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無限の大地と黒いエイ  作者: きーち
無限の大地と黒き都市
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幕間 ロブロ・ライツの前夜祭 後編

 意外な事に、ロブロがブラックテイルⅡの船員として働き始めて、その感情を抱くのは、今回が初めての事であった。

 どういう類の感情か。

 それそのものは簡単に言葉に出来る。自分じゃどうしたって無理だ。諦めようという感情だ。

「というわけで、迷惑掛けたところでこれっぽっちも罪悪感が湧かない相手っていうのを自分の中で選んだ上で、君に今、相談を持ち掛けてるところなんだ」

「今、私が忙しいって事を分かってて言ってる? 言ってるでしょ?」

 パーティの準備会場……と言うのは些か過剰表現に思える、ブラックテイルⅡ内部の会議室。主に船内幹部会議で利用されるその部屋であるが、使用予定が無い場合は、それこそ船員の遊興用に使う許可が出る、そんな部屋であった。

 今なお、タイミー・マルフォルドが彼女企画のパーティ会場予定とされており、その当人が準備を行っている。

 机を並べたり、天井に色紙で飾りつけをしたりと言った程度であるが……。

「とりあえず、この手の準備は幾ら手や時間があっても足りないものだろ? 僕もそうだけど、もう一人手を貸せる人間を連れて来たんだから、むしろ感謝されるべきなんじゃないだろうか?」

「なるほど。私はその手を貸す一人に含まれていると」

 その通りである。

 隣に立つブラックテイルⅡで二番目に偉いはずのテグロアン・ムイーズ副長こそ、今、この会議場改め、パーティ会場の準備に現れた、貴重な助っ人なのである。

 勿論、無償でその役目を買って出てくれているわけでは無い。

「忙しい部分については、多分、きっと、恐らく、副長がなんとかしてくれる可能性が万に一つもあるだろうから、代わりに副長の悩みについて、一緒に頭を働かせて欲しい。僕にはちょっと……いや、かなり荷が重い気がするから」

「あー! もう! その時点で絶対に難題じゃん!」

 無論その通りだ。

 だいたい、ロブロが失礼を承知でテグロアン副長をこの場に連れて来ているのだから、それがどれ程のものか、ロブロの性格を良く知っている相手なら分かるはずである。

「僕にはね、悪いんだけど人を笑わせる才能とか経験とかが無いんだよ。そりゃあ艦内で上役である副長に頼られるっていうのは名誉だし、何とかしたいという気持ちはある。でもそれはそれだ。もっと言うなら、タイミー、君が無理だっていうのなら僕も無理なので、必然、二人して副長に頭を下げる必要がある」

「ふむ。思いの外、大事になってきたと言えるのかもしれませんね。この事態は」

 無論その通りだ。

 副長が言うのだから間違い無い。ロブロが一体、何の反論が出来ようか。

「あんたさー、最近成長してきたと思ってたけど、目上の相手に対してのその態度は、今後改めないと痛い目に遭うんだからね」

「今絶賛、痛い目に遭ってるんだよ、こっちはさ!」

 テグロアン副長が船員を笑わせる芸を考えなければならないなんてのは酷い罰ゲームである。これまで、どういう罪を背負えば、この様な罰が振りかかってくるだろうか。

 この広い広い大地に文句を十くらい言いたくなるものの、言ったところで大地が何かを返してくれるわけも無い。

 なので無論、この罰を知人に共有する。

「こっちは忙しいってのに、どういう事これ。せーっかく気合入れて、医務室での仕事も早めに終わらせたってのにこれ」

「そういえば看護士だったな、君。時々忘れそうになるや」

「忘れんじゃない。ただでさえ最近、ブラックテイルⅡが空戦したせいで、あちこちぶつけたとか言ってくる船員が多くて忙しかったんだから」

 緊急事態が多くなれば多くなる程、仕事も多くなるのはどこの部署も同じらしい。

 整備班も勿論、空戦なんて事態になれば仕事が忙しくなる。何せ機関部に無茶をさせるというのが、空戦というものだからだ。

 そういう物が最近あったと考えるなら、一旦落ち着いた今、心を切り替えるためにパーティをするというのは、やはり有りなのかもしれない。

「恐らく、お二人にとっては、これが何時も通りのやり取りなのでしょうね。良好な関係性が船員同士で構築されている事を好ましく思います。ですが、それはそれとして、今回は私も話題に混ぜていただければ幸いです」

