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無限の大地と黒いエイ  作者: きーち
無限の大地と終わりへの旅路
37/166

④ 転んだ先で進む先

 岩肌の壁の部屋。

 その文字列で受ける印象とは正反対の、清潔で、整えられ、質感も柔らかい部屋が、ミニセル・マニアルが閉じ込められている部屋だった。

「一応、囚人扱い? 的な感じなのよね? 私?」

 呟いてみるも、答えを返してくれる相手は居ない。それなりに広い部屋なのだから、相部屋にでもしてくれれば良かったのに。そんな風に思ってみるも、やはり何かが返って来るわけでも無かった。

 たった一人、ミニセルはここに居る。それを認識するのみである。

(ま、とりあえず、暇な時間ではあるから、考えをまとめてみましょ)

 今居る部屋。それはブラックテイル号が謎の飛空船に撃たれた後に案内された場所だ。

 ミニセルの記憶ではそうなる。ブラックテイル号が敵飛空船に撃たれ、ダメージを受ける中で、光に包まれた。あれは敵船の攻性光線に寄るものかと思えたが、その後に衝撃は無く、まるで気を失う様に、目覚めた時にはここに居た。いや、部屋の中にでは無い。この、巨大な洞窟の中に作られたらしき基地みたいな場所に、自分は何時の間にか居たのである。そんな記憶の飛びがある。

(戦いに負けて捕虜になった? 捕虜用の上等な部屋に閉じ込められてる? これ、多分敵船の攻撃の際の衝撃で出来た怪我よね? 擦り傷程度でも治療を行ってくれたのかしら?)

 自身の腕を見つめる。布……ガーゼ? それらしきものが巻かれているのでは無く貼られている。取り外そうとすれば簡単に剥がれ、その内側にあった傷が無くなっていた。

「……捕まえた相手を大切に扱うくらいに余裕のある相手。なら、それはそれで良いけれど……そんなのいる? っていうかここ、ダァルフが作ったものよね?」

 柔らかいカーペットに適度に寝心地の良いベッド。簡素であるが使い勝手の良い机と、やはり良い部屋と表現出来るこの部屋であるが、壁が岩盤をそのまま加工したような作りになっている点が、かつて見たダァルフの遺跡のそれに似ていると思えた。

 そもそもが、自分をこの部屋へと案内した男がまさしくダァルフだったのだ。

 背が低く、ずんぐりむっくりとした体形で、それでもミニセル達と似た外見を持つ、そうしてシルフェニアを越える技術使った、頑丈な居住地を作っていたらしき種族。

(遂に、実際に会えたって事? ディンなんかはすごく興奮するかも……いえ、今はそうでも無さそうかもね)

