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無限の大地と黒いエイ  作者: きーち
無限の大地と脅威の罠
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③ 待ち人は選ぶべきか

 探索班の一人であるカーリア・マインリアは足を土で汚し続けていた。

 探索が始まって、夜を挟んでからの昼。疲労はあったが、仕事への意欲は減退していない。

(と言えば、嘘になるかもしれない……)

 探索班を送り出した操舵士のミニセル曰く、こうやって歩いている間に、何かしらの発想が生まれるかもしれないという話であったが、最初の目的地である岩山に辿り着いても、らしき案が出て来る事が無かった。

「……」

 この旅路では沈黙が続いている。まだ始まったばかりだと言うのに、皆、どうすれば良いのだろう? という困惑が強まっている気がした。

 恐らく、この手の探検で、新たな発想へ至ったり、意欲をむしろ増すというのはある種の特殊技能なのだろう。

 その手の事が出来る人材。例えば操舵士のミニセルや、艦長のディンスレイなどは希少と言えるのかもしれない。

(なら、この場では私が頑張らなければ)

 適材適所を任せられる人間が居ないのであれば、諦めずに自分でなんとかするしかない。そういう考え方をカーリアはする事にした。

 そちらの方が前向きだし、何よりこの仕事が楽しくなりそうだ。

「皆、聞いてください。一旦、足も止めてみましょう」

「……なんだ? いったい?」

 カーリアの声に、残り九名の班員が立ち止まる。カーリアは並ぶ九人の丁度中心付近に位置していたため、全員に取り囲まれる様な形になった。

 自分の発言に後悔しそうになったが、口を開いた以上は今さらだ。カーリアは二の句を告げて行く。

「こうやって進んで一日以上が経過しています。引き続き同じ事をしても、新たな発見がある可能性は低い」

「そりゃあ分かるが、じゃあどうする? だから諦めるっていうのは変だろう」

 発言を邪見にはされなかった。他の隊員も同じ事を考えていたからだろう。

 このままではいけない。ならどうすれば良いか? 今、それこそが全員の課題である。カーリアは一息を置いて、それを全員が実感するのを待った。

「……ミニセル操舵士の性格を思い出してみましょう。彼女ならこういう場合、どうするでしょうか?」

「愚痴を言う」

「悪態を吐く」

「足元の石を蹴ったりもするよね」

「……全員、正解ではありますが」

 一応、ここに居る全員が、ミニセルと共に探索班となった経験がある者だ。実感込みの言葉だから馬鹿には出来ない。

 そう、馬鹿に出来ないから、馬鹿に出来ない発言がすぐに出て来た。

「今ある情報や状況から、無理矢理新しい屁理屈を出して来たりも―――

「それです」

 探索班の一人の呟きをカーリアは強調した。

 そう、ミニセルなら確かに、変化が無い状況において、無理矢理にでも変化を見つけ出すはずだ。

「あー……これ、俺だけかもしれないけど、操舵士がそういう事する時、外れる事はあっても、新しい発見というか、進展はあるんだよな」

 さらにまた別の班員の言葉にカーリアは頷いた。

「恐らく、思考や行動の方向をその手の思い付きをスイッチみたいにして、変えているのだと思います。だからこその、普通ではぶつからない物事にぶつかる」

「何も無い状況より、どこかにぶつかった方が良いって事かー」

 それを狙っているかは知らないが、ミニセル・マニアルの冒険者としての技能はそれなのだ。

 今、自分達が正攻法でどうしようも無いというなら、彼女を見習ってみるのが手だろう。

「私達が今の時点で、無理にでも手に入れた情報はどんなものでしょうか?」

「幾つか、目に留まる物の位置については把握出来たね」

 最初の岩山。次に特徴的な丘。比較的植物が多い様に見えた草地。どれも辿り着き、そうして特に発見は無かった。

「徒労が多いっていうのは、運が悪いのか……」

「そうでも無いだろ。危険な原生生物には出会わなかった。そこが一番大切だって」

「ここいら、生物にとってはあまり環境の良い場所じゃないのか、多様な生物層からは縁遠いっぽい?」

