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無限の大地と黒いエイ  作者: きーち
無限の大地と部下と見る景色
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幕間 ガニ・ゼインの冒険 中編

 ガニ・ゼインという男からブラックテイルⅡの整備班長という肩書きを無くせば、どこにでも居る頑固な中年男となる。

 その事を自覚している分だけ、自分はマシな方の中年男だと思うのだが、自称したところで他人からどう見られているかは知れたものではあるまい。

 何より今、ガニ自身が悩んでいるのは、自分自身がその手の不器用な男であるからこそ、観光地で何をするべきか分からないという点だ。

「ったく、どうしたもんかね? このまま海でも眺めてましたじゃあ、帰った時に笑われちまう」

 ディンスレイ艦長に二日間の休養を言い渡されたガニは、今、シャツと短パンに中折れ帽子というラフな格好で、砂浜にぼんやりと立っていた。

 押し寄せる波の音が耳に入って来る。その音を幾つ聞いたら、ブラックテイルⅡに戻る時間になるだろうかと思い始めるのは、随分と末期的だと自分でも思う。

(これなら、船内から幾つか備品でも持ってきておくべきだったか? 確かメインブリッジの椅子が何脚か調子がおかしいって話が……いやいやいや)

 すぐに頭が仕事に行ってしまう。普段であればそれが自分だと言い張れるところであるが、今回は二日間の気分転換をしなければ仕事に支障が出るぞと上司からの指摘があるのだ。

 恐らく、このガニの性格も込みで、それでも休めというのがディンスレイ艦長の命令なのだろう。

「あー、泳ぐってのも気分じゃねえし、昼から酒……あたりからやってみるか」

 短パンのポケットを探る。今回、休養を命じられた船員達に配られたこの国の紙幣が幾らかそこにあった。

 どういう交渉をしたのやら、このハナユンラという国との最初の外交交渉で、観光目的で滞在するための金銭を受け取ったらしい。

 恐らく、何らかの対価を用意したのだと思うが、その手の交渉事は門外漢のガニには分からない話だった。

 分かる事と言えば、二日程度は自堕落に過ごしても金に困らないという事。

 そういえば日々、真面目に急がして過ごしていた気がするから、気分転換をするというのならその自堕落さから始めてみるのも良いかもしれない。

(なんだかんだ、オレだって休日の過ごし方くらいあるんですよ艦長)

 自慢に思う事でも無いだろうが、とりあえず最初の目的くらいは見つけられた。

 確かおススメの店は緑のぎざぎざした看板の店だったか。この浜辺に来るまでに一軒見掛けた気がする。

 何時までも浜辺に向かうより、その店でボディランゲージによる酒の注文を挑んでみようと心に決めた瞬間、変わった音が耳に入って来た。

「……」

 とりあえず、その音を聞いた瞬間に思った事は、聞かなかった事にしようかというものだった。

 恐らく、その音に近寄れば面倒な事になる。そんなタイプの音だったからだ。

「……」

 そうして周囲を見渡す。誰もさっきの音が聞こえなかったのか? それともガニと同様に、聞かなかった事にしているのか。

 だが、またその音が聞こえて来る。二度だぞ二度。二度もその音、女の悲鳴を聞き逃すのか?

「ああくそっ、この国の人間ってのはどいつもこいつも薄情なのかねぇ!」

 どすどすと重い身体をガニは走らせる。

 女の悲鳴が聞こえた場所はそう遠い場所ではなかった。

 ガニが立っていた場所とは少し離れた浜辺の端。幾つかの大きな黒い岩が砂から飛び出た、そんな光景の只中にあった。

 岩に背を預けた女が一人。そうして、その女を岩に背を預けさせるまでに追い詰めている、体格の良い男が三人程。

 女は水着の様な軽装であり、一方で男達は浜辺に似つかわしくない白い長袖長ズボンを着込んでいる。

 どう見ても真っ当な光景では無いし、どうやら女が発しているのは悲鳴というよりは助けてという言葉に聞こえた。いや、その言葉がガニには分からないのだが。

(どうしたもんなんだ? こりゃあよ?)

