幕間 ロブロ・ライツの休養時間の過ごし方 後編
シルバーフィッシュ。小型飛空船という基準の中においては、さらに小ぶりな方になるその飛空船は、最大乗員でも三名。縦長のフォルムに、船速優先の作りになっており、安定性はやや欠けるせいか、十分な操舵に相応の技能がいるタイプのそれ……という事をロブロは知っていた。
「大概先端技術や実験的手法を導入しているこの艦だけど、このシルバーフィッシュの運用はまさにシルフェニアにおいて最先端かつ野心的な物だから、整備班員としても興味があって、僕は詳しいんだ」
「へー、じゃあ、なんでスーサは上手くこれを動かせないの?」
「それはその……多分、腕が良く無いからじゃないかな」
「答えが古典的ー」
タイミーはそう言うが、今、シルバーフィッシュに乗っているスーサの動きを見ればそう表現するしかない。
場所はシルバーフィッシュ格納庫。シルバーフィッシュ自体も空を飛んでいるわけでは無く、格納庫で停止したまま、スーサが操舵桿を握り、動かしているという状況だ。
見た目が見た目なので、まさに子どもが飛空船の玩具で遊んでいる様な姿になっているが、整備班員であるロブロがそれを見れば、ある程度、シルバーフィッシュそのものが飛んでいる状況というのを想像出来た。
その想像の中では現在、シルバーフィッシュは船体が上下逆を向きながら落下中と言ったところであるが……。
「実際に飛んでいるところを見ない限りは、どこまでも断言は出来ないけど、正直それをするのは不安ってレベルだね。今、配線を弄って、飛ばしている時と同じ様に計器が動く様にしてみたから、試しに操舵桿を押してみて。実際には動かないけど、実際に離陸させる時の感覚で」
『うん……こう?』
「どう? いける感じ?」
「今、地面に向けて掘削中ってところかなこれは……」
バランス感覚が悪いというか、船体の動きをいまいち把握しきれていない気がする。こういうのは慣れが必要だとは思うが、それにしても拙い部分がある気がした。
「スーサ、実際にシルバーフィッシュの代理操舵士を任されてどれくらいだっけ?」
スーサの話に寄ると、彼女は船内幹部であるミニセル・マニアル操舵士から直接、代理の操舵士を任されたそうだが、今の動きを見る限り、それほど前の事ではあるまい。
『ミニセルからはまだ、一度しか直接教えて貰ってない』
「その時の評価はどうだった?」
『課題が多そうって』
「だろうねぇ」
『わたしは、空を飛べない』
「あー! ロブロったらひどーい!」
「酷く無い! これが今のところの現実って話だ!」
ただ、気落ちし過ぎにも思える。確かに、際立った才覚みたいな部分は見えてこないが、ならば練習を繰り返すしかあるまい。結果はどうなるか分からないが、まさに今、どうなるか分からない段階なのだ。
だというのに、というより意外な事に、スーサはやや落ち込んでいる風に見えるのだ。
(感情が希薄に見えたけど、出力の仕方が下手なだけで、一般人程度には色々考えたり感じたりしてたり?)
