① 大地の傷跡
ブラックテイル号が未踏領域の空を飛ぶ。
大地にその船体が縛り付けられる時間は終わり、船体だって消え去る様な事件にすら耐えきり、今やただひたすらに目的地を目指すためにその翼を広げていた。
「ま、この艦の翼はずっと広がりっぱなしだがね」
「羽ばたく飛空船の翼なんてのが発明されたら、いったいどんな動きをするんですかね、艦長」
ブラックテイル号艦長、ディンスレイ・オルド・クラレイスの冗談みたいな呟きに、観測士テリアン・ショウジが冗談みたいな言葉を返して来る。
こんなやり取りが頻繁に発生する場所こそ、ブラックテイル号のメインブリッジであろう。
メインブリッジから見える空と大地。その二つの景色を一目で見ながら、笑って雑談をしている事自体が冗談みたいだから、仕方ないではないか。
「飛空船の形状は、鳥や魚類が持つ生物の造形を元にして作られた物が多い。この艦だってエイみたいなどと言われたりするしな。そんな数多くの試行錯誤の中には、実際羽ばたくタイプの飛空船もあったらしいぞ」
「本当ですか? 艦長?」
周辺の観測を続けながらも、テリアンが話も続けて来た。仕事の片手間にこんな会話は不真面目だろうか?
しかし、ディンスレイはこの程度の会話でテリアンの観測能力に不足が出るとは評価していないし、だいたい会話の無いメインブリッジはつまらない。
なので咎めずにむしろ話を弾ませるのだ。
「飛空船開発の初期は、それこそ飛ぶためには羽ばたく必要があるという認識があった。だからこう、紙とか木とかで柔軟性のあって軽い素材でそういう羽を作ったそうでな」
「ほほー。それで上手く飛んだんですか?」
「いや、耐久性が無かったらしくて上手く行かなかったらしい。そうこうしている内に上質の飛空石の発掘が始まり、羽ばたきに寄って生じる推進力より余程効率の良い推進能力を飛空船に与えられる様になるわけだ」
「はー。じゃあ、飛空石が発掘されなきゃ、今も飛空船が羽ばたいていたり?」
「かもしれんな。いや、今もその手の研究をしている機関もあり、過去だけで無く、未来の飛空船も羽ばたいている可能性もある」
「じゃあ未来のシルフェニアの空には羽ばたく飛空船が多く飛び交うって事ですかね? その光景って正直不気味じゃありません?」
「いやいや、それだってもしかしたら、未来の光景と言えるかも―――
「二人ともー、ちょっと良いかしら?」
男同士、浪漫ある未来の景色についての話が白熱し始めた最中に、茶々を入れる声があった。
ミニセル・マニアル操舵士だ。
「なんだミニセル君。やはり羽ばたくより、泳ぐ飛空船派かな、君の方は」
「別にどっちでも良いわよ。そんな不気味な未来」
彼女の場合は、この手の浪漫には乗って来てくれないらしい。そんなに不気味だろうか? 飛空船が羽ばたいたり泳いだりする未来。
「あのねぇ。今、この景色を見て、現実逃避みたいな話をするなって言ってるの、こっちは」
ミニセルはディンスレイとテリアンを一瞥した後、再びメインブリッジ前方へと向いた。
釣られてディンスレイもその方向にある窓。そこから見える景色を見た。
空と大地。表現するならその二つであり、その二つしか言えないとも言える。
本日は晴天。雲一つも無い空が広がり、大地も山や谷一つ無い空間が広がっている。
森も無い。ただし起伏は一応あった。
抉れた大地だ。もっと詩的かつ具体的な表現をするならば……。
「クレーターにまみれた大地。ふん? こういう光景を見ると、現実をさておいて、もっと輝かしい未来について話をしたくなるものでは無いか?」
「素直に、嫌な予感がしてくる光景って言ったらどうなの? やーっぱり、例の地図の跡を辿るっていうの、失敗だったんじゃないかしら?」
再びミニセルが前方から視線を外すが、外した先にはディンスレイ達では無く、メインブリッジの端にある大きな地図があった。
そこには何者かが残した道の跡が残されている。
未だ謎が多い、狙いも分からない、しかし道の先にそれは居ると語った誰かは確かに居るのだろう。そんな道の跡。
