君がいるやさしい場所
暖冬の心地よい木漏れ日に当てられて過ごす、君と私の昼休み。
ブレザーの制服は私の身体と寸分違わずつくられていて、体育座りできつくなった袖口を少し引っ張ってみる。まだ冷たい風が、小さな隙間からすり抜けていく。
見上げると空はほとんどが青く染められていて、ほんのちょっとの白い雲がアクセントのようにちりばめられている。鼻にはつんとした冬の澄んだ匂いが刺さり、まだ春の空気ではないことを知らせてくれた。その通り季節はまだ冬で、辺りを見渡しても私たち以外に校舎外に出ている生徒は少ない。
そのことを認識したと同時に、背中を合わせている君の大きな背中がぶるっと震えるのを感じた。
寒いのかな。
私は触れる面積を広げようと足を屈伸させて、ピタッと張り付くように体を後ろに押した。
君の笑い声が聞こえる。私の意図を理解したのか。それとも、変な勝負を仕掛けてきたように思えて可笑しかったのか。真意は分からず終いのまま、背中同士のおしくらまんじゅうが始まった。直した袖口も背中の擦れ合いに引っ張られ、元よりもうんと乱れてしまう。
昼食後の二十分という限られた学生生活の一端で、こんなに馬鹿らしい時間の使い方はないだろう。
何の生産性もなく、ただ押し合って、笑って、弱々しい風に吹かれるこの時間。
ああ、楽しい。
でも、説明がつかないほど幸せな気持ちで溢れてしまう。
こんな理由のない行為に。
二人で移動して、暖房のきいた眠気を誘う校舎の中に入ればそれで済むことなのに。
なのに、どうしてこんなに面白くて、楽しくて、笑ってしまうのだろう。
そのことが可笑しくて、また笑みがこぼれる。その繰り返し。
そんな私につられたのか、背中合わせの君からもふふっと声が聞こえた。
一頻り笑って身体もぽかぽかしてきた頃、私は心のページに今日の君を書き記す。
君に見られないよう、私がいつでも見られるよう、記憶にしっかり刻んでいる。
今日の君は、なんて書こう。
かっこいい。かわいい。優しい。ほっとする。なんて。
結局、いつも書いていることは何ら変わらない。
でも今日は、ちょっと特別。
何か、くれないかな。
少し悩んで、私はさっきよりも優しく君のほうへ背中を傾けた。
驚くかなと探ったけれど、それを受けた君も、私と同じように。
暖冬の心地よい木漏れ日に当てられて過ごす、君と私の昼休み。
背中伝いに感じるのは、人がいるぬくもりと、君のほんの少しの感情。
この感情が、君の持っているすべてなの?
まだあるなら、もっと。
と、校舎の方からチャイムが鳴り響いた。
君はゆっくり腰を上げる。まるでぬるま湯に浸かった後のように、君が離れた背中は特別冷えていく感触がした。
ただ。
「いくよ」
「うん」
差し出された君の手を掴むと、そんなことどうでもよくなってしまった。
授業に遅れるだなんて考えてもいない理由を告げて、ここよりもずっと暖かい場所へ向かう。
引き戸を開けて校舎に入れば、温暖な空気に包まれて思わず息を吐いた。
冬の張りつめた空気の中での暖かさとは違う、柔らかさを纏った空気を吸って。
君と過ごした外での二十分を心にしまい込んで。
君を眺めるこれからの五十分に思いを馳せて。
私は、扉を閉めた。