① 見えていないのは壁だけか
南方諸国家群を進み、未知なる敵国、オヌ帝国を追うブラックテイルⅡは、オヌ帝国が存在する可能性が高いと目される方向へと、ワープと通常飛行を繰り返していた。
「と言っても直線の距離を考えるなら、そう遠く無い場所にあるはずなんだ。向こうはワープ技術を持っていない……はずだからな」
流れる空と大地の景色をメインブリッジで眺めながら、ブラックテイルⅡ艦長、ディンスレイ・オルド・クラレイスは呟いた。
幾つかの国と接触し、交流を深め、本国へ報告や情報の精査を頼む旅路。その旅路の中でオヌ帝国の居場所を掴んだ……とディンスレイは予想しているが、その実、未だ心の内では不安を抱えていた。
本当にその様な国は存在するのか? そんな不安だ。
「居場所を特定したとして、本当にそこに帝国と目される国があるのかどうか。その点を私は気にしています。艦長はどうですか?」
「副長もそう思うか」
都合良く、いや、タイミング的に狙ったのだろう。テグロアン・ムイーズ副長の方が疑問をディンスレイに投げかけて来た。
今の時点でしておかなければならない話題。だが、艦長からそれを始めると、弱気になっていると勘違いされかねない話題でもあった。
そこを上手くフォローしてくれるという事は、テグロアン副長も随分と艦内の空気を気にしてくれる様になったらしい。
「二人して弱気? ってわけでも無いのかしら?」
そう、この様にミニセル・マニアル操舵士みたいに、弱気になっていると思ってしまう船員も居るだろう。
だが、一度始まった以上はこの話を続けるべきだった。
「感覚的に、目的地に近づいている。そういう感触はあるのだよ、ミニセル君。ただ、近づく程に疑問符が浮かぶ」
「それってどういう疑問?」
「帝国と名乗る割に、支配下にある国を見掛けません。我々がオヌ帝国本国に近づいているのだとしたら、それは奇妙です」
副長の言う通りだった。
南方諸国家群を進む中で、幾つかの国と接触したが、そのどれもがシルフェニアに比して国力という意味では低く見える国が多かった。
土地の構造上、小国が乱立せざるを得ない地域であるから、そこは仕方ないと言える。シルフェニアの方が恵まれているのだ。
ただ問題は、まだ前哨戦程度の戦いとは言え、シルフェニア空軍とまともに戦える戦力をオヌ帝国が保有しているという事実だ。
「オヌ帝国とは南方諸国家群の中で突出した軍事力を得て、その軍事力を背景に複数の国を併合し、シルフェニアに比する国力を持つに至った国……だと私は予想していた。だが、今のところ、オヌ帝国に併合されたか支配されたかした国が見当たらない」
「そういえば内部から侵略を受けてる? そんな国ならあったけど、支配されてるって感じの国は確かに見かけなかったわね」
「その手の国を見つければ、まさに我々の旅のゴールでもあるはずだ。何せ支配下に置かれている国なら、それはオヌ帝国そのものとも言えるのだから」
本国を襲撃する謎の国を探るという目的はそれで果たされる。
だが、今のディンスレイ達はそのゴールに辿り着いて居ない。だからこそ未だに旅を続けて居るのである。
「個人的に気になるのは、その内部からの侵略です。最初にオヌ帝国の名前を知る事になったサオリ国にしてもそうですが、その後に接触した国でも、似た様な侵略を受けている国がありました」
「あー、なんか貴族層まるごとオヌ帝国関係者に乗っ取られてた国とかもあったわね。気付いて早々に退散する事になったじゃない?」
「はい。非常に賢いやり方です」
「性格悪いとかじゃなく?」
「そのどちらもだな。性格が悪いが、賢くもある」
他国を侵略する、支配するという行為に、直接ぶつかるという手段は損が多いのだ。
武力というのはつまり大量の資源と労力を消費して作り出すものであるのだから、それを使うという時点で損をする事になる。
