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無限の大地と黒いエイ  作者: きーち
無限の大地と彼らの戦い
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④ 進行中・ディンスレイの場合

 シルフェニア開拓公社。

 それは文字通りに、シルフェニアの開拓事業を公的に推し進めている団体である。

 シルフェニアは国の領域を拡大させる時期を過ぎ、外部に対するアクションは冒険や発見、交流を中心とする様になったわけだが、この手の開拓公社は、その拡大期にこそ端を発している。

 国の領域を増やすというのは、その土地における資源や住居を得るという行為であり、それを準備する事無く軍事的に領域を広げるというのは、単なる無為な行動となりがちだ。

 故に拡大期において、土地の開拓、住居の建築、資源獲得、輸送等々、必要になる道具や施設を一括で用意出来る様な組織が求められた。

 それが開拓公社の前身であり、ある意味、戦争行為以上に、国力が注入されたと言えるだろう。

 だが、その時点ではまだ、開拓公社はその名前では呼ばれていなかった。

 正式に、そうして名実が伴ったのは、開拓期を過ぎての事である。

「シルフェニアが拡大期を過ぎたという事は、開拓という言葉はシルフェニア国内に対するものを指す様になるという事だ。そういう過渡期を、この組織は上手く乗り切り、方針を転換する中で、開拓公社と呼ばれる様になったわけだな」

 開拓公社の社屋、と呼べば良いのか、それは中央都市の外観にはやや不釣り合いにも見える、機能性が目立ち、装飾が控えめな、石造りの城塞みたいなそれ。

 そんな社屋を見上げながら、ディンスレイは隣に立つレド・オーに説明をしていた。

 一方のレドは、短い説明だけでは、あまり理解が進んでいない様子だった。

「シルフェニア国内には未開拓未発達の土地というのが幾らでもあるから、そちらの投資に注力する様になったというのは分かるが、それが国にとってどれだけの立場だというんだ? 昨日の中央委員会にもこの組織の社長が出席していたという話だが……」

「拡大期においては、戦争行為以上に注力されたと説明しただろう? 要するに、現地における大権を与えられたんだ。さすがに当時のままというわけでは無いが、国内において、未だに大きな存在感を見せている。この公社が無ければ、シルフェニアでは都市一つ作る事も出来んだろうさ」

 冗談でも無く、シルフェニア国内の都市開発の大半に開拓公社が関わっている。現地調達が難しい段階の食糧輸送や環境に見合った都市構造の計画といった事柄に対する、労力や専門的知識。それを与え、実行出来るだけの力が開拓公社は保持している。

「シルフェニア国内で、国内で飛空船をもっとも保有している組織はどこか。その手の話の場合、ダントツでこの開拓公社が上げられるし、事実としてそうだ」

「まさかとは思うが、軍事力まで持っていたりはするのか?」

「さて。その手の話をする程、深い部分を知っているわけじゃあないが……だが、するべきだろうな。今から」

 レドへの説明を止め、ディンスレイは開拓公社への社屋へと入っていく。

 正面玄関から入れば、受付用の窓口がそこにあった。社屋程に仰々しいものでは無く、事務作業用の部屋にカウンターを取り付けた程度のもの。実務的な性格の強い公社であるため、社屋の雰囲気もそういう類のものであるらしい。

「失礼、少し良いかな?」

 一度社屋に入り、従業員に視線を向けられる様になれば、躊躇っている事も出来やしない。早々に窓口へと近づき、話しかける。

「ええっと、はい。何か御用ですか?」

 眼鏡を掛けた野暮ったい男が一人、カウンターへと近づいてきた。奥で仕事中であったという風を隠さないところは、余人であれば礼儀を知らないと言った風に映るのだろうが、ディンスレイはむしろ好ましい印象を受けてしまう。