 頭で困惑しつつも、身体は女を囲む男達へと近付いていく。どうにも正義感とやらは所有者を危険な場所へ向かわせがちらしい。

「おい、あんたら、ちょっと良いかい?」

 女の方に視線を向けていたからか、男達はガニに肩を掴まれるまで気付かなかったらしい。

 漸くガニの方へ振り向いて来た男は、ガニに何かを話し掛けて来る。

「቟ጣቝዝዦጷ? ኜዡኆg፮ጇኘ!」

 分からない。さっぱり分からない。向こうもそれを理解してくれないだろうか。

 だいたいガニは奇特な技能も変質的な知識も持っていないただの整備士だ。どうして他国の言葉でまくし立てられて、それを上手く受け止められるというのか。

 だからさっさと、自分の考えと感性で動く事にした。

「悪いな、兄ちゃん」

「Yጵ!?」

 伝わるはずも無い謝罪を言葉にしつつ、叫んで来た男の足を引っかける。

 軍隊で学ぶ護身術の一つであるが、転ばすだけでそれ以上の効果は無い。効果を発揮させるのはこの後だ。

「ほら! ここ空いたぞ! さっさと逃げな!」

 囲まれていた女の方に叫ぶ。やはり言葉は伝わっていないだろうが、ガニ自身も身体を横に退ければ意味の方はすぐに伝わるだろう。

 というか、すぐ伝わってくれないとこの後が困る。

 ガニだってさっさと逃げる必要があるからだ。いきなり起こった事に、他の男二人が反応を示す前に。

「ኈኂዩኩተ፬ዘ!」

「おっとその調子だ!」

 女が走り出したので、それと並行してガニも走り出した。男達も漸く状況に対応して追って来るから、まだ逃げ切れたわけでも無いだろう。

 なのでもう少し、逃げる女に手を貸す必要があった。

「おい嬢ちゃん。こっちだこっち! 浜辺の方じゃねぇ!」

「ቒኀቸ!?」

 困惑の声を上げている女。長く茶色い髪を振り乱す姿は相応に必死さがある事を伝えて来るが、的外れな場所に向けて逃げたって仕方ない。

 それにガニは逃げ足に自信が無いのである。

「逃げるならな、走りやすい場所じゃなくて真っ直ぐ走り難い場所の方が良いんだ。さらに言えば、身を隠せられる場所が良い」

 やはり何を言っているか分からないだろうが、ガニは逃げる先を誘導する。

 追って来ている男達だって、どういう事情か本気の様子だった。単なるナンパ目的でも無さそうである。

 そうであれば、見晴らしの良い浜辺を走り続けるのは不味い。ガニか女の方の体力が尽きる。

 なので向かう先は浜辺では無く街の方。観光地という事で人がごった返す商業区画であった。

 砂まみれの足も気にせず、人目だって引く事になるが、構わず女と共に人混みに身体を滑り込ませていく。

 人間、身を隠すなら人の中である。多少は目立つかもしれないが、追っている人間を見逃す事だってあるだろう。

 それに、建物が多い方が身を潜ませられる場所も多いのだ。

 それらの状況を狙い、ガニは近くの店に入る事にした。追って来る男達が、一瞬でもガニ達の姿を見失ってくれている事を期待しながら。

 こちらは幸運という事でも無いだろうが、選ばずに入ったその店は、元々向かう予定だった例の看板の店であった。

 明らかに他国の人間であるガニが慌てた様子で入って来ても、愛想良く席へと案内してくれる。

 言葉では無く、正しく身体の動きでカウンター席かテーブル席かを選ぶよう促して来たので、ガニはテーブル席を選んだ。何時でも周囲の様子を伺える様にだ。

 それに一緒に逃げていた女がまだ隣に立っている。ならば二人で対面出来る席が丁度良いだろう。

「Yጵጯ……ጶiዏጱኤቚጇ?」

 恐らく、ここで大丈夫か? とか、あなた何者? 的な事を聞かれているのだろう。それ以外を話し掛けられていてもガニには分からないのでそういう事にしておく。

 ただ言葉を返す事も出来ないため、ガニはさっさと案内された席に向かい、椅子に座る。

「ほら、とりあえず嬢ちゃんも一旦座ったらどうだ」