そこを辿る途中で広がって来たのが今の景色である。
「一応、船員全員の同意は取ったぞ、私は」
「だから反対せずに艦をまっすぐ進めているけれど……一旦、船内幹部会議でも開くべきじゃない? 着陸する場所には事欠かないわよ、ここ」
「漸く気分良く空を飛べる様になったのだぞ? また着陸したい気分じゃあ無いが……そうも言ってられんか」
広がる景色に変化があった。
いや、それを変化と言っても良いものかディンスレイは迷う。
やはりその目には、複数のクレーターによる穴だらけの大地が広がっている。だが、さらにその先には、より大きな、他のクレーターが小さく見える巨大なそれが待ち受けていたのだ。
そも、クレーターとは何であるのか。
突然、大地に広がる球体の穴。だが底無しでは無く、なだらかな円形に大地を抉った様なその地形。
実は種類は多くあり、出来る理由もそれぞれにあるらしいが、クレーターが出来る主要原因として語られるものが一つある。
「確か、偶に空の星が落ちて来るんだったかしら? ここもそうたったりするの? だったら事だと思うけれど……」
「正確に言うと、星から落ちて来る……だな。ミニセル君。多くの学者が語るところに寄ると、星、月、太陽は空の、高度限界すら超えた遥か彼方。それこそ距離すら曖昧になる程の場所にある、穴だとされている。その向こう側には別の法則の大地があるとか、エネルギーに満ちた原初の空間があるだとか……まあ謎だな。だが、そこから何かが落ちて来るんだそうだ」
ミニセル発した疑問にディンスレイが答える。
場所は艦内の会議室。前は一時無くなったせいで、食堂でしていた船内幹部会議を、本日はちゃんとそこで行えていた。
やはり会議は会議室で行うのが相応しいし、座りも良いと思うディンスレイであるが、会議に揃った船内幹部の面々は何時も通りの渋面だ。
「オレもクレーターについては詳しく無いですが、まあ危ないって事は伝わって来ますな、今の説明では」
「危険度についてはこれから説明するよ、整備班長。落ちて来るものについても本当に色々らしく、こちらも決まっていない。ただ、相当の質量と速度で落ちて来るから、大地にあんな風に円形の穴が出来、尚且つ落ちて来たものの大半は消し飛ぶ」
ガニ整備班長の渋面の理由は、あまりそれが良く分かっておらず、ただ危険であるという事実だけしか知らない故の様子。
こちらに関しては説明をしてやれば幾らか改善するかもしれない。
「も、問題は……頻度ですよぉ……。クレーター多発地帯だとすると……み、ミニセル操舵士の言う通り、こ、ここに長居するのは……危険かもしれません……。空の穴からの落着物は……ちょ、直撃しなくても、衝撃波で森が一つ……消え去ったという話も……」
一方船医のアンスィの表情については、説明を続けても不安が晴れる事は無さそうだった。
というより、彼女もクレーターについては詳しい様子だ。だからこそ恐れているのかもしれない。
「失礼。わたくしもクレーターにはあまり詳しくありませんが……あるのでしょうか? その多発地帯というものが」
「うーむ。副長、答えになるかも分からんが、シルフェニアの南方の諸国家からの伝聞だと、さらに南の方には、とてつもなく巨大な砂漠がある。それこそ果てが見えない砂漠だ」
「その砂漠が、今回の議題に何か関わりが?」
「空から落ちて砕け散ったものが砂漠になったという話だ。そういうのはつまり、多発地帯と言えるのでは無いだろうか? ここはそうなっていないから、そこよりマシだとも表現出来る」
「その話を聞いたところで、あまり良い反応を期待されても困りますよ、艦長」
駄目だったらしい。
確かに、砂漠とまでは行かないが、穴だらけの荒野になっている景色からは、安心などという言葉は得られまい。
「うーん……そもそもよ? あれ、本当にクレーターなのかしらね?」
より会議とそれをする者達の表情を複雑にする一石をミニセルが投げかけて来る。
