幕間 ガニ・ゼインの冒険 前編
ブラックテイルⅡのオヌ帝国を追う旅において、その幸先は良いものだったと表現出来るだろう。
その先兵と言える存在とぶつかったり、現地住民との諍いはあったとしても、結果として、手掛りとなる情報を知ったり、さらに次の旅程の助けとなる地図を得る事が出来たからだ。
確かに前に進んでいる。そういう気持ちになれる成果があったのである。
つまり、運が良かった。大雑把に言ってしまうならそういう言葉になるだろうか。
その手の言葉に、ただの運で片付けるな。それぞれが最善を尽くした結果だという反論だってあるかもしれない。
ただ、世の中の常について話をするなら、運が良い時期は何時までも続かない。悪い時だってあるものだ。最善を尽くしたって、全力で頑張ったって、どうしようも無い状況というのもあるのだから。
「つまり、食堂で食事中の艦長に対して愚痴を言ったところで、艦長だってどうしようも無い事があるわけだ。分かってくれるだろうか」
「オレが言いたいのは、そういう運だのなんだのの話じゃねえんですよ、艦長」
未だオヌ帝国を追う旅の最中のブラックテイルⅡ。その食堂。
カンガサという種族が住む浮島から離れ、さらに幾つかの国とも接触したそんな日々の途上での出来事。
珍しい事に、ブラックテイルⅡの整備班長であるガニ・ゼインが同席を求めて来たのだ。
しかし残念な事に、船内幹部同士、楽しく一緒に食事でも。という気分では無かったらしい。
彼は彼が良く頼む大きな腸の肉詰めに、フォークを不機嫌そうに突き刺しながら、話を進めて来る。
「何の話かって、整備班の士気の話をしてんですよ。オレ達が扱うのは、ちょっとでも整備や調整に気を抜けば、何が起こるか分かったもんじゃあないワープ装置だ。例えばワープの要である高純度の浮遊石は、その力が少しでも余所に向けば、船体そのものを破壊する危険性だって常にある。その手の危険性と、常に戦い続けているのがオレ達なんです」
「そこは理解しているよ、整備班長。君らが居なければ、あれを十分に動かす事も出来んから、言ってみれば整備班はブラックテイルⅡの柱だ。それも随分と太く逞しいな。もし他の船員から悪く見られているというのなら、改善を図りたいところだが……」
実際、整備班の待遇の話ならば、まさに艦長が考えるべき重大な問題だった。何なら、食堂での世間話でする話では無く、船内幹部会議を開く程の話だとすら思う。
もっとも、今はそういう話では無いというのは、ガニ整備班長に言われなくても分かっていた。
「違いますって艦長。立場なんかの話は、そりゃあオレにだって文句はある。あるが、管理側としちゃあ仕方ない部分と、十分だと思う部分もあります。だからそういう話じゃなくてですなぁ……」
「慣れが生まれてしまっているんだろう? ワープ装置は細心の注意を払うべき物なのに、それを扱う整備班員が、日常の中に置き始めていると。整備班長の危機感も分からなくは無いが……」
「気の弛みって言うんですよこれは。しかも、オレが怒鳴ったって、すぐに治らないから厄介だ。それもこれも、最近のブラックテイルⅡに、騒動が無いってのが問題だ」
「無茶を言うな整備班長。だいたいあなたはその手の騒動を嫌う側だろう」
「分かっちゃ居ます。分かっちゃ居ますよ? 普段のオレなら言わない様な事を言ってる。だからこそ、やっぱり問題なんでしょうや? ここ最近の出来事を言うなら、ワープした先の国と、幾つも接触を続けますよね?」
整備班長の言葉に頷く。ついでにスクランブルエッグをフォークで掬って口に運ぶ。合間を見つけて食事を続けなければ、何時まで経っても終わらなさそうだったからだ。食事も話も。
「南方諸国家を進んでいる以上、最近は未知の国との出会いが多くなってきているな。なかなか緊張感のある仕事だと思うが……」
「だが、それにしたって慣れが生まれてる。違いますかい? ほら例の、なんとかいうふざけた連中が居たでしょう」
「どの国の事だ? 直近だと確かタフコを自称する種族の国……名前は確かコーヤーとか言った国を思い出すが……」
「それ! それですよ!」
気安いというか何というか、ガニ整備班長はディンスレイを指差してくる。
そこに文句なんて言わないから、猶更、気安い関係になっていくのかもしれない。だって今は文句より食事が優先だ。
