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よくできた”妻”でして  作者: 真鳥カノ
ひと月過ぎて
6/19

働き者の”妻”

 妻が亡くなって1ヶ月。このひと月ほどは、家から通える本社に出社させてもらっている。赴任先は遠方の事業所のままだが、妻の死後の手続きやら何やらでバタバタしていたためだ。

 1ヶ月が経過する間に、俺は色々なことに気が付いた。


 一つは、妻がいかに器用だったか。そしていかに目端が利くか。

 妻は生前も、よくモーターなどの部品を買ってきては、よくわからない装置を作っていた。小さなボールを右から左へと動かすだけの装置だが、上に行ったり下に行ったり、籠に入ったり、運ばれたり……30㎝の距離を移動するだけであちこち忙しく動き回る装置だったことは覚えている。


 それのかなり大きい版が、今の我が家というわけだ。


 洗濯物は脱衣籠へ入れたらその籠を洗濯機まで運ぶ仕掛けになっていた。脱ぐ際に、普通着、オシャレ着、色移りしやすいもの、靴下と分けられた籠に入れるようにと指示されている。籠の中身が一定量たまると洗濯機に放り込まれる仕組みらしい。

 洗濯機は、いつの間にか洗濯・乾燥までできる新しいものに変わっていた。自分がいなくなった後のことを思ったのか、干す作業すら辛いほどに病状が進行していたのかは、わからない。ただ、一人暮らし生活の中、コインランドリーでまとめて乾燥までやっていた身としては、ありがたい。


 次に掃除。こちらも見慣れないものが活躍していた。噂にはよく聞いていた、丸い全自動掃除ロボットだ。そんなものを導入しているとは知らなかったせいで、初めて見た時は踏みかけた。最初はどう扱えばいいか分からなかったものだが、慣れてくると自然と避けるのも避けられるのも上手くなってくる。時折、可愛いとすら思うようになった。ふと、この掃除機が動いている様を見て、”可愛い”と声を上げる妻の姿を思い浮かべてしまった。


 ゴミ捨てについても抜かりがない。”我が家”は地域のゴミの日をきちんと把握しており、起き抜けに『今日は資源ごみの日ですよ』などとアナウンスをしてくれる。分別まできっちりできているようで、たまにビールの缶を資源ごみの袋に入れてしまって、怒られたことがあった。声だけでプンスカ怒っていた。


 おそらく最も感心させられたのが料理についてだ。

 冷蔵庫の中身については、妻の遺した映像でも言っていたとおり、俺が好んで食べるメニューは特に切らさないようにしているらしい。いくつかの食材やビールについて、すぐにネット注文できるように購入ボタンがタブレットの画面上にわざわざ設置されていた。


 いくつかのメニューなら自分でも作れるが、お任せしていれば、この機械たちが作ってくれるのだ。家の中において、俺に着いて回るタブレット端末には作れる食事メニューのお品書きがある。食べたいメニューのボタンを押すと、冷蔵庫の中身と照らし合わせて材料が足りているなら作り始め、なければ選び直し……という仕組みになっていた。

 お品書きにないメニューを希望すると、出前アプリを起動させてくれる。至れり尽くせりだ。


 家の中を探索すると、まだまだ他にも便利な仕掛けがたくさん施されていた。

 妻がいなくなった後、どうやって家を管理していこうかという不安がよぎったものだが、今となっては、何の心配もいらないではないか。

 こうして妻がいた頃と、何も変わらない生活を送ることができている。


 妻の声が家の随所から響いてきて、姿かたちはどこにも見えないということ以外は。


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