 これに関してはディンスレイの悪い癖かもしれない。人を見ると、その人が自分の手腕を発揮している姿を見たく感じる。それがある意味、ディンスレイの趣向であった。

「忙しいところ申し訳ないが、私の名前はディンスレイ・オルド・クラレイス。シルフェニア国軍の中佐だ」

「国軍の……中佐?」

 開拓公社は国軍とも関係浅からぬ立場ではあるが、この様に社屋の正面からやってくるというのもなかなか無いのだろう。

 窓口に出てきた男は、そもそも中佐という立場がどの程度のものなのか戸惑っている様子もあった。

「昨日行われた中央委員会の関係者とでも言えば分かるだろうか? 今、丁度その時期でこっちも忙しいと思うが……」

「中央委員会……中央委員会? それで、国軍から……ああ、なるほど。なるほど? ええっと、いや、その、あれですね。その」

「多分、それ専門で動いてる部署なり人物なりが居ると思うのだが……」

「そう! それです。少々お待ちください? 今担当を呼んできますので……あ、そこの席に座っていてください!」

 漸く合点がいったのか、慌ててディンスレイ達を、窓口の脇に用意されている椅子に座るように促してから、男はどこかへと去っていく。

 残されたディンスレイとレドは、とりあえず椅子に座って後に、暫しの雑談を再開する。

「あれ、大丈夫なのか? 突然の訪問にしても、対応がまともに出来ていなさそうというのが、異国の人間の俺でも分かる」

「まあ、外面に関しては力を入れていないという組織風土なわけだな。ただ、ああいう出来て居なさそうな男が、事、数字だったり設計だったりと言った分野では専門的かつ秀でた技能を持っていたりするんだ」

「力の入れどころが偏っている……という事か?」

「その偏りこそ、多数ある組織の中で、確かな存在感を発揮する鍵だよレド。何にも偏らない組織なんぞは、基本、誰からも必要とされずに消えていく」

 シルフェニアは広く多様な国だ。その内側に抱えた組織の数もまた多く、種類も多様。そんな中で、開拓公社などという立ち位置に、常に存在出来る組織は、それだけ癖が強いのである。

「組織論なんぞは人それぞれ国それぞれだろうが、この組織の癖が強いというのは、俺にも分かるぞ。見ろ」

 どうやらディンスレイ達は、あまり待たされずに済んだ様子。

 担当を呼びに行った眼鏡の職員と、その後ろに立つもう一人の男がこちらへと近づいて来ていた。

 その光景を見れば、確かに癖が強いと言いたくもなった。

 その男は筋骨隆々の身体に、浅黒い肌。そうして眼帯を付けたいかつい顔立ちと、到底、平穏とは縁遠そうな見た目をした男であったからだ。




「で、なんだ? てめぇらはいったい、この国で何を狙っている?」

 とりあえず応接室へと案内され、用意されていた酷く固いソファに座った後、どう話を切り出したものかディンスレイが考えより前。

 そんな言葉が語気強くディンスレイに向けられた。

 向けて来た相手は、応接される側であるはずのディンスレイより早く。対面のソファに深々と座り、釣られて座ったディンスレイとレドを睨みつけて来た。

 立ったままの方が良かったか? 一目散に逃げ出せるのなら、その方が良かったろう。

 今更後悔しながら、その見るからに逞しい見た目をした男、デイモッジ・ドートスをディンスレイは見つめ返した。

 逃げる事が出来ないのなら、怯えるなんて事はせず、対決を選ぶのがディンスレイの性格だ。

「何を狙っているかの説明から入るべきですか? それとも、公社の専務相手に、自己紹介から入るべきでしょうか?」

「てめぇ。オレの顔と名前を知ってるのか」

「その点はお互い様かと」

 彼、デイモッジ専務は、事前にディンスレイの事を知っていただろうし、もしかしたらディンスレイが訪問してくる事を考慮に入れていた。

 でなければ、第一声でさっきの言葉が出てこないだろう。敵を知らないというのに、いきなり戦いを始める者も居ないだろうから。

「はっ。中央委員会に若造が顔を出し、知らねぇ国の人間を連れて来たなんて話を聞かされりゃあ、どういう連中かを調べもする。てめぇみたいに、誰が出てくるか分からない状況で、相手の顔と名前を一致させるなんて事はしねぇんだ」

「それは自身を過小評価し過ぎですよデイモッジ専務。組織図上であなたの下にある部署の多くは実務に関するものだ。特に未だ国外への開拓事業を行う部門も取り仕切っているとあれば、あなたの存在感というのも分かります。知ってますか? 今回、中央委員会で説明した仕事の前に、私はその部門とも関係が深かった」

 ブラックテイル号での未踏領域への旅という事業にも、開拓公社は関わっている。このデイモッジ専務側にとってディンスレイは初対面であるが、ディンスレイの方は幾らでもその顔を知れる機会はあったのだ。