「そりゃああれだろ。艦を飛べなくする様な力があるんだから、それが生物への毒に……いや、悪い。迂闊だった」

「いえ、それです!」

 出て来る多くの意見の内一つ。それにカーリアは反応した。新しい見地がそこにあったと思ったのだ。

「生き物にとっての毒かもしれない。確かに、この周辺の景色を思うと、その影響が周囲に広がっている様に見えます」

 と、カーリアは周辺の風景を見渡す。目立つ生物と言えば、草地とそうして自分達くらい。他に大型の動物や木々などは見当たらない。

「つまり、俺達も長居したら危険って事じゃあないのか?」

「かもしれませんが、今は前向きになれる情報をから受け止めるべきです。艦を捕えている力の近くには、生物が繁栄しない」

「そうか……じゃあ、草地の探索は無しだ」

 そう。生物層が薄い中で、それでもそこに生えている雑草というのは、恐らく、毒になっている力の影響が少ない場所……という考え方も出来る。

「じゃあ、逆に草地が無い場所と言えば……」

「岩山……」

 最初に辿り着いた岩山。その他にも幾つか。

 最初の岩山については軽く調べたものの、より深く調べる必要があるのでは無いか? そういう発想が出来るだろう。

「とりあえず、今の地点からもっとも近い岩山に向かってみませんか? そうして次は、もっと深く調べてみる」

「賛成だ。ただ歩き回って観察を続けるより、余程やり甲斐がある」

「他にするべき事も無いものなー」

「それで行こう。それで」

 意見が揃った。自分達の仮説が間違っている可能性だって十分にあるだろう。だが、それでも、意欲は湧いて来た。今、大切なのはそれのはず。

(それに、ミニセル操舵士の場合、これで上手く行ってしまう。なら、私達だって)

 船内幹部では無いが、それでも探索班として選ばれたのだ。なら、その役目として成果を出してやろうとも。

 そんな気概の元、カーリア達は足を進めていく。その先には、確かに発見出来たものがあった。




「艦長さん艦長さん。お食事の時まで、お仕事をするくらい、今は忙しいんですか?」

 そんなララリート・イシイの声を聞いて、ディンスレイは顔を上げた。

 場所は食堂。その端。今は一人でそこに居たはずのディンスレイであったが、何時の間にか近くにララリートが来ていたらしい。

「ああ、ララリート君。今日も元気そうだが、体調の方はどうかな? 支障があればすぐに船医殿に相談したまえよ」

「体調ですか? すこぶる快調ですっ。けれど、どうして?」

「君も船員の一人だから、隠したって仕方ないので話すのだがね、先日、この艦は未知の力に覆われた。その力は、何がしか身体に害が無いとも限らない。特に、年少である君に影響が一番出る……かもしれん」

「こ、怖い話です。けどけど、特にはそんな……はっ、今、あまりお腹が空いていないのはもしかして……」

「君、手に持っている皿が空になっているが、これから食事を取る予定だったのかな?」

「いえいえ! さっき一皿分食べたばかりで、おかわりをしようかどうか悩んでいたところ、端の方で難しい顔をしている艦長さんを見かねたので、同じ事を悩んでいらっしゃるのかなーって」

「とりあえず、一緒の悩みじゃなかった事は残念だったな、ララリート君。そうして、お腹が空いていないのは別に何も食べられないからでは無くて幸いだ。むしろ、確かに健康そのものに見える」

 とりあえずは安心しておく。懸念の一つは消せた。短期間であれば、少なくとも肉体には影響が出ない。そういう力の元にいるとディンスレイは考える事にする。

 だが、やはり悩みは消えなかった。おかわり云々は兎も角。

「わたしの方はおっしゃる通り元気ですけど、艦長さんはやっぱり元気ありませんね? 前の占いがそんなに嫌な事だってんですか?」

「君の耳にまで届いていたか……いや、この状況だと占いの結果はもはや些末事になっていてな。どちらかと言えば……そう。今、なぞなぞに悩んでいる」

「なぞなぞ! わたし、結構得意ですよっ。これでも故郷ではなんでも答えられるララちゃんなどと言われてまして!」

「本当かね?」

「す、少し言い過ぎたかもしれませんっ」

 故郷においては、かなり過酷な人生を送って来たであろう事は既に聞いている。が、それも楽しい思い出だったと脳内で変換できるくらいには健全な思い出になって来ているのだろう。

