④ 何を言ったかでは無く何を決断したか
もはやそこはただの暗闇だった。
闇にも濃淡があるだろうが、それ以外何も無いというのならば、薄い闇であろうとそれはどこまでも続く、何も見えぬ闇でしかあるまい。
いや、だが、そこはやはり薄い暗闇でしか無いのだろう。
何も無いわけでは無い。ただそれを見つめるだけのディンスレイと、地図が闇の中に浮いていた。
闇の中でも見えるその地図は、まるで地図そのものが光源にでもなっているかの様に、そこに描かれている物が良く見えている。
シルフェニア国内を精密に描いた中心部から、外に向かうに従って空白が広がっている独特な紋様にも見えるその地図。
さらにその端には、消えぬ跡が残されていた。いや、その跡はまた跡では無くなっている。
輝いているのだ。その跡が現れた時の様に。
その輝きがすべての始まりだった気がする。その輝きから、何もかもが欠け始め、今やここにディンスレイが一人きり。
ここがディンスレイの終わりか。すべてを失って、何処かの時点でディンスレイの夢もディンスレイごと失われてしまうのか。
「私は! 私は諦めんぞ! 無駄に終わろうと足掻き続けてみせる! 目の前にどれ程の絶望が広がって居ようと知った事か! 諦めるなと言われたんだ! 共に旅をしようと! 名も忘れた誰かに!」
何か、暗いものに染まり始めた心を、ディンスレイ自身の言葉が否定する。
それが出来た事にディンスレイ自身が驚いていた。心はこんなにも折れそうなのに、こんな言葉を張り出せるだけの何かが、身体のどこかに潜んでいたのだ。
だから続ける。灯った火を絶やさぬ様に。
「我々を追い詰めるにしても大層な事をしてくれたな! ああ、そうだ分かっているぞ! 追い詰めたと言ったんだ! 聞こえているんだろう? 私はこの現象を、世界の不思議や、超常的な自然現象などとはこれっぽっちも考えちゃあ居ない! ここにあるのは悪意だ! どうして私だけが、薄っすらとだが消えた飛空船と、そこに乗っていたはずの誰か達の事を憶えていられるのか? 今、何故、ここにこうやって最後の一人になったのか!」
簡単だ。ディンスレイ自身が艦長だからだ。何人居たか定かでは無い飛空船の船員達の、それでも代表者として立っていた艦長だからこそ、一人残された。
この事態を引き起こした何かの狙いは、まず間違い無く自分だ。その意思を感じる。だから叫ぶ。
意思がある相手になら、手は出せなくても言葉は届くはずだから。
「私を試すためか? それとも私を絶望させるためか? 何にせよ、このままだとどちらも叶いそうに無いな。何せ私は知っている。私をこうやって追い詰めている存在が、神でも何でも無く、今起こってる現象とて、世界がこうなったわけでも無く、見せかけの物でしか無いとな!」
こればっかりはハッタリでも希望的観測でも無かった。
半ば確信した上での言葉である。だから足は折らない。心も折れない。どこかの誰かの無事だって背負っているつもりだから。
『理由を知りたい。お前がそう考える理由をだ』
声が聞こえた。どこから聞こえるか分からない。けれど、神秘的な声とは思えなかった。
低い男の声だったからだ。威厳はあるだろう。だがやはり、神々しい声とは言えないだろう。
その声がむしろディンスレイを冷静にしていく。やはり今、ディンスレイをこの立場に立たせた何かは居たのだ。
しかも、どういう事か、ディンスレイの言葉が通じる。相手の言葉もディンスレイは理解出来る。
ならばやるべきは、この相手との会話を続ける事。
出方を探るか? いや、ここは相手の興味を惹き続ける事が重要だ。飽きられて、また黙られては堪らない。
「さっき、ゴーウィル大佐という言葉が私自身から出て来た事を、私は憶えている。彼の顔も、姿も私は憶えているんだ。ここから遥かに離れたシルフェニア本国で彼は生きているという事だろう。ここと同じ状況に陥っては居ないはずだ。つまり……世界をどうこう出来るわけでは無いんだ」
なら、こちらが理解だけの技術を持つ誰かが引き起こしている。そう確信した。もっとも、互いの力関係は神と人くらいに離れているかもしれないが……。
