俺と獄道さんはマジカルガール~わざわざ男が魔法少女になるって、それはどうなの?~
「あー、行きたくないー……」
通学路をゆっくり歩きながら、俺は溜息を吐く。
今日は普通の登校日。
だが、俺の周りには人っ子一人いない。
何故かって?3時間寝過ごしたからだよ!
だからこそ、諦めてゆっくりとね?
学校に向かってる訳なんですけども……行くだけ偉いよね、俺。
――ただ、その選択がこの先の運命を左右したなんて、誰が予測できるというのか。
「遅刻寸前どころか大幅に通り過ぎてるけど、曲がり角見たら美少女が来るかもって、考えちゃうんだよなぁ――いや、待てよ?よく考えたら行く方向が同じなのにぶつかるわけなくない……?」
そんな他愛のないことを考えながら角を曲がると――ソレはいた。
勿論、美少女じゃない。
どちらかというと、その対極の――
「おぉ、おぉ。こんな時間にフケるたぁ。中々太い小僧だなぁ」
そう、曲がり角でばったり出くわしたのはサングラスが似合うような素敵なおじさんだった。
端的に言えば刺青が似合う自営業の人だろうか?
まぁ、とりあえず俺のやることは決まってる。
「今から学校行きます!すいません!失礼します!」
即逃げ、これが安定!
俺は素早くおじさんの横を通り、そのまま学校へと――
「待ちぃや。ちょうど、お前みたいなのを探してたところでなぁ」
瞬間、俺に襲い掛かったのは浮遊感だった。
気付けば俺はおじさんに担がれて……しかも、素早い動作で近くの住居に担ぎ込まれてしまった。
え、あ?
これ、やばくない?
「騒ぐなよぉ。ワシもお前も困ったことになるからなぁ」
あ、はい。
死にたくない一心で頷きを返す。
すると、おじさんはにっこりと笑みを――ん?笑ってるか、これ?
どうしよう、顔が怖すぎて判別できん。
「さて、お前に来てもらったのはコイツに会ってもらう為でな……」
そう言って、おじさんが取り出したのは……クマのぬいぐるみ?
「あ、こいついい感じクマ」
「うわっ、喋った!?」
思わず後退ると、30cm程のクマはひとりでに動き、こちらを向いた。
それだけでも怖いのに、クマは胸の前で腕を合わせるようなあざといポーズを披露すると――
「お前は『魔法少女』になるクマ!」
そんな意味不明なことを叫びながら、俺に向かって“光る何か”を飛ばしてきた。
「ちょ、ちょ!」
慌ててそれを腕で受ける。
すると、俺の手首には、いつの間にか光輝いた腕輪のような物が付けられていた。
「それが『変身バングル』クマ!お前達は今から魔法少女“コンビ”クマー!」
あ然とする俺を放置しながら、クマは意味不明な叫びをあげてぴょんぴょんと飛び跳ねまくっている。
何だこれ、夢か???
「……痛い」
自分の頬をつねると普通に痛かった。
どうやら、登校する夢が変なトリップを起こしたという訳ではないらしい。
「金色……いや、これは黄色?なるほど、マジカルイエローってところかねぇ」
え、なに?なんなの?
俺は興奮しながら近づいてきたおじさんから離れつつ、警戒の目を向ける。
すると、おじさんはハッと何かに気づいたような顔で笑み?を浮かべた。
「あぁ、すんません。ワシは『獄道 剛』といいます。実はワシも今さっき“熊吉”に誘われましてなぁ、マジカルピンクとやらを任されやした」
あ、マジカルピンクが俺の相方なんだ――じゃねぇよ!
なんで、強面のおじさんと!男子高校生の俺が!魔法少女なんだよ!!!
「あ、俺は河合 聡一郎っていいます。へへっ」
でも、俺のチキンハートじゃおじさん――獄道さんにそんなこと言えないの。
俺は獄道さんに愛想笑いを浮かべながら、周囲に視線を走らせる。
くそ、あのクマ野郎どこいった!?