「ありゃあなんですか? 滞在中に国に昔から伝承されるすごい石があるって話を聞いて、わざわざ共同で探索班を作って調査したら、山の中に四角い石があるだけでしたとか」
「ただの四角い石じゃあないぞ。白い……四角い石だ」
「だから何なんですかって話でしょうが! 無駄骨になったってんで、あれでこっちの空気が大分緩んじまった」
「もしかしたら、我々が未発見のタイプの浮遊石かもしれないなんて盛り上がった後だったからなぁ。いや、それはそれで、楽しい冒険だったと探索班からの報告もあったが」
「それ、探索班の連中だって気が緩み始めてんでしょうが」
確かに、指摘されればそういう部分がある様な気もしてくる。
ディンスレイは自分自身でこの状況を慣れと言ったか。
シルフェニア本国を襲う敵国を調査するという危険と隣り合わせの任務である事を、船員達はどこか忘れがちになっているのではないか。いや、無意識的に忘れようとすらしている可能性もある。
そこまで考えたので、食事の手を止めた。
物事の優先順位が変わったと思ったからだ。
「ふーむ。根本的な原因について、ガニ整備班長はどこにあると思う?」
「だから最初に言ったでしょう? ここ最近のブラックテイルⅡは空回ってばかりだ。つまりその……」
「運が悪い。結局、そういう話になるか」
「しかしねぇ……」
そこに原因を求めると、何も出来なくなるから、整備班長も悩んでいるのかもしれない。
「分かった。整備班長の話は受け入れるよ。私も何か手段を考えておく。ただ今は……食事に集中しよう。お互い、何時まで経っても終わらん」
そう言ってから、ディンスレイは残った朝食を平らげ始めた。
朝からなかなかハードな食事になった気がする。
「整備班長の懸念はもっともだと思う。何らかの成果が無い状況が続けば、艦の士気が減退するというのは当たり前の話だからな」
朝食を終え、メインブリッジでの仕事に戻ったディンスレイは、本日の議題だとばかりに食堂での話を始めた。
話を向ける相手は副長のテグロアン・ムイーズと補佐観測士のララリート・イシイに対して。
操舵士と主任観測士の二人は現在休息時間中でブリッジには居なかった。
「ええっと……士気が低くなるって、どんな感じなのでしょうか? 気落ちしたり?」
かなり根本的な疑問をララリートに向けられるディンスレイ。そういえば最近は随分と立派にしている彼女であるが、まだまだ新人も新人である事を思い出す。
「まあ、ララリート君は若いからな。その手の話とは無縁か」
「若さに関しては艦長とて同じでしょう」
副長はそう言うが、あくまで地位に見合ってない年齢というくらいではないか? そんな風に思っていると、考えでも読んで来たのか、呆れた様な表情を向けられた。
いや、何時も通りの表情の彼だが、何を言いたいかくらい分かるぞ。
「私の年齢についてはこの際置いてだな、士気の低下については知っておいた方が良いな、ララリート君。やる気が無くなったり、気分が悪くなったりは確かに士気の低下による影響と言えるが、それそのものではない」
「なるほど。なるほど? ではでは、それはどういうものなんですか?」
「集団としての疲労です」
「おい、副長。先に答えを言う事は無いだろうに」
「失礼、本題から逸れた話が長くなりそうでしたので」
「集団としての疲労……」
副長の言葉に、自ら考え始めるララリート。暫くはどういう意味か考えさせて置いた方が良いだろう。良い勉強になる。
士気の低下の方については、副長の言う通り、集団が疲労しているという表現が正しい。
惰性での任務が続く。十分な休養が取れない。目的意識が無くなる等々、そうなる原因は様々あるだろうが、結果として、個人だけで無く組織全体の意欲が減退していく。それが士気の低下だ。
これがなかなか厄介な事で、個人の気分を引き締めたところで、焚き火にコップ一杯の水を掛けた程度の効果しか無い場合が多い。
なんなら個人が無自覚で、どうしてか仕事上の成果を出せなくなって来ている、という認識しか持てない場合もある。
ガニ整備班長の話を聞いていると、ブラックテイルⅡにはそれが起こっている可能性はあった。
「うーん。それが問題であったとして、どうやれば解決するんでしょうか? そのままなのは不味いですよね?」