『ディンスレイ・オルド・クラレイス。これがお前の名だな?』
「私の心でも読んでいるのか?」
『人の内心は複雑だ。瞬間瞬間に何を思うかは分かるものだが、次の瞬間にはまったく違う思考をし始める。知恵のある種族とはそういうどうしようも無さを持っているものだろう?』
この声の主は、やはり神などでは無く、どうしようも無く人であるらしい。今、この声は冗談を言ったのだ。
お前の思考なんて読めるものかと。
「なら、狙いは何だ? どうして私をこうやって一人にした? それとも、私だって消し去るつもりか?」
『狙いか。狙いは、今、この瞬間だ。ディンスレイ・オルド・クラレイス』
「……?」
『追い詰められた人間は、本性を現すものだろう?』
だから消したのか。皆を、ブラックテイル号と、ディンスレイ以外の船員達を。
ミニセル・マニアルを。
「っ……思い出した? ああ、そうだ。思い出せる。むしろどうして忘れていたかすら思い出せない程に……」
『心に何かを作用させるとはこういうものだ。他人の心を読むよりも余程便利な事が出来る』
「何のためだ。ここでこうやって思い出させる以上は、ただ私を絶望させるためだけでは無いらしい」
『絶望させた結果はもう見た。いや、お前は絶望しない。そういう存在だとこちらは認知させて貰った』
こちらが相手の様子を伺っていたつもりだが、観察されているのはディンスレイの方だったというのか。
確かに、そういう事は有り得るかもしれない。相手はこうやって意思疎通が出来る以上、何かしらの知性を持っている。そういう相手が別の知性を持った種族と出会う場合、慎重に、しかし実験的に接触するものだろう。
ディンスレイ達とてその様な文化を持っているのだから。
彼らもまたそうなのだろう。明らかにディンスレイ達と圧倒する技術力を持ちながら、思考はディンスレイ達に近い―――
「私が話しているのは……エラヴなのか……?」
『懐かしい名だ。すぐにその名が出て来る以上、こちらとそちらは、思いの外近い場所に居るらしい』
その言葉は、物理的な意味では無いのだろう。もっと概念的な、ディンスレイ達の方が彼らに近づいて行っている事を意味しているのかもしれない。
「……否定しなかったな?」
『いいや。エラヴと呼ばれる種族は……滅んだ。これまで出会えなかったろう?』
「なら、今、私が話している相手は誰だ。エラヴでは無く、ダァルフと呼ばれる種族の誰かか? それとも違う何者かか。私達はこの場所……なんと言えば良いか。我々は未踏領域と呼んでいるが、そちらにとっては―――
『言葉を選ばなくても良い。我々はお前達と観察し続けていた。そちらの概念や思考形態の、上辺程度なら理解はしている』
自ら、深くは知らないと言ってのける事がむしろ脅威だった。この話し相手は、その技術力や文明度以上に、個人としての思考形態すら上を行っている可能性があるからだ。
(自らに足りない部分がある事を知っている相手というのは、隙が見つけにくいものだが……)
それでも、見つけ出せなければ敗北だ。相手の狙いが何であれ、この窮地を脱するには、自らに主導権を引き寄せる必要があるはずだ。
「上辺程度を知られたという事は、随分とこちらに興味を持っているらしい」
『無論だ。あれを手にした時点から、お前達は我々にとって見過ごせぬ存在となったのだから』
あれとは何だ。聞く前に自ら考える。
この会話は会話として成り立っていない。相手はこちらの質問に答えてばかりだ。教えてやっているという立場を崩していない。
聞けば聞く程に、謎は無くなっているだろうが、相手との立場が開き続けて行く。
上辺だけなら理解出来るとこの声の主は言っているが、その上辺くらいは、対等になるべきだろう。
それがディンスレイの戦い方だ。
「……光石は、それほど君らにとっては重要な物資だったらしい。今さら返せと言われても困るぞ? あれは艦の機関部に直結させている」
『観察を続けて来たと言ったぞ? お前達が言う光石の扱いは慎重に慎重を重ねているだろう。取り外せないという事もあるまい。もっとも、返せとは言わん』
漸く疑問に答えてやるという立場から、会話をする気になってくれたらしい。今後もこの調子を続ける事だ。聞きたい事は山ほどあるが、聞くのでは無く、会話の中で答えを導き出してやる。