「ところで質問なんだが、河合君は魔法少女がどういう存在なのか知っとるか?ワシは恥ずかしながら、そう言ったものに疎くてな……“熊吉”から『お前はマジカルピンクだクマ!』って話以外は聞いてないもんで」
「え?あー、妹がよく見てるので一応、知ってます――」
「おぉ!?では、魔法少女とは一体どんな“仕事”なんで?」
仕事って、絶対に意味が違うだろ、それ。
そう思いながらも口になんて出せるはずもなく……。
女の子が変身して魔法やら何やらでホニャララするとか。
敵が出てきて巨大化する奴は……魔法少女というより戦隊モノっぽいけど、まぁ、それも含んで。
俺は獄道さんに魔法少女についての簡単な説明をすることにした。
「な、なぁるほど!子供の味方で、人を救うのが仕事とはぁ……魔法少女とは、立派な職業じゃのぉ」
ただ、獄道さんは俺の説明にいたく感動したらしく。
「同じ魔法少女同士一蓮托生。敬意を込めて、“先生”と呼ばせてもらいやす!是非、ワシに魔法少女になるための教訓を授けて下せぇ!」
と、何だか意味不明なことになってしまった。
今日の俺の軌跡。
登校中に獄道さんに攫われて、動くクマにお前は魔法少女だと言われて、獄道さんに先生と呼ばれる。
はー、なるほどね!馬鹿じゃん!
「あの、俺、学校行かないとなんで……」
もう、付き合ってられへん!帰らせてもらいます!
俺は勇気を振り絞って立ち上がり――直後、頭が割れるかのような甲高い爆音が耳に直撃した。
「おおおおぉぉおおお……」
思わず声にならない叫びをあげながら蹲る。
ただ、その超音波は長く続かず。
5秒ほど鳴り響いた後にはパタリと無くなってしまった。
えぇ、いったい何だったの……?
「大変クマ!怪人が現れたクマ!」
まったく様子が変わらない獄道さんにビビりつつも、突然現れたクマ野郎の頭部を片手でわしづかみにする。
絶対にコイツの仕業だ!間違いねぇ!
「おい、何だ今のは。お前がなんかやっただろ!」
「あれは警報装置クマ。怪人が発生すると音で教える仕組みクマ」
は?あれが警報?音で伝える?
「お前にとっては超音波が朝のアラームなんか!?あ゛ぁ゛!?」
「ごめんクマ―。後で直しておくから、とりあえず変身するクマ―」
とりあえず変身って、そんな軽くできるわけ――
「おぉ、確かに先生が言うた通りや。まさしく少女、マジカルピンクって、感じやなぁ……」
突如、背後から凄まじく可憐で可愛らしい声が聞こえてきて、思わず振り向く。
すると、そこには魔法少女モノでよくみるようなフリフリの服を着たピンクツインテールの――言葉では言い表せない程の美少女が、自身の体を見まわしながら立っていた。
何でこんな全身ピンクな美少女が――って、え?“マジカルピンク”?
「獄道さん、なんですか?」
「あぁ、まさしく。ワシは獄道だが……この体だと先生が大きく見えるのぉ。ハッハッハ」
本当に魔法少女に変身するなんて……。
思わず手首の変身バングルを見つめて、装飾の宝石を触ってしまった。
……そう、触れてしまったのだ。
「――え、なに?なにっ!?なんなのっ!?」
瞬間、俺の体を光が包み込み。
しばらく後には、獄道さん――いや、ピンクさんと同じ身長まで縮んだ、自分がいた。
「ばっちりクマ。早速怪人の元へ行くクマよ!」
急かすクマ野郎を無視しながら、俺はガレージに置いてあった車のサイドミラーで自分の姿を確認する。
鏡に映っていたのは金髪で側頭部に短いポニテがくっ付いた美少女だった。
本当にもう、引くほどに美少女だった。
「言い忘れてたクマ。魔法少女の武器は祈ると出現するクマ。だから、戦う時になったらうーんと祈るクマよ」
なんだそのふんわりとした説明は。
さっきから視界をちょろつくクマ野郎に正義の鉄槌を叩きこもうとしたところで、獄道さ――ピンクさんがガレージを開けて、外へと飛び出していった。
「こっちじゃ!肌にピリピリきよる!」
いや、どんな順応力だよ。
突然魔法少女になったというのに、素早く怪人に向かって走り出した獄道――ピンクさんには恐ろしさしか感じない。
でも、あの呼びかけを無視なんてしたら……あとが怖いしなぁ。
「ちょっと、待って下さ――うわっ!気持ち悪っ!」
自分の口から飛び出す美少女ボイスに鳥肌が立つ。
俺は周りに人がいないことを確認しながら獄――ピンクさんを追いかけ……。
そうして、近くの公園に辿り着いた時、ジャングルジムの上に白のタンクトップに眼鏡をかけた中年太りのおじさんが立っている姿を目撃した。
「私は怪人『職無しおじさん』!お前らにも無職の苦しみを味わわせてやる!」
うわぁ、なんというか、うわぁ……。
まるでこの世の闇を具現化したかのような存在に思わず後退る。
「これは強敵ですね、先生……!」
すると、ご――じゃなくて、ピンクさんが、あのドスの効いた声を想起させるような口調で話しかけてきた。
元の印象が強すぎるんだよ!頭バグるわ!