「つまり……別の要因であの地形が出来上がったと? ふん? 確かに可能性は考える必要はあるか」
何事も自分達の常識に落とし込みがちなのが人間というものだが、その常識が通用しないのが未踏領域。それこそ想像外の事態が起こらないはずも無い。
「となると、やはりあれになっちまいますか?」
ガニ整備班長も結構この艦のノリに汚染されて来たかの様な発言をする。
あれで通用するというのも悩ましい事態かもしれない。
あれとは要するに探索をするという事だ。既に船内会議をするためにブラックテイル号をクレーターの内部に着陸させているわけだし。
「状況をわたくしがまとめさせていただきますと、この近隣の特徴的な地形と言えるクレーター群の中、明らかに他と比べて大きいと言えるクレーターの端にブラックテイル号は着陸している状況です。土地を調査するにしても、艦を降りればすぐにそこが調査するべき土地という事になりますので、そう長い時間は掛からないと予測出来ますな」
副長が語る概要にディンスレイも頷く。
長期間の調査というのであれば悩ましい話になってくるが、土の一塊でも持ってきて調べる程度の仕事なら物のついでだ。
今回に限っては、深く足を進める必要のある洞窟やら遺跡やらも無い。
「そ、その状況のまとめ……ですけど、た、足りない部分がある……ような」
「船医殿。良いたい事は分かるぞ? 副長が言わなかった事を代わりに私が代弁するが、要するに、地図に残された跡を追ってここまで来た結果、こんな不気味な地形を見つけてしまった。という部分が足りぬと言うのだろう?」
「す、すみません……で、ですが、検討はしておくべき……かと」
やはり、危険な選択を自分達はしているのでは無いか。アンスィはそれを考慮すべきだと言っているのだろう。
「艦長に説得される形で、オレ達はここに居ますからね。艦長が命じれば働きますが……危険かそうでないかって話なら……そりゃあそうだ」
危険では無いなんて誰も断言出来ない。ガニ整備班長の言う事ももっともだろう。
というより、せっかくだからこの場で断言しておくべきだ。
「確かに危険だ。だが、私がした選択というのは、危険かもしれないという類のものじゃあない」
「何か公算があるっていうの?」
「いいや? むしろこう言うべきだったんだ。危険に飛び込むかどうかという選択で、飛び込む方を選んだのが今だ。危険かもしれないでは無く、実際危険だ。必ず災難がある。それは間違いない」
「……」
詐欺師に騙された気分でこちらを見て来る船内幹部達であったが、今さらもう遅いと言っておこう。
だって今、どう考えても異質な地形を見つけて、無視する方が余程悪い結果に繋がりそうだから。
探索というより調査。調査というより穴掘り。ブラックテイル号より持ち出したスコップを地面に突き立て、ディンスレイは雄大とも言える巨大なクレーターを眺めていた。
「艦の近くというのだから、私もこんな風に労働してまったく問題無いというわけだ」
「う、薄々思う事なのですが……か、艦長席はお嫌い……なのですか? 艦長?」
「何故そんな事を言うんだ船医殿? 艦長席は好きに決まっているだろう。ただこうやって外に出て、世界を見つめるのも好きなだけだ。楽しい事だらけで困るな、船医殿」
「で、出来れば……ひ、日差しがもう少し抑え気味であれば、わ、私も楽しいのですがぁ……」
それは無理というものだろう。このクレーター以外何も無い広大な大地の光景と同じく、空は清々しいまでの青空だ。あと数時間は日差しに悩まされる事になる。
「ま、船医殿が辛ければ、艦に戻っておいてくれても構わんよ。サンプル用の土の採集は私が指揮しようじゃないか」
「さ、さすがにそれは……わ、私の頼みで、こうやって土を採取して貰っているわけですし……あ、そ、そこっ。もう少し……穴の奥側もお願い……します!」
と、アンスィは穴を掘ってバケツに入れている別の船員に適宜指示を飛ばしている。
幾つかの地点で土を採取し、このクレーターがどの様な質を持つのか、後ほど、アンスィが調べる予定だった。
