① 今やるべき事
黒煙が街のあちこちに昇っている。
街の只中から、突如として現れたオヌ帝国の飛空艦は、時間が許す限りその攻性光線を地上へと向け、破壊の限りをし尽くしていった。
暫くした後、中央都市近くに配備されていたシルフェニアの飛空艦がやってくる頃には、用を済ませたとばかりにオヌ帝国艦は空域を去っており、残されたのは瓦礫の山。
いや、それでも、中央都市すべてが破壊されたわけでも無い。あくまで一部。特に飛空艦が現れた地点である貧民街の被害が酷かったが、それ以外には目立つ建物や、街の象徴となる様なモニュメントといった物が主に破壊されていた。
中央都市の行政区画には勿論、そういった建築物が多い。故にそこに居たディンスレイ達は、オヌ帝国艦の攻撃に巻き込まれた……形になるのだろう。
「存外……元城壁塔というのも馬鹿に出来んらしいな」
辺りに広がる建築物の破片を踏みつけながら、ディンスレイは呟いた。
アイ・オーのオヌ帝国艦が現れた時に居た城壁塔もまた、狙われた建築物の一つだったのだろう。
だが、ディンスレイ達が避難するまでの間は耐えてくれた。おかげで、ディンスレイの命は今なお、継続してこの無限の大地に存在している。レドの言う通り、歴史深さというのも馬鹿にしたものでは無かったのだろう。
ただ、今ではその城壁塔も崩れ去り、痛々しい戦災の跡となっている。
街のどこからか悲鳴や鳴き声、さらに崩れ去る建物の音がディンスレイの耳に響く。これが敗北の味かと、歯を噛みしめてみるも、気が晴れる事は無かった。
痛々しい音は鳴り止まぬし、さらに別の声も聞こえて来た。
「艦長、とりあえず近辺に居た船員達の無事は確認出来ました。全員、まだ動けますよ」
オヌ帝国艦が去って後、指示を出していたカーリア・マインリアが、再びディンスレイの元まで帰って来た。
「船員達の無事の確保にまず時間を使ったからな……アイ・オー側も建築物の破壊を優先し、避難場所になる様な施設は取り逃していた……いや、見逃していたか」
アイ・オーは都市機能を破壊するよりも、都市をオヌ帝国艦が破壊したという光景を作る事を優先していた。
戦争を激化、泥沼化させるというのが、アイ・オーの狙いだからだ。
その狙いが本格的に動き出す前に、なんとか動ける猶予でディンスレイがした事と言ったら、真っ先に身内を保護する事だったというのだから、情けない話である。
この都市には、被害に遭った人々が大勢いる。命だって多くが失われたであろう。それらを見捨てた。傲慢に取捨選択したのだ。
今、カーリアから船員の無事を報告されたところで、胸を撫でおろす気分には成れなかった。
「目は死んでいない様子だな、ディンスレイ。だが、次はどうする。俺の兄は……もうこの街の空を去ってしまったぞ」
同じく、破壊された街の光景を見つめるレド・オー。オヌ帝国からやってきた彼は、この中央都市に纏わる思いも何も無いだろうが、代わりに、この街を破壊した人間に関してはこの場に居る誰よりも強い思いを抱いているはずだ。
そんな彼は、まだディンスレイに何かを期待している様子だった。
「私に、まだ何か出来ると君は言うのか、レド」
「出来るかどうかは知らん。何度も言うが、兄も、お前も、何をするか俺には予想がつかんからな。だが……何か仕出かすつもりというのは、目を見れば分かる。死んだ目というのもあるしな。お前とは無縁の目だ」
さて、それはどうだろうか。これまでの人生の中で、そういう目をした事はきっとある。どうしたってこれは無理だと絶望した経験くらい、ディンスレイにはあった。
だが、今、ここではないのは事実だ。
「やるべき事は分かっているんだ。だからこそ、負けると分かっても、次に繋げる最善を尽くしたつもりだ。部下達の無事を優先したのも、アイ・オー側に動きがバレる事も承知で、中央委員会関係者に警告も出したのも……次に繋ぐために、やるべき事だった。どこまで聞き入れてくれたかは……今、副長が確認中だろうが……」
