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無限の大地と黒いエイ  作者: きーち
無限の大地と型を破る方法
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③ 食堂から診療所へ

 ガウマ国の医者を名乗る男に連れられてきた、彼の診療所。

 そこは意外な事に、街の中央では無くむしろ端。いや、街から外れた場所にあった。

「なんでも、水の流れが良い場所でこそ、本来医療を行うべき……なんだとか」

 建屋自体はガウマ国らしい水に浮く、船を建物の形にしたような、木と葉で作られた家であったが、内部の風通しが良いのか、どこか清々しさを感じる空気がそこにあった。

「ዕ፲፱ኣጣጤ、ጎቬፋKዸኝሿP፦」

「ふん? 言葉は分からんが、何と言ったかわかるぞ。容体はどうだと言った話だろう? 確かに、あの丸薬を飲んでから随分と良くなった」

 建屋の中、恐らくここがこの医者の診療所なのだろうが、そこに用意された椅子にディンスレイは座っていた。

 ディンスレイの視線は、部屋の隅に置かれた仕事机らしき物の上で何やら作業を続けて居る男に向けられていた。

 恐らく、薬を混ぜ合わせているのだと思うが……。

「あ、艦長。当たりです。このお医者さん、艦長の様子に寄って、調合する薬を変えるつもりらしくて……良くなったというのは、どれくらい良くなりましたか?」

「そうだな……今は我慢さえすれば、やせ我慢の笑みを浮かべられる程度ではあるが……」

「ら、ララリートさん……ま、まだ大分痛みが残ってるみたい……だから、そう伝えてあげて……」

 アンスィが患者の言葉を伝わりやすい言葉に翻訳してくれた様子。

 しかしディンスレイがこの国の医者と話をするのに、幾つ翻訳を挟む必要があるのやら。

「艦長、痛みに強いというより、流そうとしがちですもんねぇ。፼mቬ቎ዸ዆፯ጫ1p」

「ዬS፧፧ኗጥፈነፎ」

 ララリートの言葉が上手く伝わったのか、男の手つきが明らかに変わる。

 乳鉢に幾つかの材料を投入し、ゴリゴリと擦っている姿は、アンスィとはまた違った医者の姿を、ディンスレイに見せてくれていた。

 その効果については現在、ディンスレイの容体を考えれば、確かなものなのだろう。

「ጇሒ጖ሜኛፐቹቜ、ጶkጽደ፫gbg፛፮4ሀዌዊኜጒዶ、ዤሢሴaኄዹጷዅN……ሥD፵RሐጒቓY፡ኛፀIዉኧ፧ጞፗተሰ」

「うーんっと、最初に飲ませた薬は虫下しだそうで、とりあえず悪化する事はそれで無くなるでしょうけど、体内について傷を癒すには、本来、時間が掛かる……そうです?」

「虫下し。では私は、寄生虫か何かを飲んでしまったのか」

「な、生の貝なんて……食べるからですよぉ……ああ、多分、胃が荒らされたんでしょうね……確かに完治には……じ、時間が掛かるかと」

 それは困る。現状、胃に痛みが残ったままなのだ。もしや暫く粥生活か。これでも食事を楽しむ性質なのであるが……。

「ሇንኲዠዠኮ、ደቫዟኙዥፇ፹ሗ፣ቧቷጇ኱ጬ」

「えっ、本当ですか? その……これを飲めばすぐ治る……そうですよ?」

 ララリートは医者の男の言葉を翻訳するが、それはアンスィの方に向けられていた。

 二人の医者が、それぞれ違う答えを出して来たから、困惑しているのだろう。

「そ、そんなはず無いですよぉ! 身体の……う、内側ですけど、外傷なんですよ……? 怪我が治るのは、どうしたって、時間が掛かる……はずです」

「あの、それ伝えても良いんですか? アンスィさん?」

「は、はい。せ、説明を願いたい……です」

「分かりましたっ。ጉ኎ፏ2ቖቜ዗ሹውq፺ቝ、ዃeኽዸሐ?」

「1ኈ፣Yጙሺቧጆኁ? ቭኺበቢገጲጢቝaዕዠሞዅቬ፶ሰቶ5ዹEቸቪ፝ኅ3」

「ふんふん」