 その女を嬢ちゃんと呼んだせいか、どこぞの操舵士を思い出してしまった。

 確かこの女も同じくらいの年代に見える。いや、それよりも少し若いか? 種族として若作りでは無ければだ。

「ጨሁዂ቙ሂ……」

 女は例の操舵士と違って、大人しくガニの誘導に従ってくれる。

 それとも、言葉が分からないだけで、さっきからひたすら悪態を吐かれているだけかもしれないが、そこは気にしたって仕方あるまい。

「とりあえず、すぐに血相を変えた連中が店に飛び込んで来ないところを見るに、向こうはこっちを見失ってるよ。ほら、奢ってやるから何か頼みな。ちゃんと絵でメニューが描かれてるだろう? オレはこれで頼む。あんたは?」

 店員にステーキらしき絵を指差す事で注文する。一方、困惑している顔を浮かべたままの女の方は、暫くして、また口を開いた。

「፳፴、፳፴ኛጢ቙u……」

「ዃኼ኿ቢሽrሟ፻」

 女は店員に対して話し掛け、店員も同じ言葉で返す。どうやら、女はこの国の人間であるらしい。

「まあ、どっちでも良いか。とりあえずこれで一応、助けたって事だから、後は好きにしな嬢ちゃん。こっちは休暇の最中でな。今日はもうこれ以上働かねぇって決めてる」

「ሐሮካዂ፞ሚ、፵ኛQሹ?」

「おーおーそれそれ。それだ。意味わかんないがそれだ」

 面倒事に自分から足を向けたガニであったが、これっきりにしたい気分が上回って来ていた。

 だいたい言葉も通じない初対面の相手を助けるという状況そのものが、もう足を踏み入れ過ぎなのだ。

 これ以上何かをするのは、もっと面倒かつ無益な事になるだけだろう。

「ቊ0ኢጚዸ፫ጃሇ……ሿፋቭዳዹቁሖኑቦል!」

「いやー……そのだな」

 今、面倒な事に実際になっている。そんな気がして来た。

 というより、なんで男に囲まれた状況から脱したこの状況で、この女はさっさと立ち去らない? 礼の一言の後に、ただ見送るだけの準備がガニには出来ているというのに。

「ዋE዗bXUሩ፸! ኪሶጻፄuጥቿ!」

 それどころか、何故か女は感情が盛り上がって来たらしく、ガニに何かを伝えようとしてきていた。いや、だからさっぱり分からないのだが。

「ዜፁቷቼ጖レ……ヘቷቼレ!」

「へ、何だって?」

 聞き返すガニに対して、女は自らの胸元に手を置きながら再び叫んで来た。

「ヘイレ!」

「……あー、もしかして、ヘイレって名前なのか? あんた……ヘイレ?」

「ዷጀ፡ሊ! ヘイレ!」

 頷く女を見るに、正解らしい。ヘイレ。変わった名前ではあるまい。多分。そこはかとなく身嗜みも良いので、似合っている名前なのかもしれない。恐らく。

「こっちは、ガニって名前だ。ガニ。分かるか?」

「K዁቗ሊ……ガニ?」

「そう、ガニだ。よろしくな! うん? よろしく?」

 何か、するべきでない深入りをしてしまった気がする。

 そんな嫌な予感がしたから、気のせいだと思い込もうとして、次にガニは注文したステーキを心待ちにする事に決めた。

 頭の中であの艦長が、嫌な予感なんてものはそれが本当に嫌な気分になるなら予感じゃなくて確定事項だ。みたいな事を言って来るのも無視する。

 漸くやってきたステーキが、実は変わった色をした野菜炒めだった事も、悪い事態に陥る前兆などと思えて来たものの、それを今、この瞬間だけは目を逸らす事にしたのである。




「ガニ! ガニ! ሢhይሉኰ!」

 食事を終えて店を出たガニに待っていたのは、ヘイレを名乗った女の先導であった。

 まだ日が明るい空の下を、ガニは妙に元気になっているヘイレに連れられて歩いている最中である。

「いや、なんでこうなっている?」

 少し前までの予定は、ヘイラをさっさと送り出してから、あのおススメされた割には飯が不味かった店で酔っ払っているはずだった。そうするつもりだったのに、今、何故か厄介事は継続中である。

