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500年後の世界

 

 俺は『この世界の歴史』の本を開く。かなり分厚く重さもあるので、ページをめくるのも一苦労だ。


「へぇ……かなり詳しく書いてあるな」


 この本によると、今は俺が勇者だった頃から500年もの月日が経っているらしく、ごく最近は『機械』という鋼鉄で出来た道具が普及していて、殆ど魔法は使わないらしい。その他にも勇者アランが魔王を討ち滅ぼしたという伝説の物語が書かれていた。俺の英雄譚は受け継がれているようだ。


 俺が本に熱中していると、その視界に何者かの手が入ってきた。俺は不意をつかれて大袈裟に驚いてしまう。

 俺のリアクションを見て満足し、ニシシと笑っているのはエインだった。


「アラン、何の勉強をしているんだい?」


「世界の歴史だよ。少し歴史について学ぼうと思って」


 俺とエインの会話が止まる。そもそも、エインは俺にとっては初対面であり、俺が約12年もの間彼等が培ってきた絆を簡単に振る舞えるわけが無いのだ。

 沈黙が続き、俺が再び本に目を落とすと、エインが「あ、そうだ」と何かを思い出したような声を出す。


「父さんがアランのことを呼んでいたよ。外で待ってるってさ。早く行ってきな」


 俺はそれにコクリと頷き、本を元の場所に戻し、急いで階段を下りる。台所で食器を洗っている母に軽く会釈をし、抽象的な模様が掘られた木製の扉を開けて外に出る。すると、2本の()()を持っている父の姿が見えた。

 俺は生い茂っている草を容赦なく踏みつけて進み、父の元に到着する。


「アラン、今日からお前も剣術の修行に参加して貰う。勿論、エインが来年、剣術の選抜チームに選ばれて遠くの街に行くことは知っているな?」


 ──ほう。初耳だ。


 剣術の選抜チームとやらがどんな物なのかは分からないが、きっと凄いことなのだろう。それよりも今日から剣術を学ぶのか。転生前は王国内で1位だった俺が、この基礎能力2桁の貧弱な体で何処まで闘えるだろうか。


 父は俺に向かって木刀を投げ、それを上手くキャッチすると試しに木刀を構えてみる。この木刀、かなり重い。いや、転生前の能力があれば何千本あっても持ち上げられるだろうが。

 やはりこの体では無理があるか。


「おっ、初めてにしてはいい構えじゃないか」


 ──当たり前だ、こちらは30年間、勇者をやってきたのだ。


 ……と、今はそんなことはどうでも良かった。この体では転生前の10分の1の動きも出来やしないだろう。それなら、1から剣術を教えて貰うのも悪くない。

 それに、この時代の剣術がどれくらい進歩しているか気になるからな。


「じゃあ、初めに素振り100本だ!」


 ──は?


 おいおいおいおい、待て。

 素振り100本? 俺の聞き間違いか? 普通、剣術を初めて習う12歳の子供にそんな無茶なことを要求するか?

 まさか、500年前とは剣術が桁違いに進化し、素振り100本が当たり前というとんでもない世界になっているのだろうか。


「父さん、それはやり過ぎだよ」


 エインが玄関から飛び出て、こちらに走って来る。

 おお、救世主! どうかこの父の横暴を止めてく──


「アランは初めてなんだからまずは剣術の楽しさを教えないと。よし、アラン。僕と模擬戦だ!」


 ──えぁ?


 エインはあっという間に父の木刀を奪い取ると、俺と十分な距離を取って木刀を構える。


 ──誰か、このクソ兄貴を止めてくれ!


 もう一度言うが、普通、剣術を初めて習う12歳の子供にそんな無茶なことを要求するか、答えは当然ノーだ。普通なら。


 ──彼等を止めるには、誰かマトモな人を……あ、駄目だ。そんな人は近くに見当たらない。


「よし、ではエインとアランの模擬戦を始める! 審判は父さんが勤めるゾ!」


 くそっ、こうなったらやるしかない。実は模擬戦と言われた時、ほんの少しだけやりたいと思ったのだ。


 ──バレない程度に、本気で闘ってやる!


 俺は自信に満ちたエインの顔を見ながら、木刀を構え直した。


とても励みになりますので、面白い!と感じた場合は、良ければ評価をお願い致します。


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