 ブラックテイル号は敗北した。それはミニセルも記憶していた。あの何時だって自信に溢れている様に見えて、危ういところがある男が、今、どんな顔をしているか。

 心配では無いと言えば嘘になるだろう。

「……つまり、今、この状況をなんとかするのがあたしの役目って事よね」

 言ってみて、やるべき事が決まる。大切に扱われているところに申し訳ないが、脱獄でもしてみよう。

 ここへ自分を案内したダァルフは一人だけだった。油断しているのか人がいないのか。どちらにしたところで、見張りが厳重には見えなかった。一応、今のところは。

 試しに部屋の扉を開けようとしてみる。

 ドアノブは無い。ただ手を掛ける場所はあり、横にズラして開くタイプの扉らしい。

 開かないが。

「まあ、さすがに鍵が掛けられてるわよねぇ……よいしょっと!」

 さらに開くために力を込める。やはり開かない。なので、今度は両手で開けてみよう。開かない。ならば今度は体重を掛けて、姿勢だって傾けながら―――

「ぎゃっ!」

 突然、それまでの固さが嘘かの様に扉がシュッと開いた。

 結果としてミニセルは大いに転ぶ事となる。柔らかいカーペットがあって幸いだった。なるほど、この部屋の床の柔らかさはこのために……。

「何をやってるんだ君は」

「ディン! っていうか艦長! えっ!? 無事!? 幻覚!?」

 転んだ状態で顔を上げた先にある光景。扉の向こうには、呆気に取られた様な表情を浮かべるディンスレイの姿があった。

「幻覚でも何でもない。私は私だよ、ミニセル君。ほら、怪我は無いか?」

 転んだままのミニセルに手を差し伸べてくるディンスレイ。その手を恐る恐る握り返してみれば、やはり幻では無く確かな感触があった。

「……なんで無事なの」

「君も無事だな。良かった。本当に……良かった」

 手を握ったまま、握手しているみたいな姿勢でディンスレイは言って来る。

 説明を求めたいし、そっちは随分と自由っぽいじゃないと嫌味も言いたかったが、切実なディンスレイの表情を見れば何も言えなくなる。

 抱きしめたくもなる。

「ミニセル君?」

「被害が出たのね? 他の船員に。あなたの責任じゃないって言いたいけれど、そうも思えないんでしょう? なら、ここで吐き出しときなさい」

 ディンスレイを抱きしめたまま、ミニセルは呟いた。

 彼が何を考えているかなんてミニセルには分からないが、彼がどうしてこんな表情を浮かべるかくらいは察する事が出来たから。

 だが、思いの外ディンスレイという男が強がりだった。

「船員が五名……死んだ。そう、私の責任だよ。だからまだ、ここで膝を折るわけには行かない。だが……ありがとう」

 そっと、ディンスレイの方から離れて行く。これもまた彼だ。彼がこうなのだから、ミニセルだってそんな彼に付き合って行こうと思う。

「まだ、何も諦めていないみたいね。で、私に会いに来た理由は?」

「私はこの通り自由だ。他の船員全員とは行かないが、船内幹部は一時の拘束から自由にしてくれと要求し、それが通った。説明が必要だろう? これから別の場所に向かう。案内がてら経過を話そう」

 そう話すディンスレイの姿を見て、ミニセルは頷く。このどうしようも無く弱さを隠しがちな男を、これから支えてやるのが自分の役目だと自覚しながら。




 ブラックテイル号は航行不能となる被害を受け、船員数名を失うという状況において、船内幹部全員が怪我程度で無事だったというのは幸運と表現するべきなのか。

 少し迷うところであるが、こうやって再び顔を揃える事が出来たのを、ディンスレイは素直に喜ぶ事にした。

「諸君。今なお、混乱しているところではあるが、今、我々が置かれている状況というのは以上となる。とりあえず頭には入れられたかな?」

 ブラックテイル号の会議室はもはや使えないから、連れて来られた巨大洞窟内の一室を借り受けて、臨時の会議室とした場所で、ディンスレイは他の船内幹部達を見つめていた。

 石作り……というか、岩盤をどういう精巧さでくり抜いたか分かったものでは無い丸テーブルの形をしたそれに、それぞれ椅子に座りながら向かい合っている。

 そんな中で、副長のコトーがまず口を開いて来た。

「とりあえずハルエラヴ……というのですかな? その種族に襲われ、墜落する中で、この洞窟を基地としてるオルグという種族に助けられた……わたくしのこの理解、間違っていませんでしょうか?」