賢いやり方というのは、その手の武力を使わない。ただ複数名の潜入者を用いて、内部から支配を受け入れさせるという方法という事だ。
無論、真正面からぶつからずに他国を支配下に置こうという性根そのものが、性格の悪いやり方とも言える。
「けどけど、あたし達シルフェニアに対しては正面からぶつかって来たわよ?」
「その点は、シルフェニアが相応に大国だからではないか? 内部からオヌ帝国を受け入れさせようとしても、広く複雑だからな」
「それもあるのでしょうが、思うに……」
何かを考える仕草をするテグロアン副長。この様な国の方針の機微の話になると、むしろ彼はディンスレイより詳しい部分がある。
なので、彼の言葉を待ち、さらに口が開かれるのを待ち望んだ。
「オヌ帝国は、シルフェニアに対しても、同じ力学をもって挑んできているのでは?」
「なによ、飛空艦で襲撃してくるのと政治に関係してくるのって、違うものじゃあないの?」
「我々の目からは違います。ですがオヌ帝国側としては同じなのでは? 例えばシルフェニアに対しても、武力を用いた上で、自らの存在は明かしていない。恐怖ですし脅威でもありますが、片手落ちだと感じる部分もあるかと」
例えば相手がどれほど恐ろしく強大な存在であったとしても、それに対して降伏なりが出来ないのならどうしようも無い。抗うしか無いとシルフェニアなら判断するだろう。
これはある種の、外交上の矛盾点だ。その手の矛盾が発生する理由があるとすれば。
「自らの立場を隠すのが強みになるという国としての文化が出来上がっている。だから他国への対応もそれに類するものになる。時には姿を現す事が効率的だ。という考えに至れない。そういう事か」
ディンスレイ達も、オヌ帝国のやり方は非効率と考えている。それがそもそも、シルフェニア的な考え方をしていると表現出来るかもしれない。
これはシルフェニアとオヌ帝国の考え方の違いであり、オヌ帝国を理解するための一助になるかもしれない。
「だったとしてよ? それであたし達は、どうするのよ」
「それは……まあ、今は進み続けるしか無いわけだが」
謎が目の前にあって、謎を解くために頭を悩ませる事は大事であろうが、悩むより前に進める場所があるなら、そっちを優先した方がマシだ。
立ち止まって考えるというのは、行く先が無い時の手段だろうから。
「現状、航空状況は順調と言えます。操舵士がこの様に雑談に参加出来るくらいには」
「なぁに副長さん? 嫌味?」
「いえ、これは事実の話で……」
「まあまあ二人とも。とりあえず、今は平和に目的の場所へと進めている。そういう事にして置こうじゃないか。ただ、こういう事を言っていると、問題が発生するのが常なんだが―――
瞬間、ブラックテイルⅡが大きく揺れた。
「言っている傍からこれだ!」
「メインブリッジ、警戒態勢。観測士は二人とも休息中ですが、呼び出しますか?」
「ああ、主任の方を頼む。ミニセル操舵士、何か見たか?」
「いいえ、向かってる先には何も見えなかった。今のところ、通常通りの航空も出来てる。けど、何かぶつかった衝撃よ? 今の」
衝撃こそあったが、船体自体は飛行を続けられる程度のダメージしか無かったという事か。
まず整備班に損害状況を確認させるべきかどうかを考えて、ミニセルからの報告の通り、航空に支障が無いのなら、他に優先すべき事があるという考えに至る。
「まずは状況把握だ。何かの攻撃……という事は……今の状況を思えば無くなっただろうな」
追撃が無い。攻撃を行って来た何かが居たとして、ブラックテイルⅡが未だ空を飛んでいる状況は、攻撃した側にとって放置するべきでは無いだろう。反撃が来るのだから。
「鳥でもぶつかったかしらね」
「船体を揺らす程の鳥か?」
「いるかもしれないでしょう? 大きな鳥が」
「なら、興味深い対象ではあるが……とりあえず現空域の変化がどの様な類のものか分かるまで待機だ。観測士の観測もしておきたい」