 何やら患者を置いて話が進んでいる気がする。

 分からない疾患に対して分からない療法を行われるというのは、なかなかにホラーな現場だと思うので、もう少し気を使って欲しいところだが。

「とりあえず、これを飲めば良いのだろうか? というかそもそも飲み薬なのか?」

「飲む薬ですけど、塗る薬でもあるので、一気に飲む様にとの事です」

「どういう事だそれは?」

 ララリートの能力を疑うわけでは無いが、それはそれとして何か翻訳間違いをしているのではないか。

「ሹሞL……ቕሒቧዎ፬ዓ፳qሧከቫጷጶሤቭይ቉፷ዯቦb」

「他国の人間に説明が難しいから、急ぎ治療したいのなら、とりあえず飲んでみる様に……と」

「だ、大丈夫……なんですかぁ、それ? わ、私としては、様子見をおススメす……か、艦長!?」

 アンスィの言葉を一旦無視する形で、実際に飲んでみる事にしたディンスレイ。

 医者二人、どちらの意見を聞くべきかについては迷うところであったが、一度目の治療で実際に腹の具合が良くなった前提に立てば、未知に挑む事の方が今は好みだった。

 あと、それを直接アンスィに伝えたら傷つきそうであったので、とりあえず話と事を進めた。

 その結果はと言えば……。

「苦い、ドロッとして、酷く飲み難そうなのに、不気味に喉を滑って行った……気色の悪い感覚だ」

「ほ、ほらー……」

「その感想、伝えても良いですか?」

「今のところ、主治医になってくれてるわけだからな。私の感想はそのまま伝えてくれ、ララリート君」

「はい。዁ፌፂገሻ፱bሎጘ፞ኲ፷ኈ、ዓዡ፮ዔ、7ቄጃሓ」

「ወኝሔ፺Rዿጨኺሹ」

「良く効く薬とはそういうものだと」

「り、理屈じゃない答え……じゃないですか? ね、ねぇ? か、艦長?」

「いや……うん。さっきまであった……痛みが消えていく……いや、消えたな、これは」

 薬が喉を通り、胃に届く感覚まで来たところで、そこにあった痛みを、薬を飲んだ感覚が包む様になり、そうして突然に、それら二つの感覚が消え去った。

 食堂で腹痛に襲われてから半刻と少ししか経っていない事を考えるに、驚きの即効力と言えるだろう。

 副作用があるのかが気になるところであるが、今は単純に凄いと感動しておくべきだろう。

 訝しむ仕事は、どうやらアンスィの方が担ってくれそうであるし。

「こ、これだけ早い効果となると……ほ、ほら、ある種の麻酔である可能性も……あります。痛みを感じ無いだけで……じ、実際はまだ傷が残ったまま……かも」

「船医殿? それを聞いて真っ先に不安になるのは、私という事を考慮に入れておいて欲しいんだが……」

「とりあえず聞いてみましょうか? ዟ5ጫPኛ、቏o኎ኜሬኀሆጟኊ፠ዪቤዔዉሷጚዔ?」

「……ፊጮኞ。ኂዣFችጠቀk፡ኃኬኄቪቆ዁」

 ララリートの質問に何かを返すと、医者の男は卓上に置かれた小さな刃物を手に取った。薬の素材を刻むのに使っていたものだろうが……。

「ララリート君。いったい医者殿はなんと?」

「その、見ていろと……」

 いったい何を? 聞く前に、医者の男は自らの手に刃物を当てて、軽く切った。

「ああっ……」

 驚いた声を上げたのは、その様子をディンスレイ以上に観察していたアンスィであった。そんな彼女に続き、ディンスレイも驚く事になる。

 医者の男が自ら切り付け、血が滲むその腕に、ディンスレイが飲んだ薬と同じものを塗りつけたのだ。

 別に塗りつけた事そのものに驚いたわけでは無い。

 それが塗られた瞬間、切り傷がすぐに消え去った事に驚いたのだ。

「むむ……これは……手品か何か……ではないのか? 船医殿?」

「わ、私の目で見ても、傷が塞がった様に……み、見えます」

 医者の男の方も、じっくり見せる様に、傷が治った腕をディンスレイ達の視界の高さまで持ち上げた。