 原因に心当たりは……いや、あるにはある。目の前の問題から目を背けた時点で、流れに逆らえない身になったのだろう。

「くそっ。そうだよな。面倒な事に巻き込んでくる連中を相手にするなら、ちゃんと意識して嫌だぞって言うべきなんだよ。これまで散々学んで来ただろうに」

 その手の連中がブラックテイルⅡには多いので、ガニは経験則としてそれを知っていたはずなのだ。

 問題があるとすれば、このヘイラという女もまた、その面倒に巻き込んで来るタイプの人間であった事。

(そういうのはオレじゃなく、別の奴でも良かっただろうに。好き好んで巻き込まれる奴の方がブラックテイルⅡには多いだろうよ!)

 心の中で後悔し続けるガニであったが、心の中で何を思ったところで、目の前の現実は一切都合良くならない事もまた、経験で知っていた。

「いや? 待てよ? ここでいっそ逃げるってのも出来るんじゃあ―――

「ガニ! K፪ፇኵሻ3ጸላኁ6ቑ!」

 逃げを行動に出すより先に、ヘイレがガニの方を向いて、さらに腕を引っ張って来る。

 これで逃げられなくなった。なんというかこのヘイレという女、もしかして勘が鋭いのか?

「そもそも、オレをどこに連れて行くつもりなんだよ。言っとくが、これでもあんまり荒事には向いて無いんだからなオレは。インドア派なんだよ」

 などと率直に言ったところで、相手に通じていないのだから意味が無い。自分の押しの弱さに後悔していると、どうやら目的地に辿り着いたらしい。

「ガニ! ፬Hቌዬ!」

「お前さん、オレをガニって呼べばなんでも気持ちが通じると思っちゃいないか? だいたいここだってどういう場所か……氷菓子屋か? ここ?」

 露店というかもはや屋台か。折り畳みが出来る看板と幾つもの氷菓子が置かれた机。その周囲に置かれた官位的な椅子。そんな店がそこにあった。

 店に並べられたその氷菓子をどう呼ぶかどうか分からないが、冷えた丸い、恐らく食べられる何かしらである事はディンスレイにも分かった。

 幾つかの椀が用意され、そこに色とりどり氷菓子が入っている事を考えれば、まあその手の店である事が分かる。周囲に客が居てそれを口に運んでいる事から、実はガニの完全な勘違いで、爆発物を売っている店というわけでも無さそうだ。

「ガニ!」

「もしかして奢れってか? というか遂にガニ以外を言わなくなって来たな? おい?」

 あれだろうか。もしかしてこの親父は食べ物を奢ってくれる男だと認知されたか。この国には一度食事を奢るとその後にたかっても良いという文化でもあるのだろうか。

「……これが最後だからな」

 とりあえず、今、ここで奢るのは面倒事を終らせるための手続きみたいなものだと自分を納得させ、店員から氷菓子を二つ購入する。

 ここでもボディランゲージで何とかなるから便利であるが、出来れば隣の女にもうこれでさよならだという意思を伝えるサービスもあれば嬉しい。

(しかし、なんなんだこいつは……)

