なんて素敵な悪役令嬢
セレンティア・フェルゼンはフェルゼン辺境伯の三女で2人の兄と2人の姉が居る。
両親は勿論、4人の兄姉達は末妹のセレンティアを溺愛していた。
セレンティアは自分の事を小さい時から悪役だと思っていた。
いつか断罪されて死ぬ運命だと。
死を回避するにはお金がいる。
お金の為に領地経営に口を出し、学校、病院、魔導士育成プログラム、冒険者、商業ギルドまで設立した。
今では領主の父より領地に必要な存在になっていた。
『私は絶対にみんなを守る!』
セレンティアの小さな頃からの口癖だった。そんな一生懸命な少女を愛さない者はいなかった。
付いたあだ名は、
我が領地の素敵な悪役令嬢。
領地内では王太子妃になるより、悪役令嬢になりたがる女の子が続出していることを、16歳になったセレンティアは知らなかった。
優秀なセレンティアとフェルゼン家の力を欲した王家は、王子との婚約の話を持ち出し、王子と対面させる為王宮に出向く様に強制してきた。
セレンティアの家族は未だに夜中声を殺して泣くセレンティアを知っている。
幼い頃から何度もあった。
しゃべれる様になってからは理由を聞いたら自分は悪役令嬢だから、断罪されて処刑されるのだ、家族も領民も皆殺しにされたのだと答えた。
王家が怖いと泣いていた…。
王家と関わりを持たない様にセレンティアは領地から出る事は無かったが、優秀な為王家の耳にも届いてしまった様だ。
「セレンティア、私から断りを入れておくから、安心しなさい」
父の辺境伯が優しく言ってくれた。
「そうよ、気にしなくて良いのよ。お父様が上手く対応してくださるから大丈夫よ」
王家の呼び出しを断れば、反逆心を疑われる可能性もある。
「私、行きます」
笑顔を家族に向けた。
「セレンティア!無理はしなくて良いんだ」
父が心配そうに見つめてくれる。
「大丈夫です。行ってちゃんとお断り致します」
「それなら私が付き添いで行きます。セレンティアに無理をさせない様に致します」
次女のリディア姉様が右手を握ってくれた。
「リディア、頼んだよ」
「僕も行きますよ、騎士団長と女性冒険者のランと魔導士長のエルメを侍女として連れて行き側から離れない様にします。
もしもの時はエルメの魔法で領地に転移させます」
次男のカイル兄様が空いた左手を強く握ってくれた。
家族の優しさに涙が止まらなかった。
セレンティアは涙を流しながら、絶対皆を守ると改めて心に誓った。
領地から馬車で移動して2日、王城が見えて来た。
馬車にはお父様、カイル兄様、リディア姉様、S級冒険者のラン、フェルゼン領魔導士長のエルメが乗っている、騎士団長のクレイブは愛馬に乗り馬車を守ってくれている。
大事な皆が居てくれるから怖くない、大丈夫…。
王城に着き謁見の間に通された。
「よく来てくれたね、その方が博識高いと言われているセレンティア嬢だね?
今夜は君の為に舞踏会を開く、楽しんでくれ。
そうそう、息子のヴィルヘルムだ」
ヴィルヘルム…、私を断罪する人…。
ヴィルヘルムはセレンティアに冷たい目を向けてくる。
震える私の右手をリディア姉様が握ってくれた。
顔を見ると『大丈夫よ』と言う様に微笑んでくれる。
「陛下、この度は呼び出し状にて、馳せ参じましたが、どう言うご用件でしょうか?」
全く見当が付かないフリをしながら、辺境伯は国王に問うた。
「分かっておろう… 、そなたの娘は博識ですでに領地に莫大な貢献をしていると聞く。
これからは領地にではなく我が王室でその力を使って欲しい。
ヴィルヘルムの妃になり盛り立ててやってくれ」
「それは出来かねますな」
「な!王家に嫁ぐのを断るとは!フェルゼン辺境伯、貴様何様だ!!」
国王の顔は赤鬼の様になっていた。
「セレンティアはすでに既婚者です。
教皇様直々に結婚証明書も頂いています。
我が国では離婚はできない事お忘れですか?」
辺境伯はしてやったりとニヤリと口角が上がっていた
『私が結婚? いつしたの?』
「確か去年マーシャル公爵の次男とご結婚されたと報告を頂いてますな」
白髭の宰相閣下が思い出したかの様に呟いた。
『マーシャル公爵の次男?誰それ?』
「はい、二人は相思相愛で早い結婚を望んだので許可しました。式は来年春するので、準備で今が一番忙しくしています。
その為明日には領地に帰る予定です」
「そ、そうか…。せっかく来てくれたのだから今夜の夜会は楽しんでくれ…」
国王は少し不貞腐れながらも、なんとか声をかけた。
「くそぉ!どういうことなんだ!!
