③ 見つめる先の違い
視界もブラックテイルⅡも大きく傾きつつ、その進路を変えていく。
相手の飛空船。いや、もはや飛空艦と呼んで良いだろうそれから射出された、一本の角を避けるための機動だった。
「何あれ!? 新兵器!?」
「こっちにとっては未知の兵器だが、向こうにとってはそうとも限らん……何にせよ、あのままだったらぶつかるところだった!」
艦を操舵しながらのミニセルの言葉にディンスレイは答えながら、頭と目を働かせ、次の一手を考える。
どう考えても今のは攻撃だろう。これからどうか仲良くお願いしますという握手には見えなかった。
ならば次の行動はどうするべきか。答えはすぐに見つかった。
「船速上げろ! あの角、追って来ているぞ!」
メインブリッジの窓の機能によりブラックテイルⅡの後方を確認する。
敵飛空艦から射出された角は、どうやら独自の推進装置を積んでいるらしい。
動き出したその角は、ブラックテイルⅡの軌道をなぞる様に再び接近してきていた。
「追尾型の攻撃でしょうか!? 攻性光線とも違う!?」
角から逃れるべく加速していくブラックテイルⅡの只中で、主任観測士のテリアンが問い掛けて来る。
そんな彼の疑問に対して、補佐観測士のララリートが言葉を発する。
「そういえば訓練校で習った事がありますっ。ある程度重さのある物体に、飛空艦に乗せる様な推進器を付けてぶつけるタイプの兵器も、空戦では検討された事があるとか!」
「その授業での結論はどうだった補佐観測士。こうじゃなかったか? 推進はさせても相手艦を追尾する様な自律機構が無ければ、現状では攻性光線の利点を越えないとな」
だからこそ、シルフェニアでは飛空艦に搭載される武装は攻性光線が殆どだ。
ブラックテイルⅡの主砲もまた、射出孔の角度を曲げて変えられるという工夫こそあれ、攻性光線が攻撃手段である事に変わり無い。
「じゃ、じゃあ、あれはそういう機能があるんでしょうか?」
「いや、恐らく……操舵士!」
「ええ、分かってる。この動き、あの角、小型飛空船のそれだわ!」
「中型の飛空船に、小型の飛空船を搭載しているんですか!?」
驚いた様なテリアンの言葉であったが、一方でディンスレイは副長のテグロアンの方を見た。
視線に気が付いたらしい副長はディンスレイに対して頷く。
「考えとしては有りです。この様な空戦の場合、持続力や火力は中型飛空艦に分がありますが、いざ接近状態になれば、射出された小型飛空船と射出した飛空艦の戦力は単純に1から2へ増やせる。無論、小回りは―――
副長の言葉の途中で、ブラックテイルⅡが揺れた。慣れたくも無い揺れであるが、実際に慣れたのですぐに理解出来た。
攻撃を受けての揺れだ。
「相手の小型飛空船から攻性光線による攻撃を確認。色は黄……出力は低めですが……」
「むざむざ被害を重ねる理由も無いだろう。操舵士、あれを引き剝がすか反撃か出来るか!」
「反撃は的が小さいのと、副長の言う通り小回りが利くから難しいんじゃないかしらね。最大船速はこっちが上でしょうから引き剥がす方は出来るでしょうけどっ」
再び艦が揺れた。今度は攻撃に寄るものではない。ブラックテイルⅡがまた大きく傾き、その方向を変えたのだ。
ミニセルによる操舵の影響だが、そこに文句は言わない。
彼女は攻性光線を咄嗟に避けたのだ。小型飛空船からのものではなく、それを射出した飛空艦からのものを。
「こういう戦術か! 一旦距離を置く様な動きだと、あちらに仕留められそうだな……」
「っていうか手慣れてる。この空域だってそうよ! 例の透明の壁、今ぶつかったら致命的だわ!」
ミニセルの言う通りだ。壁にぶつかる事そのものへのダメージは低いだろうが、その際に艦は揺れ、バランスを崩す。動きだって鈍くなるだろう。
敵飛空艦の良い的になるわけだ。
(あの透明な壁は単なる警報以外に、ここを奴らに優位な戦場とする効果があるらしい!)