「悪いがオレは、信用出来る人間しか記憶に残さん性質なんだよ。つまりオレの方が何等かの形でてめぇの顔を見たのなら、その時点でろくでもない奴だと思っているはずだ。今のところ、その受け答えを見るに、当たってるんじゃねえか?」

 確かに。初対面でディンスレイが信用出来る相手だと考える人間なぞ、そっちの方が怖い。

 なので、デイモッジ専務は今のところ、マシな人間だとディンスレイは受け取った。

「直に話をしなければ分からない事もある。顔を突き合せた上での印象だけを語り合うというのも、この期に及んでは不毛では無いですか?」

「ふん。良いだろう。確かに言ってる事はもっともだ。で、じゃあいったいうちに何の用で来た? 顔を出した側が、なんの話題も無いなんて言うんじゃないだろうな?」

 暫し、不毛に見えるやり取りで相手の状況を伺おうとも思っていたが、そうもさせてくれないらしい。

 見た目通り、迂遠な会話より、率直なやり取りを好む相手という事だろう。

「でしたら、こちらの目的から話しましょうか。と言っても、既に想像されている通り、中央委員会で我々が報告した内容を聞いて、開拓公社はどういう姿勢を取るつもりか。そこを探りに来ました」

「はっ。想像通りってんなら、探るだけじゃあないだろう? てめぇらの意にそぐわない様な意見だったなら、それを曲げるつもりだ。違うか?」

「……」

 なんとも言えない。というわけでも無いが、今は一旦沈黙する。

 端からこういう返しをしてくるという事は、相応に機知に富むタイプなのだろう。なら、それがどの程度か測ってみるのも手だ。

 ディンスレイは単純に、このままこのデイモッジ専務の話を聞きたくなったのだ。

「頭の中で何を考えてるかぁ知らねぇが、それでも、こっちはてめぇらに言える事はある。てめぇらの意見には乗らねぇ。こっちの腹ぁ決まってるんだ」

「……という事は」

 開拓公社の中央委員会における立場は―――

「今回の報告だけ聞いて、オヌ帝国に攻め込むなんて馬鹿な事は支持しねぇ。うちは平時でも上手くやれてんだよ」

「は?」

「うん?」

 その疑問符は、隣のレドと、レドの反応を見たデイモッジ専務から出たものだ。

 お互い、ここまでは予想通りの展開と言ったところで、急に想定外の言葉を漏らしたらしい。

 ディンスレイ達側にとっては勿論、デイモッジ専務から出て来た、戦争反対の言葉……いや、その戦争反対という意見が、ディンスレイ達とは違う意見だとデイモッジ専務側が受け取っている点が想定外の部分。

 デイモッジ専務側の疑問符は、レドが意外そうな反応を示したからだと思われる。

(そもそも、レドが言葉を発したタイミングで、漸く彼の存在を認知したのやもな。意見をはっきり言わない人間は、居ない物と扱うタイプだ、この人は)

 そうして、レドはとりあえず、さっきの疑問符で意思を見せて来た形になるのだろう。

 だからデイモッジ専務の言葉はこう続く。

「おい、そういえばそっちの角の生えてる方は、オヌ帝国からの客人だったな? つまり国を代表する立場ってわけだ。なのにずっとこの男の横でだんまりか?」

「……」

 レドがまず、ディンスレイに視線を向けて来た。

 その意味くらい分かる。ここで話をして良いのか? そういう事を言外で尋ねている。

 勿論構わないとディンスレイは頷いた。ここまで来れば、二人に話し合わせた方が良い。

 だってこの二人は―――

「同行人から許可を貰ったので言いたい事をまず言わせて貰う。俺はこういう場で黙り続けるのは嫌いだ。そうして、オヌ帝国の人間として、俺とてシルフェニアとの戦争は反対している」