 何が何やらといった表情を解消出来ていないコトー。そんな彼には申し訳ない事であるが、その言葉をディンスレイは訂正する。

「オルグという種族に助けられたという表現は正しくない。オルグはもはや彼一人だそうだからな」

 言いながら、ディンスレイは船内幹部以外にもう一人、机を囲まず、部屋の隅で会議を眺めている車椅子の男に視線を向けた。

 本人曰く、ウンドゥ・ガルサと名乗る唯一のオルグを。

「おや、私の自己紹介なら先ほどしたが、もう一度しておくべきだろうか?」

「いいえ、結構よ、ウンドゥさん。今は言ってみたら、身内で話し合って、あたし達なりの価値観を整理するタイミングだもの」

 ディンスレイでは無くミニセルがウンドゥに言葉を返す。彼女もまあ、大概に状況への適応能力が高い。

「ならば、やはり暫くは黙っておくとしよう。何か発言して欲しい時があれば、何時でも言ってくれ」

 そう言いながらも、部屋からは出て行かないウンドゥ。彼は彼なりに、ディンスレイ達を知ろうとしているのだろう。

「……言っちゃあなんですが、随分と親切なんですな、その……オルグってのは」

 ガニ整備班長のその言葉は、ウンドゥにでは無くディンスレイに向けられた言葉だった。

 彼の場合は、まだ新たな種族相手にどんな言葉を向けるべきか整理出来ていない様子だ。だからこそ今、こうやって会議をする必要がある。

「彼らは私が見たところでは、こちらを尊重してくれているよ。しかもその尊重が、彼ら自身が追い詰められているからというのがまた説得力を生んでいる」

「そ、その件、わ、私、とてもとても……気になります。ふ、不吉な状況に思えるのですが……」

 船医のアンスィがそう思うのも分かる。思うどころか、実際に不吉な状況なのだ。ディンスレイ達だけで無く、オルグ達にとっても。

「オルグという種族は、言ってみればエラヴから派生する形で生まれた種族のうち、反ハルエラヴという方向性を持った種族だ。その戦いはそれぞれが生まれた瞬間から続き、さらにハルエラヴの侵攻を受ける他種族と共闘する形で拡大した。この洞窟内部にいるダァルフもまたそう言った共闘相手の一つらしい」

「ああ、やっぱりこの洞窟で主に作業しているのって、ダァルフだったのね。作りもまんま、あたし達が想像した通りの場所だものね?」

「その通りだミニセル君。今、彼らという組織の多くは、ダァルフの労力や技術に寄り成り立っているらしい」

 ディンスレイ達をこの基地で出迎えたのはオルグのウンドゥだけで無く、その他の種族達もであるそうだ。

 あくまで、リーダー格となっているのはウンドゥなのだそうだが、それにしたところで合議的に物事を決めているとの事。

「今、組織と言いましたな? 国や種族では無く組織と?」

「言ったとも、副長。そう、反ハルエラヴとして拡大した彼らであるが、長く続く戦いで、遂には敗退し始めた。ただひたすらに自らの種族の向上と他への圧倒を目指すハルエラヴに対して、オルグ含めた反ハルエラヴ連合……と表現するべきか。この連合は、少しばかりその勢いが足りなかったそうだ」

 結果、国と言える程の規模では無くなり、種族と言える程の数でも無くなり、今や寄り合い所帯に近い状況になってしまっているとの事。

「だんたん、状況の輪郭が分かって来ましたぜ、艦長。つまりは、オレ達というよりオレ達含めたシルフェニアって国と、ここの……言葉を借りるなら連合は交流を持ちたいってわけだ」

「有り体に言えばそうだ、ガニ整備班長。彼らは我々より優れた技術を持っているが、もはや数が無い。文化についても……維持するのはもはや難しいそうだ」

 だからこそ、ディンスレイ達にも慎重に接したのだろう。

 ディンスレイ達にとっては脅威となる技術を持った集団であるが、彼らにしてみれば、一つでも手段を間違えて接触すれば、ディンスレイ達の方が事態を致命的な状況に進展させかねない。それくらいに彼らは追い詰められていたのだ。

「つ、つまり……と、途轍もない鉄火場に……わ、私達は巻き込まれている……という事でもあります……よね?」

「そうだな船医殿。かなりタイミングが悪かったと言わざるを得ない……ところで船医殿、彼らから医療技術なんぞを学んでみたらどうかな? なんでも足が切断されても再生できる技術とやらもあるらしく―――

「ろ、露骨に話を逸らそうと……しましたねぇ……?」

 悪い状況が列挙される会議を少しでも和ませようとした心遣いだったのであるが、アンスィには通用しないらしい。

 というか、船内幹部にこの手の誤魔化しが出来なくなっていると言うべきか。

「わたくしが統括させていただくと、艦長含めて全員が、今も危険な状況が継続してるという事ですな。さて、では問題は、そんな危険な状況で、彼らとの取引に応じるかどうかになりますか」