こうなると壁そのものが透明である事も厄介だ。あちらは訓練だの遠隔での把握だので、透明な壁の位置とその位置に対して優位に動く方法を知っているだろうが、こちらはそれぞれの壁をじっくり見る余裕すら無い状態だ。
場所、数的有利、その二つが現在、ブラックテイルⅡの不利として働いているらしい。
「艦長! さっさと方針を決めて! このままじゃあ時間が経つ程追い詰められる!」
ミニセルがこう言って来るという事は、彼女の操舵の腕だけでは状況の打開は難しいという事だろう。
確かに、艦長である自分が案を出さなければならない状況だった。
(と言っても、正攻法は既に封じられているな。攻撃はこちらからというのは最初から無しだったが、それ以上に向こうに虚を突かれる形で先手を取られている)
搦め手で状況を脱する必要がありそうだ。だが、相手艦に遭遇したばかりの今の状況で、相手の何をどう搦めるというのか。
「尾部主砲……でなくても良いか。ミニセル君」
「何、艦長? 良い案あった?」
「あちらに透明な壁はあった事は憶えているな?」
「そりゃあ、あたしが直々に調べたけれど……」
「主任観測士も確かそうだったな? あれを発生させている装置の場所はここからでも確認出来るか?」
今度はテリアンに尋ねる。テリアンの方も困惑を表情で示しながら、とりあえずは頷いて来た。
「僕達が掘り起こしましたから、ここからでも見えますけど……」
「なら、引き金は君に任せる。その装置を撃て」
「破壊するって事ですか!?」
「その通り。時間は敵だ。外すなよ!」
ディンスレイの指示に表情は変わらないままであるが、テリアンは従って攻性光線の一射を放った。
その一射が、装置があったであろう地面に突き刺さり、土煙を上げるのを確認し次にミニセルに対してディンスレイは叫ぶ。
「壁があった方向へ進め! ミニセル君!」
「いきなりまたうちの艦長がやんちゃしたみたいだけど、了解!」
やんちゃと言うが、指示を出すよりなお早くブラックテイルⅡが突き進んでいた事を思うに、ミニセルはすぐにディンスレイの意図を察したのだろう。
相手は自らの戦術でブラックテイルⅡを型に嵌めようとしているのだから、その型のどこかを破らなければ始まらない。
そうして、実は破れる場所が一つあったのだ。本来、現状の空戦においては真実壁になるであろう透明な壁。
その発生装置の一つを、ディンスレイ達は短い調査時間の中で把握出来ていた。故にそこを潰せれば、文字通り壁に穴が出来る。
(ただそれだけの話ではあるが、それだけで型に嵌めようとしていた側は立て直しの時間を要する……はずだ)
そうでなければディンスレイの方が困る。
現実はと言えば、なんとか狙い通りに敵艦から距離を離す事には成功する。敵艦と敵小型飛空船両方の動きに無駄が生じたのだ。
ブラックテイルⅡの予想外の動きに連携がズレだと表現するべきだろうか。お互いが最適に動いていたからこそ、ブラックテイルⅡの動きは封じられていたが、その最適さが一度ズレた後、再び元に戻すのにブラックテイルⅡが逃げるまでの時間を要したらしい。
「あちらの二つ。どうやら相互の通信機能が無いか万全では無いらしいな」
「私達とて遠隔での通信機能は最新技術です。離れて戦闘速度で動き続ける二点を繋げる技術はあちらには無い……と考えるのが自然でしょう」
ブラックテイルⅡと同じく一旦は落ち着きを取り戻した副長がディンスレイの思考を伴う独り言に参加してきた。
いや、彼の場合はずっと同じ調子だったかもしれない。
「つまり、奇抜で性能だって良いのだろうが、隙が無いわけでも無いらしいな、相手艦は」
「ただし今、私達は危機を脱した状態であって、次に反撃か逃げるかを選ぶ必要があるかと」
「だな。副長はどちらが好みだ」
「ここで逃げるなら、そもそもオヌ帝国を追う任務など不可能でしょう?」
同感だ。あの艦はオヌ帝国の飛空艦である可能性が高い。いや、ここに至っては断言するべきだろう。
敵艦は躊躇なくブラックテイルⅡへ攻撃を仕掛けて来た。ブラックテイルⅡが彼らにとっての敵艦であると把握しているのだ。