主任と補佐の二人ともに休養時間だった事が不運と言えるのかもしれない。こういう時に限って事件が起こる。いや、記憶に残るというだけかもしれないが……。
「こちら主任観測士! 休養時間を中断して現場に復帰します! すみません、遅れましたか!」
主任観測士のテリアン・ショウジがメインブリッジへとやってくる。そんな彼にディンスレイは首を振って答えた。
遅いどころか随分早い。恐らく、艦に揺れがあった時点でメインブリッジへと向かい始めたのだろう。
副長が先ほどした艦内通信での呼び出しだけではこうも迅速には動けない。
「主任観測士、現状、先ほどの揺れの原因が不明のままだ。君の目を頼りたい」
「了解しました。頼られるのって嬉しぃ! 前途有望ってやつだっつっとっ、なんなんです!?」
「だから! 不明だ!」
また艦が揺れた。そうしてまた、航空は続行中である。二度の揺れは、何かの攻撃の可能性を再び頭の中に浮かばせて来るものの、やはり何事も無く安定した飛行に戻ったブラックテイルⅡを思えば、もっと違う種類の現象では無いかと思わせてくる。
「あのさぁ、ごめん。さっきのはあたしのせいかも」
「何か操舵を誤ったというのか、ミニセル操舵士」
「そうじゃないけど、こう……今、あたし、待機って言われて、この空域を旋回する様な軌道を取らせたのよね、この艦に」
それがミニセルのミスだと言えるのか。ディンスレイは疑問に思うものの、ミニセルの感覚は無視出来ない要素の一つだ。
「主任観測士さん、これ、ちょっと艦の向かって左側、何か見えない? あたしの目じゃ分からないんだけど……何かある気がする」
「艦の左……ですか?」
言いながら、自身の席で観測機器を操作し、さらに言われた方を自らの目で観測し始めるテリアン。
一方のディンスレイは、ミニセルの言葉について考えていた。
「旋回していたから……つまり、この場所に見えない障害物があると君は考えているのか? ミニセル操舵士」
「障害物っていうか……なんていうの? カーテン?」
「カーテン?」
ディンスレイはつい聞き返してしまった。
ミニセルの感覚は無視出来ないが、言葉の用法については時々アテにならない時がある。
「いや、分かりますよ。あれですよね。向こうが物なら、ぶつかったらどっちかが跳ね返りますけど、衝撃があったうえでどっちもそのままっていうのは、カーテンみたいって事でしょう?」
ディンスレイより先に、テリアンがミニセルの言葉を理解したらしい。
「そうそう、それよ。その感じ。けど、自分で言っててなんだけど、カーテンって表現も変かもしれない」
「でしょうね。僕の目から見るとこれは……水面?」
「今度は水面と来たか。その心は?」
テリアンの言葉であれば、まだ信用出来る……と言いたいところであったが、それでも謎は謎のままだ。
「心っていうか、そのままですよ。艦長達も暫く見続けたら違和感に気が付くんじゃないかな。さっき操舵士が言っていた地点に、薄い……空気の層のズレみたいなのが見えますから」
さすがはブラックテイルⅡの主任観測士。言われた通りに示された方を見つめていると、ディンスレイも微かに違和感に気が付く。
見えないはずの空気が、揺れた様な気がしたのだ。本当に、わずかに、日の光を反射している。そういう風だった。
「あれにぶつかったのか……この艦は」
「それであたしが艦長の命令通りに空域に待機しようとして旋回した結果、もう一度ぶつかったわけね」
「確かな現象があった事は分かりました。何らかの自然現象か、それともまた違う異変か。何にせよ、もう少し観察しなければこれ以上は難しいかと」
「良い事を言った、副長。さっそく船内幹部会議を開くぞ。あれを避けるか、より観測するかだ。順調な旅路を邪魔してきた空気の壁と言ったところなのだから、幹部会議で取り扱いを決める必要がある」
それは出す結論がほぼ決まった会議では無いか?