「あっ、す、すみません副長。別に放っておいたわけでも無いと言いますか、ぜんぜん、極力存在を忘れたいなんて、これっぽっちも思っていないですからね!?」

「はいはい。あんたは慌てると口を滑らせまくるんだから、ちょーっと落ち着くか黙ってなー。それで? 副長? こいつが言う通り、副長が芸を……本当にしたいと思ってるんです?」

 タイミーに脇へと追いやられ、二人の会話を眺める事になったロブロ。このままこっそりこの場を去れないだろうか?

 後からタイミーに怒られそうなので、まだそれは最終手段として取っておくが。

「そこのロブロ整備班員にも頼んだ通り、その通りです。いきなり砕けた関係性をというのも難しいでしょうが……今のロブロ整備班員の様な、無用な緊張を持って話し掛けられる状態は解消しておきたいかなと」

 確かに、面と向かえば緊張はしてしまう。テグロアン副長とは船内においてそういう扱いなのである。

 良く分からない相手に対して、人はどうしたって警戒してしまうし、それが目上ともなれば、まさに緊張という形で現れるのだ。

 それを解くとなれば、確かにパーティで芸の一つでもして、ある程度理解出来る人間だと理解させる必要があるだろう。

「けど、下手な芸だと、むしろなんだこいつって思われて、関係が拗れちゃうよーな?」

「ふぅむ。そういう物ですか。ロブロ整備班員からは、なぞなぞや手品などをしてみたらと言った案が出てきましたが」

「あー、ダメダメ。駄目ですよー。こいつの案は、そういう方向性だと全然駄目。そういうのこそ、いきなりすると、警戒心抱かれたりするんですから。上手くジョークなんか交えた会話が出来て初めて上手く行くんですけどー……できます?」

「会話は嫌いではありませんが、話をしていると警戒されがちですからね、私は」

 目の前で何らかの芸を見せられながら、言葉により警戒心と不気味さを与えられるというのは、新手の拷問かと思われる事だろう。パーティの空気も台無しだとはロブロも思う。

「あくまで手品とか話芸とかは、僕だって悪手だろうなと思ったからな! ただ案を出すタイミングだったから、思い付く限りの事を言っただけでなー!」

「だから落ち着くまで黙ってなさいっての。そうですねー。私も、何かしら砕けた雰囲気にして、普段近寄りがたい副長をどうにかするっていうのは必要だと思いますしー、何よりパーティ自体を成功させたいので、副長の出席が絶対なら、そこを何とかしないと私自身の沽券に関わるとも思ってます」

「なるほど。艦長の言う通り、あなたは不真面目そうな雰囲気こそあれ、その実、かなり出来るタイプではあるらしい」

「お褒め預かり光栄ですけど、副長自身の問題ですからね、今のこれ」

 なんともまあ、黙って見ていると、タイミーは副長とも上手く話が出来ていた。

 この話術であれば、艦長からパーティを開く許可を得られるかもしれないし、その一部でも副長に分けられれば、パーティを成功させる事が出来るかもしれない。

(となると……足を引っ張ってたのは僕か?)

 冷静になれば、途端に不安にはなってくる。

 これでも、多少なりとも艦に馴染み、存在感と技能を示せる様になって来たと思っていた。が、それでも、普段悪態をついているタイミーには及ばないのだとすれば、自分などまだまだだと思えて来てしまう。

「一つ、手はありますけど、それ、私の援護が必要です」

「ほう。援護があれば、君は私を面白おかしく彩れると? それは素晴らしい」

「すっごい面倒なんで、感心しないでくださーい。しかもこれ、一回しか通用しない方法なんで、味をしめて何度もやろうとはしないでくださいねー。今回一回限りですよー。本当にそれだけの手段なんですからねー」