今のところ、ブラックテイル号の目的はこのクレーターはいったい何なのかを調べる事ある。
勿論、穴をただ掘っているだけでそれが出来るとは考えていない。
「っと、早々にミニセル君達が帰って来たな。あの顔を見るに、面白いものは見つけられなかったらしい」
「そ、その様ですねぇ……」
詰まらなさそうな表情で、探索班として周囲を散策していたミニセル達がこちらへと向かって来た。
景色が開けているため、遠くからでもその動向は分かるわけだが、さっきからやる気の無い動きをしていたのは分かっている。
「ミニセル君。そっちはどうだー」
こちらへ近寄ってくるミニセルに対して、まだ距離のある段階で声を掛けた。彼女は首を横に振り、同じくらいの声量で返して来る。
「駄目ねー。どこを見たって変わんないわよこれー。底の方に行ったって、何か発見がある望みは薄いでしょうね!」
あくまで様子見程度の散策であったろうが、彼女の勘は散策程度の調査で発見出来るものは無いという答えを出しているらしかった。
「ただ足で見て回る探索では答えは見つからない……のかもしれんなぁ。船医殿、今のところ、君の感想はどうかな? 君の場合は、足を動かすというより頭の中で予想するタイプだろう?」
「た、確かに出不精ですけどぉ……べ、別に頭の中だけで考えているわけでは……けど……お、思うところは一つ……あります」
「ほう? 意外だな? 今の時点でかね?」
あくまで、現時点では何ら発見が無いという確認程度でアンスィに尋ねたわけであるが、彼女の方は何か発見があったらしい。
「か、艦長は、一般的……い、いえ、クレーター自体、そう多くは無いのですが……何が落ちて来て、クレーターが出来るか……ご、ご存知ですか?」
「いや。何かが落ちて来るという話は聞いているが、それが何であるかは知らないな。確か、落ちて来た物の大概は灰になるんだったか?」
聞きかじった話をディンスレイが語ると、アンスィは首を横に振った。
「は、灰では無く、す、砂です。落下したものの大半は、だ、大地に接した瞬間、す、砂になってしまうので……こう……艦長も仰っていましたが、ら、落下したものの質量に寄れば……さ、砂漠が出来る場合もあったり」
「なるほどな。会議でも言ったが、私もそれは聞いた事がある。だが、むしろそれが一般的という事かな?」
「で、ですねぇ。ち、小さめのクレーターでも、す、砂が発見される事が多いんですよぉ……」
その説明で、ディンスレイもアンスィが何を発見したかに気が付く。
そうして、自分が掘ってバケツに入れた土を見つめた。
「言う割に、砂が少ないな、ここの土の質は」
「み、ミニセルさんの勘……当たっちゃったかも……しれませんねぇ……」
「え? 何々? あたしの噂?」
漸く近くまでやって来られたらしいミニセルが話に混ざって来た。むしろさっきまでの様子よりは元気のある様子。
「君が言っていただろう。ここはそもそも、クレーターなのか? とな」
「ああ。それなら散策中も思ってたわよ。なんというかこー……面白みが無いのよね、ここ」
「面白みと来たか」
独特な表現であるが、彼女なりの感覚は馬鹿に出来たものではあるまい。
ディンスレイがその言葉を翻訳するなら、神秘性が感じられないと言ったところだろう。
「なーんと言うかねぇ。ほら、ここが本当にクレーターなら、同じ様な景色でも、いったい何が落ちて来たんだろうとか、もしかしたら奥に何か残っている可能性もあるかもとか、そんな風に感じちゃうものだと思うのよ。けど、それが無いの。ここは何かを探したって何も無いぞってそんな感じがする」
土を掘っている限りはまだまだ浪漫に溢れている様に思えるのだが、実際に少し歩いて来た側の感想は違ったものらしい。
「ここが単なるクレーターで無いとしたら、いったい何であるか……だ。空から何かが降って来て、大地が穴だらけになったというのも字面を眺めれば荒唐無稽だが、それと同じレベルの突拍子も無い仮説が必要になるぞ……船医殿?」