 それもまた喜ばしいが、それはそれとして、ディンスレイの悩みが晴れるわけでも無かった。

「こういうなぞなぞがある。家へ尋ねて来た客が居たはずなのに、家の中を探ってみたら、客が外に出て行った跡しか残っていなかった。どうしてだろう?」

「むむむむ。確かになぞなぞですねっ。それ」

「だろう? それをずっと悩んでいてね」

 別に暇人では無いぞと心の中で注釈を入れておく。

 このなぞなぞは、列記とした現実の問題であるからだ。

 ブラックテイル号が大地に縛り付けられてから、ディンスレイは船医のアンスィにある事を調べさせていた。

 船員達からの採血によって判明した、F値の偏り。ブラックテイル号が力に包まれた結果、船員の血中で高まっていると船医のアンスィと仮説していたあれだ。

 もし、その仮説が当たっていれば、艦中央からより外側で働いている船員に、F値が高い傾向にあるはずだと考え、アンスィに船員毎のF値の数値と配属されている場所を表にまとめて貰っていた。

 そうしてその表に書かれた内容は今、ディンスレイの頭の中に叩き込まれた状態だ。

 だが、そのデータは謎を解明してくれるどころか、新しいなぞなぞを提供してきたというわけである。

(艦中央付近に働いていた船員の方が、F値が高かい傾向があった。これは……どういう事だ?)

 まさに外から来たはずの客が、客の痕跡を調べてみれば、むしろ内側から外側に力が流れた様な、そんな数値が出て来ていた。

「むむむむ。ひ、ヒントなどは?」

「残念ながら、私だって答えを知らないのでヒントも出せん」

 退屈な昼食時間を上手く潰せる難題とも言えたが、問題は昼食時間をまるまる使ったって解けない事にあった。

(何か……こういう問題の場合、深く考えるとドツボに嵌まりがちな気もする。もっと、視点や発想を変える事で、何故気が付かなかったのだろうという解答がありそうな、そんな気も―――

「だったら、それこそお客さんはお客さんでは無かったのかもしれませんねっ」

 ララリートの、分からないなぞなぞに対する子どもみたいな言葉に、はっとディンスレイは顔を上げる。

 子どもみたいな発想は、ディンスレイでは出せない発想ではある。その視点もだ。

「ララリート君。今のその……それはどういう意味で言ったのかな?」

「どういう意味ですか? えっと、だから外から来たのに内側から来た様にしか見えないのなら、もうそれはお客じゃないって事かなと。違いますか? わたし、間違っちゃいました?」

「いや……むしろそう思うべきだ。それが自然だ。そうか。このデータからはそういう答えが返って来る。それはつまり……」

「艦長! 艦長はこちらにいらっしゃいますか!」

 思考が回転し始めたタイミングで、水を差される。

 こういう時に苛立たないと言えば嘘になるが、艦長という仕事をしていると良くある事なので、何でも無いと言った表情で声を掛けられた方を向く。

「ここだ。何かあったか。いや、あったな、その表情は」

 ディンスレイを呼びに来たのは観測士のテリアンだった。彼は肩を上下させながら、食堂の出入口から顔を見せている。

 別にテリアンはディンスレイへの伝言役でも無いだろうから、とりあえず手の空いている者がその役目になったのだろう。

 相応に急ぎの用事と言う事だ。

「それが……探索班が帰って来たんですよ!」

「待て、まだ帰還の予定より随分と早いぞ? もしや現場で事故でもあったか?」

「わわっ。それって大変ですよ、大変!」

 慌てているララリートの言葉を聞いて、ディンスレイも内心焦る。ここで調査に出した者にまで害が出ては、艦の脱出に支障が出る。それも多大な形でだ。

「それが逆なんですよ、艦長! 探索班、見つけたらしいです。今、艦を捕まえている装置を!」

 そのテリアンの言葉は、確かに朗報だった。状況に進展があるというのは、今の状況においてとても喜ばしい。

「確かに良い話だ。どこに向かえば良い? 直接探索班から話を聞こう」

 席を立ちあがり、さっきまで頭を悩ませていた問題を頭の隅に追いやっておく。今は幸先の良い事について優先したかったから。

 けれどそんな頭の隅の方から声が聞こえて来るのはどうしてだろうか。

 お前の運勢はまだ、悪い時期が続いているかもしれないぞ? などと……。




「はい、間違いありません。岩山や地面の形で偽装していましたが、艦を取り囲む様な配置で少なくとも三点。未知の装置が確認出来ました。内部へ入り込める様な入口らしき物も確認しましたが……そこへ入るかどうかは一度、艦長の指示を仰ごうと、帰還した次第です」