 二つ受け取った椀のうち一つをヘイレに渡しつつ、ガニは考える。

 ただの厚顔無恥な女。それが変な男連中の怒りを買って追い詰められていたところを、ガニが助けてしまった。

 そんなところであればまだ納得出来るが、やはり話せないので謎のままであった。

 いっそ、この氷菓子をさっさと食べ終え、ヘイレを置いて立ち去ってみるか……。

「そうだな、そうした方が……うわっ、なんだこれ。辛っ。おい、氷菓子じゃないのかこれ、なんで甘く無いんだ。もしかしてオレを嵌め……いや、違うみたいだけどよ……」

 美味しそうにこの辛い氷菓子を食べているヘイレを見るに、この味がこの国の普通であるらしい。

「不味いわけじゃあねえんだけどよ……こういうのも、未知の国との出会いってやつなのかー?」

 良く、ディンスレイ艦長がしているやつだ。何時もブラックテイルⅡの機関室に籠っているガニからしたら、関係者ではあるのに他人事にも思えていたそれ。

 今、それをする番がガニにやってきたというのか。

「いや、悪いがそういうのも今、この瞬間までって……おいおい、なんでまだあいつら探してやがる?」

 食べ終えた氷菓子が入って居た椀を店主に返しつつ、人混みの向こうにいるあの白服の男達に身構える。

 まだガニ達を見つけたわけでは無いだろうが、頻繁に街を、いや、そこに居る人間達の顔を確認している姿を見れば、ガニ達を発見するのにそう時間は掛からないだろう。

「……ガニ」

 ヘイレの方も男達の姿に気が付いたらしい。すぐにガニの傍に寄って来た事を考えるに、ただ飯を奢るだけの男という扱いでは無かった様子。

(つまり、オレはボディガードか何かって事か? おい?)

 顔は強面の方であるし、軍人としての訓練は受けた身であるが、平均よりまあマシ程度だ。本当に、その手の荒事を生業とする男数人に囲まれでもすれば、たちまち地面に倒れ伏す。その程度の男なのだ。

 そこをこのヘイレという女は分かって居るのだろうか。第一、腕っぷし云々以前に、ヘイレを助けるつもりだって無い男なのだぞ? 

 最初の一回は、ただ自分が一端の男である事を証明するため、飯を奢るのだって、面倒事を増やさない様にするため。

 後はもう、どうにでもなれという気分でしか無い。そんな男だ。

 そんな、何をする気も無かったガニがどうしてわざわざセイレの手を引いていたか。それが分からない。

 あの男達から逃げたいなら、さっさとこの場を離れた方が良い。そんな風にヘイレの手に触れた理由が、ガニ自身にもさっぱり分からなかった。

「ガニ!」

 そう話し掛けて来るヘイレの声が、どこか安堵が混じっていた事。別にそれが理由では無いだろう。

 多分、ヘイレが不安そうに、ポケットから取り出した、金属質の何かが気になったのだろうさ。

 恐らく、何かの細工物。どういう目的で使うもので、どういう構造をいているのか。一見するだけで分かるはずも無いのであるが、この国独自の何かではあるはずだ。

 その仕組みが、整備士として気になった。後で調べさせてくれないか。それくらいの恩はあるだろう。

 一度、調べさせてくれやしないか。

 そういえば、ヘイレ自身がいったいどういう立場なのかも気になる。お互いの名前以外の言葉は通じないままだが、この疑問を解くには、彼女に付き合うしかあるまい。

 そんな理屈を幾つか、頭の中で並べ立て、恐らくそのどれかだろうとガニは納得する事にした。きっとその方が良いと考えたからだ。

 単なる親切心で、このヘイレという女が可哀想だから助けてやりたい? そんな気持ちで休暇を無駄にしたのか。

 後になってブラックテイルⅡの船員の誰かしらにそう聞かれた時、もっとガニらしい理屈の一つや二つがあるのだと言い返すために、ガニは自分で考えた打算を、これ以降の目的にする事にしたのである。

「ヘイレ」

 そうして、ヘイレと同じく、ガニも相手の名前だけで自らの意図を伝えようと試みる。

 とりあえずここから今のうちに逃げるぞ。そういう感情を込めたつもりだったその言葉に、ヘイレは反応し、彼女はガニに手を引かれるまま走り出したのだった。

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