そんな言葉を吐き出しそうな副長を横目に、ディンスレイはまず艦の着陸を指示する事に決めた。
未だブラックテイルⅡが無事であろうと、あの様な壁に何度もぶつかれば、無事で済まなくなる可能性がある。そういう判断が目の前の浪漫に隠れて存在していたから。
船内幹部会議での結論は予想通り決まりきったものであった。
ディンスレイの好み云々とは別に、目に見えない障害物があるというのは、今後の旅路において絶対に調べて置いた方が良い事象だったからだ。
今、ブラックテイルⅡが発見した地点だけの現象では無いかもしれない。そういう危機感が船内幹部の誰かの頭の浮かんだ時点で、それは議題に出され、やはり一度、詳しく調べてみなければならないという統一意見に至るのは目に見えていた。
なのでディンスレイは、メインブリッジで透明な壁を見た時点で、調査班の選定を頭の中で進めていた。
「調査班には、船内幹部のうち、操舵士と主任観測士、そうして整備班長を送る。無論、船内幹部を三人も危険な探索に向かわせるのかと思われるかもしれないが、探索ではなくあくまで調査だ。艦そのものを極力、あの透明な壁に近づけさせ、その近辺で君らには調査をして貰う」
「つまりもっとも近づくのは僕達ですけど、そもそも艦全体で壁を調べる方針になるわけですか。それは分かりました。けど、選定理由はどうしてです?」
艦の外に並んだ調査班の内の一人、テリアンが、さっそくディンスレイに質問を始めた。
他に調査班に選ばれた面々についても、同じような表情をディンスレイに向けている。
何もかも疑問に思っている……という事でも無いだろう。船内幹部三人が選ばれるというのは、それだけ注力するという事であり、その意味を問うているのだ。
「主任観測士は、透明な壁をもっとも良く見る事が出来る様子だからな。真っ先に君を選んだ。そうして、万が一に備えて探索慣れしているミニセル君も勿論選ぶ」
「うーん。十数分歩けば、例の壁の根本に辿り着けるんだから、過剰に思うけども」
ミニセルの疑問は、些か力を入れ過ぎではないかというものであるらしい。
ブラックテイルⅡは未踏の土地の真っ只中。人的資源はどうしたところで有限で貴重だ。何もかもに全力で挑むというのは、むしろ自らの首を絞めかねない。
そういう心配は確かにあるだろう。
だが、それでも全力を出さなければならないタイミングというのは存在するとディンスレイは考える。
「過剰かもしれない人員を投入する理由は、ガニ整備班長を参加させる理由にもなっていてな」
「オレを選んだって事は、なんとなく理由は気付いてますがね……つまり艦長は、その見えない壁が、機械か何かの仕業だって考えてるんでしょう?」
「正解だ、整備班長。ここは我々の予想が当たっているなら……それはオヌ帝国が関わる何かかもしれない。それを調べられるとしたら、あなたになるだろうから」
ディンスレイの言葉に反論こそ無かったが、渋い顔でガニは答えて来た。
気のせいであると責めているのでは無い。当たっていた場合、どうしたって厄介な事態になると気付いたからだろう。
「これが、選んだのが探索班であれば、慎重に事を進めろというわけだが……。今回、艦ごと近づけて、調査班として選んだのは他でも無い。迅速に調査に注力して、出来る限り答えを早く出して欲しいからだ」
「敵がもしかしたら今、この瞬間にも近づいてくるかも……って事だから?」
「話が早くて助かるよ、ミニセル君。私の一番の懸念は、あれがある種の……警報装置である場合だ」
あれに触れて艦は大きく揺れたが、それ以上に、何かの信号の様な物をオヌ帝国に送っている可能性だってあるだろう。
シルフェニアとて、遠く離れた距離に通信を繋ぐ技術を実験的に使用しているのだ。オヌ帝国側にも同じ技術が無いとも限らない。
「敵さんがやって来れば、すぐにでも艦に戻らなきゃなんねぇですね、オレ達も」