一時アイ・オーに監禁され、疲労しているだろうテグロアン・ムイーズ副長すら働かせているのが今の状況だ。無茶は承知の上で、肝心のディンスレイはまだ街の中央に居る。今は指示系統の中心になるディンスレイは、場所を動かない方が良いからであるが、歯痒い気持ちは消せやしない。
それもこれも、次に繋げるためであるのだが……。
「カーリア君。船員への指示の方も無事、完了しているか?」
「勿論です。事前の取り決め通り、各員連絡網を敷いていますし、全員、所定の配置に付く事になるでしょう。都市外の遠方へ出ている船員に関しても、どうにか連絡を取りたいところですが……」
「街がこの状況だと、悠長に手紙を出す事も出来ないからな。そっちの方法についても考えて置こう。副長が帰ってきたら、一旦我々もここから動くぞ。準備も必要だが、拙速さも重要になってくるタイミングだ」
カーリアが出した指示がスムーズに伝わるならば、全員、こことは違う場所に集まるはず。
「移動する前に聞いておくが……既に去った兄に対して、どうやって対応するつもりだ、ディンスレイ」
「勿論、追う。このグアンマージの混乱については、後に残る側に任せるしかあるまい。中央委員会のメンバーに警告を出したのは、彼らにそれを期待したいからだしな」
アイ・オーの破壊工作……もはや襲撃と表現して良いそれに対して、混乱を出来る限り最小限にし、さらに反撃するというのが、ディンスレイの動きだった。それが実現出来るかどうかは、未だ分からないままである。
「そうじゃなく、追うアテがあるのかと聞いているんだ。街そのものがこんな状況で、逃げたあの飛空艦をどうやって追跡する」
「その件だが、一つ……やれる事ならある。賭けに近い行動だが、それでも、効果的だと思える方法がな」
「さすが艦長ですね。やられたらやり返す手口というのも常に考えていらっしゃる。それで、それはどういう?」
カーリアの方も、今後の方針については気になっているらしい。
動ける船員すべてを集めてから話すつもりであったが、テグロアン副長はまだ帰って来ていない以上、先に教えておく時間ならある。彼女もまた、今日は働き詰めなのだから、ディンスレイは彼女の願いを聞くべき立場だ。
「敵であるアイ・オーだが……」
「敵であるアイ・オーが……?」
「私に似ているらしい」
「はい。はい?」
分からないだろうか。確かに理屈では無い事を言ってはいる。けれど、今の時点で困惑されていられるのは困る。何せ、話題はもっと理屈では無くなっていくからだ。
「私に似ているという事は……私なら奴の動きを予想出来る……とは思わんか?」
「いやその……それはどうなのでしょうか……?」
やはりこういう反応をされるか。ならば今後、他の船員に話をする時は、もう少し言葉を偽る必要がありそうだ。
理解出来ない内容に不安を抱えさせたまま、仕事をさせるのは不幸だろうし能率も落ちる。
「おい、ディンスレイ。それは……俺が聞いてもどうなんだと思うぞ? 確かに印象としてはずっとあったが……だからと言って、思考を読める様な事は……」
アイ・オーを知るレドの方も、このディンスレイの発言は素直に飲み込めないらしかった。彼ならば、アイ・オーの事を良く知っているので、もしやとも思ったが……。
「いえ、艦長ならば出来ると、私は考えます」
「副長。丁度良いところに」
仕事を終えて来たらしいテグロアン副長が、次にはディンスレイの考えに賛成してくる。彼もまた、直接にアイ・オーと話をした側だ。ディンスレイとアイ・オー。両者の事を知る、数少ない一人と言える。
「おい、安易に言うべきじゃあないぞ? 俺の兄は読めないところがあるし、それはこの男ともそっくりとは思うが、それだけを根拠に動ける様なものではあるまい」
