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束の間の休息

 

 青い空。

 白い雲。

 揺れる緑に、

 踊る風。

 そんな心地の良い所で、俺はただひたすらに走っていた。同じ所を円を描く様に走り続け、もう少しで30周に到達するくらいだ。

 何故こんな状況に陥ってしまったのか、その経緯は1時間ほど前に遡る──



「今日は【幻の森】の探索は中止! アランの溜まりに溜まった疲れを解してあげるわ!」


 と、サラが変なやる気を出してしまったのだ。

 疲れが溜まっているのは確かだが、わざわざそれに1日を浪費出来るほど俺は暇人では無い。


「疲れなら魔法とかディアで十分解せるだろ? そんなことに時間を使うのは勿体無いし──」


「勿体無くない! それに、疲れっていうのは魔法とかでどうにか出来るものじゃないの! 数値で表せるものじゃなくて、心の芯の部分に溜まるものなのよ」


「……そういうもんか?」


「そういうもんよ」


 サラのキラキラと輝く目に見つめられ、俺は溜め息を漏らす。彼女は俺の疲れを解したくて堪らないようだ。


 ──まぁ、疲れが解れるのは後の戦闘も楽になるだろうし、1日ぐらい良いか。


 そう開き直ってサラの話に乗ってやると、サラはより一層目を輝かせてしまった。


「まず初めに……疲れを解すには適度な運動をすること! という事で、ちょっとだけ走ってみよう!」


 ──あれ? 案外ちゃんとしているな、これは期待出来るかもしれないな。


 俺はサラの言う通りに行動し、遂に走り始めた。適度な運動といえば……この歳なら3キロメートル程、サラが走れと言った円形のコースは1周で800メートルくらいあるので、大体4周くらいだろう。



 そう推測してから1時間後──今もなお走り続けている、といった具合だ。

 息は荒れ、体は言うことを聞かず、気を緩めると直ぐに意識を手放してしまう程の状態で必死に足を動かし続ける。転生前ではこれだけ走っても巨大グレイズ単体なら倒せるくらいのスタミナはあったのだが……ここまで疲れたのは天翼族の居る天翼城に1人で特攻した時以来か。


「アラーン、ここで止まってーッ!」


 30メートル先の30周到達地点に立っていたサラは、彼女のいる所で止まれと指示をして来た。俺は力を振り絞ってどうにかサラの居る所まで走り切り、14という歳で見事30周──24キロメートルを1時間で完走した。


「ハァッ……ハァッ……これで……丁度、さんっ…じゅう周だ……」


 俺は上がった息を整え、サラにこれに何の意味があるのか聞いてみる。するとサラは、待ってました! と言うように自慢気に鼻を鳴らし、その意図を教えてくれた。


「疲れを解すのには、3つのポイントがあるの。運動と食事と睡眠。適度な運動をして、美味しい物を沢山食べて、日に当たりながら寝るの。そうすれば、ぽワ〜って体が暖かくなってきて、とっても気持ちいいの!」


「24キロが適度な運動かよ……」


 俺の溜息混じりの返答に対してサラは「勇者なんでしょ?」と不思議そうな顔をして言うので、無性に腹が立った。

 俺がサラから支給された水で喉を潤わせていると、何やら得体の知れない激臭が鼻の中にやって来た。俺の表情が絶望に変わるのとサラが鍋を机上に置くのはほぼ同時だった。


「おまちどうさまっ!」


 サラのニコニコ笑顔の真下に設置されたのは、紫色の液体を蓄えた大きな大きな鍋だった。


 ──産業廃棄物、再臨……!


 サラの狂気じみた笑顔を拝みながら1口1口液体を啜っていくが、気を抜けばすぐにでもリバースしてしまいそうだ。何とか半分を食べ切ったところで「お腹がいっぱいだから……」とどうにか返却させてもらい、その後は暑くて涼しい最適な空間でひたすら夢の中を散策していた。



「うーん……ふわぁ〜っと、よく寝たぁ……ってもう夜か!?」


 俺が目を覚ました時には、すっかり辺りは暗くなっていて、真ん丸な月が顔を出していた。サラはすっかり疲れたようで、俺の隣でぐっすり眠っていた。


 ──俺の為に頑張ってくれたんだな。


 俺は彼女の寝顔を見つめて少し安心する。フッと短い溜め息を着いてから、星空を見上げる。


 ──そういえば、今日は満月だったっけな。


 満月、それは一番大きく、言葉も出ない程の美しさを持った美の姿。

 そういえば、【魔剣デザビル】にも月に関する伝説があったはずだ。満月の夜に幻を探していた男が、現れたり消えたりする摩訶不思議な森と出会い、その中に入るという伝説。

 俺はそこまで頭の中で考えて、やっと気づきた。


 満月の夜、森、幻……


 その全てのキーワードを含んだものと言えば……それは今の俺達自身だ。

 俺が月から視線を落とすと、そこには当然のように【幻の森】が濃い霧を纏わせながら佇んでいた。


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