「副長、少しばかり話が早いのでは無いかね。もう少し、色々と話を続けたいところではあったが……」

「そうも言っていられないでしょう? 艦長。あの方、そろそろ発言したい雰囲気になっているわよ」

 ミニセルは言いつつ、部屋の隅のウンドゥを見た。ディンスレイが見る限り、面白そうにディンスレイ達の会議を見つめるのみの彼であるが……。

「とりあえず、彼の助言を入れても良い頃合いだとは思う。こっちは落ち着いて来ただろうしな。ウンドゥ殿、申し訳ないが、会議に参加して貰っても良いかな」

 ディンスレイの言葉に反応して、ウンドゥは自ら車椅子を押しながら、ディンスレイ達が囲むテーブルまで近づいて来た。

 なんだか、とても楽しそうな顔で。

「おっと、失礼。真面目な会議の最中に浮かれている様で申し訳ない。だが、この様な活気は、我々にとっては久方ぶりなのでな。しかし反ハルエラヴ連合か。今後、その名称を使わせて貰っても良いかな、艦長殿?」

「うん? そちらが何を名乗ろうが、無論、こちらから口を出せるものでは無いが……良いのかね?」

 自分からそう呼んだ手前、本当に強く出られない話題だった。というより、ウンドゥが思った以上に楽しそうで困惑する。

「何もかも新鮮だ。いや、懐かしいと言うべきかな? 我々は追い詰められている。君らが語った通りだが、それは人数が少ないとか、勢力が劣っているとかの話では無い。見たまえ。我々は……老いている」

 ウンドゥはその外見が、それ以上に雰囲気が、確かに老いては居た。だが、他の面々もそうであるというのは初耳だった。

「我々……ハルエラヴも含めてだが、延命技術に長けていてな。君らの感覚で百数年は優に生きるのさ。だが、我々の方はそろそろ飽いた。ハルエラヴとの争いには、恨みや憎しみ、上等な理念や崇高な思想もあったんだが……どうにも、それだけで争いを成り立たせるのは困難らしい。だがもっと厄介なのは、ハルエラヴの方もそうだろうに、当人達はそれに気が付いていないらしい事だ」

 種族として、どこかで寿命が来ている。そんな事をウンドゥは語っているらしかった。

 ディンスレイはその話に理解が追いつかなかった。そんな風に、何もかもに諦めるという事があるのだろうか。

「オレは分からんでも無いですなぁ。日頃から自分や他人に発破を掛けてるのは、勢いって奴がなきゃ、何もやる気が起きなくなりそうで怖いってのがあるもんで」

「ガニ殿と言ったか。まだ、そうやって思えるうちは若いさ。いずれ、それが苦痛になる。もういっそ、何もかも終わらせてくれと誰かに叫びたくもなっていく」

 まるでそれは遺言みたいだった。今さら、そんな話を聞かせてどうするつもりだと言いたくなるくらいに。

「……あたし達と取引きがしたいんだったかしら? 今のあなたを見て、そんな意欲がある事にまず驚くのだけれど」

「歯に衣着せぬお嬢さんだ。だが、それだって心地良い。つまりは……言う通り、本来は君らを観察したいとも、手を組みたいとも思わなかったろう。だがそれでも、我々に残った感情があったのだよ。言ったろう? ハルエラヴの方は自らの老いに気が付いていない。未だ、他を圧倒しようとし続けている。いずれ……その圧は君らの国が属する領域へも辿り着くだろうよ」

 船内幹部達がざわつく。対岸の火事が想像以上に燃え盛っている事に、今、気が付いたが如く。

 ディンスレイだけは反応しなかった。むしろ、そうであろうと思っていたからだ。

 ハルエラヴの文化、文明、技術は危険だ。その危険はシルフェニアへも届き得る。そんな予感は既にあった。

 ハルエラヴを良く知る者が、その保証をしてくれたというだけ。

「だから、君らと共に私達が戦うべきだと、そういう話なのだろうか、ウンドゥ殿」

「ははっ。そう言えれば良かったのだろうが……今の私は、別の感情の中にある。恥だ。今までは内側だけの問題だったものを、ハルエラヴは他に塗りたくろうとしている。それだけは……老いて、やる気も無くなってしまった我々でも耐えられない。だが、我々だけではそれを押し留める事は不可能だ。だから……君達自身にその恥を跳ね除けて欲しい。そう願っているのだよ。勝手ながらね」