「似ているのがその程度であると考えるならば、もう少し、自身の兄について、今の艦長と同じくらいに踏み込むべきだと思いますが」
「なんだと?」
やや剣呑な雰囲気になるテグロアン副長とレド。今は喧嘩をしている状況では無いのだが……。
「口論を続ける様なら、私は無視して次の現場に向かうぞ。時間が貴重な状況だ」
「ならば一つだけ。似ているのは、雰囲気ややり口だけでは無い。そうなのでしょう? 艦長。だからこそ、私のアイ・オーへの印象を聞くのを待ってから、実際に結論を出した。私なら、艦長の……鬱屈とした感情も知っていますから」
「旅に出る前に、私の身元くらい、君ならば調べていただろうからな? レド、カーリア君。私の言葉にまだ不安を抱いているならば、さらに付け加えよう。私とアイ・オーは、同じ感情や思想の元に動いている。だから……私にはこの状況の予想が、直前ではあれ、事前に出来ていたし、向こうにしても私を警戒している。副長を浚い、私を探ったのもそういう理由だ」
お互いの……それこそ感情や趣向と言う部分が、相手の弱点にも成り得る。もしかしたらそうなのではないかとディンスレイは思うのだ。アイ・オーの方は、恐らく既にそういう考えの元に、ディンスレイへ対処しようとしている。
一戦目はどこまでお互い、準備を続けて来られたかの差でディンスレイの方が敗北したが、二戦目は、どれだけその似ている部分を武器に出来るか。そこに掛かっているとディンスレイは考える。
「さて、どこまで話したところで、これはむしろ感情的な話になる事は分かってくれただろうか。理屈じゃあない。それはそうだ。だからこそ……着いてくるかどうかは、君らに任せる」
「この状況でそれを言いますか? 選択肢があると思えません」
カーリアが率直に言葉を返して来たので、ディンスレイは苦笑するしか無かった。
確かに、これは酷い問い掛けだった。
今、この場に居る人間が、立ち止まる事を選べるわけが無いし、前に進むにしたって、その道もそう多く無かった。
いや、進むのは道では無い。敵が現れたこの中央都市の空を、ディンスレイ達も飛ぶ。そのために次の場所、ブラックテイルⅡへと向かうのだ。
ブラックテイルⅡが整備を受ける、グアンマージの空港。
そこにもオヌ帝国飛空艦の被害がまったく無かったとは言えないが、街の中央から離れた場所にあったそこは、まだ飛空艦が飛び立てる状況が維持されており、さらにブラックテイルⅡもまた無事だ。ディンスレイが今、悠長にメインブリッジの艦長席に座れているくらいに。
というよりも、街の様子に反して好調とすら言えた。
『艦長がグアンマージで働いている間、漸く全面的な整備が行えたってところですな。オヌ帝国捜索の間、騙し騙しどころか、不正な改修だの改造だのもしたし、おかしな装置まで付けられたりしましたからね』
機関室からの通信がディンスレイの耳に響く。なんだか親しみすら感じるそれを聞くと、やはり自分の居場所というのは、この艦長席にあるのだと思える。
「そっちも大変だったのは分かるがな、整備班長。愚痴は後で時間があれば幾らでも聞くとして、現状のブラックテイルⅡはどこまで動ける?」
整備班長ガニ・ゼインは、今回のグアンマージを巡る一件の中で、ブラックテイルⅡ内の居残り組として働いてくれていた。
彼だけで無く、一定数の船員には、長い旅路で損傷していたブラックテイルⅡの機能の回復に努めて貰っていたのである。勿論、それは何時の段階でも、ブラックテイルⅡを十全に動かせる様にするため。
『これまでの旅の中で、何時か言いたいと思ってたが、漸く言える事があります。今のブラックテイルⅡは、完璧です。その機能が許す限り、幾らでも機能を発揮出来ますぜ』
「上等だ、整備班長。私の方も、これまでずっと聞きたかった言葉の一つだ。思うんだが……非常に素晴らしい成果じゃあないか?」