あの娘が手に入らなければ王室は潤わないではないか!!」
国王はフェルゼン一家が下がってから、不満をぶち撒け、物を壊していた。
王室は王家一家の無駄遣いのため国庫は逼迫していた。
それを解消する手立てが、領地改革をしたセレンティアであり、その背後にあるフェルゼン辺境伯領地だった。それが全てダメになり、国王は荒れていた。
「宰相、何か手立てはないのか?結婚を無効にするとか…」
「出来ませんね。証明書には教皇のサインがあるそうですし…」
「では、辺境伯領地をこちらの物に出来ないのか?」
「戦争を仕掛けたとしても、優秀な冒険者や騎士団、その上魔導ギルドもありますから、実力差は歴然ですな」
「なら、今夜の舞踏会で辺境伯を人質に取ればよろしいじゃないですか。
辺境伯が人質なら言う事を聞くでしょう?」
いままで黙っていた王妃が呟いた。
「おー!さすが我が王妃!素晴らしい考えだ!!夜会で辺境伯を捕らえよう!!」
王家一家は高笑いをしていたが、宰相は変に口角が上がっていた。
「お父様、私が結婚しているって…?
マーシャル公爵のご次男っていったい…」
「マックスだよ。マクシミリアン・マーシャルだ」
「マックス!?」
「いずれ二人は結婚するつもりだっただろう? 今回は先に手を打つ必要があった為、急遽手続きをさせてもらった。
もちろんマックスの返事は貰っての事だよ」
マックスは領地の執事長の孫で、年に4度領地に遊びに来ていた。いつの間にか恋をして、結婚の約束までしていたけど…。
公爵の次男とは聞いたことがなかった。
ドアをノックする音がした。
「失礼します。
セレンティア!」
正装したマックスが抱きついてきた。
初めて見る姿のマックス。
「マックス?」
「黙っててごめん、僕はマクシミリアンだけど、君の前では一人の…マックスとしていたかったんだ。
これからもマックスと呼んでくれるかい?」
不安そうな目で見つめてきた。
セレンティアはマックスの頬に手を添え
「私にはマックスでしかないわ。私の愛するマックスよ。そして、旦那様なのよね?」
少し頬を赤らめたセレンティアだった。
マックスはセレンティアの手を握り、辺境伯の方に向いた。
「義父上、夜会で敵は動く様です。こちらの手配はすでに終わっているので安心して下さい」
「そうか、任せたぞ。一番はセレンティアの安全だからな」
「はい!私が側におります!」
マックスと部屋に戻ったセレンティアに
「セレンティア、今夜はこれを着てくれ」
マックスは大きな箱を取り出した。
箱の中にはマックスの瞳と同じ藍色のドレスが入っていた。
そして小さな箱を手に取り、セレンティアに差し出した。
中には藍色の石とセレンティアの瞳と同じ金色の石がはめ込まれた指輪が入っている。
「愛してる。僕の妻になってください!」
「私も愛してるわ!」
セレンティアは両手をいっぱいに手を伸ばし、マックスの首に回した。
2人は長いキスをした。
マックスの出自は、マックスのお母様がマーシャル公爵と我が家で出会い身分違いの恋をした為、我が家の親戚の養女にして嫁に行った後、マックスを含めた3人の子供を産んで今でも仲良しな夫婦なのだと教えてくれた。
夜会に出席するために、マックス色のドレスを着て、指輪を着けて、家族で会場に入ると、国王が辺境伯を指さし叫んだ。
国王の隣にはギラギラした宝石を身につけた王妃と威張り散らしている王子と王子の腕に胸を押し付けて横にいる派手なドレスの少女、キャロライン。
「辺境伯、謀反の疑いで捕縛する!