 不安がる患者を安心させる行動なのだろう。暫くした後、男は腕を降ろして再び口を開いた。

「ዪቊፐሼዹረፄዋሎኬ8ግ」

「今度はなんと?」

「これである程度は治っただろうから、一旦はもう帰る様に……と」

「そうもいかん。というより、本題はこれからだ。うちの艦に一度寄って欲しい。見て貰いたい患者がいる。なぁ、船医殿?」

「わ、私については……い、一旦、判断を保留させていただいても……?」

「分かった。ただし、艦には来てくれる様には頼む。それで良いか?」

「ひ、瀕死の状態の患者を診る医者は……お、多い方が良いとは、考えます……」

 こうしてディンスレイ達側の判断は決まった。

 先ほどまで見た医療技術。シルフェニアの医療技術より上かどうかはまだ比較していないので分からないが、それでもシルフェニアの知らない技術があるというのは分かる。

 ならば、その違う観点から患者、レド・オーを診て貰うのは手段の一つなのだ。そもそもそれこそがガウマ国に来た理由でもある。

 もっとも、肝心の医者が頷いてくれるかどうかは未知数だ。

 実際、今、ララリートより言葉を翻訳して貰っている最中だが、男の表情は困ったと言ったものに変わっていく。

(これは……あまり良い答えは聞けそうに無いな)

 既にそんな予感がしているが、とりあえずララリートと男の会話の結果を待つ。

「あのあの、よろしいですか、艦長? 少し複雑な話なのですが」

「今回の件に関しては、幾らでも聞くよ、ララリート君。むしろ内容を省略せず話してくれ」

「ではその……まずこのお医者様、名前をウーフ師とおっしゃるみたいなんですが、患者を診る事自体は、別に構わないそうなんです」

「ほう、それは意外だな。いや、助かる話ではある」

 良い返事を期待出来ていなかった分、有難いと感じる。

 一方で、ララリートの様子からも、そんな上手い話では無さそうだった。

「それがその、わたしが分かる限りの病状を話すと、診る事は出来るけれど、治療は難しいかもしれないと……」

「そ、それはどこまで話したの? ど、毒により身体が消耗し、そ、その毒自体は……中和している……というのは話してくれてる……よね?」

「はい。あくまでアンスィさんから軽く聞いた内容を伝えただけなんですが、その内容だけでも、難しいみたいです」

「はっきり言って、試してみなければ分からんというくらいには驚いた光景があったと思うのだが……この医者殿は、何故そう思うんだ? 難しい話かもしれんが、そこを説明してくれなければ引くに引けん……」

「それはそうですよね……とりあえず伝えてみますっ」

 翻訳を挟むというのは、今回の旅でそれなりに慣れてはいたが、話題に寄っては焦れったさが生まれてしまうものだ。

 話の内容が医療に関わるものという事で、どうしたって話は専門的なものになる。

 ララリートも苦労しているのだろう。医者の男、ウーフ師と言葉のやり取りをする時間が増えていた。

 その時間を待つというのもやはり焦れるため、ディンスレイはアンスィへと話し掛ける。

「今のところ、船医殿が気になる点はあるか?」

「た、沢山有り過ぎる……というか……わ、私、やっぱり批判的に……なってますよねぇ……?」

「その点、自覚しているならむしろ安心だが……何か、思うところがあれば聞いておくぞ?」

 アンスィの反応が、先ほどまでの治療に懐疑的だったのを思い出しつつ、その理由も知っておきたかった。

 彼女の反応こそ、専門的な話において重要なのだ。だからこそ連れて来ている。

「お、思うところと言うと……や、やはり、私達の医療とは……方向性が違う……というのが、引っ掛かるところでして……彼らの医療……も、もしかしたら、先日話した、オルグの技術と親和性があるの……かもと思ってしまう自分を、否定したいと言いますか……?」