「強敵というか。社会で負けた癖に人の足引っ張る屑じゃないの……?」
というか、このおっさんは本当に怪人なのか?
どう見てもただの不審者なんだけど――あ、そうだ。
「よし!とりあえず、警察に通報しますね!」
俺は携帯を取り出しながら神速の動作で110番に電話を掛ける。
今の俺達は可愛い美少女だ。
少女2人に立ちふさがった社会不適合者の末路なんて言わずもがな、戦う必要すらない。
国家権力の前に、ひれ伏せ……!
「……あれ?」
しかし、しばらく待ってもコールはまったく鳴らなかった。
携帯さん?ストライキは日本じゃウケませんよ?
「無駄クマ。怪人が現われた時は周囲の時間が止まってしまうクマ」
「そういうことは先に言えよ!」
俺は携帯を地面に――投げることなくバッグにしまい、クラウチングスタートの姿勢で後ろを向いた。
「待つクマ。どこ行く気クマ」
「馬鹿野郎!子供が不審者に襲われたらなぁ、逃げるしかないんだよ!俺は小学生の時にそう教わった!!!」
あんな倫理観が欠片も無さそうな無敵おっさんに負けてみろ、絶対ひどいことになる。
現時点でも闇属性時止めおっさんだっていうのにやってられるか!!!
「逃げたら変身が強制的に解けた上、全裸で何処かの街中に放り出すことになるクマよ?」
「え、何?情報は細かく出していく方針なの?八つ裂きにするぞ」
社会の死と貞操の死を突きつけられた怒りのままに、クマ野郎の胸倉を掴む。
「そんなことしてる場合じゃないクマ。ピンクが危ないクマ」
「は?危ないって何が――」
クマ野郎の言葉に後ろを振り返る。
すると、そこには膝をついたピンクと……高笑いを上げるおっさんがいた。
俺はクマ野郎を地面に投げ捨て、急いでピンクさんの元まで駆け寄った。
「な、なにがあったんですか!?」
「せ、先生。気を付けてくだせぇ……あいつ、“重い”です」
重い?体重のことか……?
何のことかわからないまま、暴行を働いたであろう最低なおっさんを睨みつける。
「ふはは、貴方にも味わわせてあげます。私の鎮魂歌を……」
何だ、何が始まるんだ……。
思わず身構える俺に対し、おっさんは大きく息を吸い込むと――
「あれは雪の降る冬のある日の事でした。娘が重い病気にかかり、治療費に困窮した私は――」
すっごく長い、身の上話を聞かせてきた。
「――怪人になれば娘が救えるだけの金が入る。だからこそ私は長年世話になった会社に辞表を出し、妻と別れ、こうして貴方達の前に立ちはだかっているのです!」
「ぐわぁあああ!?」
思わずといった様子で、ピンクさんが仰け反る。
いや、あの……。
「いや、ピンクさん?何処に苦しむ要素があるの?おっさんが身売りしたってだけの話だよ?」
「流石、非人間的コンテスト優勝候補クマ。頼りになるぅクマ」
「適当なこと言ってんじゃねぇよ、カス!」
ゾンビのように歩いてきた無礼なクマ野郎を蹴り飛ばしてから、俺はピンクさんの肩を揺する。
「ピンク!今こそ、その時だよ!」
「せ、先生……?」
ピンク色のツインテールを揺らしながら、ピンクさんはその桃色の瞳を潤ませ俺を見上げた。
中身が獄道さんじゃなかったら求婚したのに――じゃなくてね。
――ここは男を捨ててでもピンクさんの気分を盛り上げる時!