南方諸国家群を抜けてオヌ帝国を捜索し続けるブラックテイルⅡの存在は、オヌ帝国の認知下にあると考えて相違あるまい。
ならば、ここに至っては退けぬ戦いであるという事。
むしろこう考えるべきだろう。
(この近くにあるな? オヌ帝国本国が)
だからこその透明な壁などという大胆で大規模な防衛機構に加え、飛空艦の即時投入などが出来る。
脅威だ。危機的状況だ。だがそれ以上に、ここでの勝利はブラックテイルⅡにとって得るものが多い。
「敵艦に向けて攻性光線射出。こっちからも攻めるぞ。ただし、出力は最低限ダメージを与えられる程度で良い」
「攻めるっていうのに中途半端じゃない?」
ミニセルの言葉を一旦置いて、攻撃を仕掛ける。タイミングが重要だった。
こちらが作った隙をまだ利用できるタイミングだったからだ。これで高出力の攻性光線を放っていたらその隙が無くなっていた事だろう。
速射させた攻性光線は敵艦が避ける隙を与えず、狙い通りに船体へぶつかり、無効化された。
「これを確認したかった。装甲が上等というより、やはり特殊な船体フィールドがあるらしいな、あちらの飛空艦は」
「バリア……確か整備班長はそう言ってましたよ」
テリアンの言葉をディンスレイは飲み込む。船体フィールドならぬ船体バリアと言ったところか。
思い出すのはオルグに改修されたブラックテイル号のそれ。あれも装甲以上の頑健さを船体周辺のフィールドに持たせるものであった。
「バリアに小型飛空船との連携、壁を一つ破壊出来たとは言え、未だ相手に有利な戦場。なかなかどうしてこちらの危機は引き続きだ」
「どうする? だったらやっぱり逃げる?」
「一度決めた事を、挑戦もせずに止める理由は無いな。ララリート補佐観測士、こういう状況であるとして、君ならどう打開する?」
「えっ!? わ、わたしですか!?」
「そう、さっきから聞く事に注力している様子だったのでな」
何時もの彼女ならもう少し多弁だ。知識に貪欲な時期だから、相応に質問を続けるのが彼女だ。
だが、今、この状況において彼女はずっと何かを考えていた。
「あの……敵艦の機能、すごく多く無いですか?」
「ほう」
メインブリッジのメンバーの大半はララリートの言葉に首を傾げるが、ディンスレイは頷いた。これはもしや、という感触があったからだ。
「確か、艦長に以前、聞いたんですけど、オヌ帝国艦には、驚異的な加速力も存在する……んですよね?」
「恐らく、今戦闘中の敵艦にもあるだろうな。やはり逃げた方が良いか……」
「いえ、やっぱり、出来る事が多すぎる気がします。あの……しっくり来ないんです。そんな都合の良い事ってありますか?」
「都合が良いって、事実としてそうだろ、ララリート補佐観測士」
「ううん。そうなんですよね。だから、間違ってるのかな……?」
テリアンに言われて、すぐに自信を無くしたらしいララリート。その点に関しては減点だ。
艦長をするというのなら、そこでハッタリだろうと胸を張るべきだ。
それに、彼女の言はハッタリなどでは無い。根拠にまだ届いていないだけだ。
「ララリート・イシイ補佐観測士の言葉は一考に値すると私は考える。最初、オヌ帝国艦と遭遇した時もその性能に驚いたものだが、付け入る隙があった」
その時はあくまで搭乗艦の性能もあって、ハッタリで相打ちに持ち込んだと言ったところだが、それでも相手艦に隙があったからこそ生き残れた。
その隙とは、つまり様々な機能を持つはずの敵艦が、その全性能を発揮出来ていないという点だった。
「その時からずっと、オヌ帝国艦についてを考えていたよ、二度目に遭遇した時もまた、その特殊な機能に寄って脅威となっていたが、その機能を発揮するに当たり……限界があるのじゃあないか?」
「その根拠もあると、そう考えている様ですね?」
「ああ、整備班長から聞いた話をまだ憶えているか、副長? あの透明な壁を発生させる装置についての印象についてだ」
「確か、装置に対する工夫が私達のそれより上回っているという話でしたか」