「勿論そうだ。そうして解決方法で一番なのは、疲労と表現している以上、休養を与える事だな」
「定期的な船員の交代配置が大事なんですか? それならしてますっ」
「そういうのは休養にはならん。残念ながらな」
そこがこの手の問題の難しいところだ。組織の疲労は、個人の休養では賄いきれないのだ。
「やっぱりなかなか難しい話です」
「理屈で考えようとしているからだな。いや、理屈で考えなければならん話だが、これは気分の問題でもあるんだ」
単純に、肉体の疲労を解消したところでどうしようも無い。かと言って個人個人が精神的に回復してもすぐに持ち直せるかと言えばそれも難しい。周囲の能力が落ちていると、それに個人が引っ張られるからだ。
「必要な事は、集団そのものを休める事です。状況に寄りますが、それがたった一日でも構わない。その休養の前と後で、全体としての意欲の減退を断ち切る。その必要があるわけですね。前回、ブラックテイル号での旅では、その様な事はしていなかったのですか?」
テグロアン副長がそう尋ねて来るのはもっともだった。前回の旅では、一年という長丁場の旅となった以上、間にその手の休養は必須の話だったからだ。
「あっ。そういえば艦長、時々目的が面白い任務をしていましたね。拓けた土地に着陸して、周囲の環境を絵として記録する様にとか」
「ほう、あれがそういうものだと気が付いたか。正解だララリート君。その手の、普段とは違う何か。それも大した責任も無い仕事を挟むのも、精神的な休養になるんだ。全員で行えば、それがまさに組織としての休養になるわけだな」
その任務が退屈だったり、趣味に合わなかったりしても問題は無い。兎に角、切り替える事が重要なのである。
そういう切欠で、簡単に回復するのが集団としての疲労、つまり気分の問題という事でもあった。
「となると、その手のレクリエーションを考えますか。確かに、南方諸国家群の領域に入ってから、主だった休みはこれまで無かった」
「しかしな、副長。その内容をどうするかが問題だ。未踏領域であれば危険な環境である事に違い無いが、他に文明も無かったからな。伸びをして心を解そうと思えば出来る場所が多くあった。一方で、余所の、それも未知の国に囲まれている状況となると、方法を変えなければならん」
自然と触れ合うなどという気分に船員も鳴り難い環境というわけだ。どこか他人の目を警戒して委縮すれば、それこそ台無しになるだろう。
「良い案かどうかはまだ検討が必要ですが、先日、カンガサから得た南方諸国家群の地図と、これまで回った国から得た情報で、考えが一つあります。一度、聞いてくれませんか?」
「積極的な提案は勿論歓迎だよ、副長。で、どういう内容なんだ?」
少し、以前よりは積極的になった様に思えるテグロアン副長の言葉に耳を傾ける。
何を言い始めるか、楽しみに思う部分もあった。
「海の浜辺でバカンスです」
南方諸国家群とシルフェニアは地続きの大地である。シルフェニアは南方諸国家群をある種の拡大限界だと考えているわけだが、それはあくまで、そこに国があるから無下に出来ず、簡単に越える事が出来ないというだけだ。
大地はそのまま続いており、ある一つの、変わらぬものがあった。
シルフェニアや南方諸国家群が根差す大陸の東方には、果ての無い大海とまで言われるジロフロンの大海が広がっているのである。
最近のブラックテイルⅡは南方諸国家群の領域を真っ直ぐワープで進んでいるというよりは、その幾つかの国を東西に揺れる様に接触して回っていると表現出来る状況だった。
なので、ブラックテイルⅡの進路の先に、ジロフロンの大海が見える事は度々ある。
南方諸国家群を西側に進み過ぎると、空を移動する飛空艦ですら危険だと言われている広大な森林地帯が存在するため、やはり進路はやや東寄りになり、大海を見る機会はそこそこにあるのだ。
この海ばかりは、ワープで進んでいても光景が変わらない。いや、大陸側の風景は変わるし、海だってどこもまったく同じという事も無いだろう。
だが、その見分けが付かないくらいに、海は雄大であると言えた。
このジロフロンの大海もまた、シルフェニアの拡大限界だと言えるが、それはその広さに寄るものであって、例えば海岸線の話で言うならば、穏やかな場所が多い。