 どうにも探索中にリーダー格にでもなったらしいカーリアの報告を聞いたディンスレイ。

 場所は彼らを出迎えた後の会議室である。

 普段使用するのは船内幹部くらいの場所であるが、別に船内幹部だけしか利用できないという決まりは無かった。

 もっとも、今はそれだけ重要な情報を持ち帰ってくれたのだぞという意思表示のために、この場所で報告をさせているが。

「贔屓抜きにして、出した結果もその判断力も素晴らしいものだと私は思うよ、諸君。何より、操舵士抜きでそれだというのが素晴らしい」

「ちょっと、それどういう事? あたし抜きだったらどうだって言うの?」

 嫌味を言ったディンスレイに対して、同じく会議室に居たミニセルが突っ掛かって来る。

 当人の居ないところで嫌味は言わない主義なディンスレイなので、その言葉は遠慮を無くしている。

「いやいや、探索班の主力たる君が居なくても成果を出せたというのを素直に評価したつもりだったが、ミニセル君がそれを悪く取ったというなら、何やら思うところがあるらしいな」

「ぜんぜん? ぜんぜん思うところなんて無いわよ? あたし要らなくならない? みたいな事、これっぽっちも脳裏を過ぎった事なんて無いわけだし? わざわざこうやって顔を出しているのも、精一杯の存在感を示してるってわけでも無いわけだし?」

 思ったよりもいじけた言葉が出ているため、あまり色々言ってやるのも悪い気がして来た。

 存外、彼女の手の怪我は彼女の身体より心の方にダメージを与えているのかもしれない。

「あのぉ……続き、よろしいですか?」

「ああ、すまない。カーリア君。話の内容は理解しているよ。恐らく、君たちの推測は正しい。この艦を捕える装置こそがそれだ。次にすべきは、その装置の機能や意図を探って行く必要がありそうだ」

「機能は当然として、意図……ですか?」

「分からない話だったかな? だが、そもそもこうやって我々が謎の装置に寄り捕えられた事が分かったうえで、一つ、大きな謎が生まれた事に気が付いて欲しい」

「ええっと……」

 カーリアにはまだ、その手の鋭さは無いらしい。他の探索班達を見るや、気付いて居そうな者が半分。カーリアと同じ様子の者が半分と言った様子。

「つまり、人工物は人が作ったものなんだから、本来はこうやって艦が捕まえられれば、必ず誰かしらの接触があるって事よ。けど、それが無い。どう? 謎でしょう?」

 答え合わせはミニセルがしてくれた。彼女自身は怪我の治療中と言っても、探索班への教導役は止めるつもりは無いらしい。

 怪我に悪影響も無いだろうから、ディンスレイはそれを止めるつもりは無い。むしろ話が狙い通りに進んで助かる。

「確かに、我々が探索し、そうして実際に装置を見つけて探りを入れても、特段、反応はありませんでした」

 カーリアの報告にディンスレイは頷いた。その点を確認したかったのだ。

 その報告から出せる答えもある。

「装置には人が入れる様な場所こそあるが、それは無人の可能性がある。要するにその機能だけが生きていて、事故みたいな形で我々が巻き込まれたという可能性だな」

「それってすごく傍迷惑よね。けど、人が適宜整備もしないで、これだけ大掛かりな現象を発生させる装置って、かなりのものだと思うけれど……」

 ミニセルはその続きは艦長が話すべきだと、途中で言葉を止めた。

 ああそうだ。今の状況から考えられる事がある。今回の事故は不運極まりない事故だったかもしれないが、一方でそれは幸運であったと。

「諸君。この手の大規模で、時間の経過に寄る劣化を幾らか逃れられる技術力を既に我々は知っている。それが無人であるというのも、不満点であるが共通項ではあるな」

「今、我々を捕えている装置もまた、エラヴに寄るものという事ですか!?」

 ここまで来て、カーリアの方も自身で気が付けたらしい。幾らかヒントみたいなものは出していたが、勘みたいなものを働かせられる様になってきたのかもしれない。

 こういう部分を、ミニセルなどは鍛えたいと考えていたりするのだろう。

 そこはミニセル自身に任せるとして、今の話題はエラヴについてだ。

「可能性はあるだろう。というより、ほぼ確定と言っても良い。自然現象では無く、それでいて大規模。そうして何より、私達は彼らを追っている。その足跡を踏んでしまう事はあるさ」