迫るオヌ帝国飛空艦に対して慌てる様に発艦準備をしたため、簡潔にしか報告を聞いていないが、十分に考慮の材料となる話を聞けた。ディンスレイはそう考えている。
「浮遊石の力そのものがこちらを上回っているんじゃあなく、その力を効率的に使えているという話だ。その手の技術こそ、敵飛空艦に多機能性を実現させている」
「私達が一の力で一を行うのに対して、彼らは一で三を行える技術を備えていると」
ディンスレイは頷いた。そうこうしているうちにブラックテイルⅡと敵艦、及び敵小型飛空船もまた間合いを測り始めた。こうなってしまうと、先の展望も無く迂闊に手出しは出来なくなるだろう。
また、何時までも放置していると、敵は二つ存在するのだから、間合いを詰められた時にブラックテイルⅡが不利になる。
「話を聞く限り、あたし達の方が危機じゃない? 今?」
「こちらが不利なのはずっと変わらんさ。ただし、付け入る隙は生まれた」
「一の力は……一の力でしかない……そっか。上手く扱えるだけで、他から持って来ているわけじゃあないから……」
「その通りだララリート君。敵艦は、その特異な機能の片方を発揮している限り、もう片方を扱えん。一度、それを見た事がある」
その時は、急加速の機能を発揮したせいで、船体バリアが張れていなかった。それがつまり、オヌ帝国艦の限界値であり、付け入る隙だ。
「じゃあ、こっちが逃げるフリをして、追って来るタイミングで攻撃する?」
ミニセルが操舵桿を強く握っている。だからディンスレイは笑った。
「それを一度やってな、既に警戒されている可能性もあるからおいそれと出来ん」
「あらら。じゃあどうするの?」
どうするもこうするも無いだろう。以前は相打ちだったが、今は頼りになる操舵士や船員が居る。
もっと上手くやってみせるのだ。
「突っ込むぞ! 相手に、こちらが自棄になったと思わせる勢いでだ!」
「了解!」
ブラックテイルⅡが急遽反転する。迫り、二つの船でブラックテイルⅡを囲もうとしていた敵艦が、二手に分かれる前の行動だ。
ここからは一分一秒の判断が重要になってくるだろう。
こちらが正面から接敵する以上、攻性光線の撃ち合いとなるはずだ。
故に艦は大きく揺れる。今度はダメージ覚悟の突撃なので、当たり前に激しい揺れだ。
「艦上部装甲に損傷ありますね、これ! 船体フィールドもそう持たない!」
テリアンの報告を聞いて、心でだろうなと返す。
撃ち合いならば、船体バリアのある敵艦が有利だ。敵艦側とて、待ち構える様にブラックテイルⅡへ攻撃を仕掛けているのだから、それを理解しているはず。
だから、敵艦はその機能を、ブラックテイルⅡの攻撃を船体バリアで耐えるという方法を取るだろう。それで我慢比べに勝てる目算があるのだからそうする。
そうして、そこに機能を費やす以上、その他の機能は落ちる。
「進路変更! 船体フィールドが破られる前に敵小型飛空船に向かえ!」
敵艦と正面から撃ち合えば、向こうの船体バリアに寄りこちらが負ける。負ける以上、勝てる方に挑ませて貰う。
「私の艦は逃げるフリも上手いが、ハッタリも上手いのでな!」
「褒められたもんじゃないですよね!」
テリアンの言う通りであるが、今はそれが役に立つ。
正面からの撃ち合い。勝てる戦いになったと油断した敵艦は、船体バリアに機能を回していたのだろう、咄嗟の動きが鈍くなる。
一方、その手の動き、機動性はブラックテイルⅡが得手とするものだった。
それこそ、同じく油断した動きを見せた小型飛空船に食らいつけるくらいに。
「尾部以外の全攻性光線射出!」
ディンスレイの指示により、ブラックテイルⅡの船体から幾条もの光線が放たれる。
小型飛空船である以上、飛空艦よりも出力は低いだろうが、それでも船体バリアと同じものが搭載されている可能性を考えて、注ぎ込める火力をそこに集中させた。
ブラックテイルⅡと比して小さな飛空船が光に包まれていく。破壊的な威力を持つその光が過ぎ去るのはそう長い事ではなかった。
その後に見えるのは、黒煙を上げながら大地へと落下していく小型飛空船の影。
(あまり良い眺めではないな。だが、戦いはまだ続いている!)