今度はアンスィの方が、ディンスレイが掘った土入りのバケツを眺め始めていた。
「また何か、発見があったのかね? 船医殿」
「は、発見と言いますか……そのぉ……もう少し、サンプル回収に指示を出しても……良いですかぁ?」
「無論、君の指示が今は大事だからな。で、どういう類のそれだろうか?」
「そ、その、出来れば、クレーターの表層部分の土を……お、多めに採取しておいて欲しいのですがぁ……」
何か、アンスィなりの仮説を見つけたらしい指示だった。
だが、それは良い事とは言えない気がする。少なくともアンスィは、嫌な予感が頭を過ぎっていると言った表情を浮かべていたから。
メインブリッジの艦長席。
そこは苦手なのかと聞かれた時、ディンスレイは好きだと答えた。
だが、今はそこに座らず、立ったままの姿勢で、ディンスレイはメインブリッジから窓の向こうを眺めていた。
その方が窓の向こうの景色が良く見えるからだ。
「航空に関して、調子はどうかな、ミニセル君」
「順調よ。降りた時から変わらず、操舵に支障は無い。けど、本当に良かったの? 早々にここを去って?」
「まあ……な」
ミニセルの言葉に対して曖昧に答えつつ、やはり窓の向こうの景色を見つめた。
一度クレーターに降り、サンプルの土を集めてから船に戻って一夜が経過していた。
青空では無く空には朝焼けの赤が広がっていて、クレーターだらけの大地もまた赤く染まっている。
その光景を見て、何かを幻視しそうだった。
それくらい、アンスィがサンプルを調査した結果出した結論がディンスレイの内心に影響を与えていると言える。
それも悪い方向で。
「実際、どこまで信用してるのかしら? 船医さんのあの話」
「十中八九と言ったところだろう。これまでの予想もあるからな」
「マジですか艦長。本当に、このクレーターが、攻性光線に寄って作られたものだって、本気で思ってるんです?」
驚いた様子のテリアン。彼はここ最近、こっちの意見に対して本気かどうか疑って来ている気がする。
そろそろ気が付いて欲しいところなのだが、何時だってディンスレイの発言は本気だ。
「船医殿の報告に寄ると、土の成分が丁度、攻性光線がぶつかった土壌と同じ質だったんだそうだ。それだけで、こうやってこの場を立ち去る理由にはなるさ」
少なくともこう言える。この穴だらけの大地は、自然現象に寄るものでは無く、何らかの攻撃に寄ってこうなったのだと。
豊富な生態系も、複雑な文明も、浪漫溢れる大地すら消し飛ばし、ただ穴だらけの荒野を作り出した何者かの痕跡。それがここにある。
「エラヴがやった……のかしら?」
「さて。それは分からんな。だが、エラヴは何かと争っていた。そんな話を以前していたな? それが無視出来なくなった」
「今、あたし達は地図に残った跡と、謎の声に導かれて今の地域も進んでる。これが何かの誘いである可能性は? この光景を見せつけて、相手は何を狙ってるのかしらね」
「そこも分からん。が、そっちに関しては、何らかの答えを辿り着く前に見つけたいと思うよ」
やはり、赤く染まる穴だらけの大地を見つめた。
これはもしかしたら、戦争の跡なのだろうか? この、幾つもの穴。その中でも遥かに巨大なクレーターが、そこで使われた兵器の火力を思い知らせて来る。
朝焼けに染まる赤が、まるで血の様にべったりと大地に張り付いている。そんな気さえして来て、つい目を外したくなるが、だからこそ、やはりその大地から目を離せない。
あの声の主が、この光景を目に刻み込んで置けと言っている。そう思うのだ。
「だが、何時までもこの空域に居るわけにも行かんか。あまり良い光景で無い以上、さっさと次に進もう。皆もそろそろ気が付いて居るだろうが、そろそろこの旅も―――
「艦長!」
「なんだ、テリアン観測士」
「なんだじゃありません! 艦前方やや左! 見てください! 船影があります!」
テリアンからのその報告は、思いを馳せるディンスレイの心を現実へと無理矢理引き出して来た。
そこには確かに、飛空船の影があったのだ。