実質、今日知り合ったばかりの相手だから分かるものでは無いが、少なくとも話して何も反応が無い相手よりかは、付き合いやすい相手ではあるかもしれない。
だからこそ、今、休養時間を返上して交流をしている。そう。これはやはり、ロブロにとっては仕事じゃなく交流だ。
「実際に飛んで、取り返しのつかない事態になる前にも、出来る事は幾らでもあるはずだ。そこを頑張ってみれば良いんじゃないかな? そうしたらいずれは、安定して飛空船だって飛ばせるだろう。それとも、まだ別に悩んでる事があるのかい?」
『ミニセルと一緒に飛んだ時は……もっと上手く出来てた気がする。それが今、出来ない』
「ふぅん?」
ロブロがその言葉の意味を上手く飲み込めないでいると、タイミーの方が口を開いた。
「それって、前はもっと上手に出来てた事が、いきなり出来なくなったって事? そりゃあ落ち込むかなー?」
そういうものだろうか? 何かと要領の良いタイミーだからこそ、良く無い行動をする時の、感情の動きというのが分かるのかもしれない。
「その時と今で、何か違っている事は無いかい? 前に出来てたなら、その前の時に、上手く出来る要素があったはずだけど」
『前……ミニセルが居た』
「操舵士が? だったらミニセル・マニアル操舵士が上手くやれてたってだけなんじゃあ……」
『ミニセルはその時、大変だった。だからわたしが手伝った』
「ミニセル操舵士の手伝いって事は、主な操舵はやっぱりミニセル操舵士がしてたって事で、上手く出来ていたのはそこが要因なんじゃあ……」
『そう……なの?』
もしかして酷な言い方になってしまったのか。
いやしかし、ここで事実関係を把握しなければ、何時まで経っても上達しないはずで―――
「んー。そこの整備班員は、いっつも暗い仕事場で、格式張った部品ばっかり扱ってるから分かんないのかもしれないけど、私の方はどういう感じか分かっちゃったかも」
『本当……?』
「僕の整備班員としての姿勢は余計だろ! だいたい、本当にそっちが分かっているかどうかは不安だな。適当な事言ってるだけじゃないのか?」
「ざーんねん。まさに適当な事を言ってあげるっつってんの。要するにね、上手く仕事が出来てた時って、大枠の方は上司が指示していて、細かい部分をスーサが手伝ってたって事でしょ?」
『シルバーフィッシュが落ちそうになった状態で、ミニセルが操舵桿を握っていて……わたしがそこに手を添えて動かしてた』
なんだろうその特殊な状況は。一度詳しく聞いてみたくなるものの、そういう空気では無いらしい。
「多分ね、今のスーサに足りてないのは、全体を見る感覚……みたいな? やるべき事があったとして、それをそこから見る視点っていうか」
「全然適当っぽく聞こえないぞ。むしろ分かり辛い」
「黙ってなさい! 難しい言い方になるけど、俯瞰する? ちょっと違うか。例えばそう、このシルバーフィッシュっていう飛空船。スーサはこれの形とか動きとかは、想像出来てる?」
『うん』
「なら話が早い。自分の仕事を能率良くしようって言うなら、そういう視点を一つ、心の中に思い浮かべつつ、もう一つしておくべき事があるの」
仕事をする上で仕事場全体の動きを見なさいという話でもするのかと思ったが、どうにも違うらしい。
これはタイミーらしい仕事のサボり方の話か? 言葉にするとやはりそうじゃないと叱られそうだが……。
『もう一つ、しておくべき事って?』
「全体の動きと自分の動きを、紐づける想像ってところ。どっちかだけしか想像してなかったり、どっちの動きも分かっているのにリンクしていない時って、どれだけ技能や能力を発揮しても、空回って、一生懸命してるのに、どうしてかミスや問題が多くなるわけ」
「へぇ、結構理屈だ」
「あんたね。私だって自分の能力を買われて今の立場になってんだけど?」
それも理屈であるが、なかなか認めがたい理屈だ。
なので今は、スーサの様子のみに注視する。
「つまりこうだな? 操舵席の中の動きと、シルバーフィッシュ全体の動き。この二つを自分自身の中で把握する様に努める。それが今のスーサに必要な事だ……って、言ってみると当たり前じゃないか?」
飛空船に限らず、物を動かす、使う時、手元の動きとその物の動きは、完全には同期していない。人間が生まれながら持っている肉体と違って、道具というのは外付けパーツの様なものなのだから当たり前だ。
そうして、道具そのものが複雑かつ規模の大きいものであれば、その差異は過大なものとなっていく。飛空船の規模なら尚更……ではあるが、それを上手く補正する機能というか、道具の使い方の得手こそ、人間がこの無限の大地で獲得した能力とも言える。
端的に言えば、本来そうでは無いはずの乗り物の動きを、手足の延長として扱える感覚というものが、人間にはあるはずで、それを今さら―――
『操舵桿の動きがそのまま、シルバーフィッシュの動きになるんじゃあないの?』
「理想はね。けど、実際は違う。そこを上手く頭の中で合わせる形になるというか、訓練っていうのはそういう部分をより実感に近づけるのも狙いなわけで……一応の質問で、馬鹿な事を聞かれたと思っちゃったらごめんだけど……操舵桿の動きから、シルバーフィッシュ全体の動きを想像……してなかったりする?」
『……うん』
「どういう事だよいったい」
頭を抱えたくなった。ならば今まで、どういう基準で操舵桿を動かしていたのだろう? さっきシルバーフィッシュの形や動きなら想像出来ていると言っていたが、それと操舵桿の動きを繋げて考えていないという事で、むしろその方が難しいのでは無いか?