なのでシルフェニア内ではジロフロンの大海を観光地にしている地域もあり、きっと南方諸国家群の中で海岸に面している国にもまた、似た様な事をしている国があるのだろう。
その一国と接触した……と、ガニ・ゼインが報告を受けたのは、その国とのファーストコンタクトを果たした後の事だった。
「他国の人間と接触するのに慣れた国らしくてな。ここらの地域ではむしろ観光地として呼び込む事もしている。言葉は通じないが、そこはうちの補佐観測士が上手くやってくれている。今のところ、差し迫った問題は無いと言えるだろう」
「はぁ……問題があれば船内幹部会議が開かれるでしょうし、それが無いって事は、実際、今回の国では課題みたいなものは無いんでしょうが……なんでその報告を機関室でやってるんですかい?」
ガニは今、自らの持ち場である機関室で働いている最中だった。
新しい国、ハナユンラと言うらしいが、その国内の空港へと正式に着陸予定の状況であり、それが終われば、落ち着いて艦内の整備でもするかというタイミング。
慌ただしくは無いが、のんびりともしていられない状況であるのだが、見計らった様にディンスレイ艦長が機関室へ来たのである。
なんでこんな場所に艦長が? などとは言わなかった。この艦長、結構な頻度で機関室に顔を出して来るからだ。
恐らく、飛空艦内の構造を見たり探ったりするのが好きなのだろう。
しかし今回に限っては、何時もと様子が違っていた。
「ハナユンラ国の空港に着陸する前か後かで悩んでいたが、とりあえず今、伝えておくべきだろうと思ってな」
「なんだか何時になく真剣な……ってわけでも無さそうですな? だから嫌な予感がするんですが……なんなんです?」
目の前の艦長は、緊急時においては頼りになる雰囲気を持って働くが、そうで無い時は船員に気安い。ガニの方が慣れるのに苦労したくらいに、距離が近いのである。
基本、その手の雰囲気でもって話をしてくる時は、差し迫った問題は無いが、ガニの頭を悩まして来る話題である事が多い。
今回はそれだ。なんだか話をされる前からそう感じてしまっていた。
「嫌な予感とは酷いな。私が整備班長を悩ませた事がこれまであったか?」
「回数言っても良いですか? これでもまめにメモ取ってたりするんですよオレは」
「良し、じゃあさっきに言葉は無しだ。そもそも勿体ぶる話でも無いしな」
「出来れば、勿体ぶったまま忘れてくれりゃあ幸いなんですがねぇ……」
「そう言うな。本当に悪い話じゃあない。君ら整備班の話だ。勿論、君らの待遇を悪くするとかそういう話でもない」
一応、ガニや他の整備班員からの印象を悪くしない様に話しているのだろうが、繰り返されるとむしろ不安になってくるのが人情というものだろう。
自分ではそのまま忘れてくれと言ったが、この状況が続くくらいなら、さっさと本題を聞いた方がマシだろう。
「で、何が言いたいんで?」
「今回の国では、船内に必要最低限の人員を残し、他は休暇とする。日数は二日だ」
「そりゃまた、思い切った話ですな? ああ、そうか。先日の食堂での話を聞いてくれたってわけか」
先日、ディンスレイ艦長に言った愚痴を思い出す。
わざわざ食事中の艦長に言うのはどうかと自分でも思っていたが、それなりに重要だと思ったので、艦内の士気低下に関する懸念を伝えた。
こういう危機意識から来る話の場合、この若い艦長に伝えると素早く対応してくれる。その点はガニも評価していた。
実際、大きな問題になる前に休暇がやってきた事になるのだから一安心ではある。
「わざわざ報告どうもですな。二日、艦内の整備する側としては静かになるわけだ。こりゃあ気合入れなおさなきゃってところですかね」
言いながら、何とは無しに仕事机の上に置かれたスパナを手に持った。ここ最近はガニも弛み気味だったので、それを立て直す必要があるだろう。
「おいおい、他人事みたいに言うが、整備班員の大半も休暇を与えられる対象に入ってるぞ?」
「……は? じゃあ、オレがひたすら働かなきゃいけないって事ですかい?」
「何を言ってるんだ。整備班長も休暇だ。過労気味なのは知っているぞ? というか、整備班の士気向上に、まずあなたの休養が必須だと判断しているんだから、働いて貰うと困る」
ディンスレイ艦長はそんな事を言って来るが、やはり意味を飲み込むのに苦労した。
というか何と言った? 自分に休めだと?