「魔法少女はピンチがチャンス!ここで立ち上がれれば、ピンクは立派な魔法少女になれる!」
「ワシが、立派な魔法少女に……」
お、もう一息か?
気分が乗ってきたらしいピンクさんに俺はとびっきりの作り笑顔で畳みかけた。
「可哀想な怪人さんを……救うんだよ、ピンク!」
決まったな……。
俺は確信をもってピンクさんを見つめる。
すると、ピンクさんは大きな瞳から沢山の涙を流して――
「お、おぉ……!そう、そうだ。ワシは、誰も救えなかった自分を変えたいと思って――せめて、ワシを残して死んじまった親父と家族、組のやつらに顔向けできるようにって、そう誓ったんでした」
いや、重いよ。
「見ていて下せぇ、ワシの大一番を!――おらぁ!出てこんかい!」
ピンクさんが虚空に手を向けると、いつの間にかその手にはキラキラ星の装飾がついた拳銃が握られていた。
「これが、マジカル“チャカ”……」
あの、ネーミングに中身が出ちゃってます。
「な、なんですか、その銃は!?銃刀法違反ですよ!?」
覚醒したピンクさんに対してうろたえるおっさんに……思わず笑みが零れた。
あれー?忘れちゃったのかなー?
「時が止まってるから警察にはバレませーん!やっちゃってくださいよぉ、ピンクさぁん!」
俺が応援すると、ピンクさんはマジカルチャカを構え――
「死ねやぁ!」
けたたましい爆音と共に、3発の弾丸をおっさんに撃ち放った。
「ぐ、ぐぅ……」
「やったか!?」
うつぶせで倒れこむおっさんを見て、俺はフラグのような歓声をあげてしまった。
まぁ、フラグも何も銃弾で打ち抜かれたら普通に死ぬと思うけどね?
俺はゴマを擦りながらピンクさんに近づき――
「いや、まだクマ!」
くそ!言うべきじゃなかったか!?
遠くから聞こえてきたクマ野郎の不穏な叫びに、俺は慌てておっさんの方を見る。
すると、いつの間にかおっさんは黒い瘴気の様なもので包まれていて……。
「あのダークエナジーを放置すると巨大化して復活してしまうクマ!」
戦隊モノか――って、これもフラグかよ!?
俺はピンクさんへと振り返り、もう一度頑張ってもらうべく檄を飛ばした。
「ピンク!必殺技だよ!」
いや、ごめん、自分で言ってて謎だわ。
存在しないモノを求めてるなんて焦りすぎ――
「了解です、先生!」
え、あるの?
「マジカルパイナップル!これで死なん奴はおらんわぁ!」
ピンクさんが可愛らしい声と物騒な言葉を織り交ぜながら、手を前に突き出す。
すると、その手の中にハートマークで装飾された“手榴弾”が出現した。
あ、パイナップルって隠語かぁ、なるほどなー。
「死にさらせや!」
ピンクさんは叫びながら、黒い瘴気に向かってアンダースローで手榴弾を放り投げる。
手榴弾は黒い瘴気に当たった瞬間、まるで色とりどりの花火のような爆発を引き起こし……。
煙が晴れると、そこには――何故かキラキラと輝きながら呆然と座り込むおっさんの姿があった。
え、あっ、もしかして浄化的な?そういうやつ?