「ああ。だからそうなる前に、出来る限り情報を集めておきたい。今回の狙いはそれだ。答えを出す前にもまず多くの情報収集だ。なので主任観測士。君の働きも重要になってくる」
「どういう風にあれが見えるかって事ですね。分かりましたけど、プレッシャーだなぁ……」
船内幹部なのだから、それくらいのプレッシャーは抱えて貰う。
他のメンバーもだ。透明な、飛空艦が引っ掛かる程の大きさの壁を調べるというのは、ディンスレイだって好奇心を擽られるが、それとは別に、危険信号の様なものがディンスレイの中で鳴り続けているのだ。
「さぁ、諸君。今この瞬間も例外なく、時間は貴重で有限だ。さっそく調査を始めてくれ。こちらも艦の観測機器等使って、別方向から壁を調べてみよう」
兎に角、少しでも多くの情報を、少しでも早く収集したい。今のディンスレイの考えとはそういう物であった。
だからこそ、まるで押し出す様に調査班を出発させるのだ。
「で、実際のところお前さんらはどう思うよ」
調査班として出発したガニは、目的予定地に辿り着くまでの十数分の間に、艦長には言えぬ話を始めた。
「多少なりとも、焦ってる風ではあるわね、艦長」
珍しく、ガニの意見に賛同してくるミニセル。彼女は調査班の先頭に立ち、ガニに背中を見せながら、草地より剥き出しの土が目立つ平原を進んでいた。
そうして、それを追うガニ及び他の船員達。
「敵地に近い場所……っていうのはあるんですかね? 僕はまだ、その危機感っていうのが湧いて来ないというか……」
テリアンの素朴な言葉にガニは頷いた。
「ま、そういうもんだろうな」
ガニとて、何時もの艦長では無いと感じる部分があった。彼は何か空回っている。もしかしたら大きな失敗でもするのではないかという不安。
それを調査地へと辿り着く前に話しておきたかったのだ。
「そういう風に、艦長だけが突っ走っているってだけなら安心だけど、自分がブラックテイルⅡに乗る船員だっていうのなら、もう少し違う事も考えなきゃだって、思うところもあるわよ、あたし」
ガニの意見に賛同していた風だったミニセルだったが、さっそく、反論を始めた様子だ。
その様子に、むしろ安心する自分が居る。
「へぇ、じゃあ、いったい何を考えるべきだってんだ、嬢ちゃんはよ」
「だから嬢ちゃんは止めて。あたしは単に……艦長が正しくて、こっちが間違ってる場合ってのも考えるべきだと思ってるだけよ」
「オレ達が?」
「もし、本当にここがオヌ帝国の近くにあって、当たり前に焦らなきゃならない状況だったとしたら、あたし達の今は何?」
あたし達。つまり艦長以外の、艦長は焦り過ぎじゃないかと考える面々。
その現状を言われて考える。いったい、自分達はどういう感情の元に居るのか。それを問われているのだろう。
「……むしろ、危機感が足りないのは僕達かもってわけですか?」
ガニがその考えへ辿り着くより先に、テリアンが答える。
確かに、オヌ帝国が近くにあるという実感がガニには無い。無いからこそ、抱くべき危機感を抱けない。そういう考え方も出来るだろう。
「そうだったら皮肉だな。オレ達は今から見えない壁へと向かおうとしてる。もう本当にすぐそこに壁があるってのに、それが透明なせいで、まだまだ先にあると思っちまってる。それと同じ事が、オヌ帝国に対しても言えるわけだ」
気を引き締めるべきかもしれない。十数分の間に行う暇潰しに近い会話であったが、思ったよりも大げさな話をしてしまった気がする。
「……」
一度黙り、止まらず歩き続ける一行。次に出す話題に寄って、自分達の先行きが決まりそうな、そんな予感がしていた。
「皆さん、止まってください。一旦ここで調査しましょう。ここから迂闊に動けば、僕達が壁に触れますよ」
テリアンの言葉を聞くまでも無く、先行きは決まっていたのかもしれない。
何にせよ、この透明な壁を調べる事が、調査班に選ばれたガニ達にとっての先であろうから。