「分かっています。船員からは固い印象を持たれているかもしれない私ですが、これで物分かりは良いのですよ」

 本当だろうか? 固い印象では無く近寄りがたい印象であるし、艦長が副長を物分かりが良いと評価するとも思えない。むしろ難敵みたいな扱いの可能性だってある。

(そういう相手とも、タイミーは普通にやり取り出来てる。案外、ブラックテイルⅡの旅への適正っていうのは、タイミーみたいな奴にあるのかもしれない。僕なんかは―――

「ちょっとロブロ! いい加減、大人しくしてないで、会話に参加しなさい!」

「いや、僕はその……って、黙ってろって言ったのは君の方だろ! それが急に何だよ!」

「どーせ冷静になってるんじゃなくて、意味も無い反省だの後悔だのしてるに決まってるんだから、そんなのさっさと中断して、私の事を手伝いなさい。丁度良く、手が足りなくなってんだから」

「なんで他人様の手を借りるのにそんなに偉そうなのかは分からないけど、まあ、貸せって言うのなら貸してやるよ。どうせパーティ時間は暇だし」

 他の整備班員をパーティへ積極的に誘った側である以上、ロブロ自身が出席しないという選択肢は無い。

 一方で自分は準備作業をする側でもある以上、本番となればむしろ暇になる。パーティに他の船員を誘った割に、共に遊ぶ予定というのを立てて居なかったのだ。

 なので、当日が忙しくなるというのなら、それを受け入れて、多少なりとも点数を稼ぐというのも手では……。

「暇だし、どうせ、とかじゃないっての! 話聞いてた? 私はこの副長のお世話をパーティ中はしなきゃいけないの。すっごいハードだからね、これ。あんたが想像する十倍くらい大変。だからあんたが、私が本来、パーティでする予定だった事をするの。分かってる?」

「君が本来する予定の仕事って、何だよ。君の方も何か派手な芸でもするつもりだっていうのか?」

 タイミーだって今を忙しくしているのは、パーティ中ははしゃぐつもりだからだろうに。その目論見が外れたからって、こちらに圧でも掛けるつもりか?

「ふむ? タイミー看護士。彼はこう……鈍い方なので?」

「ええっとー……はい。たまーに、すっごい的を外れたりもしますねー」

「なんなんだよ。副長までどういう狙いですか、そういうの」

 これは言われた通り、ロブロが鈍いからだろうか。今のこの空気の意味が分からなかった。

「真っ先に助けを借りたのが私である以上、私から助言なりしておくべきかもしれませんね。本来、当人が気付く方が良い事ではあると思いますが……ロブロ整備班員。今回のパーティ。あなた方にとっての目的は何であるか。思い出してみるのが良いと思いますよ」

「はぁ……思い出す……」

 芸で、なぞなぞを話すのは無しになったのではないか?

 ふとそんな事を思いながら、ロブロは副長に言われた通り、記憶を呼び起こしてみた。




 種々の準備を終えた後、パーティは開かれた。

 時間帯は陽の光が消え去り、星々が輝く夜。

 ブラックテイルⅡは観測の結果、危険が少なく見え、安定した大地に着陸中だ。

 船員の多くが参加するパーティというのは、要するに艦内全体で休養時間になっているのと同義であり、ブラックテイルⅡを運用出来る最低限の人間以外は、仕事をしていない時間である。だからこそ、不測の事態が発生する可能性は極力減らす。それこそが着陸するという選択肢であった。

 丁度良く、拓けた大地がそこにあり、遠くの距離まで見渡せるそんな場所は、パーティ会場になっている船内の会議室からでも、窓越しに見る事が出来た。

 パーティ会場という事になっているその場所を、上手い具合に彩る事が出来ている……と、ロブロは思う。

(少なくとも、パーティ会場の飾り付けよりは、良いものなんじゃないか? うん)

 思いつつ、ロブロは会議場全体を見渡す。

 それなりに貴重な消耗品である色紙で作られた細工物が天井物や壁の隅に飾られ、観葉植物なども、誰かしらの部屋から持って来たのだろう。その手の物も壁際に並べられていた。

