三輪は third wheel。二人組においてのおじゃま虫。
アザミの英語の花言葉は「independence(独立)」「nobility of character(人格の高潔さ)」