10話 不思議なお茶会
先週の金曜よりUPし始めましたので
今日でちょうど1週間となります。
読んで下さる方がいる、ありがたく思っております。
早朝から目覚めた恵真は、落ち着かず部屋でバタバタとしている。今日の事を考え、深夜まで準備をしていた。アッシャーとテオが来るのだし、何か作っておきたかったのだ。その後、ベッドへと向かったのだが、兄弟が訪ねてくるのを楽しみに思う気持ちと見知らぬ訪問者への不安、結局早く目が覚めて今に至る。
とりあえず部屋を綺麗に片付け、キッチンも清潔にした。テーブルクロスもせっかくなのでレースに変えてみた。その上にはアッシャー達が摘んできた小さな花を飾った。清潔な白のレースに小瓶に入った野の花がよく映える。
せっかくなのでとクロも念入りにブラッシングをかけたおかげでいつも以上に艶が出ている。恵真自身は白いブラウスを着て長い髪を結いバレッタで髪を留めた。さらにはもし何かあった時、すぐ逃げられるようにスリッパではなくスニーカーに履き替えてもいた。
「どうしよう、でも仕方ないよね?だって約束しちゃったし!あぁ、でも怖い人だったらどうすればいい?逃げる?玄関に向かってダッシュすれば逃げ切れるかな?」
「みゃ」
相談する相手もおらず、持ち上げたクロに恵真は尋ねた。不安な恵真に昨日からしつこく話しかけられ、クロはげんなりした様子で前脚で恵真の頬をむにっと押しのける。
恵真の緊張はピークに達していた。あともう少しで兄弟が訪れる予定なのだ。恵真の見知らぬ人物を連れて。
上手く断るべきだったのだと今になって思う。昨日、兄弟が訪ねてきて明日来るときには同行者がいてもいいかと聞かれた。笑顔で自らの信頼できる人物を紹介する、絶対に大丈夫だという二人を前に断ることが出来なくなってしまったのだ。この状況を誰かに相談したいと恵真は心から思った。
(でも「祖母の家の管理を頼まれて家に行ったら裏庭のドアが不思議な世界に繋がっていました」なんて一体誰に言ったらいいの。失う、今だって大して何も持ってないけれど色々きっと失ってしまう!)
恵真だって自分の身に起きていることが現実だとは思えないのだ。他人が信じてくれるわけがない。今、この状況で頼れるのは自分自身の判断のみだ。
ならばと恵真は覚悟を決めた。
「とりあえず言葉は通じるんだし、わからない事や間違えた事は全て『外国から来たから』で押し切ろう。で、無難に話を合わせて乗り切って帰って貰えばこっちのものよね」
裏庭のドアには鍵も付いている。いっそ居留守を使うとか祖母の家を出るという判断を恵真が選ばなかったのは彼女の人の良さゆえであろう。何より恵真は兄弟と約束したのだ。あの可愛い兄弟との約束を破る事は恵真には出来なかった。
無難に卒なく相手をすれば、最悪の事態にはならない、恵真はそう判断した。そう、少なくとも玄関に向かってダッシュして逃げることにはならないはずだ。
コンコン、と裏庭のドアが叩かれる音がした。
すぅと息を吸い込み、ドアへと向かった恵真はゆっくりとそのノブを廻した。
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「はぁ、緊張するっすねぇ」
「その割には顔がにやけているよ。もう一度言うけど、失礼な事はしないでね」
「大丈夫っすって。あ、でも手土産とか花束持ってきた方が良かったすかね」
「バート、実際どんな背景がある人かわからないんだ。失礼のないようにな」
緊張の様子もなく、バートが軽口をたたくのをアッシャーとテオが呆れたような目を向ける。そんな二人を気にすることないバートを窘めるリアム。
4人は今、アッシャーたちが知り合ったという黒髪の女性に会おうとしている。兄弟二人に仕事を与えたいという女性がどんな人物か知るためだ。二人によると今日の訪問に関しても女性は承諾してくれたらしい。