『とは言え、俺達整備班員が出来るのはそこまでだ。後は実際に艦を動かす連中と……指示を出す艦長に期待するしかないですな』
「重い期待だろうが、まあ、背負ってみせるよ。戦争だって、まだ止められる」
『そうであって欲しいものです。では、ここいらで』
機関室との通信が切れ、ディンスレイの視線はメインブリッジ全体へと移る。
急遽集まってくれたメンバーでしか無いため、全員は揃っていない。特に前線の調査に出てくれている操舵士のミニセル・マニアルは、さすがに来られる状況では無かった。
そもそもがグアンマージ襲撃から、一日も経過していないのだ。
軍も行政も指揮系統が混乱している最中だからこそ、こうやってディンスレイ達が集まれる隙が出来たとすら言えた。
だからこそ、今、指示を出せる側であるディンスレイが状況をまとめなければならない。少なくともブラックテイルⅡ内部に関しては。
「さて諸君。良く集まってくれたと言いたいところだが、これからより大変になるだろうから、安心しろとは言わないでおく。グアンマージが突然襲撃された混乱から、まだ精神的に回復出来ていない者もいるだろう」
通信を艦内すべてに繋げながら、ディンスレイは言葉を発する。
「艦長として、私がやるべき事はきっと、諸君らが次に何をするべきかを伝える事なんだろうな。だからこそ、今から伝える。事前に聞かせた相手もいるし、その時は、聞いた上で無理だと感じたら降りても構わないとも言ったが……それは無駄口の類だと言われてな、今回は言わないでおく。聞いた上で、自分で考えてくれ。どうせ誰も艦を降りんのだろうが……」
艦内すべての音が返ってくるわけでも無いだが、少なくともメインブリッジからの音……笑い声が返って来た。
見れば主任観測士のテリアン・ショウジの声であった。彼にしたところで、今更ディンスレイに何を言われたところで……と言った信条なのだろう。どうせ、今みたいな事態にだってなると考えていた一人だ。
彼に関してはこの数日、隣の席に座る補佐観測士のララリート・イシイと共にゴーウィル・グラッドン大佐の手伝いをして貰っていた。
つまり、シルフェニア国軍へのアプローチを主にしていたのである。
ゴーウィル大佐も忙しく、今のグアンマージの状況を受けてさらに酷い状況になっているだろうが、そんな彼にとっては酷な事に、テリアンとララリートを引き抜かせて貰った。彼には後で、やはり時間があれば謝罪をしておく事にしよう。
今やる事は、別にある。
「我々は、今よりグアンマージを襲ったあのオヌ帝国艦を追う。奴は恐らく、次にシルフェニアとオヌ帝国の前線があるシルフェニア南方へと向かうはずだ。そこで奴は二度目の引き金を引かせるつもりなのだろう。一度目は勿論、この街をオヌ帝国艦で襲わせる事で、シルフェニア側から苛烈な報復を画策させる事。恐らく、それは遠からず現実のものとなるだろう。中央都市の一部こそ破壊されたが、シルフェニアの軍事力は、今、我々が居る場所が無事である様に、些かも失われていないからだ」
中央委員会が開かれていない状況の襲撃であった以上、指揮系統の回復とてすぐに済むだろう。その部分だけは、アイ・オーにとっても誤算……いや、ディンスレイの妨害が効いたと思われる。
戦争を激化させるには、シルフェニアとオヌ帝国の戦力が、最大限に衝突する事が必要だからだ。
どちらかが有利ではいけない。シルフェニアが近い内に全力を出してくる以上、前線で停滞しているオヌ帝国側もそのタイミングで動く必要があるのだ。
「やつの当初の予定通りならば、中央委員会自体は壊滅させ、オヌ帝国側での準備の時間稼ぎにするつもりだったはずだ。それが出来ない以上、早急にオヌ帝国へと向かい、そちらでオヌ帝国側の引き金を引くつもりなのだろう。我々はつまり……その動きに先んじて、アイ・オーを叩く。それが今、全面的な戦争を停止させるための……最後のチャンスにもなるだろう」