騎士団長、辺境伯達を捕まえよ!」
国王が叫んだが誰一人動こうとしない。
「!? どうした? 何故誰も動かぬ!?」
国王である自分の命令を聞かない騎士団長と騎士団にイライラしていた。
「国王、貴方は先程罷免されました。
すでに新しい王も決まっております」
「はぁ?罷免?
誰がそんな事が出来ると言うのだ。それに新しい王だと?誰だ!それは!!」
「前王様、王を罷免するには3大公爵家並び宰相、教皇、帝国帝王のサインが揃えばよいことをお忘れですか?」
宰相がサインが書かれた書類を見せた。
「それから新しい王は貴方様の実弟のレオン様です!」
「レオン?馬鹿を言うな!レオンは死んだはずだ!!」
「レオン様は亡くなっておりません。国王の命令で処刑せよと言われましたが、身代わりの死体を用意し、帝国で過ごされていました。貴方達一家は自分の欲の為だけに、国民からの税を使い、今では国庫は空に近い。
お金が無くなると潤った領地を手に入れる為謀反をでっちあげ家門を潰してきた行為は皆が知っております」
「もう誰も兄上達の命令を聞く者はおりません。
貴方方はこのまま牢に入って頂きます」
「離せ!無礼者!離さぬかぁー!」
3人とも往生際悪く暴れていた。
王子の側で胸を腕に付けていたキャロライン嬢はひっそりと会場から逃げ出していたが護衛として一緒に来ていた冒険者のランに捕らえられて、王子と一緒に牢に入れられた。調べると王子からの貢ぎ物以外に城の金目の物を盗み換金までしていた。罪は重い。
「セレンティア嬢、はじめまして。私は貴方に命を救われたんですよ」
レオン新国王がセレンティアに近づいた。
「私に…ですか? 私は何も…?」
「貴方の夢見が私や国を助けてくれたのです。感謝しています」
セレンティアには覚えがなかった。
セレンティアは覚えてないが、言葉がしゃべれる様になった頃、夜中に泣きながら両親に怖い夢の話をしていた。
幼い子が何度も鮮明に話す事を書き留め、その話が現実になっていくに連れ、名前が出た者に両親は相談して行った。
王弟のレオン、宰相、騎士団長、3大公爵家、教皇、帝国帝王にまで。
セレンティアは自分が断罪されるだけでなく、罪のない人が殺されたり災害被害や各地での凶作、疫病に遭う事も辛く鮮明に語っていた。
はじめは誰も信じる事はなかったが、災害や凶作での被害なども言い当てた為、いざと言う時に皆で動ける様にしていたのだった。国の為に。
決定的だったのはレオン王弟殿下の殺害命令だった。
秘密裡に帝国に逃し、逆に国王一家が決定的なボロを出すのを待った。
「俺は正しい国民に寄り添った王になる事を君に誓うよ。リディアと共に」
レオンは姉のリディアの腰に手を添えている。
リディアが帝国に留学中レオンと出会い、お互いが誰か知らぬまま恋に落ちていた。
自身の真実を話し合い、目的が同じと分かり、一層の絆を深め目的の為に力を合わせ、レオン新国王はリディア王妃と共に国の復興を成した。
セレンティアも沢山の知識を貸し、前国王が残した負債をあっという間に返すことが出来た。
セレンティアとマックスは領地内に小さな屋敷を構えて子供達と幸せに暮らし、王都から領地に戻ったセレンティアは悪夢を見る事も無くなりました。
フェルゼン辺境伯領では素敵な王妃様に憧れる女の子と可愛い悪役令嬢に憧れる女の子で溢れていました。
キャロライン、マックス、リディアとレオンの事追加で足しました。
読んでくださってありがとうございます!
評価など、頂けたら励みになります!!
姉のリディアと王弟のレオンの出会いの話も書きたいと思っています