「あの光石を手に入れてからこちらを観察していた……つまり、あれには所有者を監視するための機能もあるらしい。こちらはあれを偶然手に入れたつもりで居たが、存外、与えられたものなのかもしれん。だが、感謝するわけにもいかんな。今、自分がこうやって追い詰められている原因にもなっているのだから」
『この状態は、お前でも窮地と考えるらしいな、ディンスレイ』
「私は大した存在じゃあない。観察を続けて居れば分かったはずだ。手荒に扱えば簡単に折れる程度の人間さ。そちらとは違う」
『だが、事実として今、その折れる程度の人間が我々のすぐ近くまで来ている。そこが興味深い。観察を続けている理由はそこにある。どの様な結果に繋がるか、好奇心がそそられる。暫し無かった事だ。この感情は』
「だと思うなら、さっさと今の状況をどうにかして欲しいがね」
『どうにかとは? 確かに我々は世界をどうこう出来ぬ程度に矮小かもしれないが、飛空船一つを消し去れる程度の力はある。それをして、元には戻せぬ程度の力かもしれん』
こちらを煽っている。観察は継続と言ったところか。その言葉が十中八九挑発であると理解しつつも、叫び出しそうになる自分を抑えるのに苦労する。
一割でも、既にブラックテイル号が破壊されている可能性を思えば仕方はあるまい。ただし、今はそれをおくびにも出さず、ただ超然とした会話をする相手との鍔迫り合いを演じて行く。
「君らがエラヴか、それともそれに類する存在だと仮定して、今がどういう状況かを考えてみた。すると、それが出来る方法がありそうだなと私は感じたよ」
『ほう?』
「以前、エラヴが残した施設を見た。向こう側の無い窓に絵を次々と描き出せる機能を持った施設をな。例えばそう、それを空気中に引き起こせる技術を君らが持っていたとする。するとどうだろう? 本来そこにあるはずの物質を、無い様に見せかける事が出来るのじゃあないか? それこそ、少しずつブラックテイル号の一部が消えていく様に見せかける事が」
『それだけでは足りないだろう? 目の前に茶の入ったカップが消え去れば、簡単にその事に気が付く』
「ああそうだろうさ。それに合わせて、私達側の思考だって誘導したり制御しなければ、あの混乱は引き起こせない。本来混乱が起こるはずの状況で、その事にすら気が付けぬという状況を。だが、そのタネだって今、ここで見せられている。いや、聞かされている」
『……ああ、そうだとも。離れた場所に声を伝えられる。その様な技術をより発展させ、頭に直接作用させれば、思考誘導というものが可能となる。危機感を抱くべき、疑問を覚えるべき状況に対して、その能力が発揮出来なくしたりな』
種明かしを向こうからしてくる。つまり、その程度の話でしか無いのだろう。
ディンスレイから見れば驚異的な技術だ。今の状況は単なる幻想と言えるかもしれないが、それにしたところで体感しているディンスレイにとっては世界が崩壊したのと同義だ。他の船員だって、自らが本当に消え去ったと感じているのかも。
その様な事を仕出かせる存在と、ディンスレイは対話を続けている。そこもまた重要だ。
圧倒されるだけの立場から、対等に話をする関係にまで至れたという事。
「奇妙だ」
『お前達の技術レベルであれば、我々側のそれはそう映るだろう』
「そうじゃあない。それだけの存在が、やはり私達に興味を抱いて、七面倒なお膳立てをしている事が奇妙だ。私達にそれだけの価値があるか?」
『言ったろう? あの光石をお前達が手に入れた以上、我々の観測対象に―――
「切羽詰まっているな? 私には伺い知る事も出来ないが、何か大きな問題を抱えている。藁にも縋る思いだ。そちらから見てあまりにも未熟で不足もある私達に、それでも何かしらの可能性を探してしまう程に」
『……』
相手から答えは返って来ない。これまで饒舌さを見せていたその声が、始めて悩むか戸惑うかしたのだ。
話の中でふと思った感想でしか無かったが、ディンスレイの言葉は思いの外鋭く突き刺さったらしい。
