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黄昏奇譚 渋谷61系統

作者: プークス

終点の渋谷駅からいくつか手前のバス停留所は小さな病院の前にあった。


その日は仕事が遅くなって、乗ったのは最終の深夜バスだったと思う。山手通り沿いのバス停から乗り込んだ私は運転席後ろの少し高くなっている座席に座った。このあまりにも遅い時間帯のバスは乗り込む人もわずかで、私はすぐに読みかけの本を取り出して目を落とした。


井の頭通りに左折する手前のバス停で人が乗り込む気配を目の端にとらえて顔を上げると、いかにも会社員というスーツ姿の男性の後から、7歳くらい女の子と若い女性が乗り込んできた。なぜか女の子はパジャマを着ていて、停留所前の病院から出てきたのかなと思ったことを覚えている。

乗車口近くの先頭座席に女の子が座り、女性がそのすぐ隣に立って優しそうに何か話しかけると女の子は笑って楽しそうに返していたが、なぜか二人の話し声が全く聞こえてこないのを少し不思議に感じつつ、私は視線を本に戻した。


終点の渋谷駅に到着したアナウンスでバスの扉が開き乗客が立ち上がる気配で顔を上げると、すでに降りてしまったらしくパジャマ姿の女の子がいた座席には誰もいなかった。

本を鞄にしまっているうちに他の乗客は全員降りてしまい最後に外に出ると、バスから降りた人たちが前を歩いていたが、不思議なことにその行列にも女の子と女性の姿はなかった。


何年も前の出来事なのに、今でもパジャマの女の子と女性がバスに乗ってきた時のシーンを鮮明に思い出すことができる。バスに乗り込むとすぐに女の子が座席によじ登るように座ると、女性がそばに立って楽しそうに話し始める……。


最近、その時の情景を思い出しながら気づいたたことがある。

バスに乗り込んだ二人は運賃を払っていないのに運転手はなにも咎めていなかった。

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