「……おい、オヌ帝国の人間は虚言が上手いのか?」

「上手いは上手いだろうな。今、お前の事を騙そうと思えば騙せる。だが、今回に限って言えば、俺がお前を騙そうとしていると受け取るなら、それはそれで失望させて貰う」

「……」

「……」

 啖呵を切り合う様な二人の会話を聞きつつ、ディンスレイはやはり確信した。

「二人とも、実に相性が良い様に見える」

「どういう冗談だ?」

 デイモッジ専務からそう聞かれたので、ディンスレイの方も率直さを発揮させる事にした。

「今の会話、端から見たら喧嘩で、お互い共の認識もその通りだというのに、現時点で悪い印象を持てずに居る。そんなところでしょう? 二人とも?」

「他人の心を覗く様な真似をするとはますます気に入らねぇ」

「そこは同感だ。信用出来るところの方が少ない男ではある。この男は」

「失礼な奴らだな、二人とも」

 全員、相手の事を肯定的に捉える言葉を発しはしなかった。

 しなかったのだが、どうしてか、空気が若干和らいだ気がする。恐らく、この場に居る人間にとって、正解となる交流がこれなのだ。

 嘘で間合いを取り合うより、歯を剥いて率直に言い合う事で、前に進める。そういう相手だっているものだ。

「ったく。じゃあ何か? いきなりアポも取らずにうちに突撃して来やがったのは、雁首揃えて戦争反対を言いに来たってのか? 開拓公社に?」

「俺の方の意見を言葉にするならそうなる。他人に説明されると、屈辱やら恥ずかしいやらだが」

「どういうこった?」

「本音で言い合うというのが文化としてあまり無いのですよ、オヌ帝国の人間は」

 嘘を言い合う様な会話で無くとも、幾らか含みを持たせる事を好むわけだ。

 そんな彼が、初対面の相手と素直に話をしているというだけで、相応に喜ばしい交流が行われていると思う。それくらいに、このデイモッジ専務とレドの相性が良いのだと考える。

(これは幸運の一つかもしれんな。というより、開拓公社が最初から戦争反対側だと知れた事が、何より幸運か)

 ハードルを越えるつもりが、素直に潜る事が出来た。

 デイモッジ専務の様子を見るに、彼が、極度に嘘が上手い人間で無い限り、戦争反対の立場を開拓公社は取ってくれるだろう。

 だが、果たしてそれで安心するべきか?

「一つ質問なのですが、開拓公社側で意見が分かれていると言った具合ではありませんよね?」

「あー、もし、てめぇらが本音を言ってるんだとしたら、安心しろと返しとくよ。オレのここでの意見は、開拓公社としての意見だ。戦争がこのまま激化するなら兎も角、今の状況で、わざわざ敵国まで攻め込むってのものな……今、うちに入ってきている情報に寄れば、オヌ帝国ってのも、そう近くには無いんだろう?」

「我々オヌ帝国の人間にとっても、シルフェニアに攻め入るというのは並大抵の労力では無いとは言っておく。つまり、シルフェニア側に防衛に専念される方が、出血が多い可能性も―――

「レド、ここはシルフェニアだ。本音で話をしてくる相手には本音で話すべきだ」

「ディンスレイ? 何を―――

「オヌ帝国の情報について、より正確に話すべきだと言ったんだ」

 レドと話を進めようとしていたデイモッジ専務に対して、ディンスレイは割って入る事にした。

 このまま和やかに話が続き、終わる。それ以外の結果へと至るために。

「オヌ帝国……オレ達が知らないような情報を知ってるって事か」

「無論、直接行かなければならないと分からない事を我々は知っています。その内容については……オヌ帝国の軍事力は侮るべきではないという事です」

「言う程の連中か? オヌ帝国というのは」

「事、純粋な軍事力。また戦争に関する各種遂行能力に関して……シルフェニアを上回っていると私の印象としてありました」

 オヌ帝国発見の旅の中で相手取ったオヌ帝国飛空艦は、そのすべてが一筋縄では行かない相手であった事は事実だった。

 あれが軍団として機能していれば、いったいどの様な戦術を取ってくるか。

 それに対して、シルフェニア側は準備不足ではある。

「安易に、戦争反対とも言っていられない。そう言いたげだな? 小僧?」

「小僧と言われるのは心外ですが、意味のある事は伝えているつもりです。ある意味、今回はそれを伝えるために来たとすら言える」

「はんっ。悠長にしていると危ないんじゃないですかと年上に言い出すのは如何にも子どもだ。だが、今回は飴をやっておいてやる。つまり……言葉は受け止めた。それで良いな?」