これはでは実際に飛んでいない状態で練習を続けても、操舵桿の握り方や捌きが上手くなるだけだ。そこに、シルバーフィッシュで空を飛んでいるという想像が欠けているのだから。
そりゃあ突拍子もない動きをシルバーフィッシュにさせる事になるわけだ。
「んー……私もびっくりだけど、それにしては、まだ下手な程度って感じなのが意外?」
タイミーの、まったく深く無い、朝そうな感想を聞いて、むしろロブロははっとする。
「……そうだよ。一応、僕の目線からでも、すごい不器用って印象でしか無かったぞ? 今のスーサは、目隠ししながら、操舵桿の動きだけを頼りに動かしているみたいなもんだ。もっと酷くなってもおかしく無い。そこはどうなんだい? スーサ?」
『最初はもっと駄目だった。ミニセルにそれは駄目。それは良いって言われたし、今も二人が良い悪いを言ってくれるから、良いって言われた動きをして、悪いって言われた動きをしない様にしている』
「他人からの評価だけで、多少は向上させてるって? それはその……それはそれですごいな」
「さっき、私が言ったじゃん。個人だけの仕事だけじゃ非効率だって。スーサの場合、それが非効率のまま、ひたすら自分の動きは磨き上げてる? みたいな状況なんじゃない? だからちょっと駄目、程度で済んでる……とか?」
「能力が偏り過ぎている……」
今さら、このスーサという少女が特殊な存在。それこそシルフェニアの常識が当て嵌まらない、未踏領域から来た存在である事を実感させられる。
『わたしは……飛べない?』
「そんなにこの飛空船に乗りたいの? スーサはさ。向いてるかどうかなんて私は分かんないけど、出来ないなら出来ないで別の仕事を探せば良いと思うし」
『わたしは……』
スーサの返答が止まる。どうにもタイミーの言葉が、思いの外彼女の心に刺さった様子だ。
けど、タイミーの言葉だって一理あるのだ。出来る事と出来ない事が当人にはあって、適正が別にあるのなら、そっちを選ぶ方が当人にとっても幸福であろう。
『わたしは……空を飛びたい』
ただし、当人が望む限りにおいては、そうでも無い。
「……ちょっと考えようか。スーサ、そもそも君がそういう……小型飛空船が拙い状況っていうのを、僕達に見せようとしたのはどうしてだい?」
『二人から……二人の仕事を知った』
「えっ、私達も大概、駄目な感じだった? そんなに?」
慌てた様子のタイミーであるが、そういう話では無いだろうきっと。多分。
『そうじゃない。二人は仕事をしていた。自分で、出来ない事があるのを認めながら、それでも仕事をしていた』
「個人の能力には限界がある。だからこそ他人と力を合わせるってだけで……ああ、そうか。つまり、君にはそういう視点がこれまで無かったんだな?」
未踏領域における記憶が無いとは聞いているが、そもそも、どういう習慣を持っていたのかが気に成る、そんなスーサの思考方法。
自分一人で何もかもをしようとする。自分の目的を果たす上で、他人の力を借りるという発想そのものが無い。そんな立場。だからこそ、個人の仕事と全体の仕事という区分けや接続が不得手なのだ。
彼女の目から見れば、シルフェニアの人間は随分と能力不足で、だというのに能力以上の事を結果的にしている、不可思議な種族に見えるのかもしれない。
『わたしだけだと、どうしてもシルバーフィッシュで飛べない。だから……他の人の力を借りられる人がいるなら、その人から意見を聞きたかった』
「おっと、言い方が違うでしょ、スーサ」
スーサの奇妙な言い回しに対して、タイミーが反応した。
『違うの?』
「一人じゃ無理だから助けが欲しいって、そういう風に言うのが短くて、それに正確」
確かに、そう言ってしまえば良い。スーサという少女は困っている。目標があって、それを自分一人では越えられないから、誰かの手を借りたいと言っている。
「珍しく、お前と意見が合った」
「それは確かに珍しい」
だから考える。助けてくれと言われて、実際に助けるかどうか。今、パスはロブロ達の方に渡った形である。
たかが今日、初めて話しただけの少女の悩みに、わざわざ乗って、手助けだってするのか? ロブロ達が?