「人はなぁ、何度でもやり直せる」
困惑する俺を置いていきながら、ピンクさんはしんみりとした雰囲気でおっさんの側まで近づく。
その表情はここではない何処かを見ているようで……。
おっさんは釣られるように顔を上げて、ピンクさんへと言葉を返した。
「や、やりなおせる……?」
「そうだ。殺すしかできなかったワシが、今では人を救う魔法少女になっとる。……世の中、なんだってできるもんよ」
人殺しと比較するのは流石にひどい――いや、おっさんも無職怪人とかいうこの世の闇なんだが。
とはいえ、おっさんは娘の病気のために怪人になった悲しき変質者なのだ。
治療費を稼ぐためとはいえ、社会からのドロップアウトを選ぶのは並大抵の――いや、待て。
おっさんは長く勤めた会社を辞めたと言っていた。
長く勤めれば給料が上がる、なのにそれを蹴ってまで怪人になるってことは?
まさか、怪人って……給料、高いのか?
「魔法少女は人を救う、だからな――」
俺が転職先を考えてトリップしている内に、説得は最終段階に至ったらしい。
ピンクさんはおっさんの肩を叩き、目を合わせる。
「……いいシノギ、ちゃんと紹介してやるよ」
絶望的なその言葉と共に、ピンクさんは獄道さんへと変貌――もとい、変身を解き。
おっさんは獄道さんに担がれながら、何処かへと連れていかれてしまった。
「……あ、終わり?」
生活音が周りから聞こえてくる中、俺も急いで変身を解こうと、解こう、と?解き方は……?
あ、なるほど、もう一回バングルを触るのか。
今度こそ変身を解いて男に戻ってから、俺はクマ野郎に向けて片手を上げた。
「じゃあ、俺も帰るんで――」
「待つクマ。最後に一つ言い忘れてたクマ」
言い忘れ?まだ何かあるの……?
「お前達が装備した変身バングルには、ある特殊な魔法が掛けられてるクマ」
「魔法だと……」
クマ野郎の言葉に、俺は手首に巻き付けられた変身バングルを見下ろす。
「宝石付いてるし、質屋で売れるだろ」と思ってたんだが……何か特殊な効果が?
期待と共にクマ野郎を見る。
すると、クマ野郎はぴょんぴょんとあざとく飛び跳ねて――
「掛けられてるのは爆発魔法クマ。魔法少女を辞める意思を見せると爆発するから気を付けるクマー」
「ふざけんな!!!外せ!!!」
俺は叫びながらバングルを――あ、あれれー?何だか点滅し始めたよー?
「魔法少女、続けてくれるクマ?」
「はい、やらせていただきます」
奴隷のような気分を味わいながら、俺はクマ“様”に対して深々と頭を下げる。
……こうして、俺の平和な日常は終わりを告げた。
代わりに始まるのは、怪人という名の不審者や変質者と戯れ合う、嫌がらせのような生活で……。
「マジカルピンク、参上ぉ!ワシのシマ荒らしとんのはお前かぁ?えぇ?」
「ピンクさぁん、やっちゃってくださいよ!!!……あ、マジカルイエローっす、ちっす」
獄道さんは相変わらず怖いし、クマ畜生は邪悪を煮詰めたような存在だし。
終身魔法少女刑と死刑の2択を迫られたような、そんな毎日。
死にたくない俺は今日も“殺人”バングルに導かれ、仕方なくこの世の闇と対峙する。
「くらえ、俺の必殺技っ!マジカル――って、え?タンバリン出てきた?何で!?」
「とりあえず鳴らすクマ」
「シャンシャンっと――え、全方位攻撃?タンバリンやばっ!」
あ、これ、思ったよりも楽しい――わけない!気のせいに決まってる!
迫りくるおっさんや魑魅魍魎を薙ぎ払いながら、俺は叫びをあげた!
「出席がやばいんで高校行かせてください!」
留年が決まるまでの残機は数日!
あー、もう無理かもねー!
「ははは、もし退学になったらワシが面倒見ますんで。いいシノギ見つけておきます」
「魔法少女は夢と希望で生きられるクマ。将来なんていらないクマよ」
前門の魔法少女、後門の獄道さん。
俺の地獄は、まだ始まったばかりだった――
面白かったら評価やコメントの方、お願いしまっす!
ものすごーくテンプレな異世界転生モノも書いているので、そちらも是非!