「ええ。そうしていただければ、小僧も喜ぶでしょう」

 一度は無事に終わりそうだった会話であったが、最後にはデイモッジ専務からの警戒心を買う形になったかもしれない。

 そんな事を考えながら、ディンスレイは次に隣に座っているレドの方を見た。

 彼の視線は勿論、いったい何を考えていると言いたげなものであった。




「いったいどういうつもりだ! あれではむしろ戦争を煽っているだろうが!」

 開拓公社での話を終えたディンスレイであったが、その帰りの道、レドがとうとう我慢ならずに叫び出した。

「おいおい。ここは往来だぞ。今の時期、関係ない人間の目を引いてしまうのは困る」

「そんな事は重々承知だ。その上で今、ここで説明しろ」

 そういうレドであったが、さすがに怒気を含めた小声となる。

 彼の様子は至極もっともかつ、こうやって周囲への意識だって忘れていないとなると、彼が怒っている責任は、ディンスレイの方にあると言えるだろう。

 だから彼の言う通りに説明を始めた。

「話をした上で、デイモッジ専務は、戦争反対派だ。開拓公社もそうだという彼の意見もまた、信用出来る」

「だったら―――

「良かった。と言える立場でも無いだろう。他の中央委員会のメンバーがそうだとは限らない。そんな中で、我々が話をするより前に戦争反対の立場を取っていてくれたんだ。さらに一歩、そこから踏み込ませるのが、我々の努力だ。違うか」

 幸運不運を左右する事は、ディンスレイにだって出来ない。現実の状況は何時だって流動的で、いったいどんな結果をもたらすか分かったものでは無い。それがこの無限に広がる大地と世界であろう。

 だが、だからこそ、転がってきた運命に対して、どう行動するかが大切なのだ。

「最後、開拓公社側を煽るのが努力だと言うのか?」

「あの程度煽ったところで、あのデイモッジという男が意見を変えるはずも無い。それくらいは分かるだろう? だから我々がするべき努力は、より一層、彼が戦争阻止に注力する様に促す事だ。危機を煽れば、彼は事態が戦争へと傾く前に、自主的に動き出すだろうよ。我々だけで無く、もう一つ、そのために動く立場を増やせたというわけだ」

 戦争反対派を増やすだけで無く、反対派自体が積極的に動く状況を作り出す。それが出来る幸運が舞い込んできたから、ディンスレイはそのために動いたわけである。

 もっとも、口先だけの動きでしか無かったが。

「言葉だけで、相手がそんな都合良く動いてくれると思っているのか?」

「勿論、我々にとって都合良くはならないだろう。だが、それでも、何等かの形で戦争を止める努力をする人間はこれで増える。私達だって、見失わない様にしなければな? どういう状況であれ、戦争を阻止するというのが第一目標だ。その他が上手く行かなくても、些末な話だという事を」

 現実や世界が混沌としているのは何時も通り、だが、流れを生み出す事は出来る。ディンスレイ達にとって、今、武器となるのはその流れになるはずだ。

「……お前の考えは分かったが、やや性急なやり方にも映ったがな」

「かもな。焦るタイミングではあると個人的には思うが、それ以上に、他に気になる事も生まれてしまった。どうにもそれが頭を過って、手段を選んでいる場合じゃないと思えてしまったよ」

「他に気になる事だと? 開拓公社の動きにか?」

「いや、デイモッジ専務の、最初の態度がさ。彼は始め、何と言っていた? 確か、私達が戦争賛成派であるかの様に対応してきただろう?」

「ああ。それは確かに、俺にとっても意外だった。中央委員会での話を終え、今日、各組織に接触を始めたのが我々だ。態度云々をまだ、表に出していなかったはずだ」

 もし、本来あって然るべき状況を想定するなら、お前たちの立場などうなんだと聞いてくるのが自然だ。

 だが、そうでは無かった。

「そこへ深入りするのもまだ早いと思ったから、あえて言及しなかったが、開拓公社側が中央委員会絡みで、このタイミングに接触してくる相手と言えば、戦争を企む連中だという認識を持っている可能性がある」

「それはつまり……」

「ああ。我々以外に、裏で動いてる連中が既に居るぞ、この街は」

 その連中こそ、もしかしたら、この戦争における黒幕と言えるのかもしれない。

 断言など出来るはずも無いが、ディンスレイにはそんな予感の只中にあった。

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