生活レベルから高位であることが推測される女性が、平民の子ども達の突然の申し出を受け入れてくれる。通常はなかなか考えられないことでもあり、一層その女性がどんな人物か気になるリアムであった。
「ほら、こっち。ここだよ」
「へぇ、こりゃ立派な家っすね」
「あぁ、いつから建っていたんだろう。あまりこの辺りは通らないからな」
深い色のブラウンの扉に黒い縁取りの窓には透明なガラスが入っている。あれだけ濁りのないガラスを窓などに使える余裕がその家主にはあるのだろう。
そんな家に一人暮らしというのは不用心だとも思えるのだが、そこは魔獣がいることもあり対応できるのだろうかと少し違和感を抱きつつ、リアムはその家を見つめる。
数段ある階段を上り、4人はドアの前に立つ。少し緊張した様子でアッシャーがドアをノックした。
「はい、今開けますね」
ドアの向こうからは若い女性の声がした。カチャリと鍵を外す音が聞こえ、ドアがゆっくりと開く。
「アッシャーくん、テオくん。いらっしゃい」
「エマさん、おはようございます。急なお願いですみません」
「エマさんおはようございます!今日もよろしくお願いします」
自らドアを開けた女性はにこやかに二人を迎えた。アッシャーもテオもその女性を見て笑顔で挨拶をする。そんな二人をよそにリアムとバートは驚きで目を瞠った。
兄弟の言っていた通りの姿の女性がそこにはいた。
おそらく異国人であろうその女性は胸まである長い黒髪をキラキラと輝く装飾品で束ね、無造作に流している。影を作る長い睫毛の奥には深い黒の瞳が優しく兄弟を見つめていた。その表情は柔和で慈しみがあり兄弟を温かく迎えていることが一目でわかるものだ。
リアムとバートには彼女の眼差しで、おそらくは自分達の不安が杞憂に終わるだろうと感じた。平民への貴族の振る舞いはそれだけ傲慢なものなのだ。
「突然、訪れて申し訳ない。私は冒険者のリアム。アッシャー達がお世話になったようで感謝しています。二人からあなたの話を聞き、私達で力になれることがあればと伺いました」
リアムは軽く微笑みながら簡易な挨拶をし、目でバートにも挨拶を促す。ぼんやりと女性を見つめていたバートはその視線にハッとしたように自らも挨拶をする。
「あ、あのバート・ウィルソンっす。生まれはここじゃないんすけど、この街で働いてます。兄弟とは顔見知りで。なんで、こう、力になれれば……って思ったんす」
相手の状況がわからないため、バートが兵士であることは今回は伏せている。そのため私服姿のバートは街の気立てのいい青年にしか見えないだろう。
だがバートは苗字を名乗ってしまった。一般市民には苗字がないのがこの国では通常だ。普通の街の青年でありながら苗字持ち、それはこの国ではあり得ない。リアムは笑みを浮かべながら、あとで必ずバートを叱ろうと思っていた。
二人の挨拶を聞いた女性は数度瞬きをし、少し緊張しているようにも見える。さてどう出るだろうとリアムは表情には出さず、彼女の様子を窺った。
「はじめまして。私は遠野恵真と言います。まだ、こちらに来て間もないので…お話を聞いていただけるのは心強く思います。どうぞ、中にお入りください」
緊張しつつも胸に手を当てて微笑みを浮かべ、こちらを見ているその様子を見てリアムは確信する。この女性はやはり、兄弟に嘘をついてはいないのだろう。
だがそうであれば一層、冷静に彼女の話を聞かねばならないとリアムは思う。この国で黒髪黒目の女性が与えるであろう影響を考え、リアムは一人思いあぐねるのだった。
ありがとうございました。
明日は2回更新をする予定です。
24:00の更新ともう1回更新を致します。
「1週間連続更新が出来たし、UPして1週間だし!土曜日だし!(?)」と
個人的にワクワクした気持ちになっているのですが
2話更新するのは毎日更新を目指す自分を追いつめているような…?
楽しんで頂けたら嬉しいです。