魔犬と魔剣
俺は急いで【収納魔法】を発動すると、1本の剣を手に取る。
「姿を現せ、【魔剣ディアグレデス】!」
「我が主人のアラン様。お呼び下さり──」
「ディア、早くサラを連れて逃げろ!」
状況が呑み込めていないディアは、倒れているサラと腰の剣を構える俺を交互に見る。そして、ヤツの存在に気づいたようで俺と同じ方角に顔を向けた。
「ご主人様を見捨てて逃げることなど出来ません!」
「ディア、お前がするべきことは2つだ。1つはサラを連れてヤツの攻撃が届かない所まで逃げろ。多分ここから2、3キロ距離を取れば大丈夫だろう。そして、お前の能力を使ってサラを回復してやってくれ」
ディアは信じられないといった顔つきで俺を見つめる。それは当然だろう。理由は簡単、俺がヤツに勝つ可能性は0に等しいからだ。
ヤツの魔力量は俺の10倍を優に超える。攻撃力もヤツの方が数段上だろう。それに対して俺は少し腕の立つ14歳だ。それに、ディアをサラと同行させれば俺は魔剣を失うこととなる。ディアはそれを十分理解しているため、あれだけ驚いているのだ。
だがしかし、今はサラの命が最優先だ。
通常、人は死ぬと体内の魔力が外へ流れ出ていく。腹に穴を空けられれば殆ど即死だろうが、何故かサラには魔力が流れ出していない。つまり、まだ死んではいないということだ。
「ディア、お前ならサラを助けることが出来るかもしれない! ここは俺に任せろ!」
「……でも──」
「行けぇぇぇッ!!」
俺は遂に叫んで促すと、ディアはようやくコクリと頷いて意識の無いサラの肩を持ち、霧の中に消えていった。
──よし、これでひとまず安心だ。
ディアも魔剣、森を彷徨う弱い魔物に殺られることはまず無いだろう。
俺は深呼吸を行う。精神を落ち着かせる。こうすることで、反射神経等の身体能力がほんの少しだけ上昇する。
と、前方から試合開始の合図とばかりにあの光線が飛んできた。俺は地面を大きく蹴って右下に跳び光線を避けると、顔と地面がスレスレの体勢で霧の中を走り抜ける。
「ウオオオオオオォォォォォ!!」
突然の咆哮に俺の体は動けなくなる。音の振動のせいか、それともヤツの咆哮に恐れを為したのか、霧はみるみるうちに晴れてきて、ヤツの姿がハッキリと見えるようになった。
四足歩行の体付きをしており、手足には鋭い爪、胴体には全方向に真っ直ぐに伸びた太く白い体毛が生えている。眩い黄色の眼を身に付けた凛とした顔つきは、その遥か頭上に光る満月がとても似合っていた。
俺はヤツと睨み合いつつ、即座に【魔力分析】を行う。
名はムーンウルフと言うらしく、歳は120歳とかなりの老体らしい。所持スキルは【感知妨害】と【威嚇波動】の2つだ。
それを知り、俺は今までの不思議な点に納得する。
まず、ファンデルの件についてだ。俺が彼等によって眠らされていた時、俺は【魔力感知魔法】を発動していた。しかし、ファンデルに眠らされたのは、彼等が隠密魔法か何かを使ったのだと推測した。
そもそも、魔物も魔法は使える。魔法というのは魔力を糧に創造するものであり、魔力があれば誰でも出来る。但し、創造すること即ち思考することであり、脳が小さければ難しい魔法は使用出来ない。
話を戻すが、実はファンデルは隠密魔法など使ってはいなかった。犯人はムーンウルフ、こいつだ。スキル【感知妨害】は【魔力感知魔法】等の感知魔法を全て妨害出来る。これにより、俺の魔法は上手く発動しなかったため、ファンデルを感知出来なかったのだ。
そして、もう1つはここまでに来る道のりだ。道中、魔物とは1匹たりとも遭遇しなかった。これは偶然ではなく、ムーンウルフの【威嚇波動】の力だ。
このスキルは自分の付近に生息する者へ威嚇をすることが出来る。ファンデル等の森の魔物は、その結果ムーンウルフを恐れて逃げていったのだろう。
俺はもう一度剣を握り締める。これが最後の闘いになるかもしれない。
──悔いの無い闘いをしよう…!
俺のその姿勢を読み取ったのか、ムーンウルフも遠吠えを上げた。