 現状、発生しているのはそういう現象なのだとディンスレイは考える。

 彼らの、かつて設置した罠か何かを踏んでしまったのだ。だからブラックテイル号は捕らえられてしまった。

 一方、その後に続くはずの判断について、肝心のエラヴ自身が居ないから、ブラックテイル号は捕らえられたままとなってしまう。

「状況を脱する方法を探すのと、目的の相手に近づくための情報集め。その二つが同じ行動で達成出来るというのは、なかなか私の運の巡りも良くなって来たかもしれないな? ミニセル君」

「一操舵士としては、賛同してあげたいところだし、そういう気分でもあるけど、断言出来ないところを見るに、何か引っ掛かってるところがあるわね?」

 ミニセルには見抜かれたらしい。状況に進展があり、それは期待を越えてくれるものであった。

 その事に文句などあるはずも無いが、その次に何をするのがベストなのか。頭の中に思い浮かんで来た事柄に、ディンスレイ自身が引っ掛かりを覚えていたのである。

「現状、もっとも早く事態の解決を図るのであれば、次は探索班の諸君が見つけてくれた謎の装置について探って行く必要があるだろう」

「それがもし、危険な任務だとしても、命じられれば私達は従います。それが無謀とも思えませんし、むしろ甲斐がありますから」

 カーリアの言葉は有難いし立派なものであったが、ディンスレイは首を横に振った。

「君達に不足があるとは考えていないよ、私は。むしろ暫し休憩して後、再度、探索班となってくれないかと私の方から頼むつもりで居た。重要なのはだ。その探索班に追加メンバーを入れるかどうかという話でね」

「さらに……ここへ?」

 今でも艦から十人というのは多い方だろう。さらにそこから増やすというのは、彼女らにとっては驚いてしまう事なのかもしれない。

 だが、やはり上手く次に進むには、そういう選択肢になる……のであるが。

「その追加メンバー、当ててみましょうか?」

「もう答えを知ってそうだから、私から言う。探索班の諸君も考えて欲しいのだが、私は探索班の追加メンバーとして、ララリート・イシイを同行させるつもりだ」

「あの……少女をですか?」

 船員の中で、ララリートを知らない者も居るまい。艦内をかなりの頻度で走り回っている彼女だ。今、目の前のカーリアだって話をした事だってあるだろう。

 そろそろ、長い旅をしてきたと言える期間が過ぎている。ララリートを邪見に思うという事も無いはずだ。

 けれどもディンスレイの言葉に驚いているのは、カーリアの善性に寄るものだろう。

「あの装置が何であれ、危険がそこに待っている可能性があります」

「分かっている。だから悩んでいる。子どもをそんな場所に向かわせるか? 今、この場に居る全員がそう考えてくれている方が、私はまだ健全だと思う」

 なので救い難いのはディンスレイの発想の方だろう。

 それでも、ブラックテイル号という全体にとっては、ララリートにも装置を探索させるのが良い結果に繋がる。艦長としてはそんな事を考えてしまうのだ。

「ま、私の命令だから従え。などと言うつもりは無いよ。むしろ反対だというのなら率直に言ってくれ。君達探索班の意欲が一番大事だろうし、そこに支障が出て、肝心の情報収集が上手く行かなければ本末転倒だ」

「そうですね。彼女が危険な目に遭うとなればハラハラしてしまいますし、何より、そこから守る行動を取るならば、確かに結果にも影響が―――

「結論を出すの、ちょっと待ってくれる? 艦長、一つ聞きたい事があるのだけれど」

 決まり始めた空気を変えたのはミニセルからの言葉だった。

「真っ先に君が反対すると思っていたので意外だったが、何でもしてくれて構わんぞ」

「あたしだって、状況からベストを考える性質よ。だから聞くけれど、どうしてララリートちゃんなのかしら? そこ、言葉で説明して貰わないと、そもそも納得出来ないでしょう?」