「オレの耳が正気だとしたらですね、オレに機関室の整備を止めろって言ってる様に聞こえたんですが?」
「航空中ならともかく、空港に着陸中の飛空艦に、整備班長が必須という事も無いだろう」
「次のワープまでの調整があるでしょうが!」
「私が代わりに管理をする。多少は知識があるし、それにしたって遅れは出るだろうが、今回、この国においてはその遅れ込みでの滞在期間を予定している」
「そ、それはまあ、それなら良いですけど、ですがねぇ!」
「何故納得出来ないか、今の自分で説明出来るか?」
「そりゃあその……それは……」
言われて考え始める。機関室を他に開け渡すというのは不安が残るものの、この艦長はワープ技術やその装置に関して、いや、それだけで無く機関室の構造そのものについても詳しい。
ガニでも驚く程であり、さらに言えば、それで居て自身が専門家で無い事も自覚している。
最低限の仕事をしつつ、自分がやってはいけない仕事はしない事を選択出来る人間だと言う事だ。
なので……ガニが一時仕事から離れたとしても、とりあえず安心出来る相手ではある。
「あ、ほら、緊急事態の時はどうします? この艦が戦うとなりゃあ、整備班員の助けが必須だ!」
「ここは観光地という事で、荒事はご法度だ。そういう不文律が近隣諸国にもあるらしい。なので心配はいらんさ。それでも不安があるというのなら、その不安を受け入れた上で、君らの休養の方がもっと不安だ。違うか?」
「それを言われれば……文句も言えませんが……」
実際、休めと言われて、その言葉の意味が分からなかったというのは問題であると思う。
つまり、自分はひたすらこの機関室に籠り続ければならないと、無意識的に考えていたという事なのだから。
ガニ自身、精神的に追い詰められていたのかもしれない。
「おススメの観光スポットは海辺近くにある洞窟だ。水の浸蝕で面白おかしい光景になっているそうだぞ? ちなみに食事なら緑でギザギザした看板の店が幾つかあるから、観光客ならそこに行くべきだとも聞いたな。ボディランゲージでの注文も可だとさ」
「準備万端ってわけですか……」
論破された形になるガニは肩を落とすも、その肩をディンスレイ艦長は叩いて来た。
「整備班は今後とも重要かつ、キツイ仕事を続けて貰う必要がある。ここで一度、気分転換をして貰うのが、今後の旅にとっても重要さ。文句があっても聞かんからな。せいぜい、焦れながら身体と心を休めて来てくれ」
「そこまで言われるのでしたら、了解しました。ガニ・ゼイン整備班長。ハメを外さない程度に、休んできます」
文句は言うものの、上司の言う事には従う。それがガニにとっての矜持だった。今回だけ、それに逆らうわけにも行かないだろう。
「多少なら、外したって構わんぞ、そのハメをな」
「それも命令ですかい?」
「あくまで助言さ。一個人としてのな」
なら、はいもいいえも言わないで置こう。休養だと言うのなら、その期間中の自由が、自分には与えられるだろうから。