アイ・オーの計画は入念だ。本来、中央委員会を攻撃するのを失敗したとしても、上手く運べる余地はあったはずなのだ。いや、そもそも、今の行動がある種の次善だと思われる。
だが、その次善の隙を突ける存在がここにいる。これはアイ・オーにとっての不運か、それともディンスレイにとっての幸運か。
「戦争を止める。当初の我々の目的はもはや、ある種、運に任せるところまで来てしまった。だが、可能性は失われていない。今、この状況において、二度目の引き金を引かせる前に……グアンマージを襲ったアイ・オー艦を打つ。それがオヌ帝国側の動きを止め、さらにはシルフェニア側の報復を果たす事に繋がる事を期待したい……それが今からの、我々の方針だ」
再び心中の視線をメインブリッジに戻す。
船員各々と目が合っていく中で、その中にレド・オーの姿もあった。
彼の場合は船員というより客員という形でメインブリッジに居るのであるが、彼の目が語るのは、実際にその様な事が可能なのかという事。
どうやってアイ・オーを追うのか。それを語るべきタイミングでもあるのだろう。
「アイ・オー艦に追いつく方法については、皆知っているだろう。あちらの船速がどれほどであれ、ブラックテイルⅡにはそれを帳消しに出来る機能がある。ワープだ。奴の進行方向の先へとワープを行えば、それだけで当艦はそれに追いつける。ではどこにワープすれば良いかだが……」
言ってしまって良いものかどうか。少しばかりディンスレイは考えるものの、ディンスレイを見る船員の視線、特に数時間の休養を命じたというのに、この瞬間だけは隣に立たせて貰うと言って聞かないテグロアン副長のそれを見返せば、笑って答えるしか無くなる。
「私の勘で決める。これが唯一にして、それ以外に無い、我々の奥の手という事になる。どうだ? 笑えてくるだろう?」
その言葉で、艦内の雰囲気は変わるか? 勿論、レドは本当に言ったなこいつという表情の変化を見せて来たが、一方でブラックテイルⅡ内部はそうでも無かった。
いや、空気が弛緩した部分はあったが、それは、何時もの空気に戻ったと表現出来るものだった。
グアンマージ襲撃の混乱から、何とか艦内の空気は戻せたと言ったところだろうか、ならばこうやって、演説染みた事を言った甲斐もあるというものだ。
「出発まであと一時間と言ったところだ。それまでにワープの準備を終える。間に、呆れて帰りたくなったものがいるなら、帰る事も許可しよう。何はともあれ、手は動かしつつ、良く良く考える事。艦長からは以上だ」
そこまで言ってから、通信を切り、艦長席に深く腰を降ろした。
「さて、どうだったかな? 今、しておく事は出来たと思うが」
「ええ。何時も通りの艦長だったかと」
「はい! 艦長は変わらずでしたねっ」
「いやまあ、困るっちゃ困るんですけどね、いつも通り」
テグロアン副長にララリート補佐観測士、テリアン主任観測士と、それぞれの返答が聞こえて来た。
こういう空気もまた、何時も通りだぞ? とレドを見ると、彼もまた口を開いてくる。
「俺には理解出来んよ。だが、俺個人でお前達に同行する事を決めた以上、最後までは貫くだけだ。正気を疑い続けるのは止めんが」
「君はそれで良い。そういう人間が居るのもまた面白いじゃあないか」
ディンスレイはやはり笑い、艦長席で姿勢を正す。
ブラックテイルⅡ側に問題は無い。まったく問題は無いと言える空気がここにある。
ただし、心の中にある緊張は消えないままだった。
(私とアイ・オーが似ているというのなら、こういう空気をまた、向こうも持てているのか? だとしたら……)
それは最大級の脅威だ。それを自覚しながら、ディンスレイは出発の時を待つ。戦いの時は、それほど先では無いはずだ。