 反対するにしても、確認はしたい。そういう事が出来る彼女は、やはり探索班の班長としては適役なのだろう。

 いざとなれば、そうやってしなければならない決断が出来る人間だ。だからディンスレイも考えを隠さずに話す。

「まず、エラヴの装置を探索するとしたら、彼らが残した資料が見つかる可能性は高い。そうなれば、ララリート君が現場に居た方が、その解読がスムーズに進むだろう?」

「けど、それだけじゃああの娘を危険な目に遭わせる事には繋がらないわよね、艦長としても。そこにララリートちゃんの成長もあるかもしれないっていうのも含めた上で」

 こちらの考えを先読みしてくるまでになったミニセルに対して、ディンスレイは苦笑を浮かべた。

 確かに、それも考えていた。ララリートという少女に多様な経験をさせる。そのために探索班に同行させるというのは有りだ。

 だが、ミニセルの言う通り、それは理由としては弱い。

「ここからは私の想像に近い考えになってしまうが……スペシャルトーカーという才能には欠けているものがある」

「つまり、ララリートちゃんの才能に?」

「いいや。彼女にでは無く、あくまでスペシャルトーカーにだ。その才能は、あくまで言語を読む、聞くに限られた部分の才能だ。ある種当たり前の部分である感じ取るという部分に欠けている。そうして、まだ人間として幼いララリート君の場合、その部分の才能はまさに一般的少女並だ」

 それは結果的に、スペシャルトーカーとして得られる知識にも限りがあるという事だ。

 ララリートという少女が語学の勉強をしているのも、やはりそういう不足があるからこそだし、誰もがそうである様に、子どもが大人になるまでの期間、勉強に励まなければ身に付けられない能力というのも勿論あるのだ。

 だからそれ以上の何かを得ようとすれば、相応に無茶をする必要があった。

 他ならぬララリート自身に。

「感性というのは、磨くには文字で読むより体験する必要があるだろう。千の言葉は一の視野に満たないなどという言葉もある様に、一般的人間として、現場に出なければ、その現場にある情報というのも読み取れない」

「だから、ララリートちゃんに、直接エラヴの装置を見て貰いたい……そういう事ね。そこについてはスペシャルトーカーとしての才能も関係無いから」

「聞くという分野の才能だけでは、見て感じる部分は補えない。そう考えてはいるが、最初に言った通り、必ずそれをしなければならないという物でも無いよ。彼女の勉強にもなるとは言え、やはり少女を危険には晒せない」

「探索班としても、そこは同意です。装置を見る限りにおいて、あれは現状、我々の常識からでは推し量れない技術で作られている。不測の事態は必ずあると考えるべきです」

 だからこそ、その不測を未然に防げるかもしれないララリートの能力に期待する部分もあるが、結局どう判断したのかは、ディンスレイは既に語っている。

 だから方針が変わるとすれば、ミニセルからの言葉に寄る。

「一つ条件を付けるのなら、艦長の提案、あたしは賛成よ?」

「意外だな。ミニセル君なら、むしろ反対の立場と思っていたが……」

「あたしが反対したら、全会一致でララリートちゃんに危ない事はさせない。そんな結論になって居たんでしょう? けど、ララリートちゃんの判断を聞かずにそれをするってのは無いと思わない? 最近のあの娘の様子を見る限り、こういう探索任務、危ないけれどどうするって聞けば、あの娘、それでも参加したがるわよ」

「だからこそ、この場に彼女は呼んでいないんだ。危険かそうで無いかの判断を、今の彼女にさせるのか?」

 ララリート自身に想像力の欠如がある。いや、表現は少し違うか。

 危なければ止めておくという判断が出来る程、彼女は落ち着いていない。そういう表現が正しいだろう。

 自身の命の価値がまだ把握出来ずに居て、一方で世界がキラキラとしていて、溢れんばかりの勇気でもって、危険に無防備で突撃する。そういう年齢の少女に、自分自身の危険を判断させるのは難しい。

「ま、同感と言えば同感だけど、これからする再度の探索において、あの娘の危険を多少なりとも減らせるなら……少し意見が変わらない? 艦長もここに居るみんなも」

 それはいったいどういう方法で? 誰もが疑問に思う中、ミニセルはディンスレイの方を見つめて呟く。

「あと艦長、占いで悪い結果が出たみたいだけど、それを覆せる自信とかある? そこも多分、重要になってくるだろうから」

 そう言って意地悪く笑う彼女を見れば、何を言いたいか。ディンスレイだけは気付く事が出来た。

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