 涙ぐましい努力である。いや、相応に労力と準備、さらには人間関係の苦労だってあった上での成果である事は分かるが、それでも何とか、ぎりぎりパーティ会場と言えるくらいの見た目としか言えない。

 どちらかと言えば、調理班の努力の方をロブロは評価したいと思う。

 等間隔に並べられ、白いテーブルクロスにより覆われた机の上には、レパートリーの多さに驚く程の種類と、パーティ会場に集まった船員達全員でもすべて消費出来るかといった程の量が兼ね揃えられた料理類が存在していた。

 特に船員達が祝いの席で望む様な肉類のレパートリーが多く感じられる。相応以上の工夫がされているのだろう。

 一例であるが、保存用の肉をひき肉にし、さらに嵩ましも兼ねた混ぜ物で見た目と風味を変え、それを薄く切ってパンに載せるなどで、その工夫そのものを料理へと昇華しているといった具合だ。

 この手の料理が並び、それでも美味しそうな見た目であると評価出来ているのだとしたら、今回のパーティの敢闘賞は調理班となるだろう。

 パーティは今、始まりの挨拶の最中であるが、船員の胃袋はこの料理のおかげで、パーティの始まりを歓迎するムードとなっていた。

 ただ、船員の心については、どうにも歓迎ムードとは違う風に思える。

 パーティそのものに反対というわけでは無いはずだ。しかし今、この会場を包み込んでいるのは、船員達の困惑だ。

「はーい。じゃあみんな、貴重な時間を使って参加してくれてありがとー! なんて言っても、この後の盛り上がりには繋がらないでしょ? だから固い事は抜きにして、今はただ盛り上がってくれたらなーって、私としては思ってまーす」

 パーティの準備役であったタイミーが、今は司会役となって、挨拶を行っている。

 その事が困惑に繋がっているか? そうではない。むしろ彼女の軽妙さは、この後の騒ぎに繋がる様な、適切な物と言えるだろう。

 いいや、恐らく適切に過ぎる。普段のタイミーであれば、もっとふざけた様な事を喋り始めるはず。

 パーティを楽しめない様な奴がいるならさっさと艦から飛び降りろ。刺激的なイベントならそれだけで十分だとかなんとか。

 そういう言葉が飛び出して来ないというのは、タイミーなりの理由があるはず。その理由については……分かり切っていた。

「んー? みんなどうしたのかなー? 始まりの挨拶はこれで終わりなんだから、盛り上げて行かないと!」

 わざとらしい。今度のタイミーの言葉は酷くわざとらしかった。

 そのわざとらしさはきっとフリだ。彼女が今、このパーティ会場全員へと向けているフリ。

 いったい何の……いいやそんな事だって分かり切っている。

(何してんだ、あの副長)

 恐らく、ロブロだけで無く他の船員もそう思っていただろう。

 今回、パーティに唯一参加する船内幹部という事で、まるでパーティの主催かの如く、会場の中心に、椅子を配置されて座っている。

 タイミーが始まりの挨拶をしているのは、そのすぐ横なのである。だから、タイミーの挨拶を聞けば、嫌でも副長が目に入る。

 シルフェニアにおいて、鼻めがねと呼ばれる、顔を分厚い眼鏡と付け鼻と、さらに付け髭で覆う仮装用の道具。

 それを装着したテグロアン副長が今、そこにいるのだ。

「……」

 副長は無反応だ。不服そうに固まっているのでは無い。恐らく何時も通りだ。何時も通りの様子で、淡々と椅子に座り、パーティを眺めている。その無駄に分厚くデザインされた眼鏡越しに。