自ら撃墜した相手への意識は、すぐに次の相手、オヌ帝国飛空艦へと移る。
その角を折った形になる敵飛空艦側は、次に何をどう判断するのか。
その結論を相手が出すのと同時に、ディンスレイもまたその思考に行き着く。
「敵飛空艦、距離を開けるぞ! 全力で追ってみせろ! 敵飛空艦が居る場所なら、透明な壁も無いはずだ! 遠慮なく速度を出せ!」
「了解! 体勢を立て直させないつもりね!」
ミニセルの言う通り、敵艦は体勢を立て直そうとする。先ほどは小型飛空船を撃墜させられたが、それはやはり、まともに正面から撃ち合えない証左である。そう考えると踏んだ。
事実、二対一の状況から一対一の状況へ持ち込んだとしても、正面からの撃ち合いならばブラックテイルⅡが不利になるだろう。
再び距離を置いて、攻撃の撃ち合いになれば向こうの有利。故に敵艦はそれを選ぶ。だが、それは選択の間違いだとディンスレイは断言出来る。
(それでも、多少のダメージ覚悟で先ほどの状況を維持するべきだったろう? それだって、やはり攻撃の撃ち合いになる。動きはこちらに翻弄されたとしても、その防御性能に自信があるのなら、どっしりと構えるべきだった!)
だから……それを選ばずに立て直しのために移動を選んだ時点で敵艦の負けだ。
敵艦は……船体バリアに使っていた出力を急加速に使ったのだ。
ブラックテイルⅡとてその船速は相当なものだが、急加速のために浮遊石の推力を注ぎ込んだであろうオヌ帝国艦はその瞬間、なお早かった。
故にお互いの距離が開く。十分に距離が開けば、それはブラックテイルⅡが不利となる距離になるだろう。
だが、悲しいかなオヌ帝国艦の急加速には欠点がある。ディンスレイはそれを今、この瞬間に確信した。
(その機能は、真っ直ぐにしか進めないんだろう?)
だから、的としては丁度良い。この空戦において、勝敗を分けるのは艦の性能の使い所だ。
敵艦はその手札がブラックテイルⅡより多かったのだろうが、そのどれもを、決定打として使えなかった。
一方、ブラックテイルⅡは幾度かの危機の中でも、奥の手を温存出来ていた。
今、それを放つ。
「尾部主砲、発射!」
ディンスレイの叫びと共に、ブラックテイルⅡの主砲より赤黒き光線が放たれた。
船体バリアとて貫ける自信がある出力のそれは、急加速を続ける敵艦にも追い付き、刺し貫く。
推力にその力の使い所を回していたオヌ帝国艦は、船体バリアでの防御すら出来ず、その船体を抉られ、飛行能力を無くし、先に落下した自らの角である小型飛空船と同じく、大地へと沈んで行く。
「敵艦……撃破確認しましたっ」
補佐観測士からの報告を聞きながら、ディンスレイは吐き出しそうになった一息をあえて飲み込み、その緊張を維持した。
「諸君。とりあえずの勝利だ。まずは一勝目。恐らく、今後もこの様な危機が繰り返される。心して掛かってくれ」
安易に喜んだり油断したりはしない。それが今から必要な心構えであろうし、自ら撃沈した敵艦への、ディンスレイなりの誠意でもあった。