「ちょっと待て。聞き捨てならんぞ。ガウマ国にオルグの技術が流入しているというのか?」

 シルフェニアにおいては、比喩でも何でも無く神がかった技術としか思えないそれを、ガウマ国は所有しているというのか。

 そんなディンスレイの反応を否定する様に、アンスィは慌てて首を横に振った。

「ち、違うんですよぉ……お、オルグの技術を持っている……という話では無く……方向性が似ている……と言いますか」

「ふん? あれか? 内科的な技術が優先されているとか言った」

「は、はい。そ、それです。こ、この国の医療もまた……ひ、人の自然の治癒力と言いますか……そ、その点を重視しているような、そ、そんな印象を今……受けています。ぜんぜん、まだ、分からない段階ですけど……」

 アンスィは自信無さげであるが、医者としての知識がある以上、その手の印象は無視出来ないものだとディンスレイは思う。

 この国の医療技術はどの様なものか、さっそくアンスィは掴み始めている。そうも思うわけだが……。

「疑問として、その話に、船医殿が批判的になる理由が見えて来ないのだが?」

「で、ですので、は、恥ずかしい話なんですよぉ……。し、シルフェニアより進んだオルグの医療技術と……し、シルフェニアでは見た事の無い、が、ガウマ国の医療技術……。そ、その印象が似ているというのは……そ、その……・」

「シルフェニアの医療が、何か間違っているのかもと、そんな風に思うわけか」

「は、はい……そ、その通りです。ですから少し……私にも、傷つくプライドって……あ、あるんですねぇ……」

 ブラックテイルⅡに乗って旅をする人間に、その手の矜持が無いわけも無いだろう。

 ただ、ディンスレイは彼女に掛けてやる言葉が無かった。ディンスレイは医者では無い以上、医者としての彼女の判断は、ディンスレイより正確なものとなるのだから。

「とりあえず、今、我々はそもそも良く知らん側だ。答えだって出すのは、早急だと思うがな」

「か、かもですねぇ……わ、私も、むしろこれから多くを知りたいと思い……ます」

 今言える事と言えばこんなところなのだろう。そうこうしている内にララリートとウーフ師の会話は終わったらしい。

「艦長、治療が出来ない原因が分かりましたっ。すごく単純な話ですっ」

「うーむ。単純な割に、話が長かった気がするが」

 言いつつ、元気良さそうに報告してくるララリートに対して向き直る。今のところ、話は進展続きではあるが、これからはどうか。それは彼女の話を聞くまで分からない。

「話しが長くなったのは事情を聞いてたからで、患者を診れないのはもう単純に、お薬が無いから……だそうですよ?」

 ほらみろ、さっそく話が進まなくなった。




 ガウマ国の医療とは、その多くが、民間治療から出た薬学から端を発するものであるそうだ。

 元は効果があるのか無いのか分からない薬の採集と経験則の集積から始まり、区分け、研究が進む中で、傷をたちまちに塞ぐ軟膏や、体内に寄生する虫を、人体に無害のまま下す事が出来る飲み薬等を開発するに至った。

 それは良いが、こういう医療には幾つか問題もある。

 一つはその多くが経験則に寄るものだという事。

 薬というのは結局のところ、自然物と人体を反応させ、その効能を確認する事でしか有用なものは作り出せない。

 現代のガウマ国の医療が確立するまでにおいて、薬か毒かの判断の中で、多くの人間が犠牲になった歴史があるという。

 もっとも、それは薬学に限った話でも無いだろう。医療技術というは極論、人体実験に寄ってその多くが前進してきたのだ。薄暗い歴史というのはどこにでもあるものだ。

 だからその点に関しては、深入りするつもりが無いなら流してしまうに限る。

 今、ガウマ国へ訪れたディンスレイ達にとって重要となるのは、別の問題に関してだ。

「薬には当たり前に材料がいる。それが不足している……とはなぁ……」

 ウーフ師の診療所の別室を借り、ディンスレイは一人、愚痴を零していた。

 他の二人はウーフ師から話を聞いている最中……というより、アンスィが是非にガウマ国の医療技術について知見を聞きたいという事で、翻訳役のララリートも働き詰めになっている。