「うーん。みんなは合図待ちかなー? じゃあ乾杯から始めよっか! ちゃんとコップ持ってる?」

 ぴゅい~。

 それが返事であると言った風に、間の抜けた音が聞こえて来た。

 いったい誰だ。この様な状況でそんな音を発生させ……いいや副長だ。あの副長の野郎、何時の間にか、口に笛を咥えていやがった。

「よーし、準備万端っぽいね!」

 ぴゅ~。

「じゃあ始めましょうか!」

 ぴょ~。

「かんぱーいが合図だからねー」

 ぷ~ぷぼっ。

「ぶっ……」

 遂に耐えきれず吹き出す船員が出た。

 いやだって卑怯だろう。挨拶みたいに笛が鳴らされるだけなら兎も角、勢い余って笛が口から飛び、床を転がるなんて状況は。

 だが、卑怯であろうと無かろうと、笑ってしまったのは事実だ。

「さて、ではせっかくなので私からさせて貰いましょうか。乾杯」

 と、笛を床に転がしたまま、やはり鼻めがねを付けたまま、副長は立ち上がり、それを言葉にした。

「か、かんぱーい」

 なんとかロブロは、その言葉を発する事が出来た。我慢できなかった笑いの感情と、やはり状況が整理出来ぬ混乱の只中、言われた通りに乾杯を言葉にするしか無かったとも言える。

 他の船員も……やはり一緒だ。困惑で包まれていたパーティ会場に、一気に弛緩した空気が流れ込むのを感じる。

 それこそが、タイミーと副長が準備していた事なのだろう。

「ここでさらに、正式な乾杯を、などと私などは考えるわけですが、こちらのタイミー看護士曰く、今のこの空気が大切だという話です。ですので、私からの話は最小限に。長話が聞きたいというのなら、個人的に、パーティの最中に来ていただければ助かります。それでは、始めましょうか」

 と、何時も通りの副長の言葉が、何時も通りでは無い顔で続く。

 その事に妙なおかしさを感じてしまうが、このおかしさこそ、タイミーと副長は狙っていたのだろう。

 実際、船員達の何名かは、さっきまでのは一体何だったのかと、タイミーと副長へと近寄り、話を始めていた。

 それを、船員達との良好な関係性に結び付けられるかどうかは、今からの副長次第と言えるかもしれないが、それでも、切っ掛けは今、作られたと言って良い。

 その準備をしたタイミーは、見事仕事を果たしたと言えるのだろう。

「次は……僕の番って事になるのか?」

「なんのこと?」

 ロブロの呟きに、隣で聞いていたスーサが首を傾げて来る。

 いや、ロブロの呟きのせいだけで無く、スーサはずっと首を傾げていた。

「さっき、みんなが笑い出したのも良く分からなかった。タイミーは真面目に話をしていて、テグロアンも船内幹部として話をしていた。なのに笑った。どうして?」

「笑い出したのはジョークがあったからだね。今回のパーティでは、そういうジョークを学んで行こうか、スーサ」

 ロブロはそう言ってスーサに笑い掛ける。

 これがこのパーティにおけるロブロの仕事だった。

 タイミーが副長の世話をしている以上、スーサの世話をするのはロブロの仕事という事になる。

 そもそも、このパーティそのものが、それを狙ったものでもあるのだ。

「ジョーク……ロブロはそういうのに詳しい?」

「そこなんだよね。僕もそんな詳しくない。だからさ……このパーティでは、二人してそれを学ぶ必要がありそうだ」

 と、ロブロはスーサから視線を外す。近くで、ロブロに話し掛けようと手を上げている、整備班員達の姿があった。

 ロブロの誘いに乗って、何人か来てくれたらしい。もしくは整備班長にどやされてか。

 直接誘った整備士の一人ゴーツ・オットンの姿もあって、それなりに、自分の努力が実ったのかもしれない。

 いや……それだってこれからだ。

「ジョークを学ぶっていうのは、多くの人間と話をする必要があるらしいよ、スーサ。さっそく、初めてみよう」

「分かった。分厚い眼鏡を掛けたら良い?」

「まー、それも一つの手段か。ゴーツ先輩! 分厚い鼻めがね、先輩は持ってません?」

「何いきなり言ってるんだ? お前?」

 鼻で笑われてしまうが、笑われた以上はジョークを話す一手目は成功だ。

 こういう成功を繰り返していけば、またロブロとスーサの成長に繋がるし、何より、詰まりがちだった気分の転換になるだろう。

 こういうの、どういうべきなのだろうか……いや、難しく考える必要は無い。

 ロブロもまた、パーティを楽しむ事にしたのだ。前夜祭は終わり、本番がこれから来るのである。








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