これで漸く相手と戦えるレベルまで至られた。なかなかどうして、自分の口先も武器になるじゃあないか。
「もし、何か困る事があり、私達へ頼む事もあるとしたら、取引と行かないか? もし私達を無事解放してくれるのなら、その相談、乗ってやれない事も無い」
自分で言っていて、随分面の皮の厚い言葉だなと思えて来る。今、この様に追い詰められている立場で、いったい何が出来るというのか。
だが、ディンスレイのこの言葉で、相手がどう反応を返してくるか。そこが重要だった。
その反応だけでも、相手の状況を伺える、さらなる譲歩を引き出せる。
単なる口先だけで、今の危機的状況を打破出来るかもしれない。
そういう可能性をこの会話で見い出したディンスレイ。果たして相手は何と返してくるか。今度はディンスレイが相手を観察する番……だったが。
『は……はは……はっはっは』
声は……笑い声を返して来た。こちらを挑発するものでは無い。少なくともその手の感情は伝わって来ない、心底おかしい物を見たかの様な笑い。
「随分と、君らの琴線に触る事を言ったか? 私は」
『ああ触った。触ったともさ。まさか、この様な状況に追い詰められ、それでもこちらを助けられると、それを譲歩の材料にしてくるとは……ディンスレイ・オルド・クラレイス。良いな、実に素晴らしい。そうだとも、我々には助けが必要だ。だが、お前達を追い詰めてまでして欲しいとは思わない。無条件で解放しようともさ。お前達が光石と呼ぶそれ。世界結晶もお前達の物だ。後から返せなどとは言わない、約束しよう』
「……君らは正気を保っているのか?」
『急にこちらの気が狂ったと思うか。それは事実かもしれんが、この会話に寄るものじゃあない。我々は、我々の事情に寄って狂ってしまった。だからこそ助けを必要としている』
「いったいそれは何で、そもそも君達は一体何者だ?」
『一度、仕切り直そう。今の我々は、お前達にとっての加害者だ。その状況で相談も何も無いだろう?』
その声が告げると同時に、地図だけの薄暗闇の空間が晴れ渡って行く。
さっきまでの光景が嘘かの様に、元に居た場所。ブラックテイル号のメインブリッジがそこにあったのである。
場所だけでは無い、そこに居た人間達もまた、消え去った瞬間と同じ様子で、いったい何が起こったか分からないと言った表情を浮かべている。
その中には勿論、ミニセルの姿もあった。
「仕切り直すだと……? 待て、つまり話はここで―――
『もし、また話をしてくれるというのならば、地図を辿ると良い。もう気が付いている事だろうが、あれを残したのは我々だ。あれこそ我々への道。誘う様になって悪いが、興味があるのなら、その道を辿ると良いだろう』
最後のその声は、メインブリッジすべてに聞こえた様で、他の船員達も反応する。
つまり、単なる幻聴では無かったという事。
だが、その言葉だけ残して、声はもう聞こえる事も無かった。
「え? 何? 何がなんだったの? ディン?」
「説明をしてやりたいところだがね、ミニセル君。私としては、そう呼ばれる様になった事は、幻で無かったらしくて一安心だよ」
今はその安堵で心を満たして置こう。
これからもまた、引きも切らぬ冒険の緊張に晒される事になるのだから。
「それで? そういう事件が艦内であったっていうのに、ボクは真っ先に消え去っていたから、事件で混乱した経験すら無いって言うんです?」
艦内後方。作図室。
そこへ足を運び、直々に状況説明をしたディンスレイを待ち受けていたのは、作図室の主である探索士のカインナッツ・モーテルローの愚痴であった。
「恐らく、艦内でもっとも混乱しているであろう君らへの説明が遅れたのは申し訳なく思っているよ。ただ、混乱という意味なら船員全員がそうだった事も分かって欲しい」
艦のあらゆる場所、人員が消え去って行きながら、誰もがそれに気が付かなかったという事件の収束から丸一日。
収束と表現したが、事が終わってから漸く、船員それぞれが、自分達が陥った状況を理解し始めた結果、むしろいったいどういう事なのかと困惑を強めているのが今だ。
