模擬戦
「あ、そう言えば魔法やスキルは使っても大丈夫か?」
「魔法? そうだな……一応剣術の模擬戦だから、使用は無しにしよう。それにしても、魔法なんて久しぶりに聞いたな」
はは、と笑う父の発言で納得する。あの本の『機械』の出現によって魔法があまり使われ無くなった、というのは本当のようだ。
ふむ……
魔法やスキルが使えないのなら、移動速度を上げる魔法【俊敏強化】や、剣の威力を強くする魔法【威力強化】は使用出来ない。父程では無いが、随分ガッチリとした体格を崩すことはほぼ不可能だろう。
しかし、唯黙って負けるなんてことはしない。圧倒的不利なこの体で、必ず勝利をもぎ取ってやる。
「それでは、勝負開始!」
「うおおぉぉぉ!」
父が宣言した後すぐに、エインが大きく飛び跳ねてこちらに向かって来る。着地と同時に振り下ろされた木刀を受け流し、俺は3メートルほど間を開ける。ここは冷静に相手の行動を伺うのが定石というものだが、俺が剣術習いたての初心者であることを考慮しているのだろう。
ならば、その油断にメスを入れ、大きく切り裂いてやる。
俺はかなり低い体勢でエインの元へ突き進む。エインは慌てて木刀を振るが、俺はそれを華麗に避けると、エインの懐に入る。エインはそれにとても驚いた様子で、「何!?」と思わず声に出す。
俺はそれに構うことなく、無防備な腹辺りに突きを食らわせ──ようとするが、エインの木刀に弾き返されてしまう。
「や、やるね……」
「兄さんもね」
俺はもう一度距離をとると、木刀を右手にエインの周りを走り始める。俺の行動にエインは困惑しているようだ。
人には弱点がある。
最強と謳われる巨人兵でも、神と敬われる伝説の狂戦士も、必ず弱点がある。そして、強い者ほどその弱点を隠すのが上手い。
また、それを見破るのに必要なものが洞察力だ。相手の全体を捉え、バランス、剣の構え方、瞳の動きまで把握する。相手が生きている内の全ての行動に意味があり、情報が隠されているのだ。
──見つけた!
エインの構え方は右に少し傾いている。あれでは、左側の低い位置に入り込まれれば、反応がほんの少しだけ遅くなってしまうのだ。
俺は方向を切り替え、エインの正面へ飛びかかる。
それに過敏に反応したエインは急いで木刀を振り上げる。だが、俺はそれを数センチで避けると、地面にしゃがみ込み、その体勢のまま足に力を入れる。エインの左側に切り込むと、木刀を──本当の戦闘ならばスネに当てるのだが、模擬戦なので──履いている革靴に当てた。
「痛ったっ!」
エインは余りの痛さに左足を高らかに上げる。俺はその隙を見逃さない。
エインに体を衝突させ、バランスを崩させる。エインは左足を浮かせていたせいもあり、案外簡単に倒れてくれた。俺はその上に素早く乗って身動きの取れないようにすると、木刀をエインの頭上に構えた。
「勝負あり、だね。兄さん」
「なっ……」
エインは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔を取り戻すと、「降参だ……」と両手を掲げた。
「……ア、アランの勝利!」
父も驚いているようで、信じられないような顔つきをする。エインは上に乗った俺を簡単に持ち上げてどかすと、そのまま立ち上がった。
動けないようにしていたつもりだったが……やはり体格差はとてつもないハンデになるな。
などと考えていると、父が何か言いたげな顔をしている。
「どうしたんだ、父さん? 何か言いたげだけど……」
「言いたげも何も、お前はいつからそんなに強くなったんだ! 今日が初特訓の日なんだぞ!? それなのに父さんよりも強いエインを倒しちまって……父さんの教えることなんて無いじゃないか!」
「まあまあ、父さん。……でも、驚いたよ。まさか3歳も年下のアランに負けちゃうなんてね。僕もまだまだ特訓が必要だよ」
エインは平気そうな顔をしているが、内心はがっかりしているようだ。仕方無い、ここは俺が励ましてやるか。
第5話投稿は18時頃!