「ああもう、そういう事なら仕方ないか……」
「へー、あんたもそう考えたんだ。珍し」
「という事は、タイミー。お前も、スーサがシルバーフィッシュで飛ぶための手伝いをするつもりか?」
「悪い?」
「悪かったら、そもそも僕はしないぞ」
真面目な船員という評価なのだ。後ろ指さされる様な事はしない。なのでスーサの手伝いというのは、そういう物では無い。
『いいの?』
「スーサ、君と話をする中で、幾らか君の事が分かって来たけど、君の方も僕らの事を知るべきだね」
『それって……?』
「無理かもしれない事に、意地でも突き進もうとしている人間を見ると、手助けしたくなるのが僕らだって事。じゃなきゃ、未踏領域探索の仕事に就いたりしないさ。この仕事って実は任意なんだよ」
「一応、就いたら名誉だし? 見返りもあるし、私の方はそっちだって大切だからね。だから、手伝うなら仕事の合間にしてあげる」
何にせよ、スーサがどうしたって小型飛空船を自分の手で飛ばしたいなら、それを実現させてやりたい。これは義務とか使命感というより、ロブロ達側の意地から来るものだろう。
『……良く分からないままなのに、あなた達の事が、分かって来た……気がする?』
スーサの言葉は、ある意味で名誉な物だったのかもしれない。
これが異文化交流という目的の元で行っている事だとしたら、まさにそれの成功を意味しているから。
もっとも、今、ここでロブロ達がしているのは、スーサの飛空船操舵技術の向上とその手伝いである。
そっちの方は、未だに進展が無いままだ。
「とりあえず……僕が今、思い付いた方法としては、スーサ個人の価値観や感じ方をすぐに変えるっていうのは難しいから、周辺の機器をスーサに合わせて調整するか、そもそも一から作るかってところかな」
「一から作るって、そんなん出来るの?」
疑問符を浮かべて来るタイミーであるが、そこは整備班員としてのロブロがここに居る。物造りは得意だ。発想の起点があるのなら、工夫や労力を向かわせる先は幾らでもある……と胸を張って言いたいところであるが……。
「この小型飛空船を改造するって話だからね……それ単体でも許可がいるし、資材の調達だって必要だ。どうしたもんかな……整備班長に相談……したところで、あの人を上手く乗せられるものか……仕事以外の分野だと意外と頭固いしなー」
「はりきってる割に、ぜんぜん頼りなーい」
「なんだよ。そっちこそ何か出来る事があるのかよ」
ロブロは問いかけると、タイミーの方は胸を張って答えて来た。
「私の方は、それこそスーサの見方を直接変えてみせてあげる」
「具体的には?」
「休み時間の合間合間に、私達シルフェニア側の文化とか風習みたいなの、逐一教えれば良いじゃない。そうして行けば、自然と私達のやり方みたいなのにも馴染んで行くもんでしょ?」
「理屈だけど、それだって時間が掛かるだろ。スーサ、僕達が今から、シルフェニアの事をひたすら説明するけど、すぐに実感として飲み込めるか?」
『んー』
翻訳装置越しでも、困った様な呻き声が聞こえて来た。話をするだけで、一朝一夕に相手の事を理解するなんてのは無茶だ。タイミーのやり方だって、相応に時間を要する方法と言えた。
「それに、休み時間の合間って、スーサとお前の休養時間が被らないとそれも難しいだろ」
「あー、そっか」
タイミーは頭を掻いている。
ブラックテイルⅡ内部での船員の休養時間というのは、どこかで誰も艦を管理していないという事態を発生させないため、非常に有機的に入り組んだ状態になっている。ここからここまでが休養時間とブラックテイルⅡ全体を指して言えないわけだ。