恐らく、状況をもっとも把握しているであろうディンスレイが直接、いったい何が起こっていたのかを各所で説明する必要があったのであるが、今もそれを引き続き行っているというのは、まだそれが終わっていない事を意味する。
「艦長が忙しい状況なのは嫌でも分かりますけどね。こうやってご足労いただけたのだってまー、そういう誠意? なんでしょうが、じゃあなんでそっちの娘を連れて来たんです?」
「なんです? わたしが邪魔だって言うんですか? わたしは全然お邪魔じゃないですけどねっ」
カインナッツの視線がディンスレイから、脇に立つ少女、ララリートへと向けられる。
彼女もまた消失した者の一人であり、混乱していた船員でもあったが、若さ故というか、ブラックテイル号内部でも特異な経験を繰り返して順応したのか知らないが、早々に普段通りの様子を取り戻していた。
「艦長さんだけが状況説明をするのはとてもとても大変なので、わたしがやり方を学んで、他の船員の方々を落ち着かせられる様になったら良いという仕事を今、わたしはしているんです。一番早く消えちゃって苦労しなかった人とは違います」
「一番早く消えたのはボクのせいじゃないだろう! 減らず口を叩いているが、つまりまだ学習途中の見習いで何一つ成果が出せていないわけじゃないか。そうこうしている内に、艦内の混乱だって収まって無駄骨になるね。断言しても良い」
「なにをー!」
「ははは。二人とも、これじゃあ話がまったく進まないから艦長命令を出すが、暫し口の開閉を抑え気味にして欲しい」
黙れとまで言わなかったのは、この二人のやり取りを、ディンスレイは何故か面白く感じるからだ。安心もする。昨日に起こったひやひやどころか絶望しかねない状況に対して、この景色のなんと素晴らしい事か。
精神安定になるのでわざわざララリートを連れて来た……という理由は主目的では無いが、そういう考えがまったく無かったわけでも無い。
「ララリート君の頑張りは、今後にも活かせるやもしれん。本来船医殿の仕事でもあるが、今みたいな旅路はストレスも多いだろう? それを癒せる様な役割は必要になってくるだろう。その手の訓練を今のうちから受けておくのも無意味では無いさ。そうして、君ら作図室の探索士が真っ先に消失したのも意味が無いわけでは無かった」
「ボクらが消された理由があったと?」
「地図と君達が測った現実の距離感にズレがあったと当初報告していただろう? あの時点から、艦の消失は始まっていたんだ。我々側の感覚が徐々に小さくなっていたんだな。だから君達がそれに気が付いた」
「ああ。気付いてしまった以上、真っ先に消して置かないと、その後が上手く行かなくなるからって事か……」
「その通り。だから、この艦を一時消失させた相手は、ここの探索士を一番脅威に感じていたという事だ。誇って良い」
何時も通りに見えるが、カインナッツもまた、異質な状況に何かしらショックを受けているはずである。多少なりとも、これで自尊心を回復させてくれれば幸いだ。
「ですがねー、どうなんです? その脅威を感じていた相手……それが誰かもまだぜんぜん分からないんでしょう?」
「まあな。私だって分からん。こればっかりは艦内の誰にも分からんから説明も出来ん」
腕を組み、困ったと言った表情を浮かべる。すぐさまに解決も出来ないから、後回しにするしか無い悩みだ。
「ふふーん。そこはわたしが、名案を思い付いちゃいましたよ!」
「ほう? ララリート君。それはいったいどの様な?」
「このまま旅を続ければ、分かります!」
「おーいおい。なんだいそれは。そんなのが案なワケ———
「ああ、そうだな。その通りだララリート君」
「艦長?」
困った表情を作るのを止めて、ディンスレイは不敵に笑った。
「実を言えば、私が直々に船員達に説明して回っているのは、その後に説得するつもりもあるからだ。ここからの事は、船内幹部だけの会議では決めたくないからな」
「嫌な予感がする言葉だなー。というか、だいたい、何を言い出すか分かってしまう」
「それは話が早い。なら言うぞ? というか、ララリート君が既に言ってしまったな」
だが、繰り返し言ってしまおう。そこから始まるのだから。
「私が声を聞いた存在を追おう。これからも旅を続けようじゃないか」