 あと一時間もしたらそろそろ休む様にと忠告を入れるつもりだが、今はディンスレイも得た情報を整理する時間に当てたかった。

(現在、ガウマ国では慢性的に医療物資が不足している。レド・オーという男の病状について、聞く限りにおいても必要となる薬の材料が足りん……か)

 専門家の話である以上、それを否定する事も出来ない。ディンスレイの治療だって、その不足気味の医療物資をわざわざ融通してくれたのだ。その点は恩すらあると言える。

 そもそも医者として患者を診る事自体は否定していないのだ。診たとしても、十分な治療は無理だろういう事を言われているのが現状だ。

(かなり痛いな。この国の誰に頼っても難しいという事だぞそれは。しかも、その物資不足には心当たりがある)

 このガウマ国の権力者達には、オヌ帝国の手が入っている。それは以前訪れた時に把握していた事だ。

 そうしてオヌ帝国は今、シルフェニアとの戦争中である。恐らく、医療物資としてガウマ国の薬が供与されていると見るべきだ。

(国の様子から考えるに、普通に買い取られているのだろうな。見返りがあるのだから不満も出ない。唯々、そのための物資だけが他国へ輸出され、国内で不足しがちになっている。そんなところか)

 ガウマ国とオヌ帝国の関係性については、もうどうしようも無いだろう。シルフェニア側だって余計な敵を増やしたくも無いだろうから、いちいち文句を言う筋合いだってない。

 重要なのは、ガウマ国そのものに薬が無いという点。我が侭を言ったところで、無いものは無いから、交渉の仕様が無かった。

「さて、どうしたものかな? ここで残念だったと諦めるか?」

 やはり一人で呟いてみる。これはこれで、頭を切り替える切欠になるのだ。

 だが、切り替えるより先に足音が聞こえて来たので振り返る。

 疲れた顔のアンスィとララリートの姿がそこにあった。

「おや、随分と早かったな。もう少しは喧々諤々と知識交流を進めていると予想していたが」

「う、ウーフ師が、きょ、今日はここまでで、か、艦長にこれを渡してくる様に……と」

 アンスィがそのままディンスレイに近づいて来て、手に持った皿を渡してくる。皿の中にはどろっとした何かとスプーンらしきものが一つ。

「これは……粥か?」

「み、みたいですねぇ……今日だけは食事に気を付けないと、せっかく使った薬の効能が無くなるから……だそうです」

「なるほど。確かにそれはそうだ」

 言われて、スプーンを使って粥を掬い、口に含む。

「……」

「艦長、どうしました? 美味しかったですか?」

 ララリートがきょとんとした顔で尋ねてくるのは、ディンスレイがしかめっ面を浮かべていたからだろう。

 この粥、酷く不味い。

「まあ……背に腹は代えられんからな。昼だってろくに食事を取れていないし、他に食うものも無ければ、こういう味だろうと食べておくのが……ふん?」

 皿の中身を口に入れるのを一旦止めて、ディンスレイは考える。良い案が浮かんで来たかもしれない。

「おお、艦長、何か悪だくみですか? 教えてくださいっ」

「そんな悪い顔をしていたかな、ララリート君。いや、だが、悪だくみの類ではあるか、これは」

 ガウマ国がオヌ帝国側という事なら、シルフェニアのディンスレイは敵という事になるのだから、この程度の悪だくみは構わないのでは?

 とりあえず自分にはそんな言い訳をしつつ、ディンスレイはまず粥入りの皿を空にしておく事にした。

 これからは自分の仕事で忙しくなる。食事を取るなら今この瞬間だ。

 ちなみにディンスレイが今回、ここに居るのは、ガウマ国の人間と交渉するためである。仕事というのは即ち、その手の事という事だ。


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