「どうやって? オレ達にはその力が無いなんてのはあんた知ってるでしょうが。あんた達がくれたって話の光石があってすら、今のこのザマだ」

 種族としての若さがあったとしても、技術的な格差は埋め難い。

 ガニ整備班長にはそれが肌で感じられるのであろう。だが、ウンドゥにとっての本題はここからなのだとディンスレイは知っている。

「君らの艦長には既に話をしたが……我々の技術を君達に提供する。それが我々、反ハルエラヴ連合の要求でもあるな」

「よ、要求……た、対価では……無く?」

 アンスィはウンドゥの言葉に疑問符を浮かべている様子だ。

 この話を始めて聞いた時のディンスレイの反応も似た様なものだった。何かを渡して来るというのは要求に成り得るのか。

 だが、これにしたところでウンドゥ達の善意なのだろうと思う様になった。

 技術を提供するのが善意では無い。その行為は決して良い結果だけをもたらさないと、気付かせてくれたのが善意なのだ。

「皆、良く考えて欲しい。光石だけでも、我々にとっては脅威の力なんだ。だが、あれはあくまでウンドゥ殿が提供する技術においては、あくまで心臓部でしかない。これから提供される技術というのは、つまり……あの力をさらに増幅させ、多様性を持たせた様なものだ。それこそ、例の技術すら使える様になる」

「ワープね」

「ああ、そうだ。ワープ。私とミニセル君だけで無く、もはやブラックテイル号の皆もそれを体感したはずだ。ハルエラヴの飛空船に襲われ、撃沈される寸前だった我々が、どうしてか今、こうやって生きているのも、ウンドゥ殿が大破したブラックテイル号ごと、この洞窟基地までワープさせてくれたからだ。その技術も、ウンドゥ殿は渡すと言って来ている」

 その恐ろしさが今なら分かるだろう。あのハルエラヴの力すら体感した自分達だ。もし、その力がシルフェニアにもたらされれば?

 ハルエラヴとオルグが争う様になった状況に、シルフェニアも陥るのではないか? そうでなくとも、多大な社会的混乱は確約されている。

 だから慎重になる必要があるのだ。これは、提供では無く交渉の際の向こうの要求なのだと、そういう前提の元に答えを出さなければならない。

 事が社会全体の問題である以上、ディンスレイだけでなく、船内幹部達の意思決定が必要だった。それが過言で無い程に、今、国家を左右する決定をしなければならないのだ。

「……艦長、何かまだ、言いたい事があるのでは無いですかな?」

「気が付いたか、副長」

 自身の中の良心に従って我慢をしていると、大概、副長がそんな良心は無くしてしまえと促して来る。

 普段は自重しろと言って来る側だというのに。

「あたし達より考える時間があったんだから、そりゃあ名案を持ってるんでしょうね、艦長?」

「君らと、ここに来てからの時間は変わらんだろうに。ま、会議を進める上で、私の意見くらいは言って置こうか。変に隠し立てする仲でももう無いしな」

 本当に、彼らとは深い仲になったと思う。修羅場を潜り、寝食を共にし、互いの、どうしようも無い趣味嗜好を知る事となった。

 だから、ディンスレイにとってどうしようも無い心を言って置こうと思う。

「これが反ハルエラヴ連合との交渉であり、向こうが自分達の技術を受け入れろと要求して来ているのなら、我々が考えるべきは、対価となるだろう我々側の要求はどうするかだ。受け入れるにしよ、そうで無いにせよ、まずはそれを考えてからだ。違うか?」

「そりゃ理屈だ。だが、艦長が考えそうな理屈は、何時だって突拍子も無い。違いますかい?」

「違わないな、ガニ整備班長。それが分かる時点で、何時も常識的な整備班長という態度では居られなくなってそうだ」

「誰のせいですか誰の。で、何を言いだすつもりなんです?」

「簡単だ。ハルエラヴと接触させろと要求する。我々はこの未踏領域の旅で、エラヴを追い続けたのだぞ? エラヴそのものは居なくなったかもしれないが、彼らが成った片割れであるオルグとはこうやって話が出来ている。なら次は、ハルエラヴと接触させて欲しい。そう要求したいと考えているのさ。私はな」

「……」

 この言葉で、驚かれこそすれ、呆れこそはして来ない。そういう関係が、船内幹部とは築けている様だった。




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