おかげで見知った船員同士で軽く遊興するというのだって、色々と個人個人で調整が必要だった。
「片や権限と資源が必要。片や時間とタイミングが必要。まずは最初の一歩目から躓いたかな、これは」
『私はやっぱり、空を飛べない?』
「そうでも無い」
「えっ?」
困惑の声を上げる。ロブロだけで無く、タイミーの方も。
一方、ぼんやりとした目で、スーサだけは困惑などせずそちらを見た。
いきなり発せられた第三者の声の方を。
「要望の詳しい内容を見聞きするに、面白いやり方じゃあないか。私は許可するね。もっと大げさな要求ならば船内幹部会議にでも上げる必要があるものの、シルバーフィッシュの細かな改造とその許可、それと船員二人の時間の調整程度なら、艦長一人の決定でなんとかなるはずだ。うん」
声は格納庫の隅に、何時の間にかいた男から出たものだった。
男の名前をディンスレイ・オルド・クラレイスと言う。
見間違うはずの無い、ブラックテイルⅡの艦長その人である。
「な、なんで艦長がこの様な場所におらせられるので……?」
咄嗟に、ロブロは妙な口調でディンスレイ艦長に尋ねてしまう。いや、本当はもっとちゃんとした対応が出来るはずなのだ。ロブロとて反省はする。
けど、こういう場に突然現れるのは反則ではないか?
「なんでと言われても、私も休養時間中だ。伸ばし伸ばしにしていたんだが、寝て起きて、メインブリッジへやってきた副長から、いい加減休めと面倒臭そうな目で言われたばかりでね。さてではメインブリッジ以外にどこへ行けば良いかと悩んでいたところ、君らの背中を見て、ここでこっそり見学していた」
「どこ行けばって、休めば良いんじゃないですかね?」
これはタイミーの言葉。ロブロなんぞはそんな恐れ多いツッコミを入れられない。いや、普通に同じ事を思ったものの。
「あー、ベッドで寝るという選択肢もあったか。うん。さっそくしよう。ただ、言った以上は正式に命じて置くか。ロブロ・ライツ、タイミー・マルフォルド、そうしてスーサ。このシルバーフィッシュを飛ばせる様になれ。そのための努力を、ブラックテイルⅡ艦長は推奨しよう。異論はあるかな?」
「い、いえ、無いですが……」
ロブロが発したその言葉は、困惑が混じった端的な物だったはずだが、どうしてかディンスレイ艦長の方は、面白そうな物を見る様に口角を上げてから、去り際の言葉を残して来た。
「良し、ではその様に。それにしても、存外、良い行動力や判断力を持っているじゃないか、ロブロ整備員。今後とも、それを発揮してくれる事を望むよ。ではな」
雑談でもしていた様に、手を軽く振ってから、シルバーフィッシュの格納庫を去っていくディンスレイ艦長。こっちが言う通り、当人の部屋のベッドに向かったのか、はたまた別の場所に向かったのか、それは分からないが……。
「え? つまり、どういう事?」
「分からないのか、タイミー。つまりだな……さっき咄嗟に思い付いた僕達のやり方が、艦長からの正式な命令に変わったんだ」
『わたしは……飛べる?』
「飛べる様になれとの艦長からの命令だよ! くそっ! いったい本当に何がどうなってるんだ!」
「何がって、だから命令なんでしょ!? 喜べば良いの? 私? 仕事増えてくそーって思えば良いの!? 私!?」
騒ぎ始めるロブロとタイミー。それを何やらじっと眺めるスーサ。
分からない事、突然な事、厄介な事ばかりのこのブラックテイルⅡであるが、一つ、これは絶対だろうなと思える事があった。
この手の驚きは、今後、何度だって味わう事になるだろう事。それを知るのが、ロブロがこのブラックテイルⅡに馴染むという事なのだろう。多分。




